ドタバタしていた現場も落ち着く
上に集合してみんなで夜ご飯だった
書類が散らばっているのがアレだったが
テーブルの上だけ素早く片付けたのだ
簡単な掃除だったが仕方ない
「零次さん何やってるのー?」
食事が終わった後に自分のスペースへ行くと、みりあが俺にそう問いかける
俺には車の整備の他にもう一つ課題が課せられていた
当日までにどれ程仕上がるかどうかはわからないが、やらないよりはいい
「···体を鍛えるんだ。少しでも姿勢を安定させたい」
「でも車に乗るんでしょ?レイ君が体を鍛えても意味なくない?車のシートに座るんだし」
「いい質問だな、莉嘉。お前にこの世の物理法則を教えてやる。''G''ってやつをな」
「じー?」
そうだ、ドライバーにとって避けては通れないこの世のルール
車に乗るもの全てに掛かるありとあらゆる法則、その代表的なものが慣性の法則だ
''移動する物体はその運動を続けようとする''こと
学校の授業でも習うからこいつらも聞いたことあるだろう
「車が加速したり、減速したり、カーブを曲がるときなんかに体がググッて持っていかれるだろ?アレを俺たちはGっていうんだ」
「ふーん、でもあれってそこまでじゃなくなくない?ねー、みりあちゃん」
「みりあもそれくらいなら大丈夫だよ?」
「お前たちの想像の何十倍って力が体にかかるんだよ。それも一回や二回じゃない、レースが終わるまでずっとだ」
下手をしたら体全体が持っていかれて、まともに前を向ける状態じゃなくなる
体が疲労すれば集中力が保てなくなり、即事故に繋がる
レースは車だけじゃない、体も鍛えておかなきゃダメだ
「だから体を鍛えるんだ。ほらほら、ちょい避けてくれ」
少しでも体を鍛えておけば幾分かは楽だろう
俺はうつ伏せになって両手を床につけ、腕立て伏せの状態になった
···なったはいいんだが、そんな俺を興味深そうに見てる莉嘉とみりあ
このままじゃ間が持たない
「···乗れ」
「いいの···!?」
「いい。まずはみりあからだ」
質量的に、みりあで少し様子をみることにした
「わぁーい!」
「うおっ···!」
俺の背中に遠慮なく座るみりあ
腰にズシッとした重みが加わって、みりあのお尻の骨が俺の肉に食い込むのだった
意外と···意外と重いな
「あれ~?レイ君辛いの~?」
「···別に、どうってことないさ。いくぞ···!いちっ···にっ···」
しゃがみこんで俺を煽ってくる莉嘉
ふんっ、そんな挑発に乗るもんか
そんなガキみたいな煽りに屈するもんかってんだ
俺は構わず腕立て伏せを続行することにした
「でもレイく~ん、もう汗が出てきてるみたいだけど···あっ、うっふっふ~···、レイくんのざぁ~こざぁ~こ、いっひっひ~。こっち見れないの~?」
こいつ···一体どこの誰にそんなセリフ教わったこのメスガキ
スカートでしゃがみこんでっからパンツ丸見えなんだよこんちくしょう
それからも莉嘉のちょこちょこした挑発に耐えながらも腕立て伏せを続けていると、莉嘉も痺れを切らしたのか文句を言い始めた
「ねぇーそろそろ莉嘉にもやらせてー?ねぇねぇやらせてよーみりあちゃん」
「えー?でももうちょっとやりたーい。ねーいいでしょー?零次さーん。ねーねー」
「どーしたのー?」
リビングからこずえもやってきた
やっぱり子どもは苦手だ
前からも背中からもギャーギャー言う声が聞こえて、ほんっとうに騒がしいったらありゃしn
「ねー、やらせてー?」
今までここにいたメンバーよりも年上の声が聞こえてきた
その妙にキラキラしてて上ずったような、いきなり話しかけられたら少し身構えるその声
俺が苦手な部類の中でも更に苦手なメンバーのうちの一人
少しずつ顔を上げていくと、艶々して綺麗な足に、黄色の花柄が特徴的な暖かそうな寝巻き
そしてお風呂上がりのそのホクホクとして艶っとした顔で、首もとにタオルを巻いて俺を見下ろしているフレデリカがいた
俺と目が合ったことに気づくと、フレデリカはニコッと笑う
「···いやお前は無理だよ」
即座に俺は否定するが、フレデリカはそれが不満なのか少し顔を斜めに傾け、目を細めて俺と再び目を合わせるのだった
「何だよその細目はよ」
じりじりと近寄ってくる
「···お前、おまっ、来んなよっ···!ぐほっ」
ーーーーーーーーーー
「いや~、賑やかでいいわね~。最近はみんな落ち込んでることが多かったから~」
「騒がしくて···すみません。それに、こんな人数を泊めていただけるなんて」
