ヘイ!タクシー!   作:4m

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自由研究
自由研究01


三人を送迎してからというもの、美城プロからの依頼が増えていった

ニュージェネレーションズ、KBYD、ラブライカ、ポジティブパッション、PCS、そして十時愛梨さん、川島瑞樹さんなどの大人組

あのちびっ子達とメンバーは多種多様に渡り、本当に人材豊富なんだなと感じた

必要であれば自分の車ではなく、美城プロのバスを貸してくれたりと会社の待遇も良く、幸いだったのは、例の噂が広まっていたおかげでみんなが気軽に声をかけてくれたこと

大人しい子もいるが、その相方が話を振ってくれることで溶け込み、車内が静まりかえり、気まずくなるということは少なかった

本田さんとか日野さんとかは、結構話し掛けてくれることが多い

あのちびっ子達も相変わらずだ、会うたびに寄ってきてくれる

 

「じゃ、ありがとレイさん!また今度ねー!」

「ああもう、未央ちゃん!すいません、ありがとうございました!」

 

今日も今日とて、快晴の夏真っ只中、セミの声をバックに本田さんと高森さんを連れ、美城へ送迎していた

エアコンパネル付近に貼り付けてあるメモ紙にチェックをつけ、鞄の中のファイルにしまう

この仕事のおかげで、大分美城プロのアイドルやユニットの事が分かってきた

彼女達はスカウトという形で入ってきた者が多く、部署の壁は薄いみたいで、様々なアイドル達が年齢などの枠組みを越えて活動し、常に可能性を追求しているようだ

遠くから来た者には寮を貸し出すこともあり、衣食住になるべく困らないように配慮されている

さすが、世界に手を広げる大企業である

 

「あ、お兄さん!」

 

車の中を少し片付けていると、外から聞き覚えのある声が聞こえた

トントントンと窓をノックされたのでウィンドウを下に下げる

 

「今帰りですか?」

「ああ、ちょうど帰ってきたところ。昼に間に合ってよかった」

 

俺の返答に笑顔で返し、中を覗き込むのは十時愛梨ちゃん

川島瑞樹さんとのバラエティ番組も好調のようで、先の一件での影響もなく、今もなお人気番組として多くの人に親しまれているようだ

姉さんも毎回毎回楽しみに見ている

俺もその折でよく見かけるようになったが、輿水幸子ちゃんの登場が多いようだ

 

「あ、あの・・・もしよかったら、お昼ご一緒しませんか?」

「昼・・・おお、ちょうどその時間か」

 

お昼頃にこの辺りをうろちょろしていると、よくランチに誘われるようになった

ちびっ子達をはじめ、本田さんなどのJK組、十時ちゃんなどもよく声を掛けてくれる

そうだな、ひな先輩には連絡しておこう

 

「じゃあせっかくだし。うん、いいよ。行くわ」

「わぁ・・・!」

 

十時ちゃんは口元に両手を当て、目を閉じ、少し俯いて嬉しそうに笑う

こういうところを見ると、改めてアイドルというのは普段の何気ない仕草でも人を魅了することができるのだと感心した

 

「じゃあ私、先に行ってますね!」

 

そう言って十時ちゃんは346カフェの方に歩いていく

少し小走りになったり歩いたりを繰り返し、嬉しそうに中庭の方に向かっていった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「う〜ん、どうしようかなぁ」

 

お昼のお弁当を事務所のテーブルに広げ、少しずつ摘みながら千枝は物思いに耽っていた

 

「いっその事ことアイドルについて・・・でもいつもここにいるわけでもないし、全員に話を聞くのは大変だし・・・」

 

うーん、とお弁当を摘んでは考え、摘んでは考えを繰り返していた

千枝の頭の中をぐるぐると駆け回り、悩みの種となっているのは、この時期になると待っている毎年恒例のアレである

 

「あ、千枝ちゃん!お疲れ様でごぜーます!」

「仁奈ちゃん。お疲れ様」

 

扉が開かれ、いつものうさ耳を跳ねさせながら部屋に入ってくるのは市原仁奈

 

「あ、お弁当!ごめんなさい、仁奈少し前に食べてしまったでごぜーますよ・・・」

「いいのいいの!私は少しレッスンが押しちゃったから、ゆっくり食べてただけだよ?事務所にも誰もいなかったし」

 

一瞬シュン・・・とした表情をして、テーブルを挟んだ目の前のソファーに座る仁奈

黙々とお弁当を食べる千枝を見ていたが、時たま何かを考えるような表情が気になる

 

「千枝ちゃん、何か悩み事でごぜーますか?」

「へ!?」

 

驚いて千枝は一旦箸を置く

 

「違う違う・・・!いや、悩み事って程のものじゃなくて・・・えーと」

「?」

 

口元に手を当て考え込む千枝に、仁奈はますます頭にクエスチョンマークを浮かべる

そして千枝は思い切って聞いてみることにした

 

「仁奈ちゃんは、夏休みの工作とかってどうしてるの?」

「工作でごぜーますか?」

「うん。あ、もしかして自由研究の方かな?」

 

