ヘイ!タクシー!   作:4m

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11 水平線の決意

色々探したがやっぱりダメ

在庫も何もかもが異次元の値段だった

とにかく手が届かない

 

「ひなちゃん···やっぱり無理だよぉ~···」

 

ガレージのリビングで、私はキッチンで作業をしているひなちゃんにそう言うのだった

手をめいいっぱい座っているソファーの背もたれに広げて、頭も後ろへダランとだらしなく、力無く垂れ下げる

キッチンで作業をしているひなちゃんが逆さに見え、一瞬私に視線を向けたが、すぐに元に戻りビールを冷蔵庫から出していた

 

「ぜぇ~ったい無理」

 

頭を起こしてもう一度、自分の手に握っている携帯の画面を見る

そこには、探している車の画像が赤やら青やら白やら黒、鮮やかな色を纏った姿で上から下までズラッと並び、その横には現実を突き付けるように明らかに他とは桁の違う数字がデカデカと車に負けじと掲示してあるのだった

 

「現実は非情ね···」

「お金がないと叶わない夢もあるってやつじゃないの?」

 

目の前のテーブルにビールが一瓶と、二人分のコップが置かれて、ひなちゃんは私とは別のソファーに座る

 

「もう···いただきますっ!」

 

私は携帯を目の前のテーブルに置き、すぐ隣のビールのコップを持って口に流し込む

頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった

アイドルの子達のことそうだけど、今度は私たちのことも関係してくる

特に···レイジ君

 

「納得がいかないのは確かだけど、ここまで来たらやるしかない。私たちがあいつにしてやれることはもうわかってるでしょ」

「そうだけど···」

 

ひなちゃんもビールを少し口にしながら、自分で携帯を操作して探している

簡単に見つからないのはわかってる、でも専務さんも頑張ってるんだから、私たちも僅かな可能性を信じて戦う

 

「あいつもやっと、自分がやらなきゃいけないことってのにぶつかったみたいだし。これはあいつ自身が乗り越えなきゃいけない、あいつがやり遂げなきゃいけないことだ」

「でも···智絵里ちゃんたちにはもう会えなくなるのかな···」

 

そうだ、結局零次君が認められたとしても、私たちの会社との取引は止めることになる

もう今までの関係には戻れないかもしれない

 

でも、私もこれまで十分に良くしてもらった

そりゃもう、一生分の運を使い果たしたんじゃないかってくらい

そんな娘たちが困っている

私のわがままとあの娘たちの幸せのどちらを取るのか

否、答えなど最初から決まっているじゃないか

 

「そこは、あいつ次第かもね」

 

ひなちゃんもそれは覚悟していたみたいだった

 

たとえ会えるのが最後になったとしても、全力で彼女たちの幸せを願う

それがファンというものだ

 

「でも···辞める社員の手助けをするなんて、本当なら私たちもクビね」

「そうなったら美城プロに拾ってもらおうか。あいつよりは運転は上手いと思うんだけど」

「どっちかっていうとアイドルじゃない?それか···劇団を組んでヒーローショーをするとか」

「···誰から聞いたの」

「アーニャちゃんから~」

 

途端に額に手を当てるひなちゃんだった

アーニャちゃんも、相当楽しかったのかまた北海道に行きたいと行っていた

友達ができたんだと言って、頻繁に連絡を取り合ってるみたいだし

次は本物だと認めてもらうために頑張ると色々と画策しているようだった

 

「···まぁ、うちの家族もアーニャちゃんと仲良くなれたことだし、あいつにはやっぱり頑張ってもらわないと」

「そうねぇ、せっかくできた縁だしね。まだ仲良くなってからライブにも行けてないし···」

「この一年ちょっとそこそこ忙しかったからね。なんだかんだ色々とあったし」

 

そうだよ、結局招待されてるのに一回も本当のライブに行ってない

目の前で歌ってくれたことはあったけど、あの娘たちの仕事姿をまだ生で一回も見たことがないのだ

これは何としても頑張らないと、それにはまずレイジ君に頑張ってもらってから、その後に無理やり引っ張ってでもライブに連れていって、あの娘たちの姿を見せるのだ

そうすればきっとレイジ君もアイドルであるあの娘たちに興味をもつはず

 

「···そういえば、レイジ君はあの娘たちのことをどう思ってるんだろう」

「そりゃあ、仕事を辞めようとしてまで助けようとするんだから、大事だと思ってるんじゃない?」

「いやさ、レイジ君と誰が好きとか嫌いとかそういう話したことなかったなぁ~って思って」

 

レイジ君に興味を持っているアイドルの子たちは何人か見てきたけど、逆にレイジ君本人が興味がある子はいるのだろうか

 