「大丈夫よ留美ちゃん!いつものことだから!親御さんたちの了解も得てるし!」
みんながそれぞれ自分の時間を過ごしている、夜のひととき
食事が終わって早々に、目の前にテーブルを出してノートパソコンを開く凛ちゃんに美穂ちゃん
キッチンでひなちゃんと一緒に後片付けをしている響子ちゃんと未央ちゃん
拭き終わった食器を棚に戻しているのは夕美ちゃんと美波ちゃん
ひなちゃんのベッドがあるところで、飾ってあるおもちゃを興味深そうに眺めているあきらちゃんと、それについて熱心に解説しているりあむちゃん
「いざゆかん!癒しの泉へ!」
「すまない、フレデリカがお風呂から上がったみたいだから、次はボクたちが···」
「いいのいいの~、ゆっくりしておいで~」
着替えとタオルを持って下のお風呂へ向かう蘭子ちゃんと飛鳥ちゃん
そして、地下では卯月ちゃん、かな子ちゃん、杏ちゃんが少し見たい資料があると言って作業に向かい、それに付き添う形で拓海ちゃんと美世ちゃんも下に降りていった
「それにしても···みんなはこんな風にここで過ごしていたんですね。まるでもう一つの家みたいな···」
「そうよ~、もうみんな自分の娘みたいなものよ~。だから遠慮なんてしなくていいのっ、ね?美優ちゃん」
「ふぇ~?」
私たちはというと、本日の作業のご褒美ということで、リビングの一角を借りて軽く飲み会を開いているのだった
私と留美ちゃんはほどほどに頂いてる感じだったんだけど、美優ちゃんが早々に酔ってしまってもう出来上がってしまっていた
「···彼女もいつもこんな感じなんですか?」
「こんな感じにならないと次から次へと飲まされちゃうからね~。もうクセになっちゃってるのよ、半分私のせい」
「は、はぁ···」
とは言っても今日は早苗ちゃんもいないし、ハートちゃんもいないからまだマシなんだけども
随分賑やかになったもんね~
「お前は無理だっ!絶対止めろ!何する気だ!よしなさい!コラッ!」
レイジ君も何だか楽しそう
あら、アレはいい筋トレになるわね~
腕立て伏せで上にはこずえちゃんが乗ってて···あらら、下には潜り込むように志希ちゃんが仰向けに寝転がってる
レイジ君が必死に耐えないと、志希ちゃんに覆い被さることになっちゃうわね~
志希ちゃんったらダイタン
「···彼もいつもあんな調子なんですか?」
「いつものことよ~、レイジ君も沢山お友達が増えてお姉さん嬉しい」
このままいけばレイジ君はきっと、孤独死することはないわね
お嫁さん候補がこれだけいるわけだし
「しかし、私にはまだわからないことがあって···」
「わからないこと?」
「彼にこれだけ接してくれる子たちがいるのに、彼はどこか一線を引いて···身を引こうとしてるような行動をとることがあるんです。彼の恋愛事情は知りませんが、私が見たところ、出会った頃からそれは変わらないように思うんです」
「···そうねぇ、それは私にはちょっとわからないかな~」
これは言うべきか言わざるべきか、本人の口から言うべきではないのか
私の中でそれだけが引っ掛かり、留美ちゃんへの返事は濁したのであった
いつか本人の中で何かが変わって、自分から打ち明けるそんな時が来れば、彼女たちとの関係も変わるかもしれない
「あ、あの···」
「ん~?」
私の耳元で留美ちゃんに聞こえないように話しかけてきたのは、何だか遠慮がちな千枝ちゃんだった
「どうしたの?千枝ちゃん。みんなレイジ君のところに行ってるけど、千枝ちゃんも行ってきたら?」
「美空さんも知ってるんですか?零次さんのこと···」
その様子から、私と留美ちゃんの話を聞いていたようだった
「千枝ちゃんは知ってるの?」
「はい···。零次さんから聞きました」
レイジ君から打ち明けた···
もしかしたらもう、少しずつレイジ君の中で何かが変わってきているのかもしれない
「千枝ちゃんは黙っててくれたのね」
「零次さんは···零次さんですから。たとえ時間が掛かったとしても、零次さんは私たちの中から選んでくれると信じてます。その頃には私も···大人になってるはずですし···!」
「随分な自信ね~、ライバルは多いと思うけど···応援しちゃうわ千枝ちゃん!」
「ひゃあっ!」
千枝ちゃんを抱き抱えて、私と留美ちゃんの間にセットするのだった
「あ、千枝ちゃん、いらっしゃ~い。うふふっ」
「三船···さん?」
「今日は千枝ちゃんも一緒に飲むわよ~!」
