「んよしっ、今日はこの辺にしておこうかな!ひなちゃんどうー?」
「ふんっ、若干マシにはなったか」
ピットの中に戻ってくると、ピットの一角でパソコンの画面とにらめっこをしているのは姉さんとひな先輩だった
パソコンに表示されている折れ線グラフを見るに、今回の走行で得られたデータを周回ごとに比較して、一周を細かく区切ったセクション毎に、その部分のベストな走行パターンを導き出そうとしているのだろう
このセンターコンソールにくっついているデータロガー装置が役に立っているようだった
そこそこ値段が張っただけはある
「レイさんお疲れ~。はい、ドア開けてあげる」
ピット内に響いていたエンジン音が鳴り止み、俺はキーシリンダーから鍵を引っこ抜く
ドアを開けて待っていた未央にその鍵を渡して、ステアリングを外して助手席に放り投げて、シートベルトを外す
ずっと座っていてそろそろ腰が限界だった
シートは固いしリクライニングしないしで、ホールド性は抜群だが利便性は皆無
ケツが沈み込んでるから、疲れてる時に降りるのも一苦労だ
普段使いはやっぱりしないほうがいい
セミバケで十分だ
「零次さん手伝います!手を貸して···せーのっ」
降りづらくしていると、悠貴が俺の手を引っ張って降ろしてくれた
降りたはいいがやっぱりフラフラだ
悠貴の手を離れるとよろけて車の屋根に手をつくと、今度は唯が腰に手を当てて支えてくれた
「だいじょーぶ?ダーリン」
「···ああ、悪い」
「なんかおじさんみたいだよ?」
シワになっていたレーシングスーツをその手で正しながら、唯はそう言う
「もうおじさんだ。だから俺のことは諦めろ」
「それはイヤ。ダーリンはおじさんでもカッコいいもん」
早くコレも取っちゃえば?とヘルメットをコンコンと指でつつかれたので、ヘルメットのベルトを外して上に持ち上げて脱ぐのだった
やっと視界が開けた
ピットや車の排気ガスの匂い、アスファルトとサーキットの周りにある自然の匂い、周りのこいつらの女の子の良い匂いと情報が次から次へと入ってくる
ヘルメットのバイザーや車のガラスの遮光効果が無くなって、サーキットに降り注ぐ夕陽の光が眩しく俺は目を少し細めるのだった
「あははっ、ダーリン髪の毛ぺったんこさん」
「しょうがないだろずっとヘルメット被ってんだから。ほらやるよ卯月」
「ひゃあ!あ、汗くさいです~!重いです~!」
頭から被せてやると卯月はすぐヘルメットを脱いで、ピットの端によけてあったパイプ椅子の上に置くのだった
「みなさま!お疲れ様でございましたわ!」
シューズを脱いだりグローブを外したり、姉さんたちはパソコンを片付けたり、タイヤを転がしてよけたり帰る準備をしていると、ピットの裏口からそんな元気な声が聞こえてきた
そこには途中からいつの間にかいなくなっていた琴歌が、これからどこかに出掛けるのか結構なお召し物に着替えた姿で俺たちに話しかけていたのだった
「琴歌ちゃん!素敵な格好ねぇ~、お姉さんたちとっても助かったわ!今日は本当にありがとう!」
「いえいえ滅相もございません!私は仲間として当然の事をしたまでですわ!」
姉さんやひな先輩も素直に感謝の言葉を伝えていた
それはそうだ、琴歌···というより西園寺家がいなかったらこの練習場はおろか、車だって完成させることは出来なかったのだから
「零次様もお疲れ様ですわ。あのお車が無事に動いている様子を見て、私も、そしてお父様も大層お喜びになられていました!」
「そりゃあよかった。そうじゃなきゃ俺が会わせる顔がない」
「腕はまだまだ···だけどな」
俺の後ろからひな先輩がそう言うと、姉さんも黙って頷いていた
そこまで言われたら本当に会わせる顔がないぞ
「皆様本当にお疲れ様ですわ。アイドルの皆様も、沢山お手伝いをしてきっと大変でしたでしょう」
「いや~、大したことはしてないとは思うんだけどね~」
「そんなことないわよ未央ちゃん!工具を持ってくれたり、部品を取ってくれたり、こういう作業をしてる時ってね、そういう気遣いが本当にありがたいのよ~」
こいつらもこいつらなりに、慣れない手付きで色々と手伝ってくれた
姉さんが言ったように工具を持ってくれたり、タイヤを転がして持って来てくれたりしまってくれたり
ピットとピットレーンを行ったり来たりして、季節柄涼しいとはいうものの汗だくになりながら作業していたのだった
悠貴は陸上部で動くのは慣れているみたいだが、いくらこいつらも日頃レッスンしているとはいえ、重いタイヤや工具を持っての運動は堪えたらしく、椅子に座る度に息を整えていたのだった
「そこで私から皆様にご提案がございます!」
琴歌は腰に手を当てて胸を張り、大きな声でそう言う
「皆様もきっと心身共にお疲れだと思われます。このままお帰りになると、道中疲労からの事故等何かあってはここに招いた私たちの立場がございません。そこで考えたのですが···」
ーーーーーーーーーー
「いや~、う~ん、キモチー!久々に足伸ばしてお風呂に入ったよー!最近レッスンで忙しかったし温泉の出張ロケも無かったしっ!よかったよね~しまむー!しまむー?」
「そっ···えっ···あのっ···えっとあのっ···!」
天井が湯気で見えないほど、広々とした浴場
湯船も一つではなく、温度や効能に合わせていくつか種類があり、その中には打たせ湯や水風呂、サウナまで設置されている
とても個人で所有している別荘とは思えない程の、商業施設顔負けの設備だった
そこはさすが西園寺家御用達なだけはある
「どうしたのさしまむー、ね?レイさんもそう思うよねっ?」
「···まぁ」
なんでこんなアホみたいに広いのに一緒に風呂入ってんだ
そもそもなんで一緒に入ることになったんだ
なんでこいつはこんなテンションでいられるんだ
さすがに今回は卯月を見習え
少し離れて座っていたのに、未央はタオル一枚巻いた状態でグイグイと近づいてくる
なんでだ、こいつらには羞恥心というものがないのか?
俺がおかしいのか?
「私、あの···!体洗ってきまっ···!あ···」
卯月は湯船から出ようと勢いよく立ち上がったのはよかったが、その拍子にタオルがはだけて···そう
見ないように顔をそらしたが、一瞬その綺麗な形をしたお尻がチラッと見えてしまった
若さゆえにモチッとしていて、綺麗な肌色だった
形もモデル顔負けの···卯月に悪いのでこれ以上は言わないでおこう
卯月は普段からは想像がつかないほどのポテンシャルを発揮してタオルを元に戻したが、俺の様子から状況を察していた
俺に何も聞かず、そして何も言わず壁に設置されているシャワーへと向かっていき、思いっきり顔にシャワーをかけながら、''ぶぇ~ん!''と叫び始めるのだった
「···なんでお前たちはそんな''積極的''なんだ」
「え~?だってさレイさん···」
未央は俺の耳元でボソッと呟いた
「入ったんでしょ?琴歌ちんと···お風呂」
「···何故」
「未央ちゃんが知らないとでも?だから···ね?いいよね?」
「俺から言ったわけじゃない」
「いいじゃん!仲良くしようよ~!レイさ~ん!」
肩をガクガクと揺らしてくる未央
お前はもっとおしとやかさを持て