「ふんっ、あれだけうるさいだの鬱陶しいだの愚痴ってたくせに、いつからここまで世話を焼くようになったんだか」

「いつも梨沙ちゃんとかとケンカしてたね~。仁奈ちゃんとかこずえちゃんたちにも懐かれてたし、子どもに好かれるのかな?だから本人も少しは変わったんじゃない?大人のメンバーとは比較的仲良かったかも、後は···美波ちゃんとかには一目置いてたり」

「高校生組ともたまに言い合ってたね、聞き分けがある分まだマシとか言って」

「それでもなんだかんだねぇ、仲良くやってたよね。あれは確かに好かれる性格してるわ。あ、でもね、レイジ君志希ちゃんたちとは···」

 

話しても話しても話題が尽きない程、思い出に溢れていた

レナちゃんとトランプしたり、肇ちゃんから湯飲みを貰ったり

公私共々とっても良い子たちばかりだった

まだまだみんなで遊んだり、楓ちゃんたちとお酒を飲みたい

 

「今度はもう、いっぺんに集まってみたいね。レイジ君がもし認められたら、その時はみんなで打ち上げみたいにしてここにもう全員集めて!」

「何人いると思ってるのさ。それなら地下も解放しないと収まらないよ。大体···」

 

その時だった

このガレージのインターホンが鳴り、扉がノックされた

私とひなちゃんがお互いに顔を見合わせて無言ってことは、お互いに待ち合わせした相手は居なさそう

夕食が終わったこの時間ってことは、宅配便ってことはなさそうだし···

 

「ひなちゃんいいよ、私が行くから。はーい、はいはいはい、少々お待ちを~」

 

螺旋階段を降りて、服装を整えながらドアの前までいく

良かった~、まだ本格的に飲む前で

下着つけてるだけまだマシね

 

「はーい」

 

ドアを開ける

しかし、すぐに違和感に気付く

目の前に人の姿が入ってこなかったのだ

キョロキョロと少し左右を見回しても、誰もいない

 

ふと下に目線を落としてみると

 

「···いない」

 

やはり誰もいない

何だったのだろう、イタズラ?

 

でもわざわざこの広い敷地内まで入ってきてインターホンを押して見えないところまで逃げるなんて相当足が速い人じゃないと無理だ

知っている人じゃないとここに人がいること自体知らないだろうし

 

うーん、と考えながらも、まぁ本当に大事な用なら連絡の一本でも来るだろうと思いドアを閉めようとしたその時だった

 

「あ、あぁ~、見つけたぞ~」

 

ドアのすぐ横にある、電灯の奥

ちょうど建物影が深くなっている部分にその姿を発見した

なるほど、そこなら明るい電灯の奥だから普通の暗闇より姿が見えずらい

こんなイタズラに最適なテクニックを知っているのはあの子しかいないわね

 

「なーんだ、バレちゃった」

 

にしししっ、とその綺麗な白い歯を見せながら、その子は電灯の下へと姿を現した

肩の下まで伸びるサラサラした茶色の長髪に、その広くて可愛らしいおでこが電灯の光でキラッと輝く

 

「いえいえ、結構なお手前でしたよー?レイナサマ」

 

そう言うと、''そうでしょー?''と自信満々に腰に手を当てて胸を張るのは小関麗奈ちゃん

梨沙ちゃんと並んで、レイジ君が苦手とする一人

 

「こんの~···イタズラっ子め~!」

「ちょっ、下ろしなさい!アタシは子どもじゃないのよっ!」

 

だけどレイジ君いわく、麗奈ちゃんのほうがまだ隙がある分あしらいやすいという

私も麗奈ちゃんがレイジ君に悔しそうに半泣きにされているところをみたことがあった

 

「で、今日はどうしたの?もう晩御飯も終わる時間帯だけど···いいの?お父さんお母さん心配しない?」

「ふぅ~、まったく···」

 

どこに住んでいるかまではわからないが、もう子どもにはそこそこ遅い時間帯だ

仕事で遅くなるのは馴れているのかもしれないが、少し心配だった

 

「そこは大丈夫よ!今日は仕事で遅くなるって言っておいたから!それに、あまりに遅くなったら友達の家に泊まらせてもらうって言ってあるし」

「友達~?」

 

ニコッと笑顔を浮かべる麗奈ちゃん

そもそもどうしてここへ来たのだろう

確かに前に何人かで一緒に泊まりに来たことはあったけど、一人で来るなんて珍しい

 

「それならどうして今日はここに来たの?誰かと待ち合わせ?」

「うーん···忘れ物!」

「忘れ物~?なに~?」

「うーん、わかんない!」

「それは大変だね~」

 