私はグラスを一つ目の前に置くと、隣にあったオレンジジュースを注いであげるのだった
留美ちゃんに何の話をしていたのかと聞かれたが、乙女の秘密と話を濁す
意外と千枝ちゃんもレイジ君と仲がいいわね
これはもしかしたら、今は無理でも将来的に希望はあるかも
レイジ君も幸せ者ね
ーーーーーーーーーー
「ん···んん···」
天窓から朝日が差し込んでるのがうっすらとわかった
いつの間にか眠りこけていたようだった
寝起きだからか昨日の夜の記憶が曖昧だ
確か筋トレしてて···あいつらがちょっかいを出し始めてきて···俺はもう疲れたって言ってベッドを譲って床で寝始めて···
段々と記憶がハッキリしてきた
そして今自分が置かれている状況を分析し始める
自分が頭を預けている枕が妙に温かく、何だか上下に動いている
頭に掛かっている布も毛布にしては薄すぎていて、若干頭を締め付けられていた
こめかみ部分になんか当たってる
中に厚紙が入った固い布みたいな
···嫌な予感がした
「んふー···んっ」
枕が動いた
俺の首もとを腕かなんかで締め付けられる
動いたことで俺の頭の位置が少しズレて、その厚紙が入った固い布の隙間に耳が入って、その耳からドクンッドクンッと脈動が聞こえてきた
これは何かしらの生命体であることがわかった
「んんっ、んっ···!んっ!」
次に感じたのは匂いだった
女性らしいフレグランスな香り···を遥かに超えた濃密な匂いがこの体から、毛布から、そしてこの厚紙が入った固い布のようなものから漂ってきて、逃げようにも首を締められて動けない
段々とこいつの正体がわかってきた
こんな香水みたいな匂いを好きで撒き散らしてるのなんて一人しか思い付かない
「んー···んにゃ~ん」
この甘ったるい声に、上を向くと見える紫色の髪の毛
動けば動くほど俺を逃すまいと抱き締められる
「志希···、離せ···起きろ」
「んふっ···んー···」
頭を締め付けてる布のチャックが開かれてスペースが開くと、その方向に頭を持ち上げられて引っ張られた
「···おはよー、零次さん。にゃははっ」
そこには寝ぼけ眼で、髪がボサボサで、いつも以上にアホ毛がピンッとなっている志希がいるのだった
その表情からこの状況を楽しんでるのがわかる
叫ばれないだけまだマシだった
「···離せ」
「しきパイ枕はどぉ~?」
「痛い」
ブラの装飾がザラザラしてチクチクするし、肩のワイヤーがこめかみ辺りに時々当たって傷になりそう
早いとこ脱出しないと被ダメージが溜まっていく
「朝早いしそんなに急がなくてもー」
「くっそ···あ、腕つりそう···!」
体を持ち上げられたため、その志希のパーカーの中に上半身がそのまま入り、腕ごと締め付けられている
なんとか腕を出してそのパーカーのチャックを開けようとするが、志希が抱き締めているため中々腕が曲がらない
こんなことなら筋トレと一緒に柔軟もやっておくべきだった
「零次さんいいの?このまま騒がしくしたら、まわりにいる子たちにバレちゃうけど」
「まわりにいる子?誰だ」
「まず私の斜め上にー、夕美ちゃん。零次さんのベッドにー、響子ちゃん。そして零次さんの足元の左右に、それぞれ千枝ちゃんに莉嘉ちゃん。莉嘉ちゃんにバレたらマズいんじゃなーい?」
確かにこいつにバレたら何言われるかわからない
「ちょこーっと、大人しくしとこ?ちょこーっとの間だけだから···ね?」
···もう何を言い返しても、こいつは後に引かないだろう
それにこのパーカーを壊したら、それこそ後々文句を言って別なことに付き合わされる
大人しく従うしかないのか
「···はぁ」
俺は脱力して志希に体を預けると、志希の顔が目の前まで近づいてくる
デコと鼻の先をくっつけてきて、お互いの唇の距離がもう1cmどころか5mmもない
「うふふっ···一回零次さんとこういうことして見たかったんだ」
「なんで」
「他の人が羨ましかったから」
「他の人って?」
「奏ちゃんとか」
「だからあr」
ペロッとその時、志希に上唇を舐められた
お互いに黙って見つめ合うが、志希は面白そうにニコッと笑う
「···なんだ」
「これは誰かにしてもらった?」
「···いや」
「じゃあアタシが初ペロね、嬉しい」
またペロペロッと舐められた
こいつは一体なんなんだ、他の奴とはやっぱり違う
とにかく、この濃すぎる香水みたいな匂いに鼻が麻痺してくるくらいの時間は志希に蹂躙され続けたのだった