ヘイ!タクシー!   作:4m

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暑中お見舞い申し上げます。
まだ途中ですが、どうぞお楽しみください。


後日談
ある日のマザーベース01


小鳥の鳴き声が外から聞こえてきて、ぼくはゆっくりと目を開けていった。

 

凄く、天気のいい朝だった。

眩しい日差しがカーテンの外からお部屋の中にたくさん差し込んできていて、凄くぽかぽかして、そして、いい匂いがする。

 

ごしごしと目を擦りながらベッドの上で起き上がると、そのいい匂いがお部屋の外から漂ってくることに気が付いた。

朝ごはんの匂いだった。

 

「う~ん···」

 

眠い目を擦る中、毎朝のルーティンとして、まずはカーテンを開ける。

ベッドの上をノシノシ動いてカーテンをバッと開けると、一気にお部屋に入ってくる太陽の光。

その眩しいお日さまの光を十分に浴びながら、ぼくは大きく腕を天井に向かって伸ばすのだった。

 

今日も気持ちのいい朝だった。

お布団から出ても寒くもなく、暑くもない。

凄い気持ちのいい朝。

ぼくはあくびをしながらベッドからゆっくりと降りる。

 

「うう~ん···」

 

ぼくが降りたベッドの上で、女の人の眠そうな声と一緒にお布団を被りながら中でもぞもぞと動く姿が見えた。

ぼくがいなくなったスペースがもどかしいのか、お布団から腕がニュッと出てきてめくれ上がったお布団を戻し、さらにその中に潜り込んでいた。

ぼくがいなくなった分、一人でそのスペースを使い始める。

 

「···」

 

無理やりお布団を上に引っ張ったから、斜めになってるし足も出ちゃっていた。

ぼくはちゃんと足が隠れるようにお布団を直して端をピッとベッドに合わせると、それで出てきた頭を枕にちゃんと乗っかるようにズラしてあげた。

 

「えへへ···」

 

お布団の中から気持ち良さそうな声がした。

朝ごはんの時間だったけど、なんだか気持ち良さそうだったのでそのまま寝かせてあげることにした。

ミニカーのサーキットを踏まないように、棚に飾ってあるプラモデルや写真を倒さないように、部屋のドアを開けて廊下に出た。

 

廊下の窓から差し込む、太陽の光。

美味しそうな匂いがする、ベーコンに···目玉焼き。

角を曲がって階段を降りれば、もっともっと美味しそうな匂いがするはず。

 

「あっ」

「おやっ?」

 

角を曲がった瞬間、階段のところに頭が見えた。

白いモコモコした帽子を被っていて、その隙間から見える金色の長い髪。

 

「おやっ?おやっ?おやっ?」

 

そう言いながら、階段をリズムにのってトンッ、トンッ、トンッ、と楽しそうに登ってきて帽子を取る。

ぼくと向き合うと凄く嬉しそうな顔で大きく手を広げて、廊下にペタンと座り込んだ。

 

「おはよーっ!ございまーす!」

「おはよ、ゆいママ」

 

ぼくが返事をすると、ゆいママは''うんっうんっ''と大きく首を縦に振って、腕を更にこちらに伸ばしてくる。

凄い嬉しそうなニコニコ笑顔、ゆいママはいつも来たときはこんな感じ。

自分では近づいて来なくて、ぼくから来るのを待っている。

行かないと階段降りられないし、ゆいママは退かないんだ。

それにいつものことだったから、もう気にしなくなった。

 

こっちから歩いていくと、ゆいママは手を伸ばしたままおいでおいでと誘ってくる。

 

「おいでおいでー、アタシが本当のお母さんだよーっ」

 

そのまま側まで行くとゆいママはいつもそのセリフを言って、背中に手をまわされてギューっと胸の中で抱き締められるのだった。

 

ゆいママはいつもぼくをこうしてくる。

一体いつからなのか、わからない。

こうされるのがいつもだったから、別にイヤではないんだけど。

 

「今日もかわいいねーっ!んーーーっ!ぎゅーーっ、おはよおはよっ」

「おはよ···ゆいママ、んむっ」

 

むにゅっと柔らかい感触が、頭の後ろ半分と鼻の先あたりまで来るくらい頭が沈み込んで、凄くいい匂いがした。

 

ゆいママはおっぱいが大きい。

手で触ると全部掴みきれないくらい大きい。

もにゅって感じじゃなくて、むにゅって感じくらい大きい。

 

「あーん、ダメダメ。簡単に女の人のおっぱい触っちゃダメなんだぞー?」

「んん···んんっ···」

 

そうはいっても、ずっと抱き締められてるからそろそろ抜け出したくて、そうするためにはおっぱいに手を置いて一生懸命押すしかなかった。

このゆいママの白いモコモコした服が手のひらだと凄く滑るので、爪を引っ掛かけてグリグリッとおっぱいを押し退けると、ゆいママはやっと離してくれた。

 

「うんっ!ゆいママも元気になったよ!さぁさ、朝ごはん朝ごはん!」

「うん、わかった」

 

ゆいママは今日も凄い元気だった。

手を揺らして階段を降りるように勧められる。

 

「ゴーゴーゴーゴー!」

 

ゆいママに背中を掴まれて階段を降りていくと、キッチンから美味しそうな匂いと、カチャカチャとしたお皿とかお茶碗の音が聞こえてきて、話し声も聞こえてくる。

階段を降りた先にある玄関にはゆいママの靴の他にもたくさん靴が置いてあった。

 

昨日の夜になかったものもある。

誰が来てるんだろう?

女の人って、凄く靴変わるの早いからわからない。

とりあえず、すぐ隣のドアを開けて下の部屋へと入った。

 

「おはよー」

 

挨拶すると、すぐに返事が返ってきた。

 

「ん?あ、おはよ」

 

声がしたほうを見てみると、ご飯を食べるテーブルに一人の姿が見えた。

イスに座って、長い足を組んで、その足の上に新聞をバッと広げてジッと読んでいる。

 

「りんママ···おはよ」

「うん、おはよう。早く着替えておいで」

「わかった」

 

りんママは、髪が短くて、綺麗な女の人。

でも、あまり喋らない女の人。

でも、いつもぼくが遊んだりしてると、その隣に座ったり、ソファーでゲームしてると、隣に座ってきて携帯を見てたりする。

たまに一緒にゲームしたりもする。

 

それと、りんママはいつもお花のいい匂いがする。

りんママは少し恐いけど、怒ったりしてるわけじゃない。

りんママを見ると、いつも首を少し傾けてニコッて笑ってくれるんだ。

 

「あ、おはよー!もう少しでできるからちょっと待ってね!」

「うん、おはよ。きょうこママ」

 

棚から大きなお皿を取ってキッチンに戻っていくのは、きょうこママ。

 

きょうこママはお料理がとっても上手。

カレーもシチューも、ハンバーグも、どれもこれも凄く美味しいんだ。

今日の朝来てるってことは、いつものお料理のテレビはおやすみで、夜からニュースのお料理コーナーの仕事なんだろう。

 

「···ベーコンエッグ」

「せーかいっ!」

 

お玉を持ったきょうこママがキッチンからヒョコッと顔を出してそう言った。

その時に、お味噌汁の美味しそうな匂いもしてきた。

お腹が空いてきたぼくは、すぐに着替えに向かった。

 

「んしょっ···これでいいかな?」

 

積み上がったプラスチックの衣装ケースから服を引っ張り出す。

 

「こっちのほうがカッコいいんじゃない?」

「んーん、こっちがいい。ヤキニクマンだもん」

 

テレビとか、ご飯を食べるテーブルとか、遊んだり折り紙したりするテーブルとかキッチンとかがある部屋の奥に、服が置いてある場所がある。

夜寝るときとか朝とか、ここで着替える

 

隣の棚にはヤキニクマンのフィギュアやミニカー、トランプとかけん玉とかヨーヨーとかが置いてある。

下にあるぼくの遊び部屋だった。

 

「じゃあパンツはこれがいいよー。上黒だから下は青系で揃えてもカッコいいしー···」

「違うよゆいママ。それズボン、パンツはこれ」

「そっ···かぁ~」

 

ゆいママは驚いたような顔をしたけど、すぐに頷きながらニコッとしていた。

 

ゆいママはたくさん写真を撮られるお仕事をしてるのに、たまに変なことを言う。

ゆいママが色々な服を来てたくさん写ってる本とか、りんママが椅子に座ってる写真の横にたくさん文字が書いてある本とか、ぼくの家にもたくさんある。

そういうお仕事をたくさんしているはずなのに、服を選ぶときにそうやってよくわからないこと言ったりする。

パンツとズボンもわからないんだもん。

 