ニコニコニコッと笑いながら私にそう言う麗奈ちゃんだったが、さらに聞いてみると他の誰かとこの近くまできたらしい

一人で来たわけではなくてよかった

その''誰か''とは誰なのか、そこは焦らされて教えてくれなかった

 

「それで、忘れ物探しにきたから、アタシ入ってもいい?」

「あら、すぐ見つかるかしら。どこら辺か覚えてる?」

「うーん、どこだったかなー。零次のベッドの辺りだったようなー、終電までに見つかるかな~」

「麗奈ちゃん、やるわね。お姉さん恐ろしいわ」

「ふふふっ、恐れおののき、ひれ伏すがいいわ!」

 

とにかく、忘れ物云々が本当かどうかは置いておいて、あまりにも遅くなるなら泊まらせてあげることにした

それにしても一体誰との待ち合わせだったのだろう

それすらも麗奈ちゃんの策略のうち?

 

「あ、そういえば今レイジ君いないけど···それでもわかる?」

「そこは大丈夫!もう手は打ってあるの、抜かりなしよ!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

少しよろけながらも、街頭が照らす夜の街中を歩いていく

カオルは俺の家にでも泊まっていくのかと思いきや、明日はちょっと早いからとあの居酒屋で今日はお開きになり、地下鉄に乗って帰っていった

もう少し話を聞いてもらいたかったが、しょうがない

とりあえず俺は目の前に見える公園のベンチで一休みしようと向かっていたのだが···

 

「···ん?」

 

その中に、とても見覚えのある後ろ姿があった

腕を組み、不機嫌そうな表情を浮かべて、まわりをキョロキョロ見渡しながらベンチの前で突っ立っている

帽子をかぶっているが、その隠しきれていない長いツインテールに、特徴的な虎柄の上着、短いスカート

そんなよく見たことのある小うるさいお子ちゃまが、夜に一人で何をしてるのか公園にいるのだ

ギリギリあいつの年齢の子どもが一人で出歩いても大丈夫な時間帯だったが、何やってんだ?

誰か待ってるのか?

俺はそんな''奴''へと近づいていき

 

「ちょっ、アンタ、ねぇ、ちょっと、何無視してんのよ」

 

横を素通りしようとしたが、あっちからついてこようとするのだった

 

「あ、間に合ってますんで。もうご飯食べてきましたしー、キャバクラは今日は金ないからいいかなーって」

「だれがキャバ嬢よっ!アンタなんてこっちから願い下げよ!」

「あ、すいません。チェンジで」

「人の話聞いてんの!?このすっとこどっこい!大体ね、アンタあんなに綺麗な人が一緒なのにそんなお店にね···!」

 

いつの時代だお前

とにかく、梨沙が俺の腕を引っ張ってギャーギャーうるさかったので、すぐそばのベンチに座ることにした

春だったら綺麗な桜が見れるこの公園も、すっかり秋の姿を見せ始め、足元には枯れ葉が広がる

 

「なんでお前ここにいるんだ」

「あんたこそ、なんでここにいるのよ」

 

質問に質問で返してきた

 

「俺が先に質問したんだ、先に答えろ」

「んぐっ···ア、アタシは、そう···散歩よ。仕事終わってダラダラ帰るのもアレだから、散歩しにきたのよ」

「一人でか、寂しい奴め」

「一人じゃないわ!その子はそう···忘れ物!忘れ物を取りに行ったのよ!だからアタシはここで待ってるからって!連絡待ちよ!そう、そういうやつよ」

「だったら散歩がてらついていけばよかったじゃないか」

「そ、それは···だって、ねぇ···」

 

一体こいつは何がしたいのかわからない

その友達の行き先に問題があるのか、行きたくないのかどうかはわからない

 

「もしかしてお前、俺のこと待ってたりした?」

「ち、違うわよ!なんでアンタのことなんて待たなきゃいけないのよ!たまたま変に暗い顔してたアンタが見えたから、からかってやろうとしただけよ!どうせフラれたんでしょ」

「全然違う」

 

それでも尚、梨沙は口元に手を当ててニシシッと憎たらしく笑みを浮かべているのだった

まったくなんて奴だ

俺じゃなかったらひっぱたかれてるところだ

 

それからしばらく黙って、俺たちは公園内や歩道を行き交う人たちを座ったまま見つめていた

梨沙もそれからは何も話さず、自分の髪の毛を触ったり、足を少しブラブラさせたりして座ったままだった

 

「···ねぇ」

 

そうしていると、ふと梨沙から話し掛けられる

俺は特に何も返事をすることもなく、顔だけを梨沙に向けて応えた

しかし、梨沙は前を向いたままだった

 

