「フフ〜フフ〜フフ〜フフ〜フフフン♪」
「ご機嫌ですね」
346プロに行けるのがそんなに嬉しいのか、姉さんは車に乗り込んでからというもの、鼻歌を歌いながら意気揚々としていた
「そりゃそうよ。今までスタッフの人が車工場に持ってくるだけだったし、実際に行くのなんて初めてだもん」
サンバイザーを手前に下げ、ついてる鏡で髪型を整えながら嬉しそうにそう答えた
「で、俺はその今西さん?を第一スタジオとかいうところに連れて行けばいいの?」
「そっ。自分で行くつもりが、点検の日をすっかり忘れてて足が無いんだって」
こういうことはよくある
代わりの車がない場合など、車を持ってきたりしたお客さんを自宅や都合がつく場所まで送り届けるのだ
まるでタクシーみたい
一応地図も貰ってきた
「だからちょい待っててね、私は鍵貰ってきたらさっさと行っちゃうから。あ、でも途中で紗枝ちゃんとかに会ったらどうしよう!あーんもう!グフフ・・・」
・・・ダメだ、監視の意味でも姉さんが会社から出てくるまでちゃんと見てなきゃダメだ
「あ、ここよ!うわデカい!!いやーすごい!さすが大企業!ビル上まで見えないじゃない!」
そうこうしてるうちに目的地に到着した
テレビと同じ、お城のように大きい建物に、見上げると首が痛くなるほどバカデカいオフィスビル
おとぎ話に出てくるような大きな正門をくぐり抜けると、正面玄関が見えてくる
その丁度前あたりに車を止めた
「じゃあちょっと行ってくるねー!うふふーん!レッツレッツゴー!」
もうテンション爆上がりのまま、俺の言うことなんて一つも聞かず、玄関から勢いよく入っていった
「まったく・・・」
お世辞にも静かとは言わない車のマフラーの音が、壁に反響して低くあたりに唸っていた
建物に入っていく人も、車が古いのもあってジロジロと見ていく
姉さん、早く帰ってきてくれよ・・・
ーーーーーーーーーー
ああ、早く早く急がないと!
まさかテレビの生放送がこんなに押すなんて思ってませんでしたよ!
それもこれもボクがカワイイせいですかねぇ!
「幸子!次の現場、第一スタジオだから!表に車まわしてある!」
「はーい!・・・ってプロデューサーさんは来ないんですか!?」
「悪い!今から別の現場なんだ!すまん!急いでるから!」
ああ、ちょっと!っとボクが言い終わる前に、プロデューサーは慌ただしく廊下を走って行ってしまった
まったく、こんなカワイイボクを置いていくなんてプロデューサーは・・・ってそんなこと考えてる場合じゃなかった!
急いで控え室に行って支度をしないと、次はKBYDだから友紀さんや紗枝さんが待ってるはず!
急いで控え室に飛び込み身支度をしていると、プロデューサーから連絡が入る
玄関前に止まってるシルバーの車に乗ってほしいとのこと
「まったく・・・ボクの扱いがだんだんと雑になってきてるような・・・」
考えごとをしながら扉を開けると、丁度横から歩いてきたツナギ姿の女性とぶつかってしまった
深々と帽子を被っていたせいで前が見えなかったですね
「あ、すいません!」
「いえいえ、こちらこそごめんなさい。あ、そうだ、あなた今西さんって方知ってる?」
「今西部長ですか?部長なら、この先のオフィスにいると思いますが」
「ありがとう!ここ広くて迷っちゃって。助かったわ!急いでるから、ごめんなさいねー!」
そう言うとその女性は慌ただしく廊下を走って行ってしまう
なんだか今日は皆さん忙しそうですね
それにしても今の女性、綺麗な方でした
アイドルでしょうか?でもボクには気付いてなかったみたいだし・・・
「って、時間!」
どうしましょう!もう間に合いませんよー!
ーーーーーーーーーー
ホエー
チョットシマムー!
イコウ、ウヅキ
「はぁ・・・」
ここに車を止めてると色々な人に見られていく
今も高校生くらいの女の子にガン見されたと思ったら、お仲間に連れられて避けられるように建物に入って行った
まぁ、見た目古い普通のシルバーなセダンだけど・・・姉さん仕様だから
まったく、そんな姉さんは何やってんだか。あれから10分くらい経つぞ
そうして、そろそろエンジンを切ってシートを倒してゆっくりしようとしたところで、助手席のガラスをノックされる
視線を左に向けると、そこには満面の笑みを浮かべた姉さんが車の鍵を持って立っていた
ガラスを下に下げる
「遅かったっすね」
「ええ、ちょっと迷っちゃってね。それより聞いてよ!戻ってくるときに、レッスン室で水本ゆかりちゃんがレッスンしてるとこが見えたのよ!あとあと、今そこでニュージェネとすれ違って!それからそれから・・・!」
「あ、ああわかりましたわかりました!帰ってからゆっっっくり聞くので、今はその鍵持って車乗ってさっさと帰りやがってください」
「わかったわ!帰ったらひなちゃんにも聞いてもらおーっと!」
そう言うと、ウフフっといいながら車に向かっていく
ひな先輩、お疲れ様です
その後、姉さんが車に乗って出ていってすぐだった
自分も今西さんを待つ準備をしようとした時に後ろのドアが勢いよく開く
「ドライバーさん!第一スタジオまでお願いします!カワイイボクをみんなが待ってるんですよ!」
そう言って乗り込んできたのは、帽子で顔はわからないが、声と見た目からして中学生?くらいの女の子・・・か?