「このパンツ、ヤキニクマンと同じ色なんだよ。でもズボンはゆいママのにする」

「でも待ってよ~?、上がそのヤキニクマンの黒なら下はチノパンのほうがいいカンジに···」

「だからゆいママ、''ズボン''」

「そ、そうね~!」

 

ゆいママはよくわからない。

 

早く着替えて戻ると、りんママがソワソワと動いていた。

新聞から顔をズラして、廊下のほうの扉をチラチラと気にして見ていたのだ。

 

「りんママ」

「あ、ねぇ、まだ起きて来なかった?」

「はーい、出来ましたよーっ。あ、ほら、顔洗ってきて」

 

新聞を片付けて、きょうこママが運んできたお料理を並べながらりんママが聞いてくる。

 

「うん、寝てる」

「まったく···」

 

ぼくと、きょうこママと、りんママと、ゆいママと、あと一人分。

全部の席にお水のコップを置くと、りんママは腰に手を当てて、天井を見上げながらそう言った。

 

「ゆi···アタシ起こしてこようか?」

「うーん···起こすにはちょっとコツがいるんだよね···。昔からそうなんだけど」

 

りんママは、うーん···と頭をひねっていた。

起きてこないの?と、きょうこママも美味しそうなベーコンエッグを並べながら言う。

レタスが乗っている更にその上に乗っていたベーコンエッグ。

テーブルに置かれたら美味しそうな匂いがしてきて、お腹がグーッて鳴った。

そのベーコンエッグを見ているともっともっとお腹が空いてきたぼくは、りんママに言う。

 

「ぼく、起こしてくる」

「ほんと?ふふっ、じゃあ、お願いしようかな」

「じゃあゆいも···!」

「ゆいママはいいの。座ってて」

 

ゆいママが部屋にくるとすぐに一緒に寝ようとする。

この前だって、みずきおばさんと寝てるときに入ってきて、三人でぎゅうぎゅうだった。

抜け出すの大変だったんだから。

 

「ああ~ん、カッコいい~」

「行ってくる」

 

りんママによろしくねと言われて、ぼくは廊下に出た。

階段を上がっていっても、上のお部屋の中で人が動く感じがない。

まだぐっすり寝てるのがわかった。

 

お部屋の前まで来てゆっくりドアを開けてみると、やっぱりベッドのお布団が盛り上がっていて足が片方出てしまった状態で寝てた。

 

近づいていってお布団をポンポンと叩くと、モゾモゾと中で動く。

 

「うづきママ、起きて」

 

またポンポンと叩くと、お布団の中から''うう~ん···''と眠そうな声が聞こえてきて、まだ中から出てこない。

モゾモゾと動いてお布団を更に引き寄せて、カタツムリみたいになっちゃった。

まだまだ眠いみたい。

 

でも、りんママに頼まれたから起こさないと朝ごはん食べられない。

 

「うづきママ」

 

話しかけても何も言わないので、お布団の端っこを持ってズルズルと引っ張っていくと、段々とトイレットペーパーみたいにクルクルと回っていって、ベッドの端っこまでうづきママが動いてきた。

 

ほんの少し顔が見えた、けど目はまだ瞑ったままだ。

 

「うづきママ、ごはん」

 

ぼくがそう言うとうづきママは

 

「もう食べられましぇ~ん···」

 

って言ってまたお布団を被ってしまった。

 

どうして大人ってこんなに眠たいんだろう。

朝に早く起きたらいっぱい遊べていっぱいテレビが観れるのに、なんでお休みの日でも遊園地に行ったりしないで寝たいんだろう。

車を運転できるからいっぱいお出かけできるのに。

 

「おやすみなさ···」

 

うづきママは逆回転してお布団を巻き込みながらベッドに戻っていこうとする。

それを見ていたぼくは、これ以上放っておいたらうづきママは将来ダメになっちゃうと思い、お布団を思いっきり引っ張った。

 

「んへごっ···!」

 

ゴトンッとうづきママはお布団ごとベッドから落ちた。

床の上で''うえ~ん···''とゴロゴロと塊のまま動いてる。

 

りんママが言ってた。

うづきママを起こすときは思いっきりやらないとダメだって。

叩こうとしたけど、女を殴る男にはなるなってパパに言われたから、それは止めた。

 

これならうづきママを起こすことができる。

りんママが前に教えてくれた。

 

「うづきママ」

 

お布団をはがすと、うづきママは両手で目元を擦りながら、床の上なのにまたお布団を被ろうとモゾモゾと中に潜ろうとしている。

ぼくはお布団を剥がすとうづきママの太ももの上に乗っかり、腕をぐいっと引っ張ってうづきママの体を起こしてあげた。

 

「おはよ、うづきママ」

「おはよう···ございま~しゅ···」

 

この水玉模様のパジャマを着て、長い髪がぴょんぴょん跳ねてもじゃもじゃになり、あくびをしながら床に座りこんじゃってるのは、うづきママ。

 

うづきママはお歌のおねえさん。

保育園から帰ってきてテレビをつけると、いつもうづきママが楽しそうに歌ってる。

たまにりんママとみおママも一緒に歌ってるときもある。

なんで?って聞いてみたら、みおママが''私たちはね、昔からのまぶ(?)なんだよ''って言ってた。

''まぶ''ってなんだろう。

 

それとね、うづきママがぼくのお家にいるのに録画してないテレビに映ることができるのはね、その時テレビに映ってるのはアンドロイドだからなんだって。

みおママが、これは内緒だよって言ってたから、ぼくとみおママだけの秘密なんだ。

 

本当だよ?

昔そのアンドロイドうづきママが歌ってるお歌のCDもぼくの家にあるんだ。

メイドさんの格好をしてるんだよ。

 

「朝ごはんだよ」

「いただきま~しゅ···」

 

でもこのうづきママはアンドロイドじゃないから、朝ごはんを食べないといけない。

うつらうつらと座り込んだまま寝ようとしていたので、ぼくは頬っぺたをペチペチと叩いてあげた。

 

「あひゃっ···あひゃっ、あひゃっ」

 

ペチッ、ペチッとリズムに乗せて叩いてると、そのぼくの手の上にうづきママも手を乗せてきていっしょに頬っぺたを叩く。

 

叩いているうちに段々と目が覚めてきたのか、うづきママの目がゆっくり開いてきて大きく腕を上に伸ばし、ん~っと体を少し震わせる。

だいぶ起きてきたみたい。

ぼくが頬っぺたから手を離すと、うづきママは''うん''っと頷いてぼくと目を合わせた。

 

「おはよ~。ありがとう、起こしに来てくれたの?」

「うん。朝ごはんだから」

 

そう言うと、うづきママは''よしよ~し''と頭を撫でてくれた。

こんなふにゃふにゃなうづきママを見てるとテレビに映っているうづきママとは大違いなので、やっぱりあのアンドロイドうづきママは凄いなって思う。

みおママに聞いてみても''企業秘密なのだ''と教えてくれないので、今度パパにも聞いてみよう。

 

「いい匂いするね~。早く食べに行こうか!」

「うん。りんママもいるよ」

「そうなの?りんママも···」

 

着替えようとパジャマのボタンに手をかけたときに、うづきママはそう言って動きが止まった。

ぼくは早く下に行こうとしてお部屋のドアに手を掛けると、途端に後ろから肩を捕まれた。

 

「あぁぁーっ!どうしよー!早く早くー!!」

 

後ろから押されて廊下へと出ていく。

うづきママは着替えるみたいだったけど、パジャマのままでぼくと一緒に階段を降りていって下のお部屋へ向かっていく。

ドアを開けると、待っていたりんママの前でうづきママは手を合わせてペコっと頭を下げた。

 

「りんちゃんごめ~ん!!思いっきり寝坊しました~!」

「ふふふっ、いいよ。まだ時間あるし、早く顔洗ってきな」

「すぐ行ってきます~!」

「行ってきます」

 

ほぼほぼ準備が終わってる朝ごはんに背を向けて、ぼくとうづきママは洗面所に向かっていった。

階段の横を通って廊下を歩いて、突き当たり。

ドアを開けると目の前に洗濯機があって、右にはすぐお風呂、その反対隣の少し奥に洗面台がある。

 

「うづきママ、はい」

「ありがと~」

 

洗濯機のすぐ横には木の棚があって、そこから顔を拭くためのタオルを渡してあげた。

 

「今日はね、凛ちゃんと出掛ける予定だったの~。なのに私ったら、も~ダメダメだね~···」

「大丈夫だよ、りんママ怒ってなかったから」

「ほんと~···?」

 

うづきママは泣きそうな顔でぼくからタオルを受け取ると、洗面台にあるタオルかけにタオルを置いて、小さな扉を開けて歯ブラシを探す。

扉の中には沢山の歯ブラシが置いてあって、ピンク色の歯ブラシを取り出して歯みがき粉を付けるのだった。

 

「はいっ」

「ありがと、うづきママ」

 

ぼくに歯ブラシを渡してくれたうづきママ。

ぼくのは小さいからすぐわかる。

歯みがき粉もメロンのやつだからわかりやすい。

なんで大人の歯みがき粉ってあんなにスースーするんだろう?

