ヘイ!タクシー!   作:4m

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21 水平線の一夜

カチッカチッカチッと、部屋の高そうな時計が動く音がする

目を開いていくと、まるでおとぎ話に出てくるようなベッドの天井が見えて、その天井を支えている四隅の柱と柱の間には、ベッドの中が見えにくいようにレースのカーテンがあしらわれている

 

オートライトなのかこのゲスト用の部屋の電気はいつの間にか消えていて、ベッドの頭付近にある薄暗い照明だけが、その周りをボヤッと照らしているのだった

 

「···そうか、俺いつの間に···」

 

布団の中で段々と頭が冴えてきて、記憶が蘇ってくる

そう、あの後みんなでこのサーキットにある琴歌の屋敷に招待されて、やたら旨いハンバーグを食べて、卯月や未央たちと風呂に入って···、姉さんたちは飲むって言って琴歌の親父さんお袋さんと食卓に残って、俺たちはこの部屋に集まってゲームしたり話したり、そうしたらいつの間にか寝てたのか

ベッドの上にあるスペースにはトランプとそれぞれの携帯が並べて置いてあるのだった

 

···並べて?

 

そういえば、いつの間にか寝たにしては格好がしっかりしている

キチンと布団は被っているし、持っていた携帯とかはちゃんと枕元に···

 

「すー···すー···」

 

状況を確認しようと顔を動かすと、すぐ隣から寝息が聞こえてくる

鼻から下を布団で隠し、目元だけ出してスヤスヤと寝息を立てている薄い黒髪

ほんの少しだけその寝息が俺の肩部分に当たっているのだった

 

「···」

 

ズズズッと俺から離すように、悠貴の肩を持ってベッドの外側にズラすと、今度は俺の背中に柔らかい二つの何かが当たる

ゆっくりと反対側に体を回転させると、見えたのは茶色い短髪

そいつもスヤスヤと寝息を立てていて、悠貴よりも比較的近いからか、俺の首もとにその寝息が当たっているのだった

 

なんとか起こさないようにベッド外へ押し出そうとしたが

 

「へごっ···すー···すー···」

 

どうやらそちら側に先客がいたようだった

そいつに当たって未央がこれ以上動かない

 

「んんっ···んん~···ん~ん···」

 

それに、動かした直後にモゾモゾと動いて元の場所に戻ってこようとする

 

なんでだ、なんでこいつらはこんなに警戒心というものが無いんだ

何故潜り込んでくるんだ、俺は別にそこのテレビの前のソファーでもいいって言っているのに

自分たちの部屋が割り当てられているのに何故この部屋に集まるんだ

 

「···あれ、レイさん···起きてたの?」

 

なんとかしようとしていたら目の前の存在がゆっくりと目を開いた

ゴシゴシと目を擦りながら、大きくあくびをしている

 

「···お前何で一緒に寝てるんだ。お前だけじゃない、こいつらも」

「いや~、なんか自分の部屋に帰るのがめんどくさくなってさ。こんな機会滅多にないし、どうせなら親交を深めようかな~なんて。レイさん先に寝ちゃったからチャンス···みたいな」

「お前な···」

 

だからってこんな、密着するようなことしなくても···

そう言うと未央ははぐらかすように笑うのだった

 

「あれ、ゆいゆいはトイレかな?」

「唯もいたのか」

「レイさんのすぐ隣で寝てたよ。セルフ腕枕~とか言ってレイさんの腕を首の下に入れたりしてた」

 

目を離すとすぐにやりたい放題だな

全部終わったらこっそり引っ越そうか

 

「でもいいでしょ?私たちだけ仲間外れなんてしないよね?」

「なんだ、''仲間外れ''って」

「一緒に寝たんでしょ?琴歌ちん''たち''と」

 

未央の目付きが怪しげなものに変わる

まるで全てを見透かしているような、俺を手玉にとっているような

どちらにせよ、主導権を握ったことを自覚しているようだった

ベッドの照明がそんな未央を妖艶に照らしていて、よりその印象を深めている

 

「···お前は何者なんだ」

「私?私はねぇ···名探偵未央ちゃんだよ」

 

近かった距離を、さらに縮めてくる未央

吐息のかかる距離だったのが、今ではおでことおでこがくっつくくらいの距離まで近づき、もう既に未央の口元が見えなくなった

 

「琴歌ちんは強敵だったよ、中々口を割らなかった。でもね、その情報だけはこっそり漏らしたんだ。この前のレイさんと一緒に行ったバカンス、そこでみんなで一緒に寝たってね」

 

こいつは知っている、あの夜に起こったことを

そして何かを企んでいる

その目がそれを如実に表していた

 

「琴歌ちんが言ってたんだ、レイさんとみんなで夜に···」

 

こいつに知られた時点で終わりだ

 

あの夜に起こったことは、あの夜で終わりにする

しかしいくら相手から求められたからといって、事が起こったことに変わりはない

いくらでも拒否することはできたのに、俺はおかしくなっていたのだと思う

 

覚悟を決めるしかない

未央に何を言われようと、たとえ嫌われようと、それが男としての責任だ

俺は少し身構える

 

「その···あの···」

「···なんだ」

「ハ···ハグしたりしたって···!」

 

···まぁ、確かに

 

「その···ギューってしたんでしょ···!ギューって···!」

 

···まぁ、確かに

 

「ベッドで四人で川の字になって寝たって···!その時に、て、手を繋いだりしたって言ってたよ···!くぅ~···!琴歌ちんそんな大胆な···!」

 

声を殺して叫ぶ未央

俺の服を掴みながら胸元辺りに額を擦り付けて、うぅ~と唸っている

 

そうか、意外とあいつら口固いんだな

 