「アンタ、本当に会社辞めちゃうの?」

「···ああ、せいせいするだろ?もう会わなくてもよくなる」

「あら、よくわかってるじゃない。大分アタシのことが···わかってきたわね」

 

会話をしても結局この調子

でも、なんだかいつもと違う

 

「勝ったら戻ってくるの?その、レースとかいうやつに」

「ふんっ、不本意だけどな」

「···じゃあ負けたら?」

 

途端に言葉に詰まる

一番考えたくなくて、一番言われたくなかった言葉を、一番言われたくない奴らの一人に言われてしまった

 

「負けたらどうするのよ」

「···そんなことない」

「本当に?」

 

まだ何も知らない、本当の闇を知らないその目で俺を見てくる

嫌だと思っても、その嫌な光景が頭の中に浮かんでしまう

どこをどう間違えたのか、何でこんなことになっているのか、そもそも最初から首を突っ込んではいけなかったのか

こいつだけじゃない、今じゃ色々な奴の顔が頭に浮かんで消える

本当に俺がやろうとしていることは正しいことなんだろうか

 

「じゃあ、約束しなさい」

 

何を言ってくるのかと思ったら、梨沙はそんなことを言ってきた

 

「アンタは、アタシたちの為に走る。そして勝って帰ってくる。そして、またアタシたちの為に走るの」

「···何でお前にそんなこと決められなきゃならない」

「アンタにはアタシたちを助ける義務があるから」

「だからなんで···」

 

梨沙は俺の言葉を遮るように、目の前に小指を立てて差し出してきた

 

「だってヒーローなんでしょ?」

 

ん、っと梨沙は鼻を少し突き出して、俺にも同じようにするように諭してくるのだ

 

「それに、大人って大体約束守らないから。アンタくらいなのよ、みんながあーだこーだ言える相手は」

「それって俺がおこちゃm」

「だから、アンタは約束守ってね。''約束''よ」

 

すると梨沙は、俺の小指に強引に自分の指を絡ませて、再び俺の目の前に持ってきた

あまり腕に力を入れない俺が気にくわないのか、ムスッとした表情になる

 

「···そうか」

 

俺は梨沙に合わせるように、数回その交差した指を一緒に上下に動かすと、梨沙は満足げに少し笑ってみせてその場から立ち上がるのだった

 

「そうだよな···ヒーローは悪い奴を倒すもんだもんな」

「なんか言った?」

 

ボソッと呟いた俺の言葉に、梨沙がスカートを手で直しながら尋ねてくる

別に、と梨沙に言うと、梨沙は俺の手を引っ張って立ち上がらせてきた

 

こんなチビのくせに気も当たりも強くて、子どものくせに俺みたいなやつの···余計なことばかり考えてる

 

お前たちは

 

「ちょっと、行くの行かないの?」

 

梨沙は少し先で俺のことを呼んでいた

そうだ、俺は考える暇もなく、いつもあいつらに振り回される

まったくどうしようもない連中だ、いつの間にかこんなに懐に入り込んできている

 

「お前はどうするんだ?友達待ってるんじゃなかったのか?」

「アタシはほら···そう、その友達がこの先にいるっていうから、歩いていくだけよ。だから、レディーを一人にしておくのはアレだから、アンタの男を立ててやろうとしてあげてるんじゃない」

「なんじゃそりゃ」

 

飲んでるから車じゃなくて歩きだぞというが、それでも梨沙は黙ってついてきた

何考えてるのかわからない

 

まったく不器用なやつ

 

 

っていうか行き先がうちのガレージじゃないか

ってヤツもいる、っていうか泊まっていく気なのか

また俺のベッドが占領されちまう

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ···」

 

まわりに何一つ建物のない田舎道をひたすら車で走っていく

時速60kmで走ったら、一時間後にはキッチリ60km先に着くような、田んぼが広がる田舎道を俺は一人で走っていくのだ

 

あまり気が進まなかった

それでももう、俺は腹を括るしかない状況だった

すでに目的地は先に見えている

その田舎道にポツンと建っている、わりと古めの一軒家

小さな正門があって、その中には車が一台停められるくらいのスペースと、そこからすぐに正面玄関

その隣にある、一つの車庫

 

あっという間に車はその家の玄関の前までたどり着き、車を停めて外へと出る

 

「···やっぱり中か」

 

家のまわりを少し見渡してみるが、人影はなかった

もう何千回と歩いたその玄関までの道を歩き、インターホンを鳴らす

 

少し待つと中からスタスタと人の歩く音が聞こえ、玄関の扉が開くのだった

 

「親父」

「どうした、連休でもないのに」

 

人生で初めて、普通の休日に里帰りした

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