 

歯ブラシもぼくの家には沢山ある。

これはりんママだし、きょうこママ、ゆいママ、みほママ、こうめママにきらりんママ。

こっちは左側だけど、反対側の扉にはさなえおばさんとかヘレンおばさんとかのが入ってる。

 

みんないるときはもう、洗面所が遊園地みたいに行列になっちゃうから大変だった。

そんなときは二階の洗面所を使ったりするんだけど。

 

「ガラガラガラ···ペッ。今日は、私たち以外誰か来てた?」

「ペッ。今日は、朝ゆいママがいて、りんママときょうこママがいたけど、昨日の夜にしきママも来たよ」

「あ、志希ちゃん来てたんだ」

「うん、みかお姉ちゃんは帰っちゃった。今も多分下の奥の部屋にいる」

「あ、リビングの奥の廊下のね」

 

昨日の夜はしきママがみかお姉ちゃんと一緒に家に来た。

その時に、しきママが''疲れたから帰りたくな~い''と言っていたので、パパが奥の部屋へと連れていってた。

多分しきママはまだ寝てるから、いつも通りならご飯を食べた後くらいに起きてくると思う。

 

「ふ~、サッパリした!はいっ、タオルッ」

「ありがとう。うづきママ」

 

二人で最後に顔を洗って、準備万端。

濡れてるところが残っていたのか、うづきママがぼくの顔を綺麗に拭いてくれた。

洗濯機にタオルを入れて、朝ごはんを食べに部屋に戻る。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「卯月、ちょっと醤油取ってくれない?」

「はい、凛ちゃん。あ、でももう中身がないかも···」

「ああ待って待って待って、今減塩のやつを持ってくるから!」

 

今日は、パパとママが朝からいない日。

そんな時はこうやって、ママたちと朝ごはんを食べる。

そうじゃない日もママたちはよくうちに来る。

 

「はい、卯月ちゃん。まったく、零次さんにもこれを使うように言っておかないとっ!」

 

パパの仕事は会社にいるアイドルの人たちをお仕事の場所まで車で送っていくのが仕事。

 

アイドルっていうのは歌ったり、踊ったり、映画に出たり、エベレストを登ったりするのが仕事だってさちこが言ってた。

 

ママは今日はどこへ行ったんだろう?

パパと一緒に出ていくって昨日は言ってたけど。

 

「好き嫌いしないで偉いね~」

「うん。きょうこママのご飯美味しいもん」

「嬉しいこと言ってくれちゃうんだから~!」

「はい、ゆいのウィンナーあげる!」

 

ママたちはパパととても仲が良くて、ママたちがまだ子どもだった頃から知ってるんだって。

ぼくが生まれる前からパパとママとご飯を食べたり、ゲームをしたり、バーベキューをしたり、たくさんたくさん遊んだから、ぼくとも遊びたいって。

だから一緒に遊園地に行ったり、映画を観に行ったりもした。

 

パパとママが朝いないときは、こうやってご飯を作りに来てくれるんだ。

 

「ねぇ、今日はママどこに行ったの?」

「うーん···わかんない」

「ママはねー、うーん···とねー」

 

りんママがきょうこママから受け取ったお醤油を卵にかけながら、聞いてくる。

ぼくが寝てる間に行っちゃったから、ぼくにもわからない。

でもきょうこママが部屋のドアの横に掛けてある大きなホワイトボードを確認して、どこに行ったのか調べてる。

まだぼくは、漢字が読めないからわからない。

 

「マ、マ、は~···あら、結構遠くでお仕事なんだ」

「だから朝早く出ていったんですね」

「実質デートじゃん。零次さん」

 

そのホワイトボードの隣にあった地図を確認して、きょうこママはそのお仕事がある場所を指差してうんうんと小さく顔を縦に振って、そこからの高速道路を指で辿ってぼくの家までなぞっていた。

 

「いいの~?ダーリ···パパとママ二人だけお出掛けで」

 

オレンジジュースを飲みながら、ゆいママが聞いてきた。

 

「いつもの事だもん。それに、遊びに行ったんじゃなくて、お仕事だから」

「そっ···かぁ···」

 

きょうこママはぼくがそう言うと、朝ごはんを食べに戻る。

けど、やっぱり何か考えがあるのか変な顔をしていた。

きょうこママは笑ってたほうが可愛いのに、だってアイドルだったんでしょ?

 

他の人がそう言っても、それがぼくにとっての普通だった。

ママが仕事の時はパパが送っていって朝からいない。

りんママやきょうこママたち、それから会社のアイドルの人たちを送っていくときも朝からいない。

 

ずっとずっとそうだったから、別になんとも思わない。

 

「大丈夫だよ、きょうこママ。だってぼく、ママたちがいるから寂しくないもん」

 

ずっとずっとそうだった。

お休みの日も、お誕生日も、夏休みも冬休みも、ずっとママたちがいて、ぼくと遊んでくれた。

かなでママと一緒にシン·ヤキニクマンも観に行ったし、さちこが遊びに来たときはたくさんおみやげをくれる。

れなママとトランプをしたり、あきらママとはチームになってゲームでゾンビ退治をしたりしてた。

それに、パパもママもずっといないわけじゃない。

 

「それに、ママたちも遊んでくれるから好き」

 

ぼくがそう言ったら、りんママが''ふふっ''って笑って、ゆいママが手をグーにして喜んでた。

 

「んん~っ···!そうだね!今日はゆいたちと遊ぼっか~!!」

「そ·の·前·に、キチンと朝ごはん、食べてくださいねっ」

 

きょうこママにそう言われて、ぼくたちは朝ごはんを食べ始める。

やっぱり美味しくて、お味噌汁をおかわりした。

きょうこママのお味噌汁は美味しいと言ったら、きょうこママは凄く嬉しそうにする。

それを見ていたママたちも、嬉しそうにしてた。

というより、ぼくがご飯を食べてるところをママたちはいつも嬉しそうに見ている。

何がそんなに面白いのかいつもそうなんだ。

大人ってわからない。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「凛ちゃんごめ~ん。やっぱり貸してください~」

「卯月に合う色あるかな···、これでどう?」

 

朝ごはんを食べた後、きょうこママは食器を片付けていて、他のみんなは部屋のソファーがある場所で色々してる。

テーブルの上に鏡を置いて、床に座って小さな絵の具の筆みたいなので眉毛を書いているうづきママと、それを見てるりんママ。

ぼくとゆいママはソファーの上で、一緒にテレビを見ていた。

ヤキニクマンの後のお料理番組。

今日はかなこママとあんずが映っていた。

 

「ご飯食べてすぐだけど、お腹空いてきちゃうね~。ね、お昼なに食べる?」

「まだお腹空いてないからわからない。ゆいママ今日お仕事は?」

「ゆいママ今日はお仕事おやすみっ!どこいって何しよっか~?」

 

後ろから手をまわされて引っ張られ、ぼくの頭の上に自分のアゴを乗せてきてグリグリと押し付けてくる。

ゆいママはいつも引っ付いてくるんだ。

夏でも冬でも、ゆいママになんで?って聞くと、寂しいから~って言う。

 

「じゃあ、今日は唯と響子がいるんだ」

「そう!だから卯月ちゃんと凛ちゃんはお仕事行っても大丈夫。唯ちゃんと···あと志希ちゃんもいるから、零次さんも悪いけどよろしくって」

「そっか。まぁ私たちもあまり遠くじゃないし、一日中仕事ってわけじゃないから何かあったら言ってよ」

「必要なものあるなら買ってきますよ?」

 

きょうこママがタオルで手を拭きながら冷蔵庫の中を見てたけど、大丈夫!って返事をしてた。

 

「シャンプーもあるし、後は前に零次さんが言ってたカーディガンのボタンも買ってきたばかりだから···みんなは?」

「うーん···アタシも~···こう聞かれた時って中々出ないんだよね。前にダーリンと100均に言った時も出なくて帰ったら思い付いたし···」

「あの時ゆいママ、アヒル買ってくれた」

「買ったね~、保育園の帰りにね~」

「ああ、だからお風呂に置いてあったんだ」

 

