ヘイ!タクシー!   作:4m

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23 水平線の舞台

「えーっと···これってどこから入ればいいのかな?梨沙ちゃん」

「アッチじゃないの?ホラ、人が続いてるじゃない」

「まさか人の数がここまでとは···わたくし完全に勉強不足でしたわ。ライブの際は、ファンの方々も同じ思いをしているのでしょうか···」

「あれ?梨沙ちゃん私チケット、チケットどこにしまったっけ···!」

「しっかりしなさい千枝。コートの下から二番目のポケットよ」

「あ、ホントだ···」

 

見渡す限り人、人、人

歩道だけじゃない、駐車場からもサーキットへ入ってくる人たちが合流して、もう人でこの場がごった返してしまっている

休日だからというのもあるかもしれない

友人、カップル、子ども連れの家族とその客層は様々だが、唯一多く共通しているのは、カッコいい車に乗っているということだった

 

「ちょっと待って何アレ、ボディーが地面にくっついてんじゃないの。どうやって走るのよあんなの···ほらガリガリいってるじゃない」

 

駐車場へと続く道路、係員の人が立って誘導している道に何台も車が並んでいるが、そこには普段中々見ないようなキラキラした車やスポーツカーも並んでいて、さすが車のイベントだなと思った

梨沙ちゃんの言うような···ちょっと私には良いのか悪いのかわからない個性的な車もあるけど、何が好きなのかは個人の自由だし、私もまだまだ勉強が足りないのかもしれない

 

「あら」

 

私たちが車を眺めながら歩いている中、桃華ちゃんは携帯の画面とにらめっこをしながら何かを呟く

雑踏の中、桃華ちゃんは確かな足取りでその会場へと向かい始めるのだった

 

「ちょっと桃華、こっちで合ってるの?」

「ええ、先に入っている方々から案内が届きましたわ。零次様の晴れ舞台ですもの、絶対に見逃すわけにはいきませんわ」

 

そう、今日はいよいよ決戦の日

今まで零次さんたちが積み上げてきた物の集大成だった

ずっと練習してきてダメだったり良かったり、私には詳しい事はわからないけど、零次さんたちを見ると、頭を抱えていたり喜んだり、沢山悩んで今日までやってきていた

 

時間があれば私たちは一緒にサーキットへ赴き、出来ることを手伝ったりしていた

手伝うといっても専門的なことではなかったけど、物を運んだり、ご飯を作ったり、特に美空さんは大層よろこんでくれた

 

それがとっても嬉しくて、まるで当番制のように誰かしらがいつも一緒にいて、ここまで作り上げてきたのだ

 

「凛さんやありすさんたちも既に到着しているようですわ。こちらを進んでいって間違いないようです」

 

プロデューサーさんたちも気を利かせてくれたのか、今日はアイドルの多くがこのサーキットへ足を運んでいるみたいだ

この入り口へ続く列の前のほうにも、りあむさんやあきらさんたちが上手く変装して並んでいるのが見えた

残念ながら今日来れなかった人たちも、ライブ配信で今日の様子を見守っている

 

「それにしても、これだけ盛り上がるのね。なんだか···車が好きっていうより、私たちのライブに来るような格好の人もいるような気がするんだけど」

「あ、それは今日レースクイーンを他の事務所のアイドルの人たちがやるみたいだからかな」

 

どうやらそれが目当てで来る人もいるみたいだった

プロデューサーさんに聞いてみたところ、少し前にデビューした新人さんたちなんだとか

まだ知名度はそんなに高くなくて、テレビにもあまり出てないみたいだけど

今は秋だけど今日は比較的暖かいから、そういう仕事ができるのは今年最後のチャンスかもしれない

 

「ふーん···ま、どんなアイドルたちか知らないけど、負ける気はしないわ」

「り、梨沙ちゃん。今日はお仕事じゃないから···」

「お顔を拝見するだけよ、どんなメンツが揃ってるのかしらね」

「会えないとは思うけど···」

 

そうこうしているうちに列は進み、サーキットの入り口へと差し掛かろうとしていた

人が入場する部分と、サーキット内へ車が入場する部分が分かれていて、サーキットへはそれらしいカッコいい車が何台か入っていくのが見える

零次さんと同じ参加者なのだろうか

 

「いらっしゃいませ、ではチケットを拝見させていただきます」

 