「···そうだ、何がいいのか抱き枕にされた。本当にお嬢様は何考えてんのか全然わからん」

「···私は、琴歌ちんの気持ち···何となくわかる気がするよ?レイさん人気者だし」

「なんだそれ」

 

そう言うと未央は、俺の服を掴んでいた手を離して、胸の前でおずおずと構えながら口元をキュッと結んで、俺の目を見ているのだった

普段の明るい印象とは違う、女の子の表情

こいつがこんな顔するところは初めて見た

 

「だから···さ、その···い、いい?」

「···なにが」

「私もその···ハ、ハグしてみたいな~···なんて、えへへ···なんか恥ずかしい。こんな機会滅多にないしさ···」

 

しまむーとかしぶりんたちばっかりズルいし···とかなんとか普段の様子とは裏腹に、モゴモゴと小声で何か言ってる

 

黙っていてもその間をはぐらかすようにその手をこちらに伸ばそうとしたり縮めたり、落ち着く様子がなかった

 

「···どうぞご勝手に」

「ホ、ホント?じゃああの···し、失礼して···」

 

未央の腕がこちらに伸びてきて、脇の下、そしてそのまま背中にまわされると、俺の体が引き寄せられた

 

胸、腹、太ももの正面

未央を体が密着してきて、体温が伝わってくる

首の右後ろ辺りから未央の喉を鳴らすような声が聞こえて、体が落ち着くと俺の右肩の下辺りに顔をうずめる

 

「わ、わぁ~···こんな感じなんだ···あ、す、すごっ···あっ···男の人って、へぇ···」

 

未央は俺の背中にまわした手を上下に動かして、体の大きさをたしかめるように撫でられる

 

「···どう?私も琴歌ちんに負けないくらいは···あると思うんだけど」

 

未央はグリグリと胸元を押し付けるように体を密着させてきて、俺と目が合うと''てへへ···なんちゃって''と恥ずかしいのを誤魔化すようにそう言う未央

 

「···レイさんも、してよ···」

 

未央が離れようとしないので、俺は片腕だけまわして未央を支えた

すると未央は恥ずかしがりながらも、少しの間だけ体を俺へ預けるのだった

華奢な体だった

未央の吐息が首もとに当たって少しくすぐったい

 

「は、はい···!もう終わり。これ以上やると、私なんか変になりそう···」

 

意外と未央はピュアだった

俺の体に絡めていた腕を引き抜くと、未央は恥ずかしそうに''てへへ···''と笑う

 

「一応これが私からの餞別ってことで···。頑張ってね、レイさん。絶対に勝ってよ、レイさんいなくなると、私も寂しいから···ね?勝ったら今度は···キスしてあげるっ」

 

その言葉に俺はなにも言わずに起き上がると、未央は反対に布団を頭まで被る

ちょっとトイレに行ってくると伝えると、いってらっしゃーい···と小声で返事が返ってきた

その声はさっきと同じような恥ずかしそうな声色だったのがわかった

 

全く、恥ずかしいなら無理してやらなくてもいいのに

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

やっちゃった

やっちゃったやっちゃったやっちゃった

 

私なにやってんだろ、あーっ!恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!

だってだって、そういう雰囲気だったんだもん!

だって、ハグしたりなんて他のアイドルのみんなもやってることだし、私だって私だって···ちょっとは興味あったんだもん!

 

でも、そっかぁ、男の人ってあんな感じなんだ···

凄い体大きかったなぁ、抱き締められたのって初めて···

舞台でもそんなことしたことなかったし、そりゃあ、しまむーとかとハグしたりはあったけど、今回はそれとは違うし···

 

そっかぁ、自分もちゃんと女の子だったんだなぁ

レイさん、嫌じゃなかったかな

ちょっと無理やりだったかも、でもこんな機会ないし···

結構私ってグイグイいける感じだったんだ、自分でも知らなかったなぁ

 

「···キスかぁ」

 

ボソッと呟きながら、私は布団からやっと頭を出した

そんなこと言ったの初めてだった

 

二人っきりじゃないと言えない

もししまむーとゆうきちゃんが寝てないとそんなことは···

 

「···」プルプル

 

ふとゆうきちゃんのほうを見ると、レイさんの後ろに隠れていて見えなかったが、ゆうきちゃんも布団を頭まで被っていたようだった

 

しかし···その頭が震えている

 

「···ゆうきちゃん」

 

その言葉に、布団の中から小さな手がニュッと出てきて、さらに布団を被るのだった

 

「···もしかして、起きてる?」

 

私はその可愛らしい存在に、そう問いかけたのだった

そうだね、起きてるわけがない

こんな遅い時間まで起きてるような悪い子のわけがないのだから

 

「···寝てまーす···」

 

ほら、その証拠に本人もそう言っている

そっかそっか寝てるかー

いやー、最近の若い子は育ちがいいね!

未央ちゃんお姉さんもビックリだよ

これもご両親の教育の賜物で···

 

「···ネタは上がってるんだー!!」

「違うんですっ!違うんですっ!わざとじゃないんです!!」

「この期に及んで言い訳をするのかー!!そんな子に育てた覚えはないぞー!!」

 

布団を剥がすと、そこには恥ずかしそうに真っ赤な顔をしていたゆうきちゃんがいたのだった

 

「うぅ~ん···どうしたんですかぁ~?」

「うなーっ!!」

 

寝ぼけ眼で目を擦っているしまむーをよそに、私はゆうきちゃんに襲い掛かる

その照れ隠しともいえる行動は、レイさんがしばらくして帰ってくるまで続いたのだった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「···ダーリン?」

 

トイレから出て廊下を歩いていると、この家の出口へ向かって歩いているダーリンの姿が見えた

こんな夜中にどこへいくのだろう

私はこっそり後をつけてみることにした

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