千枝がさっきから頭を悩ませていたのは、学校の宿題のことだった

夏休みに入ってからというもの、一般的な小学生と違い、アイドルは多忙になる

長い休みを利用した泊まりのロケ、レッスンにテレビ番組、テーマパーク等の夏休み限定ミニライブなど普段は学校に行っているためどうしても都合がつかない時間帯にも仕事を割り振りできるようになるので、意外とそういう時間を取ることが難しくなる

国語や算数など、筆記系の宿題は事務所や控え室などに持ち込み進めることが出来るが、そういう類いの物となると話が変わってくる

 

「仁奈はずっと工作です!自由研究ってよくわからねーでごぜーますよ・・・」

「えっと、自由研究っていうのはね・・・」

「一つのテーマに対して、自分で調べて考察したりすることだよ〜ん」

 

突然聞こえた声にハッとなり周りを見回す

すると出入り口の付近に、扉を挟んでヴァイオレットカラーの長い髪と、頭の上にあるアホ毛がぴょこんとチラチラ扉に見え隠れしていた

 

「志希さん!」

「志希おねーさん!」

「あやや、見つかっちゃった〜」

 

にゃはは〜と頭の後ろに手を回し、笑いながら部屋に入ってくるのは一ノ瀬志希

今日は手元がダボダボの白衣を纏い、また失踪していたのか社内をうろついていたようだ

 

「部屋の前を通りかかったら、な〜んか美味しそうな匂いがして、ちょこっと覗いてみたら美味しそうなお弁当と、研究の話をしてるじゃないか〜。キョーミ出たから寄ってみたってワケ」

「また失踪中ですか?」

「今はお昼休みだから''お散歩''中だよ〜ん」

 

そう言って千枝の隣にドサッと腰掛ける

 

「あ、美味しそうな卵焼き〜」

「あの・・・よかったらどうぞ」

「え?いいの?じゃ、いただきまーす」

 

よく社内を失踪してはメンバーに連れ戻されるという光景をよく目にしていたため、こういった状況は慣れっこだった

 

「自由研究・・・悪くない響きだねぇ、テーマを自分で決められる開放感、私は決めたら一直線になれたから楽しめたけど、キョーミないこと調べても飽きちゃうし」

「興味が・・・あること」

「大事なのは知りたいって思うこと。その間に問題の提示があって、仮定があって、考察があって、結論があるだけなの」

「よくわからねーでごぜーますよ?」

「そ?」

 

頭を傾げる仁奈に、志希はソファーに肘をつき、逆に頭にクエスチョンマークを浮かべていた

 

「興味があることかぁ・・・」

 

千枝は完全に箸を止め、思考を巡らせていた

確かに、興味があることはある

裁縫は好きだ、しかしそれは完全に趣味というカテゴリーにあるため、興味を持ち調べるということとはまた違っているように感じる

アイドルのこと・・・、それもすでに日常といえるほど自分の中に溶け込んでおり、研究と言われてもどうしたらいいのかわからない

というより日々研究なのだ

最近気になること・・・そう、もしかしてアレか

 

「あ、ちっひろさーん!」

 

千枝が考え込んでいると突然志希は廊下に向かって叫ぶ

 

「あら、志希ちゃん。今日はここにいたんですね?」

 

そう言って今日も黄緑色のスーツを着て、書類を両手で抱えて入ってくるちひろ

揃っているメンバーが珍しいのか、感心したように一行を見ていた

 

「千枝ちゃんがね〜、大事な話があるんだって〜」

「あら、お仕事の話でしょうか?」

 

ちひろはしゃがみ込んでこちらを覗き込むように千枝を見ていた

何が何だか状況が飲み込めない千枝を横目に、志希は立ち上がり出入り口へ向かう

 

「じゃ頑張ってね〜。あ、そうだ、研究論文が完成したら読ませて?あの人には私も興味あるから」

 

そう言うと「バーイ」と言いながら、志希は早々と事務所を後にしていった

・・・ギフテッドというものは、みんなこんな感じなのだろうか?

志希の不思議な行動はいつものことだが、いざ自分がターゲットにされると背中がぞわぞわする、そう思うと千枝は何だかむず痒くなってきた

 

「何だったんでしょう?それで千枝ちゃん、大事な話って?」

「え!?あ、あの・・・え〜と・・・」

 

扉をぼーっと見ながら考えていると、ちひろに突然話しかけられ千枝は自分の中の言葉が飛んでしまった

そもそも、どうしたら良いのか分からず右往左往している中で志希に心を見透かされてしまい緊張と恥ずかしさで千枝は沈黙してしまう

自分はそんなに分かりやすいんだろうか?