りんママがそう言って笑う。

 

ぼくの家のお風呂はすごい。

棚が壁にあってその上にシャンプーとリンスとコンディショナーとボディーソープがたくさん置いてある。

二階もそうだし三階もそうだし、みんなたくさんたくさん買ってくるんだ。

どうしてそんなに必要なの?って前にフレデリカに聞いてみたら、乙女の秘密って言われた。

女の人は秘密が多すぎると思う。

 

「凛ちゃんどう?もうちょっと?」

「うん、もう少し端まで塗ったほうがいいんじゃない?それならこっちの色のほうが···」

 

りんママが薄い箱みたいなのを開けたら、中に絵の具のパレットみたいなのに茶色とか薄い茶色とか色々な色が入っていて、それをうづきママに塗ってあげていた。

するとうづきママは眉毛がハッキリしてきて、なんだか綺麗に見える。

 

「終わりっ、どう?」

「うづきママ、綺麗」

「ほんと~?ありがと~」

 

うづきママは嬉しそうにすると、テーブルの上に置いていた道具を片付け始めた。

 

「ふ~、終わった終わった~」

「ありがとう、響子ちゃん。本当にゆいも手伝わなくて大丈夫だった?」

「うん、いいのいいの!ゆっくりしてて!何だか寮時代を思い出していつも懐かしいんだよね」

 

きょうこママもエプロンを外してこっちに来た。

ゆいママの隣に座って、ぼくの頬っぺたをぷにぷにと触ってくる。

 

「みんな元気なんでしょうか?」

「うん。今はもう後輩たちに明け渡してみんな出ちゃったけど、撮影とかミニライブとか番組にもちょくちょく遊びにきてくれるし、元気だよ。あ、この前紗枝ちゃんに会ったんだけど、すっごい綺麗になってて~」

「わかるわかる!ヤバいよね~!もう大和撫子一直線みたいな!」

「私はこの前小梅に会ったよ。凄い美人になっててビックリ」

 

ママたちは昔も一緒にいたってパパに聞いた。

こうめママもきょうこママも一緒に住んでいて、りょうさんもそこにいたって言ってた。

みんなで遊んだこともあるってパパが言ってて···あ、しゅーこちゃんもいたって言ってたな。

 

「あ、じゃ、私たちは行こうかな。卯月、準備できてる?」

「ああ~、ごめんなさい!二階からバッグ取ってきます~!」

 

りんママが立ち上がると、うづきママはバタバタと慌てて廊下に飛び出して階段を駆け上がっていった。

りんママはその様子を見て''まったく···''って言うと、壁に掛けてある大きなホワイトボードから漢字が書いてある小さな丸い磁石を外して、端っこのほうに貼り付けた。

 

「今日のお弁当何かな···」

「あ、今日どこの~?」

 

ボソッと呟いたりんママにきょうこママがそう聞いていた。

前に食べさせてもらったことがあるけど、凄く美味しいんだよ。

立派な箱に入っていて、ハンバーグとか煮物とか、凄く美味しいものばかり。

 

「私お昼はパスタがいいかな」

「お弁当じゃなかったら、プロデューサーに連れていってもらえば?」

「ふふふっ、そうする」

 

りんママがたまにする、ちょっとイジワルな顔になった。

 

パパはこの顔が苦手なんだって言ってた。

変なところでアイドルの力を発揮するからって。

 

「お待たせしました~!」

「んー、行こうか。じゃあ、行ってきます」

「はーい、行ってらっしゃーい。あ、私も洗濯物取り込まないと」

 

うづきママが戻ってくると、りんママはぼくたちにそう言って自分の荷物を持った。

きょうこママも立ち上がると、いつものように洗濯物を取り込むために準備を始める。

三階のベランダまで行かないといけないので大変だ。

 

「あ、今度はアタシも手伝うよ!」

「でもそれだと···」

「ぼくは一人で大丈夫だよ。それに大変ならぼくも行く」

「いいのいいのっ!ここでテレビ観てて!誰か来るかもしれないし!響子ちゃん、ささっ!ささっ~!あっ!すぐ戻ってくるからいい子で待っててね~!」

 

今度はゆいママもバタバタとソファーから起き上がってきょうこママと部屋から出ていってしまう。

何だか今日はバタバタとみんな忙しそう。

 

「行ってくるね」

「あ、うん。気を付けてね、りんママ」

 

りんママはぼくにそう言うと···そう、いつものようにぼくの前まで来て、いつものようにしゃがみこむ。

そしてぼくの頬っぺたに両手を当てると、いつものやつをやってくる。

段々とりんママの顔が近づいてきて、いい匂いがして、ふにゅっと柔らかいものがぼくの唇にくっついた。

 

「んー···ちゅっちゅっ···」

 

チューしてる間、りんママはそれが好きなのか目を閉じたまま鼻で''んー''っていいながら、満足そうにそのまま少しジッとしてる。

 

「んっ。ふふふっ、行ってきます」

「ああっ、りんちゃん!よいしょっ、んちゅっ。行ってきますねー!」

 

りんママがよけたと思ったら、続けてうづきママもしゃがんでチューしてきた。

二人ともその後ぼくの頭を撫でると、玄関へと向かう。

ぼくはそのままその場で二人が出ていくのを見送ると、外からりんママのカッコいい車の音がして、二人が車の中から手を振っていたのでそれに合わせてぼくも手を振ると、二人は嬉しそうに家から出ていった。

 

ママたちは何でか、いっつもチューしてくる。

なんで女の人ってこんなに簡単にチューするのかな。

いつもママたちみんなしてくるからなんとも思わないけど、なんでそんなにしてくるんだろう?

これって好きな人にするもんじゃないの?

 

「···見たぞー」

 

ぼくしかいないハズの部屋に、そんな声が聞こえた。

なんだかだらしなさそうなその声は、ぼくの後ろ···りんママたちが出ていったのとは反対のドアから聞こえてきた。

 

「見たぞー、少年」

 

むっふっふーっ、と変な笑い声で笑うその女の人。

振り返ってみると、開いたドアの隙間からこっちを見ながらニヤニヤと笑っているのが見えた。

口に手を当てて、目も笑っていて、笑う度に頭の上のピョンと跳ねた髪の毛がユラユラと揺れている。

紫色の髪の毛と、上から下までの長い白いシャツ。

これパパのだった気がするんだけど、前にも同じように着ていたのを見てパパは何も言ってなかったからいいや。

 

「おはよ、しきママ」

「おっはー」

 

ドアを開けてしきママは、ぼくにそう言って手を振りながら部屋に入ってきた。

 

しきママはダボダボの白いTシャツに···、それしか着てないような気がする。

モジャモジャした紫色の長い髪、そこに手を突っ込んで頭をカリカリと掻きながら、あくびをしてキッチンへと向かっていった。

 

「ズボン履いてるの?しきママ」

「ううん、パンツは履いてるん」

 

···っていうことはズボン履いてるのかな?

でもその大きなダボダボTシャツの下からは足しか見えないし···でも大人の人がパンツって言ったらそれはズボンだから···。

よくわからなくなってきた。

その太ももの辺りがヒラヒラしてるけど、スボンは履いてないように見える。

 

「しきママ寝てたから朝ごはんもうないよ」

「朝ごはんは大丈夫ー、水ー」

 

キッチンに入ったしきママは、冷蔵庫を開けて中から牛乳パックを取り出し、コップに入れて飲み始めた。

 

しきママは、よくわからない。

よくウチに来ては、奥の廊下にある部屋で寝てたりする。

ここに来るときも、今みたいなTシャツよりももっと長い、足の先くらいまである白くて長い服で来たり、かなでママみたいにおへそが出てる服で来たりとかする。

 

みんなと同じ、アイドルっていうお仕事をしている筈なのに、''私はね···けんきゅうしゃなのだよ~''なんて言ってくる時もあるし、本当によくわからない。

でもお歌はとっても上手、フレデリカも一緒にカラオケに行った時は、色々な歌を歌ってくれた。

 

「プハーッ、良い。やっぱ良い。激務明けの一杯。これだな~」

「かえでママと同じこと言ってる」

 

かえでママはそれから寝るけど、しきママは逆だった。

コップを洗ってキッチンに置くと、こっちに来てソファーに座るしきママ。

 

「はぁー···。あ、ヤバー、また寝そー」

「お仕事大変だったの?」

「そんなカンジー」

 

足をガバッと広げて、ソファーの後ろまで頭をダランともたれさせてそう言うしきママ。

···あ、あそこにコップ置いておくと後できょうこママに怒られるよ。

 

「おいでおいでー」

 

ソファーを手でポンポンと叩きながら、しきママはぼくを呼んでいた。

キッチン台の上からコップをシンクの中へと置いた後、ぼくは言われた通りにしきママのところへと向かった。

するとしきママはソファーの上に横になって座ると、その前にぼくを同じように横に座らせて、後ろからぬいぐるみのように抱き締めてくる。

 

「わかっているのかな?少年。君は、恵まれているのだぞ?」

「めぐまれ···?」

 

しきママはぼくの頭にアゴを乗せてきて、そんなことを言った。

そのまま喋るから、しきママの声が頭の中に響く。

 

しきママはたまに難しいことを言う。

それにしきママに近づくと、何だか不思議な香りがするんだ。

なんて言ったらいいんだろう、なんだか···デパートのお化粧品売場みたいな、色々な匂いが混ざった匂い···みたいな?

