琴歌の親父さんの行動もあって、俺は正式にドライバーとして認められたらしい
元々琴歌たちも上層部ゴネることを予想はしていて、親父さんたち(星花、ゆかり、桃華の親父さんたちも含む)と打ち合わせをし、そういう結論に至った場合そう言ってしまって構わないと言われていたようだ
もう頭が上がらない
だが、琴歌たちも自分のアイドル生命を掛けての行動だった
あそこまでのことはしないつもりだったらしいが、相手の言い分を聞いているうちに我慢できなくなり、あんな行動をしたらしい
割れたガラスなんていくらでも弁償してやると啖呵を切り、普段のお淑やかな態度から一変した様はそれはそれは恐ろしかったようで、それに加えて西園寺グループや涼宮グループにそっぽを向かれるのは非常にマズいということで、琴歌たちの処分は大目に見るとのことだった
「お前···無茶するなよあんまり」
「自慢ではありませんが、プロデューサー様にも今回ばかりはこっぴどくお叱りを受けましたわ。でも、今でも私は間違ったことはしていないと思っています」
琴歌が、親父さんに子ども頃から教えられていた教訓
''会社をより良くしたいなら、会社ではなく人に投資をしろ''という教えを守り、今回の行動を起こしたと琴歌は言う
「でも琴歌ちんも中々やるね、もっと様子を伺うと思ってたのに」
「行動すべき時に行動しなければ意味がありませんわ。私は意外と、''行動派''なんですのよ!」
どやふんす!と胸を張る琴歌
アグレッシブお嬢様はやはり、やることもアグレッシブだった
退院したら親父さんたちにもお礼を言いにいかないと
「···未央、そろそろ」
「あ、そうだね、しぶりん。ごめんねレイさん、結構長居しちゃった」
「いや、わざわざありがとう。加蓮もな」
「なんか困ったことあったらトーク頂戴ね。私、病院って結構慣れてるからさ」
「それは零次さん···逆にお前のことが不安になるんじゃないか···?」
「また来ますね!零次さん!」
最後に卯月の挨拶で締めて、あいつらはゾロゾロと出ていった
加蓮は名残惜しそうに最後まで俺の手を握っていたが、心配するなと伝えると素直に出ていったのだった
退院したらお寿司屋の特盛フライドポテトを
奢るという約束をしてしまったが、まぁ今回はよしとしよう
普通逆に奢ってもらう立場じゃないか?俺
「あらあら、元気そうねレイジ君!」
「姉さん、わざわざすいません。ひな先輩も」
「さっきあいつらとすれ違ったぞ。加蓮ちゃんがまるで別人のように元気になってた」
「色々と心配をお掛けしまして」
俺が目覚めたときに真っ先に駆けつけてくれたのが姉さんとひな先輩だった
ひな先輩が涙ぐんでいる姿を見たのは初めてだった
それを追及すると、''そんなことない、とっとと起きろねぼすけ''とはぐらかしていたのは何だか新鮮だった
「これ、レイジ君の着替えね。とりあえずあったものを適当に持ってきただけだから、センスは保証しないよ?」
「ああ、すいませんわざわざ。···これは俺のTシャツじゃないですね。レディースじゃないですかこれ」
明らかに俺の趣味ではない黄色くて花柄のTシャツが一枚紛れていた
姉さんのものともひな先輩のものとも違う、どちらかというと今時の学生のセンスというか
「あ、間違った間違った!あははっ!」
「ちょっと待ってください、今ガレージの俺のとこってどうなってんすか?」
「細かいことはいいじゃなーい。ほら、下着と、靴下」
「この靴下も俺のじゃないんですけど」
こんなふくらはぎまで隠れてケミカルな色した暖かそうな靴下は間違いなく俺のではない、細いし
俺のいない間に好き勝手してるなあいつら
「違う違うのよレイジ君。あの子たち、いつレイジ君が帰ってきてもいいようにって、暇を見つけてお掃除しに来てくれるのよー。わざわざいいよって言ってるんだけど、何だかお家のほうもみたいよ?いつも迷惑を掛けてばかりだからって。だから怒らないであげて」
「···そうなんですか」
「感謝しろよ?響子ちゃん監修だからメチャ綺麗だぞ。窓のサッシにホコリ一つなかった」
それで遅くなったりしてたから、たまに泊めてあげていたりしているようだった