そんな疑問が千枝の中に生まれていた

 

「仁奈たちは、自由研究の話をしていたでごぜーますよ!」

「まぁ・・・!そうだったんですか?」

「は、はい!」

 

沈黙を破ったのは仁奈だった

 

「自由研究かぁ、そうですね、もう夏休みですもんね、懐かしいな〜。私も随分悩んだっけなぁ〜」

「ちひろおねーさんもやったことあるでごぜーますか?」

「私も''元''小学生でしたから。あ、もしかして、大事な話ってそのことですか?いいアドバイス出来ればいいんですけど・・・」

 

もう色々なことでゴチャゴチャになっている千枝の頭の中であることを思いつく

 

「あ、あの!!」

 

千枝は思い切ってお願いしてみることにした

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「それで、会う度に今日は何があった、北崎さんはこうだったって教えてくれるんです」

「そんなに面白いことしてないつもりなんだけどな」

「ふふっ、でも梨沙ちゃん、いつも楽しそうに話すんですよ?」

 

日差しを避けるように屋外のパラソルの下のテーブルに潜り込み、注文した品が届くまでの間、話に花が咲いていた

346カフェは今日も盛況のようで、店内、屋外共に日差しと暑さから逃れようと駆け込む者で賑わっていた

 

「お待たせしましたー!サンドイッチとパンケーキです!」

 

周りを見渡していると、いつものように安部さんが料理を両手に持ち、テーブルへと運んでくる

 

「あ、安部さん。そういえばウサミン星のエアコン直ったんですか?」

「ええ、近所に安いエアコ・・・あ、いやいや!ウサミン星では、ウサミンパワーで何でも直せちゃうんです!」

 

キャハッ!といつもの眼前ピースを御披露したと思ったら、そそくさと店内へと戻っていってしまった

 

「ウサミン星も100Vなのか・・・」

「菜々ちゃんもすごいなぁ、17歳なのに・・・」

 

俺はその言葉にえっ?と凄い勢いで十時ちゃんに向き直ると、十時ちゃんも『え?』と不思議そうな表情をしてこちらを見ていた

いやいや、どう考えてもあの人姉さんよりも歳う

「おやおやぁ?二人とも何見つめあっているんですかな?お昼時に二人っきりで怪しいですぞ〜」

 

声に合わせて二人ほぼ同時に顔をそちらに向けると、先程別れたばかりの本田ちゃんが腰に手を当ててこちらをイタズラっぽい目をしながら興味津々に見つめていた

 

「ちょっと未央ちゃん!す、すいません。お邪魔しちゃってっ!」

 

その後ろで先程とほぼ同じ反応をしながら、高森ちゃんが申し訳なさそうに頭を下げていた

 

「いや、いいんだ。そんな大層な話してたわけじゃないし。この世の神秘についてちょっと語り合ってただけ」

「え?そんなワールドワイドな話してたの?」

「しんぴ?」

 

はて?と状況が上手く飲み込めない十時ちゃんは頬に人差し指を当て頭を傾げていた

 

「ねーねーレイさん、ここいい?」

「ああ、別に。高森ちゃんもよければどうぞ」

「え?あ、じゃあ・・・お邪魔します」

 

そう言うと、本田ちゃんと高森ちゃんは空いている椅子に座った

 

「とりあえず、いただきます」

「あ、いただきます!」

 

俺と十時ちゃんはとりあえず、届いた料理を食べ始める

 

「で、どう?」

「・・・どうって?」

 

食べ始めて少しした頃、本田ちゃんが唐突に尋ねてくる

 

「えー、コホン。この会社にレイさんが来てから早四ヶ月が経ち、季節もすっかりスイカが美味しい季節となりましたが、この会社のご感想はいかに」

 

マイクをこちらに向けるようなジェスチャーをして、俺にそう問いかける本田ちゃん

他の二人も気になるのか、十時ちゃんも食べる手を緩めてこちらを見ていた

 

「・・・個性が生きている会社だと思う」

「と、いいますと?」

 

本田ちゃんは向けた手を戻し、他の二人と同じように俺を見る

 

「今のご時世、お前たちは知らないかもしれないけど、自分を出さないように、周りに流されるところが大半を占めている中、美城プロは個性を武器にして業界に切り込んでる。俺自身もこの会社のアイドル達を見てきて、それは伝わってきた」

「まぁ、人材だけは豊富だからねこの会社」

「だから、お前たちは凄いと思う。個性で戦うなんて中々できる事じゃない。普通なら企業イメージがどうとか言われるはずなのに、その壁が全くなく活動するなんて、お前たちのプロデューサー達は本当に優秀なんだな」

 

そう言って水を飲むと、三人は互いに顔を見合わせて恥ずかしそうに笑っていた

 

「だが、まだまだ知らない事ばかりだ。名前は聞いたことあるけど声を聞いたことない奴もいるし、そこは勉強だ」

 

俺はそんな三人を横目に自分のパンケーキを食べる

すると、高森ちゃんが尋ねてきた

 

「それを言うなら、私達もまだ北崎さんの事を何も知りません」

「ん?俺?」

「はい、実際に送迎してもらっても、周りの話を聞いていても、運転がもの凄く上手という話をよく聞きます」

「もしかしてレイさんって、元レーサー?」

「あ、カンジ〜」

 

本田ちゃんの相槌に十時ちゃんが合わせて答える

 

「違う違う、それは違うわ。俺はただの整備士兼フロントだ。まぁ周りの先輩方がちょっと・・・」

 

三人が俺の返答を興味深々に待っていると

 

「あ、ここにいましたか!北崎さーん!」

 

遠くで千川さんが俺に向けてファイルを持っている手を高く上げて振っていた

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