 

「んー、なんだかいい香りがするね少年。これは···卯月ちゃんの匂いかな~?」

「うん。一緒に寝てたもん」

「やるねぇ、少年んん~ん」

 

ぼくの首の後ろあたりにおでこをくっ付けて右に左にグリグリされる。

しきママはこうやってくっついてきて、ギュッてしてくる時がある。

なんで?って聞いてみると、いろんな匂いがして凄い良いんだって。

 

何だかしきママは変なこという時があるからわからない。

 

「しきママ、そのまま寝たの?お風呂は?」

「入ってなーい。疲れてたし暑かったからそのまま服脱いで寝ちゃった」

「なんかベタベタする」

 

さっきから触ってくると、何だかしきママが触ってくるところがベタベタする。

でもいい匂いはするから、こうされるまでわからなかった。

 

「んー、やっぱりお風呂入るかなー」

「そうしたほうがいいよ。じょーしき的に」

「ここは家みたいなもんだもん」

 

だからパパにいつも怒られちゃうんだよしきママ、だらしないぞって。

奥のお部屋に行ってから着替え用意してお風呂行くからって言ってそのまま寝ちゃうんだから。

 

「どーすっかなぁー」

 

しきママはぼくの頭にまたアゴを乗せてしばらく考える。

しきママのアゴ、重い。

 

二人で黙ったまま、いつの間にか変わっていた通販番組をボーッと観て、外から聞こえてくる鳥の声と、きょうこママとしきママの話す声が小さく聞こえるお昼前。

大人の人って、なんでこんな何もしないつまらない時間が好きなんだろう?

 

「ふんっ、んー···あっはぁー。じゃあ入るっかー」

 

しきママがやっと決めたみたいだ。

ぼくの家は24時間風呂だから、いつでも好きな時に入れる。

うらやましーってママたちにも言われる。

 

「どっち行く?」

「したー」

 

ソファーから立ち上がったしきママは、腕を上に上げて大きく伸びると、目を擦りながらリビングのドアの方へと歩いていく。

 

「しきママ、おパンツは?」

「下のお風呂のとこに洗ったの干してあるからそれ履くー」

「おっぱいのやつは?」

「今日は外に出る予定無いからいらないかなー」

 

りんママもうづきママもみんな着けてるのに、なんでしきママは着けないんだろう

みなみママが前に、えーと···''せんたんがすれちゃってー''なんとかかんとかってアーニャママと話していたような気がするけど···

 

だからお風呂から出たら、二人ともおパンツも履いてるしおっぱいのやつも着けるんだけど、しきママは···違うみたい。

 

「あ、少年も一緒に入るー?」

 

まぁ、しきママがいいんならいいんだけどさ

 

「昨日入ったから別にいい」

「つれないなー少年。シキちゃん寂しいー」

 

しきママはたまに子どもみたいにそうやってぼくを誘ってくる。

ぼくの手を握ってぶんぶんさせると、おねだりするようにぼくを見てくる。

 

パパにもこうやってたまにおねだりしてアイスとか買ってもらったりしてるけど、フレデリカが言うには、それはしきママが''けいさんだかい''からなんだって。

 

だから、せいこーりつが高いって。

 

「ねぇダメ?お背中流してあーげる」

「うーん···」

 

パパが言うには、女の人のお誘いを断ると後が恐いから覚えておけって言われてるけど、こういう時ってどうすればいいんだろう。

 

「ふぅ~!やっと終わった~!」

「ダーリンのお家ってこんなに洗濯物あるんだ~···あ、志希ちゃん!」

「おっはー」

 

廊下に出ようとしていたら、洗濯物を干しに行ってたきょうこママとゆいママが戻ってきた。

たくさんのカゴを持ってたから、みんなの分もまとめて干してきたみたい。

 

「もうっ、こんな時間まで寝てたら朝ごはんありませんよっ」

「ごめんって~、昨日結構遅くまで仕事だったからさぁ~。お風呂も入ってなくて~」

 

きょうこママがカゴをプラプラさせながらしきママにそう言うと、しきママは髪の毛をポリポリかきながらえへへ~って笑ってた。

ゆいママも、どうしたらいいんだろうってぼくに笑いかけてきた。

 

「でも、お風呂に入ってないのはナンセンスですね。脱いだものはまたこのカゴに入れておいていいので入ってきてください」

「わかった~。ねぇ、連れてっていい?」

「うーん···確かに、昨日の夜は暑くて私も寝汗びっしょりでしたし、入ってきてもいいですよ」

「えっ!?わかってたらゆいもお化粧しなかったのにー!ねー?一緒に入りたかったよねー?」

「別に?」

 

そう言うとゆいママは、そんなぁ~!ってきょうこママに引っ付いてた。

 

ということで、ぼくはしきママとお風呂に入ることになった。

 

「夜は一緒に入ろっ?ね?夜は一緒にー!」

「まだわからないよ」

 

しきママとお風呂場へ向かっている後ろから、ゆいママはなんだか必死にぼくにそう言ってくる。

ゆいママと一緒に入ると、楽しいけど早く上がれないのが嫌だ。

くっついてくるから暑いし。

 

「ふーっ、じゃあサッパリしますかー。実は裏側けっこうムレちゃっててさー」

 

とか言って歩きながら、着ているパパのシャツをおっぱいの下に潜り込ませるようにしてゴシゴシと拭いていた。

二人で廊下を裸足でペタペタ歩いていると、ぼくはしきママに聞いてみた。

 

「ねぇ、しきママ」

「なに?」

「女の人ってみんなお家ではこんな感じなの?Tシャツ一枚だったり、お風呂入らなかったり」

「おや、少年。いい質問だね~。遂に、君もそこに気づいたのかい?」

 

そう聞いてみたら、しきママはニヤッと笑って頭を撫でてくる。

 

「むふふふ~」

「なぁに?」

「現実と幻想を一緒にしてはいけないんだよ少年。だから君は、''大人になる''上では、恵まれた環境にいるんだよん」

「意味わかんないー」

「少年の質問はこの世の真理といってもいいのだ。あっはっはー」

 

やっぱりしきママは難しいことを言う。

''しんり''だとか、''ほうそく''だとか、何言ってるのか全然わからないけど、しきママの言ってることは間違ってないような、そんな気がする。

 

「あら、ありがと。紳士だねー、少年」

「···しんり?」

「紳士」

 

カゴ持っていたしきママを先に手洗い場に入れてあげた。

そのカゴを洗濯機の横に置くと、ウチではそこに洗濯物を入れていくのだ。

 

「じゃあしきママ、写真は?」

「写真?」

 

うづきママと使った洗面所の反対側、右側のお風呂の扉の前でしきママはTシャツを脱ぎ、カゴへと入れていく。

 

「うん。しきママが今してるような格好の写真。おっぱいは見えなかったけど」

「これー?」

 

Tシャツを脱いだしきママは、何だか凄いお花みたいな柄をした黒いパンツだけを履いた姿になっていた。

思いっきりおっぱい見えてる。

腕を曲げながら、腰や背中をぼくに見せるようにクルクルその場で回って、自分の体を見回すように動いてぼくと向き合うとニヤニヤ笑い始める。

 

「おいおい少年、そんな写真どこで見たんだーい?」

 

しゃがみこんでぼくにそう言ってくる。

 

「パパとママの部屋の本棚にあるもん、写真がいっぱい載ってる本。めぐみママとかしずくママとか、つばきママは写真撮られるのが楽しいって言ってたし」

「ああー、そういうやつね」

「みんなそういうの好きなの?」

 

りんママやゆいママが水着を着ている写真も見たことあるし、みんなってそういう格好をするのが好きなのかな?

