ヘイ!タクシー!   作:4m

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24 水平線の始まり

『ただいまコース上には、参戦車両がグリッドに並んでおります。今回のイベントでは様々なゲストの皆さまたちが、各々の魅力的な衣装を纏い、盛り上げてくれています。レース開始まで暫し、お楽しみください』

『いやー、今回も華々しいですねー。レース終了後は撮影とインタビューもありますので···』

 

解説と実況の人が会場を盛り上げるようにトークを続ける中、私たちも他のお客さんたちのように観覧席の一番前の柵まで行って、コースの上を覗き込んでいた

目の前の右から左に真っ直ぐなコースの上には等間隔で二列に車が並んでいて、若干左右で位置が前後にズレている

 

その車たちの隙間を縫うように、カメラマンさんや記者の人たちがインタビューや車の写真を撮ったりして動きまわっているが、その中でも一際目を引いているのが

 

「うわー、あの人めっちゃスタイルいいねー!しぶりんあれ見てよ!どこの事務所の人かなー!」

「あれ?みりあ、あの人どこかで見たことあるような···悠貴ちゃんわかる?」

「私は···見たことないかな。でも、同い年くらいなのに、凄くお姉ちゃんって感じで羨ましい···」

 

華々しくてセクシーな衣装に身をつつんでいたレースクイーンのお姉さんたちだった

どこの事務所なのか、アイドルなのかモデルの人なのかはわからないけど、とても可愛くて綺麗な人ばかりだった

パラソルを差したりして、車の前でポーズをきめたり、車の運転席に乗ってみたりと、本人たちも楽しむようにイベントを盛り上げていたのだった

···あの青いボブヘアーの人は、凄く大人でセクシーで綺麗なのに、恥ずかしいのか控えめなポーズしてる

でもそれがかえって可愛く映るなんて、大人ってズルいなぁ

 

それに、何故だかレースクイーンの一人が立派なカメラでそんなボブヘアーのお姉さんを凄い勢いで撮影していた

同じ事務所の知り合いなのだろうか?

 

「あ!みんなやっと見つけた~!千枝ちゃん!ダーリンどこ?」

「唯さん、お疲れ様です。あ、奏さんもこんにちは」

「ええ、こんにちは。大体みんなここにいるのね」

「はやみーん!おっつ~!」

 

仕事が終わったのか、唯さんが一目散に柵に駆け寄り、その後ろから奏さんが静かに歩いてきて、手を振っていた

奏さんは今日は休みのはずだが、前日の仕事が遅くに終わったため、ゆっくり休んで余裕を持ってきた···と思ったが、中々道が込んでいてここに車で時間がかかってしまったらしい

 

「あっ!ダーリンいたよ!ほらっ!あそこに!」

「あの人の車は目立つもの、探さなくてもすぐに見つかるわ。それに···沢山私たちの''痕''を残してしまったのだし」

「なんか綺麗なレースクイーンさんとお話してる」

 

奏さんが柵に近づいて、持っていた小さなバッグから双眼鏡を取り出した

零次さんたちが持っていったら便利だよとアドバイスをくれたが、中々どれがいいのかみんなで迷ってしまったが、奏さんはいち早く見つけて買っていたのを思い出す

 

唯さんも未央さんも、戻ってきた凛さんもみりあちゃんも興味深そうに双眼鏡で零次さんの車を見ていた

みんなやっぱり零次さんのこと気になるんだ

 

私も懐から双眼鏡を取り出す

 

よく見てみると、なんだかその姿に見覚えがあるような気がした

薄茶色の髪の毛、スラッとした体格、凄く整ったスタイルだった

 

「なんかドア開けて仲良さそうにダーリンと話してる。やっぱりああいう大人な人が好きなのかな···」

「いいえ、きっとドライバーの人とのコミュニケーションでしょう。あの人にあんな美人なレースクイーンと知り合う機会なんてそうそう···」

「でもはやみん、レイさん私たちと結構色々なところ行ってるから、その時なんかに···なんて」

「ありえないわ」

「ちょっ、ね、ねぇしぶりん、何とか言ってよ~···」

「···ふんっ」

 

みんな各々思うところがあるのか、ジッと観察を続けていた

零次さんって、意外とモテるんだなぁ···私も頑張らないと

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「では、頑張ってくださいね。私、応援してますから」

「···あの、やっぱりなんかどこかで会ったことありませんか?」

「いやだ。お兄さん、お上手なんですね。そんな手には乗りませんよ、事務所にそういうのはダメだって言われてて」

「いやナンパじゃなくて、マジでどっかで会った気がするんですけど···」

「ふふふっ、さぁ?どうでしょう。もしかしたら、知り合いの方と間違っているかもしれませんよ?」

 

ドアをノックされて開けてみると、そこには綺麗な薄茶色の三つ編みが可愛いお姉さんがいて、興奮気味に話しかけてきた

どうやら車が好きだという

話が弾み、ずっと会話を続けるうちに、なんだかその声に聞き覚えがあるように感じたが···うーん、どこで聞いたんだか思い出せない

 

『それでは···そろそろレース開始の時間が迫ってきたようです。ドライバーと関係者の以外の皆さまは、コース上からピットの方へお戻りください』

 

アナウンスが流れ、コース上からゾロゾロと人が撤収し始めるのと同時に、それぞれのメカニック、関係者等が入れ替わるようにグリッドの車へと近づいていく

 