「君が・・・今西さん?」
「はい?なんだか今日は部長に用事がある方が多いですね、違いますよボクは・・・ってドライバーさん!急いでください!もう間に合わないですよ!」
女の子はスマホを取り出すと、時計を確認したりどこかに連絡を取ったりと画面とにらめっこしながら格闘し始めていた
「ああ・・・次はあのディレクターさんの番組なのに、どうしよう・・・また迷惑かけたら・・・」
よくわからないが、やっぱり相当焦ってるみたいだ
「・・・第一スタジオでいいんだっけか?」
「はい!早く出してください!今西部長にはボクが連絡しておきますから!」
「まぁ・・・その人と同じ行先なら」
そんなに急いでるなら仕方ない
久しぶりだからな、まぁやるだけやってみよう
「ドライバーさん?一体何をやってるんですか?」
「準備だよ準備。もうちょい待って」
俺はハンドルの右下にある小物入れを開けると、中に隠してあるスイッチをパチっと入れる
「何か後ろで、ウィーンって音がしたんですけど・・・」
「大丈夫大丈夫、じゃあ行くよ」
メーターの中にある『ABS』のランプが点灯したのを確認すると、アクセルを徐々に踏み込み煽っていく
マフラーの音が辺りにどんどん響き始めた
「では、第一スタジオに参りまーす」
「え?なn、ほぇぇぇぇぇ!!!」
姉さんのような叫び声と、タイヤの音を後ろに響かせながら、『第一スタジオ』へ向けて勢いよく飛び出して行った
ーーーーーーーーーー
おや、何やら凄い音を響かせて車が飛び出して行ったが、どこの部署の者だろうか?
見ないような懐かしい車だったが・・・
それに、後ろの席に乗っていたのは・・・
「今西部長〜」
おお、どうやらお迎えが来たようだ
いや〜最近の整備工場は親切だねぇ
今度お礼を言いにいかないと
「輿水さんどこ行ったか知らないっスか?送って行くように言われたんスけど。なかなか出てこなくて」
「輿水君なら、今別の車に乗って出て行ったみたいだが?」
「え、マジっスか!あちゃ〜、入れ違いになっちゃったんスね。すいません、上には言っておきますんで・・・」
「第一スタジオがどうとか言っていたので大丈夫とは思うが・・・」
「あ、だったら今西部長乗ってくださいよ。行先一緒なら送っていきます!」
「あ、ああ。すまないね」
そう言って後ろのドアが開いたので、遠慮なく乗せてもらうことにした
輿水君も間に合っていればよいのだが・・・
ーーーーーーーーーー
「ほんえぇぇぇ!!」
体が右へ左へ、まるで遊園地の乗り物に安全装置なしで放り込まれたような、そんな感覚が幸子を襲っていた
むしろその方がよかったのかもしれない
「ちょちょちょ!前赤!赤信g、赤信号!」
「おお、それじゃあ失礼して」
「は!?ブッふむ!」
次の瞬間、ブレーキの反動でタイヤの音とほぼ同時に前シートに顔を埋める幸子
そしてそのまま右に体が引っ張られていく
スカイダイビングやバンジーなど縦方向のアトラクションには強いと思っていた幸子だったが、これはあまりにも予想外だった
「ぷっは!な、なんな!」
裏路地に入り、顔を上げると網目状の跡が顔についている
「顔にシートの跡付いちゃってるよ、姉ちゃん!」
「いいから!よそ見しないでください!」
バックミラー越しに確認する零次に、幸子が必死に抗議するがすぐ次のアトラクションが迫る
「次左だったっけか?」
「そうですけどっ!何する気ですかぁぁ!!」
そう言っている間にT字路に侵入し、幸子がドアの上のグリップに捕まると同時にタイヤの音が鳴り出し、ふわっとした感覚が幸子を襲った
「ほー!ほぉぉー!ほぉぉぉぉ!」
悲鳴なのか何なのかわからない声を上げる幸子をよそに、まるで氷の上を滑っていくかのように車は後ろを滑らせながら左へと曲がっていく
「あ、あれ?ドライバーさん!?高速の入り口今過ぎちゃいましたけど!」
「ん?ああ、そのスタジオの場所だったら下走ったほうが速い。あ、できればシートベルト締めてくれる?スピード上げるから」
その言葉に冷や汗が吹き出る感覚が尋常じゃない幸子は、マッハでシートベルトを引き出す
「あ、次右だ」
「え、ちょまだはははぁぁぁ!」
ベルトをバックルに入れる前に体が思い切り左へ傾き、ベルトを引き出しながら真ん中へ倒れ込む
急いで起き上がり、おぼつかない手先で何とかベルトを差し込んだ
「ド、ドライバーさん?もうちょっとゆっくりでも・・・いいかなぁ〜って」
「大丈夫大丈夫、あと5分で着くから」
「え!?あと5分で着くって距離じゃなおおぉぉぉおお!!」
幸子の体がシートにぴったりと張り付いた