ヘイ!タクシー!   作:4m

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忙しくて少し短めです


19 水平線の力量

ハンドルの振動

ペダルの感覚

踏み込むと唸るエンジン

その音が車内に響くと、俺の体がシートに押し付けられて、続けて首が固定される

目の前に迫る赤と白の縁石と、コース外に設置された100、50、25と数字が書いてある四角い看板が、そのコーナーまでの距離を俺の脳内に知らせてくるのだった

 

「おおっ···!このまま行けるのかコイツ···!」

 

ブレーキを踏み最終コーナーに入って車を曲げると、まだ吹っ飛びそうな速度なのにグリグリと曲がっていく

車体がブレない

路面をしっかりタイヤが捉えて、滑ることなく曲がっていく

古い車なのにここまでスタビリティが高いとは···

 

ぶっ飛ばない程度にマージンは取りつつなんとか曲がりきり、ピット前のストレートへと戻ってきた

初めて乗った感想としては完成度の高さに驚く

俺の車なんて目じゃない、多少無茶をしても走りきれてしまう

それが数周走っただけで感じ取れてしまった

 

「ふぅ~···」

 

ヘルメットの中でため息を吐きながら、俺はそのストレートを走ることなくピットレーンへと入っていくのだった

目の前では姉さんとひな先輩が誘導してくれて、白い線のグリッドラインに車を止める

 

数周で戻ってくる約束だった

ひな先輩たちの目にはどう映ったのだろう

 

ステアリングを外して助手席に置き、ドアを開けて外に出る

ヘルメットを外すと、太陽の日差しと季節柄の涼しい風が心地いい

 

ひな先輩が近寄ってきた

 

「どうした、もっと速いはずだぞ」

 

ガチャンッとボンネットを開けている姉さんの横で、俺はひな先輩に開口一番そう言われた

ピットから出てきた卯月や未央たちも、その後ろで苦笑いを浮かべている

おそらくピットのモニターで見ながらひな先輩は呟いていたんだろう

 

「もっとですか」

「そうだ、まだまだ限界を掴めてない。この一週間でそれをモノにしなきゃダメだ」

「ですけど···結構攻めましたよ?」

 

もう突っ込んでしまうんじゃないかという速度でコーナーを曲がり、ストレートで信じられない加速を見せてもまだ足りない

 

こいつの性能はその一歩先にある、ブレーキングポイントをもっと奥で取れる、もっと踏んでいけるとひな先輩は言うのだった

 

「よしっ!メカは問題なし!突貫工事にしては中々いい感じに仕上がってるんじゃない?」

「今度は私が乗ってみる。今のお前のタイムを超えることができたら、私の言ってることは間違いではないはずだ」

 

そう言うとひな先輩はツカツカと歩いて、運転席に乗り込んでいくのだった

 

「零次さんどうぞ!お水です!」

「まぁまぁレイジ君!ピットで皆と観戦といこうじゃないの!最初なんだから上手く出来なくて当然よ!」

「レイさんの席あるよ!こっちこっち!」

 

さぁさぁさぁと姉さんや卯月や未央に諭されながらピットへ入っていくと、そこにはモニター前にいくつかパイプ椅子が用意されていて、俺のさっきまでの走行シーンを眺めている悠貴と唯がいるのだった

 

「あ、きたきた!ダーリンこっち!ここ!ここ!」

 

隣の椅子に座るように言ってくる唯に対して悠貴はモニターとにらめっこしながら難しい顔をしていた

俺がそこに座る頃にはピットの外から再びエンジン音が鳴り響いて、タイヤを鳴らして車がサーキットへと出ていく様子がモニターに映し出されていくのだった

 

「まぁまぁ、とりあえずひなちゃんの走り方を見てみましょうよ!何か掴めることがあるかもだし」

 

姉さんが座っている俺の肩に肘を置いて寄りかかるように前屈みになるとそのまま一緒にモニターを見る

 

ひな先輩が全開加速でストレートを駆け抜けていく

俺が乗ってきたおかげでタイヤが温まっているのがわかっているような乗り方だった

最初のコーナーに差し掛かろうとしていた

俺ならもうブレーキを踏み込むタイミングだけど、ひな先輩はブレーキを踏まずに突っ込んでいく

その証拠にブレーキランプが一切光っていない

 

「だ、だ、大丈夫なんでしょうか?私もう見ていられなくて···!ぶ、ぶつかる···!」

「大丈夫よ卯月ちゃん、ひなちゃんを信じてあげて」

 

その光景に卯月だけでなく未央までもゴクリ···と生唾を飲んでいる様子だった

 

コーナーに入っていく、だけどまだブレーキを踏み込む様子がない

もうその地点を超えたら限界だ、そう思った瞬間に一瞬だけブレーキが踏まれて、車体がほんの少し前に傾いたのが見えた

すると

 

「おお···!すごっ···!へぇ~···車ってああいうふうに走るの?ダーリン。後ろが少し滑って斜めになってるよ?」

「ふふふ~、ひなちゃんやるわね~。勘は鈍ってないみたい」

 

そうひな先輩は必要最低限のブレーキだけ掛けて、後はその重い車体の荷重移動を利用して曲がっていくのだった

前に少し傾くから前傾姿勢になり後ろが少し滑りぎみになるが、アクセルのコントロールだけで制御して曲がっていってしまった

 

無駄な減速を一切しない走り方

それ以降も全てのコーナーでそれをやってみせたのだ

やり遂げてひな先輩が戻ってくる

 

「どうだ?少し流すだけでお前よりかはちょっとは速かったんじゃないか?」

 

ひな先輩の言う通り、俺よりも10秒近く速いタイムが出ていた

軽く流しただけでこれだ

まだまだこいつは奥が深かった

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