まぁ、そういうことなら大目に見てやろう
「そういえばレイジ君よかったわねー。美城プロダクションが認めてくれて」
「琴歌には感謝ですね。あそこまでしてくれるなんて」
「それだけじゃないみたいだぞ」
ひな先輩が言うには、変わったのは美城プロダクションだけじゃないようだとのことだった
「表沙汰にはなってないけどな。あのテレビ局のことだ」
「叩いてみたらそーーーとう''ホコリ''が出てきたみたいで、今はてんてこ舞いみたいよ?」
「···それも琴歌が?」
「んーん」
姉さんが横に首を振る
逆にこちら側が被害を被らないようにお嬢様グループが動いたのは間違いないが、主犯格は違うようだった
その人物は今回のレースの一件が始まる前から動き始めていて、ゆっくりと時間を使いながらジワジワと追い詰めていったらしい
「そのお姉さんから伝言、''クソシステムだった''って」
···そうか、あの時すぐに外国に帰らなかったのはそういうことだったのか
ひな先輩は知っていたのだろうか
尋ねてみたが、ひな先輩も首を横に振る
あの人は不思議な人だからと、何だか納得のいく行動だったらしい
「まぁとにかく、しばらくはナリを潜めるだろうって。テレビ局の上の連中も総入れ替えらしいよ」
「自業自得」
全てが丸く収まる
しかし、それならテレビ局内に手引きする人間も必要になる
一体誰が手引きしたのか、どこまで人と繋がっているのか交遊関係が未だに謎だ
「終わらせる時は一瞬で終わらせる。瞬く間に···ってね、ジタバタさせることもなく気づけば終わってる。あの人らしい」
「お礼の一つでも言いたかったわね。すぐに帰っちゃったから」
「じゃあ···俺は···」
「めでたく退職だ。あっちへ行っても元気でな」
そんなにあっさり···
本当にこれでよかったのかと今になって思う、社長も来たときに何も俺に言わなかったが···
これで正しかったのだろうか
「私たちのことなら心配しなくても構わない、新入社員ならもう目星はついている」
「新入社員?」
「ふふふっ、今度連れてくるね。レイジ君もきっと知ってる人だから。志望動機は''前の職場に嫌気が差したから''だってさ」
それならまだよかった
空いた穴を埋めるのは大変だが···しばらくの間は俺も手伝いに行こうかな
「それにだ、今度専務さんにもお礼を言っておけよ」
「···美城専務に?」
「ええ、色々と動いてくれたんだから。だからレイジ君、これからもよろしくね。詳しいことは退院してから話そ?」
「これから···?」
姉さんがさも嬉しそうにそう言うのだ
わからないことが多すぎる
退院したら一体何が待っているというのか
悪いことではなさそうだけど···
その後は会社の近況を聞かせてくれた
繁忙期に入りかけだが、俺がいない分は姉さんの知り合いたちが手伝いに来てくれるそうだ
まぁ、あの三人なら信頼できるし、またアイドルのみんなも時間を見つけては前にやった室内清掃に来てくれるらしいので、一緒に仕事が出来るのが最早給料もらうのと一緒と三人も喜んで協力しに来るという
「今は休め、これからが大変だからな」
「はい。でもあいつらがよく来るので、休む暇がないっていうか」
「ありがたいことじゃなーい。色々とやってくれてるみたいだしー」
「そうなんですけどね」
自分の為に色々な人が動いてくれた、それだけでもありがたいことだ
その恩を返さなくてはならない、あいつらも···俺がこれから出来ることは何なのか考えなくてはならない
随分と寂しい思いをさせてしまったようだ
俺がしたことは間違っていたのだろうか
でも少なくとも、後悔はしていなかった
「結構寂しがってたし、言うこと聞いてあげな」
「それ結構恐いですね」
「そこは男を見せるのよレイジ君!」
ーーーーーーーーーー
「これで準備は万端よ!麗奈にアドバイス貰ったんだから間違いは無いわ!ふふっ、あいつどんな顔するかしら、楽しみだわ」
「そ、そうだね。喜んでくれるといいね···」
零次のいるフロアに向かうエレベーターの中で、躍起になる梨沙を千枝は心配そうに見つめていたのだった