なんだか不思議な感じだ、いつものライブの時は逆の立場だから、新鮮に感じる

 

「はい、ありがとうございます。こちらのチケットが本日の入場券となっていますので、外に出る際には必ずお持ちください」

 

注意事項を受けて、会場内へと入っていく私たち

そのロビーに広がっていたのは、普段は目にすることができない物品の数々だった

壁のケースに飾られたトロフィーに、ヘルメットやグローブ、そしてシューズ

沢山のカッコいい車の写真に、企業ロゴがいくつも貼りつけられたボード

そして特別目を引く一台のレーシングカーが、ロビーのど真ん中に照明に照らされて飾られていたのだった

誰がどう見ても普段町中で使うような形じゃない

 

「これなんていう車よ」

「名前はわからないけど···F1っていうレースで使うって零次さんが教えてくれた車に似てるような···」

「わたくしのお屋敷にも同じようなものがありましたわ。でも比べてみるとこちらは少し小さくてタイヤの数が少ないような気がします」

 

そうしていると、壁の向こうからブンブンと建物全体に響くような野太い音が聞こえてきて、地面の振動が足から伝わってきた

 

「ちょっと、始まっちゃうんじゃない?」

「まだその時間じゃないよ?たぶん、''練習走行''っていうのだと思う」

「お二人とも、こちらですわ。あの階段から観覧席へと行けるようです」

 

エンジンの音が響く中、私たちは桃華ちゃんの案内に従って、会場内を進んでいく

''R''と書かれた大きな看板が壁に貼り付けられている階段を見つけると、チケットを確認しながら登っていく

 

「ええっと···Rの···30···31···」

「上がって右じゃないの?」

 

階段を上がっていくと、段々と太陽の光が差し込んでくるのがわかった

それと同時に大きくなってくるエンジンの音と振動

私の心臓もそれに合わせてドキドキと脈打つのがわかる

 

「よいしょっと···うわっ、凄い!」

 

外に出た瞬間広がっていたのは、雛壇のような観覧席に人が沢山いる光景と、高らかに唸るエンジン音と共にサーキットを疾走していく車の姿だった

観覧席は反対側にも存在していて、それらに挟まれるようにコースが設けられている

ただ違うのは、車が入るピットがあちら側なのか、観覧席の下側に琴歌さんのサーキットと同じようなシャッターが端から端まで並べられていて、それぞれ違うツナギを来た人たちが中で動き回っていた

 

「あっ!ささちー!こっちこっちー!」

 

席を探してまわっていると、未央さんがこっちに向かって手を振っているのが見えた

さすが、この雑踏の中でも声が通って聞こえてくる、レッスンの賜物だ

巧妙に変装していたことと、みんなのことをあだ名で呼んでくれるおかげで、まわりにもバレずに済むのはよかった

 

「みんなでチケット貰ったから連番だよね?ああよかったよかった連番だね。はいこっちこっち、どうぞー」

「ありがとうございますわ」

「あら?未央一人?」

「今ねー、しぶりんとしまむー飲み物買いにいった。未央ちゃんじゃんけんは強いんだよねっ」

 

確かに、まわりにも簡単な飲み物や食べ物を持っている人が多い

ポテトとかチキンとか、美味しそうな匂いが漂ってくる

 

「どうすんの千枝?飲み物とか買ってくるの?」

「私は···始まる前でいいかなって」

「零次さんたちは···まだ走ってはいないんですの?」

「うん、その左端のシャッターがレイさんのところだって」

 

未央さんが言っているところを見ると、まだそのピットのシャッターが開いていない

中で人が動いているのを見ると、そろそろだとは思うのだが

 

『えー、現在コース内では練習走行が行われております。レース開始まで暫し、様々車たちの走る姿をお楽しみください。なお、ロビーには売店等もございますので···』

 

実況者の声がサーキット内に響き、会場は少し盛り上がってきた

観覧席の前の柵にはちらほら人が集まって車が走る姿を見ている

 

「でも、零次さんの車ちょっとやりすぎたんじゃ···」

「えー?ささちーアレカッコよくなーい?ちょっとこじゃれたレースカーみたいなさー」

「あれくらいしないと、アタシたちが手伝った見返りにはならないわ。いい宣伝じゃない」

「そう···かなぁ?」

 

すると、零次さんたちのシャッターが開いた

その赤いシルエットが、コースの中に姿を現していく


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