「カオリさん、そろそろ」

「ああ、ごめんねシホちゃん。では、ご武運を」

 

別の若いレースクイーンの女の子に諭されて、''カオリ''と呼ばれたその女の子は駆け足で去っていった

カオリ···カオリか、もう少しで思い出せるような···

 

「調子はどうだ、少年」

「ひな先輩」

 

気がつくとまわりはガヤガヤと慌ただしくなって、ボンネットこそ開けないものの、各々のドライバーと打ち合わせるように運転席を開けて話し込んでいる

 

「さて、いよいよだ。車の調子はバッチリのはずだが、何かあったらすぐにインカムで知らせろ」

「はい、わかりました」

 

俺は助手席に置いてあったヘルメットのインカムの電源が入っているかを確認して頭に被る

一気に視界が狭くなり、目の前しか見えなくなる

ハンドルを握り、操舵感を確認するように少し左右に振ってみた

良好だ、固定はしっかりしてる

 

「それと、アレ」

 

ひな先輩が指差した先には···俺には何故参戦しているのかいまだに理由がわからない

有名なスポンサーに混じってあの忌々しいテレビ局のスポンサーロゴがこれでもかとデカデカ描かれている車が、俺の少し先のグリッドに並んでいるのだった

 

俺はそれを見てひな先輩に頷く

 

「何をしでかしてくるかはわからない。追い越すときは気を付けろ。ただ、気を付けるだけで躊躇はするな。ぶち抜ける時は思いっきりぶち抜け」

「はい、わかっています」

「ふ~、オッケーオッケー、車はオッケーね。いや~、やっぱりカッコいいじゃな~い」

 

車をぐるっと一周見終わったあとに、姉さんは満足そうにそういうのだった

そう、俺を含むひな先輩たちが唯一、協力してくれたあいつらに''チューニング''を許した部分があるのだ

これに関しては···まぁ、もう慣れた

スポンサーといえばスポンサーだし、文句も言えない

 

「ここには···琴歌ちゃんのサインのステッカーで···ここには加蓮ちゃんのサインステッカー!で~、美城プロダクションのアイドル部門のステッカーがドーンと来て、そして''346''のエントリーナンバー!いや~素晴らしい!これほどのファンアイテムってないわ~!」

 

そう、車のバンパー、フェンダー、ボンネットにドア、そこらじゅう至るところにあいつらの''痕''が刻まれたのだ

車の完成後、それをひな先輩が俺に''好きにさせていいか''と聞かれたので了承すると、それはそれは皆さん張り切って作業に取り掛かり始めた

パソコンを使って自分のサインを印刷してカッティングシートで綺麗に切り取り、車の至るところに貼り付けたのだ

中にはユニット名やロゴまで貼り付けている奴もいた

 

完全に美城プロダクション専用車両になってしまっている

端から見たら超アイドルオタクだ

 

「彼女たちに恥じないためにも、全力で攻めろ。そうじゃないと、それこそ''文字通り''彼女たちの顔に泥を塗ることになる···なんてな。ふふっ」

「プレッシャー掛けないでくださいよ···」

 

まぁまぁ最後は冗談だがと付け加えて、ひな先輩は言う

 

「とにかく、車の状態はピットで私たちがモニターしている。何かあったら伝えるから、お前は走りに集中して大丈夫だ」

「わかりました」

「頑張ってね、レイジ君!」

 

それだけ言うとひな先輩たちは去っていき、ピットで準備を始めていた

 

『では、観客の皆さんお待たせ致しました!いよいよ、車の心臓に火が入れられようとしています!どうか皆さんその咆哮をお聞きください!』

 

観客がわらわらと観覧席の柵に集まっているのが見える

他の車からも人が消えてそれぞれ準備が始まろうとしていた

 

「零次」

「ん?お、カオル。いいのか?戻らなくて」

 

エンジンを掛けようとすると、カオルが運転席へと近寄ってきたのが見えた

今日はどこかのチームの関係者なのか、この場に居ることに驚いた

さっき俺たちのピットへ来て車を眺めていたようだが、まだ何かあるのだろうか

 

「あのさ···」

「なんだ、もう始まるぞ」

「その···頑張ってね」

「ああ。···それだけか?」

「えっと···あのね実はn」

 

その時、地響きのような音が辺り一面から聞こえ始め、空気からも地面からも振動が響いてきた

まわりの車たちから心臓の音が聞こえ、叫び始める

 

 

『聞こえますか!この咆哮が!いよいよ始まろうとしています!プライドとプライド!意地と意地のぶつかり合い!この時だけは、ただ速く走るためだけに!躍動する車たちが目の前を疾走していきます!どうぞ!ご覧あれ!』

 

アナウンスが響き最後まで残っていたスタッフたちもコースから離れると、カオルも何か言いたげな表情のまま、ピットレーンへと駆けていく

一体何なのだろう

そして俺もエンジンを掛ける

 

響く轟音が、俺を包み込む

体全体に振動が響く

そして顔を上げると、スタートシグナルが点灯しようと準備を始めていたのだった

 

『零次、聞こえるか。いよいよだぞ』

「はい、わかってます」

『楽しんでこい』

 

それだけ言うと、ひな先輩からの無線が切れる

 

全員で作り上げた車

世代は古いが性能は負けてない

後はもう、俺次第だった

 

まわりからエンジンを吹かす音が聞こえ始め

シグナルが変わる

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