ヘイ!タクシー!   作:4m

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自由研究02

千川さんは俺を見つけると、ファイルを持った手を下ろし、胸元に抱えながらこちらに向かって走ってくる

 

「ハァ・・・ハァ・・・す、すいません。車は見つけたのですがどこにいるかわからなくて・・・」

「ちひろさん、髪ボッサだよー」

 

テーブルまでたどり着くと、今まで会社中を走り回っていたのか、息を切らして地面に顔を向ける

本田ちゃんがそんな千川さんの乱れた髪を一生懸命直していた

 

「大丈夫ですか?何か急な仕事でも?」

「あ、違うんです。仕事ではなく、少々お願いしたいことが・・・ハァ・・・ありまして」

 

大分落ち着いたのか、やっと顔を上げた千川さんは一枚のファイルを俺に渡す

 

「これは?」

「あ、あの。是非青葉自動車さんに協力して頂きたくて」

「ちひろさん、これ私達も見ていい?」

 

すると千川さんは、どうぞと本田ちゃんたちに促す

それと同時に三人も俺がファイルから取り出した書類に目を向けた

 

「企業訪問について・・・ですか?」

「はい、もうご存知かと思われますが世間一般は夏休みに入りまして。アイドルのみんなも仕事と勉強を両立させて活動しています。私達のアイドルは学生が多いですから、小学生から大学生まで・・・特に小学生のみんなは、普段の勉強以外に夏休みに課される宿題の一つに・・・アレが」

「ほう、工作ですな?」

 

本田ちゃんが千川さんに答えると『はい・・・』と申し訳なさそうに返事を返した

そうか、工作かぁ

俺も随分悩んで作ったっけな

 

「工作って作ってると、お父さんとかが結構手伝ってくれたりしなかった?私のお父さんも、結構熱が入っちゃってさ」

「私は自由研究だったなぁ。自分で撮った写真をノートに貼って、お散歩スポットノートみたいなのを作ったり」

 

本田ちゃんと高森ちゃんが会話で盛り上がる中、俺は書類とにらめっこしていた

 

「引き受けてあげることは・・・できないんでしょうか?」

 

十時ちゃんが遠慮がちに俺に提案してくる

 

「こればっかりは俺の一存では決められない。会社に対しての依頼だから、社長にも相談しないといけないし、姉さ・・・先輩にも聞いてみないとなんとも言えないな」

「そう・・・ですか」

 

俺の返答に十時ちゃんは俯き、千川さんも顔を下に向ける

 

「おいおいおい、誰も嫌だなんて言ってないぞ」

「・・・え?」

 

千川さんが顔を上げて、十時ちゃんもそんな千川さんと俺に向けて交互に視線を送った

 

「聞くだけ聞いてみる、それでダメなら悪かった。できるだけ協力させてもらう、俺も''元''小学生だったから・・・まぁ、悩む気持ちもわかるし」

 

そう言って最後のパンケーキを口に入れる

本田ちゃんも高森ちゃんも、十時ちゃんも千川さんも、そんな俺を見て微笑んでいた

 

「・・・なんだよ」

「レイさんってさぁ、なんだかんだ優しいとこあるよね」

「・・・何言ってんだか」

「口はちょい荒っぽいのに、JS組も嫌いだって言う人全然いないし、むしろ懐かれてない?お子ち・・・あー、凄いドライバーだって聞くし!」

「申し訳ありませんですわ本田未央様・・・おい、おいおいおい、今一瞬なんて言った?ん?あいつか、あいつがそう言いふらしてんだな!!」

 

知ーらなーいとシラを切り俺から顔を逸らす本田ちゃんに俺が反論している様子を、他の三人は楽しそうに見ていた

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ご馳走様でした。おう、もうこんな時間だな。ゆるふわラジオ出張編はこの辺で終了でいいか?」

「・・・!聞いてくださってるんですか!」

「たまにだ、たまに。いつもじゃない」

 

四人立ち上がると、高森ちゃんは嬉しそうに手を前に組んで少し俯いていた

 

「ではすいません、お手数お掛けしますがよろしくお願いします。青葉社長にもよろしくお伝えください」

「じゃあねー!レイさん!」

 

本田ちゃんの言葉に合わせて高森ちゃんがお辞儀をすると、三人はオフィスビルへと入っていった

 

「じゃあ私も、レッスンがあるので。すいません、奢って貰っちゃって」

「別に、前は自分の分ちゃんと払ってたろ?

たまにはカッコつけたいんだよ、男ってのは」

「えへへ・・・、それじゃあまた。お仕事の時はお願いしますねー!!」

 

そう言うと、別館方面へ十時ちゃんは手を振りながら消えていった

ここのアイドルは素直な子が多い気がする

変におごることもなく、何かをされたら必ずお礼を言って、それが当たり前だと思わずに感謝を見せてくれた

そこは、大人の世界に飛び込んだ故の恩恵なのかもしれない

 

「ふっふっふ、見たわよそして聞いたわよ〜」

「ん?おわっ!!」

 

ふと声がして辺りを見回すと、いつのまにか川島さんが俺の椅子の背もたれに手を掛けて、上から俺のことを覗き込んでいた

 