 

「少年、教えてあげよう。大事なことだから、よーくお聞きよー」

 

ぼくの両肩に手を置いたしきママは、話し始めた。

 

「この世界にはね、色々なお仕事があるんだよ。少年が見たのは、そういう格好をする''お仕事''をしてる時の姿なのだ。女の人はね、家族や大切な人、自分がいいよって思ってる人以外に、ブラやパンツで隠している部分は見せちゃいけないことになってるの」

「別に見たくないよ」

「今はね、''今は''少年はそうだろうね。だけど、いずれ変わっていくと思うんだ。だけどだけど~、それは病気じゃないから安心しておくれ。そうならないと困るんだよ」

 

しきママの言ってることはよくわからない。

女の人の裸を考えるようになるのが病気じゃない?

 

「でも、女の人の裸のことばっかり考えて、女の人と話すなんて、なんかダメじゃない?」

「いいね少年、いいよ。そこだよ、そこなんだよー」

 

しきママはぼくの頭を撫でると立ち上がって、パンツを脱ぎ始めた

 

「女の人のことを考えるのは悪いことじゃないんだけど、それが表に出ちゃう悪い男っているんだよん。それで現実と幻想がごちゃごちゃになっちゃって、まるで物みたいに触ったり撫でたりしちゃうの」

「''サイアクー''だね」

「誰から教わった?」

「りなりな」

 

しきママはあっはっはーって笑うと、パンツをカゴの中へと放り投げた。

しきママはすっぽんぽんになって、ぼくにはないおまたの紫のもじゃもじゃが見える。

 

「少年だってずっとカッコよくいないとダメなんてイヤでしょ?家ではダラーってしたいでしょ?女の人も一緒、同じ人間なんだもん」

「そっかー」

「だ·か·ら、女の人のそういう写真が世の中多いからって、触ってもいいとか考えたらぜーったいにダーメ」

「触りたいとか思わないよ?」

「''今は''ね」

 

そう言うとしきママはお風呂の扉を開けた。

 

「大いに学びたまへー少年。''区別''がつく大人になることを願っているよ。さぁーて、お風呂に入りますかぁ」

 

しきママは色々なことを教えてくれるけど、何だか今日はいつもと違う気がした。

 

「ふんふんふーん」

 

お風呂のボイラーのスイッチを押していたしきママはなんだか上機嫌で普段と変わらなく見えるけど、少し安心しているような顔をしてた。

 

「しきママはいいの?」

「うーん?」

「ぼくにおっぱいとか見せても」

 

ボイラーのスイッチを押すときも、ぼくの頭の上でしきママのおっぱいがゆらゆらと揺れているのが見えた。

 

「少年に見られるのは、あたしが''いい''って思ってるからいいのっ」

「ぼく、しきママがイヤなら···見ないようにするよ。しきママかわいいから、そういうイヤなこと、たくさんあるんでしょ?」

「しょ~ね~ん」

 

しきママはふにゃ~っとした声でそう言ってまたしゃがみ込むと、ぼくの頬っぺたに両手を当てて···

 

「ん~···ちゅっ」

 

っと、りんママたちと同じようにチューしてきた。

 

「少年のそういうところ好きだぞっ。見てもいいよー、''今は''、ね。いい男になれよっ」

 

さてさて入りましょうかね~っと、しきママがしゃがんだまま、ぼくの服を脱がせてくる。

 

「あ、その前にタオルタオルっと。この棚だったっけ~、あったあった」

 

しきママと入るのは久しぶりだった。

ぼくの頭を洗ってくれて、しきママの背中を洗って、一緒にお湯に入ったときは色々なことを教えてくれる。

しきママは何でも知ってる凄い女の人だった。

でも、昨日お風呂に入ってないからかしきママからはだらしないような匂いがする。

 

「よいしょっと、これでよし···。おっとっと、セーフセーフ。にゃはは~」

 

洗濯機の上に置いたタオルが落ちそうになったので、ぼくの頭の上で足を開いて太ももでキャッチし、元に戻すしきママだった。

 

「···ねぇ、しきママ」

「なにー?」

 

再びしゃがんでぼくの服を脱がせようとするしきママ。

 

しきママは何でも知ってる。

だから、前から聞いてみたいことがあった。

 

 

「なんでしきママのおまたには、穴が空いてるの?」

 

 

そう聞いた瞬間に、しきママはキョトンとした顔になって、しゃがんだまま一回自分のおまたを見て、また正面に戻った。

 

「おしりのこと?」

「ううん、違うよ。おしりの穴は見えないもん。真ん中へん、ぼくには無いもん」

 

ずーっと前から気になってた。

ママたちみんなお風呂に入る時とかに、裸で今のしきママみたいにしゃがむと、おまたが割れてパカッと開く。

 

今もぼくの上を跨いだ時に、しきママのおまたが貝みたいにグパッて開いた。

するとその中に、人差し指くらいの穴が開いていたのが見えたような気がする。

 

「ちんちんも無いし、女の人ってそこからおしっこするの?」

「うーん、うーん···うっふっふっふ~。あっはっはっは~、にゃははは~」

 

しきママは突然笑い出すと、ぼくの顔の前に人差し指を立てて、右に左に動かすと唇に当ててくる。

 

「少年~、そうだね~、うーん···」

 

しきママは珍しく困った様子だったけど、何かを思い付いたみたいだった。

 

「女の人は赤ちゃんを産むでしょ?その赤ちゃんが出てくる場所だよん」

「なるほど~」

「でも、あんまり見ちゃいや~ん」

 

やっぱりしきママは物知りだった、なんでも知ってる。

確かに女の人は赤ちゃん産むもんね。

それがすぐにわからなかったのが少し恥ずかしかった。

 

「でも赤ちゃんは、そこにどうやって入るの?」

 

出てくるのはわかるけど、そんなに小さい穴からどうやって入るんだろう。

小さくなって入るのかな?

でも、それなら物凄く小さくならないと入れないと思うけど。

 

「小さくなったら入れるの?」

「小さく···うーん、難しいね~。シキちゃんがいいよって思った人ならいいかな~」

「じゃあ、ぼくも赤ちゃんだったら入れた?」

「それじゃあ無理かな~、大人になったらもっともっと小さくなれるから、その時かな」

 

もっともっと小さくなる?

大人になると大きくなるのに、小さくもなれるの?

大人ってすごい。

 

「じゃあ大人になったら入れるんだね?」

「んふっふっふ~、シキちゃん困っちゃう~」

 

しきママは自分のおまたを押さえながら、クネクネと体を動かして恥ずかしがっていた。

 

「どうやって入れるの?」

「少年が入るわけじゃないんだよ?じゃないと少年が赤ちゃんになっちゃうでしょ?」

「じゃあ、大人になったらぼくの何かを入れるの?」

「まぁまぁまぁ、いつか教えてあげるよん」

 

それ以上聞いても、しきママは笑うだけで教えてくれない。

大人ってズルい。

ぼくのTシャツを脱がすと、しきママはむっふっふーと怪しく笑い始めた。

 

「本当に知りたいのかい?少年。その勇気は認めてあげよう」

 

ぼくをからかうように言ってくるので、ぼくも反撃した。

 

「うん。イヤならいいけど」

「子どもの好奇心っておっかないわぁ~。凄いエッチなことだから、外で言っちゃダメだよん」

「あ、そうなの。ごめんね」

「偉い偉い」

 

なんだかえっちなことだったみたい。

そういうことをしたら素直に謝るんだぞってパパも言ってたから、謝った。

しきママかわいそうだし。

 

「でも、やっぱり大人になったら赤ちゃんができるんだね」

「確率の問題だなぁ~」

 

でた、たまにしきママが言う''かくりつ''っていうやつ。

テレビでも言う、ママたちも言う。

こーすいかくりつっていうやつの、''かくりつ''

 

「''ぱーせんと''ってやつでしょ。100個の中に、いくつあるのかってやつ」

「物知りだね、少年」

 

ぼくのズボンを脱がしながらそう言うしきママ。

''ぱーせんと''は、ちひろお姉さんが教えてくれたんだ。

お仕事で凄く使うんだって。

 

「じゃあ、ぼくがしきママの中に入れたら、赤ちゃんができるかくりつって、何ぱーせんと?」

「しょ~ね~ん、ふふふっ。まぁ、いいけどさ。計算してみようか」

 

しきママが考え始めた。

 

「その時の年齢が···だから。そう想定した場合に···こうで···」

 

こうなるとしきママは、電卓よりも早いってパパが言ってた。

 

「30%くらいかな~」

 

30?

100個あるうちの30個?

 

「それって低くない?100の中の30でしょ?」

「うーん···正確にはー、何億の中の一つかな」

「それじゃあ30ぱーせんとじゃなくない?」

「そこが難しいのさっ、少年もいつかわかる時がくる」

「しきママの中に何億も入るってこと?」

「いや~ん、少年のエッチ~」

 

''億''ってたくさんってことでしょ?