年末年始の仕事のラッシュで今日になって初めて梨沙は予定に余裕ができ、梨沙は零次の病院を訪れることができた
この日のために麗奈にアドバイスを貰い、今までグースカ寝ていた分の借りを返して貰うと、様々なイタズラ道具を揃えて今日という日を迎えた梨沙
その目はキラキラと輝き、迷いがない
そんな梨沙を暖かい目で見つめながら、千枝は今までのことを思い出す
あの神社にお参りに行ってから、もうその回数は百回を超えていた
その願いを神様は聞き入れてくれたのか、零次はこうして目を覚まし、アイドル達の前へと戻ってきたのだった
千枝はその事を神様に感謝し、神社に行くたびに折り曲げていた御百度参りの紙を自分のバッグへとしまう
零次に再び会えたときの感動を千枝は思い出す
病室の前で泣いてしまうあまり中に入れなかった千枝の頭を、零次はそっと胸の中に抱き締めた
あの瞬間にとって変わるものは今のところ千枝の中には存在しない
それ程までに千枝の中では大きな存在となっていたのだった
「ここね!さっさとあいつの吠えずら拝みに行くわよ!」
「あら、千枝ちゃん」
「あ、美空さん。ひなさんも」
「お疲れ。あれはどうしたんだ?」
エレベーターを降りてすぐに千枝たちは美空と雛子にバッタリと出会う
そんなことお構いなしにズンズンと突き進んでいく梨沙を、美空と雛子は不思議そうに見つめていた
千枝が事情を説明すると、二人は途端に笑顔になってエレベーターへと乗り込んでいく
千枝はそんな二人に頭を下げると、''頑張ってねー''と、エレベーターの扉が閉まる前に声を掛けられた
梨沙に追いつくと、梨沙はズンズンと進んでいく
「ここ?」
「うん、そうだよ。零次さん起きてるかな?」
扉の横のネームプレートを確認して、梨沙は足を止めた
廊下の奥、零次の病室だ
「梨沙ちゃん?」
梨沙は動きを止めた
千枝はその勢いのまま入っていってしまうのではないかと思ったが、予想外の動きに自分まで止まってしまう
「···扉開けなさいよ。両手ふさがってるから」
「あ、そうだね。ごめんね。じゃあ、私先に行くね」
千枝は言われた通りに扉を開ける
確かに梨沙は自分のバッグと、用意したであろうイタズラ道具とお見舞いの品が入った紙袋で両手が塞がってしまっていた
「零次さん、こんにちは」
「お、千枝、久しぶりだな。わざわざそんな頻繁に来なくても···おうっ」
零次は扉の前で立っている梨沙に気づくと、前と変わらぬ態度で声を掛ける
いつもと変わらない、いつもの口調で梨沙に挨拶するのだ
「あ、梨沙ちゃん今日はやっと仕事の予定が空いてそれで一緒にお見舞いに行こうって」
ガサッと、何かが床に落ちる音
千枝がその方向を見ると、そこには手に持った荷物を落としていた梨沙が、みるみるうちにその表情を変えていく
次第に目元に涙が溜まっていき、それが堰を切ったように溢れだした
「···梨沙、久しぶr」
ガバッっと
駆け寄ってきた梨沙が零次の言葉を途中で遮るように零次の胸元に飛び込むと
「あ゛あ゛あ゛っ!!!あっは!ああぁぁぁぁ···!!」
まるで子どものように零次の胸元で泣き叫ぶ
千枝が廊下にあった梨沙の荷物を持ち上げると、その梨沙のバッグの中に見えたのは自分と同じ御百度参りの紙
千枝が行くのと同じ神社のものだった
再び梨沙を見ると、零次はそんな涙が止まらない梨沙の頭を、優しく抱き締めていたのだった
まるで憑き物が落ちたかのように、安心したかのような表情をする梨沙
今までの様子を思い出し、千枝の目元にも涙が浮かんでくるのだった
···なーんて
今までもたまーに様子を見に来ていたけど、いい仲間が増えたじゃない
これなら将来のお嫁さんには困らなさそうね
そうね···この前の琴歌ちゃんとの結婚式(撮影)の時なんか、感動しちゃったわ
たくさんの仲間たちに祝福されているのをいつか本当に見てみたいところだけど、いつかなー?意外と早く来るかも?
これからたくさん大変なことがあると思うけど、きっとあなたなら大丈夫
頑張れ!我が息子!
零次の手紙
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