「ず〜いぶんと346に馴染んだみたいじゃない?今日は愛梨ちゃんとポジパの二人を誘うなんて、ヒーローさんは人気者ねぇ?」

「俺から誘ったわけじゃないです。みんな俺にただ構ってくれてるだけで」

「ふーん・・・で、さっきサラッと聞こえちゃったんだけど」

 

俺の椅子から離れて、俺の一つ隣の席に座る川島さん

 

「うちの小学生組が、自由研究でお世話になるって本当?」

「まだ、分かりません。会社に帰って相談しないといけませんし、確定ではない感じなので」

「そう。もし、いいって言ってくれたら、あの子たちのこと・・・お願いできる?」

「ええ、出来るだけ色んなことをやらせてあげて・・・」

「それもそうなんだけど、それ以外っていうか・・・」

 

川島さんは両手を合わせて組み、自分の膝の上に置いて、さっきまでの少し調子の良い口調ではなく、真面目なトーンで話す

 

「あの子たち、変に気負いすぎるところがあるから・・・特に夏休みに入ってからはずっと忙しくなってるし、何か・・・リフレッシュ出来ればいいかなって、勝手に思ってたり」

「そう言われても、自信がありません」

「きっと北崎君なら大丈夫よ。北崎君が今日事務所に来るぞってわかった日にはあの子達、凄く嬉しそうにするんだから」

 

そう言うと、川島さんは椅子から立ち上がる

 

「あなたみたいな人が、あの子達には必要なのかも」

「・・・」

「話が長くなってごめんなさい。ありがとう、私も会えて嬉しかったわ。今度飲みにでも行きましょ・・・ハッ!」

 

すると川島さんは手を後ろで組み、俺を下から覗き込むような体勢に変わる

 

「みずき〜美味しいお酒がのみたいなぁ〜、お兄さん連れてってつれてって〜、ご飯行こう?ご飯!」

 

キャピキャピッという効果音が大変似合う動きをしながら、猫撫で声で俺に向かっていわゆるアピる川島さん

 

「そうですね、その機会がありましたら是非。自分の先輩が大変珍しいお酒を実家から取り寄せたと言っていたので、スタッフの顔合わせも兼ねまして検討していただきたく」

「ちょっと〜、そういう反応じゃなくてもっとこう・・・ないの?誘い文句っていうか・・・か、か、か・・・」

「川島さん?」

「珍しいお酒・・・」

 

突然背後から聞こえたとても澄んだ声に驚き、立ち上がって振り返る

 

「か、楓ちゃんじゃない」

「瑞樹さんいけませんよ、''抜け駆け''は」

 

そこには、とても素晴らしい笑顔で川島さんにじりじりと近づいていく高垣さんがいた

 

「そのお話、私にも詳しく」

「あ、あぁ〜・・・じ、じゃあね北崎君!ほら!楓ちゃん!午後からレッスンでしょ!早く行くわよ!」

「珍しいお酒について詳しく〜」

 

そのまま高垣さんの迫力に押されることもなく、川島さんは高垣さんの腕を掴み強引に別館へと引きずっていった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「自由研究ねぇ・・・」

 

細いスティック状のチョコレート菓子を口に咥えながら、ひな先輩は自分の席でボソッと呟く

事務所に帰ってきてから、まずはひな先輩に書類を見せてから判断を仰ぐことにした

 

「100、120、95、よしよし、イエッサーイエッサー」

 

姉さんはというと、別のパソコンの整備要領書に記載されてる数値をオーダーにメモすると、意気揚々と工場へ入っていく

その間も特に目もくれず、ひな先輩は書類に目を通していった

 

「・・・ふむ」

 

ギギギっと椅子の背もたれから音を立てながら少し起き上がり、ひな先輩はパソコンのキーボードを指で叩きはじめる

工場からバチンバチンと金属音が響く中、パソコンとにらめっこを続けるひな先輩

 

「この日なんかいいんじゃないか?」

「どれですか?」

「12日」

 

パソコンには12日の予定表が表示されていた

自分のパソコンでも同じ画面を開いて確認する

 

「確かに・・・この日だったら入庫は少ないですね」

「私は朝ちょっといないが、全員出勤だしちょうどいいかも」

 

ん、とひな先輩から手渡されたお菓子を口に入れながら出勤状況を確認する

 

「あー、終わり終わり!あと洗車だけで終わり!オーダーここに置いとく・・・何これ?」

「あ」

 

ひな先輩の素っ頓狂な一言が聞こえたときにはもう遅く、姉さんは腰に手を当てながら書類に目を通していく

すると、みるみるうちに目が爛々と輝いていく様子が目に見えてわかった

 

「ちょっと、ちょっとちょっとちょっと!!なんでいつもこんな面白そうな事は二人だけの秘密にするの!?こんなの引き受ける一択に決まってるじゃない!!12日!?上等じゃないの!」

 

はっはっははぁ!と意気揚々と工場へ戻っていく姉さんを俺は唖然としながら見届け、ひな先輩はデスクの上で頭を抱えていた

 

「やっぱり情報は小出しにしていくべきだった」

「・・・コーヒーいかがっすか?」

「・・・一杯頼む」

 

俺は黙って給湯室に向かい、二人分のコーヒーを作り始めた

 

その後、戻ってきた社長も交えて話し合いを行い、12日に受け入れる旨を千川さんに伝えるととても嬉しそうに承諾してくれた

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