大人って大変だなぁ。

 

「好きな人のことは、何億も大好きーって思うでしょ?少年が大好きーって飛び込んできて、それを見つけてあたしも大好きーってギューッてしたら、赤ちゃんができるの」

「大好きと大好きを合わせるの?」

「そそっ」

 

赤ちゃんってそうなってるんだ。

今度ママたちにも教えてあげよう。

 

「でもその時の赤ちゃんは、相手も自分もお互いに大好きーってならなきゃ、ダメなんだぞっ」

「そーなんだ、難しいね。ちゃんと大人にならないとできないね」

 

子どものうちは出来そうにないや。

 

「そうそう、その考えは偉いぞ少年。大人になってあたしのこと好きならその時にまた聞いてちょー」

「わかった。その時は頑張るね」

「おやおや、あたしの人生もまだまだ捨てたもんじゃないねー。期待してるよん」

「なにそれ」

「えへへー」

 

しきママが鼻を指で擦りながら、自慢げにそう言っていた。

 

そして、しきママはぼくのパンツを脱がしてくれる。

 

「わーお、らっきょちゃんみたい」

「たまに大きくなるもん」

 

その時だった、玄関のほうからガチャガチャガチャと、扉を開けようとしてるような音が聞こえて来たのだった。

 

「ありゃ、誰だろう」

「ぼくが行ってくるよ。しきママここにいて、変な男だったら困るし」

「いや~ん、カッコいい~。気を付けてね、アレだったら唯ちゃんたち呼ぶんだよ」

 

しきママはすっぽんぽんだから、ぼくが行くことにする。

俺がいないときはママたちを頼んだぞって、前にパパにも言われたし。

脱ぎかけたパンツを戻して、スボンを履きなおして廊下に出ると、玄関へと向かっていく。

ピンポンが鳴らないってことは、ママたちの誰かかな。

恐る恐る近づいていくと、ドアがガチャンと開いた。

 

「やっと戻ってきた!やっと帰ってぎだぁぁぁぁぁ!!」

 

開いた瞬間に廊下へと倒れこむ女の人。

その背負っていた大きなバッグを背中から降ろすと、靴を脱いでそのまま仰向けになってゴロンと寝始めた。

 

「少年誰~?」

「りあむ」

「生きてる!ぼく生ぎでるー!!」

「先にお風呂入ってるね~ん」

 

お風呂場からしきママがそう言うと、バタンとお風呂の扉が閉まった音がした。

 

この、短パンでおへそ丸出しのボロボロTシャツを着て寝転がっているのは、りあむ。

ママたちと同じアイドルの一人。

の、はずなんだけど。

 

「今回はどこに行ってきたの?」

「ぼくの戦争は終わったんだよね゛え゛え゛え゛!!?」

 

いっつもジャングルにでも行ってくるのか戻ってくるとこんな感じで、大きいバッグとボロボロのTシャツを着てぼくの足にしがみついては、わんわんと泣いてしまう。

アイドルのお仕事ってたくさんあるってみんなから聞いてるけど、こういうこともするから凄いなって思う。

前にみんなで行ったバーベキューで、何も使わずに火を点けられたのりあむとさちこだけだったし。

 

「ちょっとちょっと、何の騒ぎでs···うっふ···!」

 

りあむの声が聞こえたのか、きょうこママが廊下に出てくると、りあむを見つけるな否や手で鼻をおさえるきょうこママ。

 

「ちょっ···!りあむさ···!その格好!その匂い···おっふ!えっふ!なに!?どっ···!えっほぁ···!」

「そんなにぼく酷いかな?」

「酷いよ、じょーしき的に」

 

りあむはいつもこんな感じだからぼくはもう何も言わないけど、今日も凄い匂いがりあむからした。

なんだかカブトムシみたいな、自然の匂いがする。

ずっとお風呂に入らなかった人みたい。

 

「んふっ···!だめっ···!口から入ってくる···!」

 

きょうこママは多分着替えてほしいしお風呂に入ってほしいだろうし、そもそもどうしてこんなことになってるのか知りたいだろうし、色々と言いたいことがあるんだろうけど、鼻をおさえないといけないし、口もおさえてるから喋れないんだと思う。

 

これは凄い、しきママより酷い。

 

「ところでどうして君は上半身裸なの?」

「お風呂入ろうとしてたから」

 

しきママは先に入っちゃったけど、これならりあむのほうがぼくよりも先に入ったほうがいいんじゃないかって思ってきた。

 

「ちょっ···んっふ···!な、なに···このニオイ···!誰か無人島かどっか行ってきたワケ···!?」

「ゆいちゃんもいたんだ~。あ、みんなにぼくからのお土産ね。時間無かったから、その辺で買ってきた。えへへ」

 

そう言ってりあむが大きいバッグから渡してきたのは、おでかけした時に高速道路とかで売ってるお菓子だった。

りあむ偉いな、お土産ちゃんと買ってきた。

 

「あとでいいんで···!あの、早くお風呂入っちゃってください!」

「あ、ホント?先入っちゃってもいい?」

「いいよ。早く行きなよりあむ。しきママもいるからもう入れるよ」

 

きょうこママが体を動かさずに腕だけ伸ばしてりあむからお土産を受け取ると、りあむはそのまましきママのいるお風呂へと向かっていった。

その時、振り返ってぼくに言う。

 

「もしかして~、ぼく何か邪魔した?」

「全然、早く入ってきなよ」

「わかった、じゃ遠慮なく~」

 

歩きながらTシャツを脱いで、ズボンを脱いで、おっぱいの···ブラとパンツだけになると、その着ていた服の形がハッキリわかるくらいに、りあむは黒く日焼けしてるのが見えた。

 

「いやなにアレ、ホンット信じらんない!うっふ···!」

「今回は···ごほっ···!どこへ行ってきたんでしょうか···」

 

あれかこれかときょうこママとゆいママが話している間に、ぼくはりあむが置いていったバッグを引きずる。

 

「きょうこママ、これどうする?」

 

ぼくはりあむの持っていた大きいバッグをきょうこママの前に持ってきて、蓋のヒモをほどいて目の前でパカッと開けてあげた。

 

すると、それを見たきょうこママとゆいママの表情がみるみるうちに変わっていく。

口が二人とも歪んで、まるでにらめっこしてる時みたいな顔になった。

 

「おうっっっふぇっ···!うっぷ···!うっふ!!」

「響子ちゃっ···!おえっ!閉めっ···!閉めて!」

「わかった」

 

一体二人は''ナニ''を見たのか、もうそれ以上開けないでと言われたのでぼくにもわからない。

玄関の端っこのほうに置いておくことにした。

 

「ちょっ、響子ちゃん。アレ!スプレー!ニオイ消し用のスプレー!もう廊下がヤバすぎ!」

「持ってきます!丁度、新商品が出たんですよ!」

「もう思いっきりバスターしちゃって!!」

 

きょうこママもゆいママもバタバタと動き始めて、何だか楽しそうに見えてきた。

きょうこママはお風呂場へと走っていって、

 

「ゆいもう無理···!」

 

ゆいママはリビングの中へと戻っていく。

すると廊下の壁の換気扇が全部回り始めたので、ゆいママが風量全開でスイッチを押したんだと思う。

みるみるうちに匂いが消えていく廊下。

広い廊下に換気扇の音だけ聞こえてきて···いや、お風呂場でガタンガタンときょうこママがスプレーを探している音も聞こえてくるけど、廊下にはぼく一人だけ。

こういう時は、ぼくの家って広いんだなぁって思う。

 

そういえば、ぼくはお風呂どうすればいいんだろう。

 

『あっ、ちょっ、な、りあむちゃ、おっほっ···!何この匂い···!ムリムリムリ、シキちゃんムリ!』

『大丈夫大丈夫、すぐ慣れるよ志希ちゃん』

 

なんか、しきママとりあむが仲良く入っちゃったし、ぼくは別に入らなくてもいいんだけど、なんだか体がモヤモヤする感じ。

大人二人入ったらさすがに狭いし。

せっかくお風呂に入ろうとしてたのに。二階に行こうかな。

 

どうしようか考えていると、また玄関の扉を開ける音が聞こえてきた。

 

「ただいまです~。ふ~、やっと帰ってこれましたか。まったくどこもアツい夏はボクを求めてくるっていうのが、困ったもんですね。いやむしろ、ボクそのものが夏という存在なのか」

 

扉が閉まると、その場でおでこを手で拭う、二人分のキャリーケースを持ってきた女の人がいた。

サングラスに上は黒いTシャツと、太ももの上まである短いズボン。

ズボンはところどころ破けてるから新しいの買ったほうがいいよ。

 

「おや?ほほう、君も夏に染まっているというわけですね。ボクを出迎えてくれるなんて、中々にジェントルマンじゃないですか。上半身裸とは中々に夏を先取りしているスタイルで好感が持てますよ」

「おかえりさちこ」

 

ふふんっと腰に手を当ててぼくを見下ろしているのは、さちこ。

肩まで伸びた少し長い髪と、ピョンとハネた前髪。

サングラスを外すと、大きなお目目が見えて、かわいいさちこ···って、さちこも言ってる。

 

アイドルで、冒険家で、バラエティー芸人で、なんだか一言では説明できないくらい色々なことをやっている人。

だからテレビでもよく見るんだけど、歌ってたり、崖を登ってたり、昔の映像でも海に潜って魚を捕っていたり、なんかよくわかんない。

 

「キャリーケース持ってあげるよさちこ」

「おや、気が利きますね~。持ち方わかりますか?」

「うん、大体みんなこれ持って帰ってくるもん」

 

ケースをまずは横に倒して、廊下へと置く。

それから下に付いている車輪、キャスターっていうんだけど、そこを靴履くところの端に置いてある雑巾で拭いてから、廊下に立たせる。

 

「手慣れてますね、偉い偉い」

 

それからケースの上にある取っ手を少し引き出すと、そのままリビングへと持っていくのだった。

 

「さちこ先にどうぞ」

「あら、ありがとうございます」

「レディーファーストっていうんだよ」

 

うんうんと頷いてたさちこ。

リビングの扉を開けてあげると、その中でガタガタっと動く人影があった。

 

「幸子ちゃんっ!ふーっ!」

「わっ、ちょっ、何ですか唯さん!ボクですよ!そんなコモドドラゴンみたいな目で睨まなくてもいいじゃないですか!とりあえずそのおたまを置いてください!」

 

リビングに入ると、中ではソファーを盾にするように挟んで、おたまを構えながら前のめりになって向かい合っていた。

 

「お風呂入ってないんでしょ!早く入ってきなさい~!ばっちぃ!ばっちぃ!」

「ちゃんと入りましたよ!そりゃもう超豪華なシャワールームで超豪華なシャンプー使いましたよ!やたら押しやすかったですもんノズル!」

「ゆいママ、さちこいい匂いするよ」

 

さちこからは、りあむみたいな大自然の香りはしなかった。

段々とそれがゆいママにもわかってきたのか、おたまを下げてさちこにジリジリと近づいてくる。

 

「···ほんとだ、スンスン···、めっちゃいい匂いする~。こんなのゆい知らないんだけどー!」

「ええ!それはもう水本財閥御用達の施設を使わせていただきましたからね!」

 

ゆいママはさちこに近づくと、さちこの首もと辺りの匂いをクンクンと嗅いでいた。

これじゃあしきママみたいだった。

 

「りあむさんはボクの車の後ろに隔離してきましたから!」

「あ、さちこ今日はダットさんで来たの?」

「そうですよ!ダットサンですよ、ダットサン!」

 

それなら大丈夫だ。

さちこのボコボコトラックなら、後ろはお家みたいで寝られるようになってるし、カーテンもあるし、りあむを乗せてもさらに荷物を積めるようになってるから凄い。

まるで秘密基地みたいになってる、あれならどこでもお泊まりできる。

 

「じゃあ、ゆかりママともお仕事だったの?」

「ゆかりさんはスポンサーだったんですよ。だから、えーとですね、お金出してくれる人っていうか···」

「大丈夫だよさちこ、ぼくわかるよ。テレビを作るためにお金を出してくれる人でしょ?」

「おお、賢いですね。りあむさん以上かも···」

 

さちこが言うゆかりママは物凄くお金持ち。

テレビを見ていても、途中で会社の名前が出てきたり、CMなんかもたくさん流れてる。

フルートがとっても上手で、アイドルをやめてからは、コンサートをしたり、お家の会社を手伝ったりと、忙しいみたい。

 

でも、お金持ちなのにちょくちょくうちに来ては、みんなと駄菓子を食べたりしながらお話ししてることがある。

ぼくとも遊んでくれるし、すっごく優しいんだ。

コンサートにも行ったことがある。

お出かけすると、おもちゃを買ってくれたりなんだか凄い豪華なチョコレート屋さんに連れてってくれたり、凄い人。

 

私にとっては家族みたいな人たちだからって、いつも言ってくれる。

 

「じゃあとりあえず、幸子ちゃんは大丈夫なんだね」

「はい。りあむさん、せっかくそんな豪華な施設を使わせてもらえたのに、めんどくさいから帰って寝たいなんて言い出して。だからお風呂から上がってきたら、どこかしこで寝るのではないかと···」

「なにその究極なダウナー系。あんな風になっちゃダメだよ?」

「うん、りあむいっつもそんな感じだけどね」

 

帰ってきてはお風呂に入ってすぐにぼくの部屋で爆睡してるりあむ。

前にぼくが入ってるときにいきなり入ってきて、一緒に入ったけどりあむが体を洗ったときに見たこともないくらい物凄く茶色な水が流れていったのが凄いと思った。

 

「それにしても···」

 

さちこはリビングをぐるって見回すと、キッチンの棚とか、テーブルの上とかを興味深そうに見つめていた。

 

「前に来たときよりも物が増えてますね~。零次さん何か言いそうですけど、大丈夫ですか?」

「パパ何も言わないよ?」

「ダーリ···零次さんももう諦めてるみたいだから、ここはもう私たちの城」

「乗っ取られてるじゃないですか。まぁ元々ですけどね!疲れました~!さすがのボクでもりあむさんを抱えてのブートキャンプはさすがに堪えましたよー」

「あんた何目指してんの?」

 

さちこはソファーに座ると、大きく手と足を開いてソファーを一人占めしてた。

ぼくはその横にキャリーケースを置いてあげて、ゆいママは背もたれに寄りかかりながらさちこと話していた。

確かに、リビングの中を見てみるとママたちの物が色々と揃ってる。

ゆみママがくれたお花も綺麗に咲いたし、みよママからもらったカッコいい車のダイキャストカーも飾ってある。

 

「さちこお茶あるよ」

「ありがとうございます。でもボクはこの荷物を置いたら会社に行こうと思っていたので、大丈夫ですよ。プロデューサーさんに報告もありますし。それにしてもよくできたお子さんですねー」

「でしょー?」

「なんで唯さんが得意気なんですか」

「アタシもママだもんっ!」

 

さちこはどうやら荷物を置くために寄っただけみたいだった。

 

「じゃあ、荷物上に持ってく?」

「そうですね、ここで出していくものは出してから持っていきますよ」

 

さちこがキャリーケースを開けると、最初に出てきたのは袋に入ったお菓子の箱だった。

 

「食べ物系は長距離だとダメになってしまうので、SAでの間に合わせで申し訳ないのですが、みなさんで召し上がってください」

「りあむとは違うやつだ、ありがとさちこ」

 

さっきりあむに貰ったのと合わせてテーブルに置いておくことにした。

これならパパとママもわかるし。

 

「キャンプ中はコインランドリーなんていう便利なものはありませんからね~。服がたくさんあるんですが、匂い対策はしてあるのでそこまで酷くは···あ、ちょっと匂うかも」

「大丈夫だよ、りあむほど酷くないし」

 

どうやら奥に押し込まれているデパートのビニール袋に洗濯物は入ってるみたいだ。

チラッと見たけど、シャツとかジャージとか、色々な物がごちゃ混ぜになって入っている。

 

「これはいつものカゴに入れておいてもいいのでしょうか?」

「あ、ちょっと待って。響子ちゃんに聞いてみるー」

 

ゆいママが廊下にいるきょうこママのところへ行く間に、次から次へとビニール袋を取り出す。

その中には、あ···これはあまり見ないほうがいいかな、パンツとかブラとか···そんなのが入ってるし、こっちは···靴下かな。

夏なのに膝くらいまで隠れるようなのがいくつも入ってた。

 

「響子ちゃーん、幸子ちゃんの洗濯物···」

「はぁーーーあっ!」

 

廊下にいたきょうこママは、スプレーを持って廊下の真ん中で、まるでバレリーナみたいにくるりと回りながらシュッシュッってやってた。

 

「···どしたの?」

「はぁ···はぁ···、どうです?もうそんなにニオイしなくなったんじゃないですか?はぁ···」

「あ、ホントだ。にしても大丈夫?」

「こうやってシュッてやるとニオイが取れやすくなるんですよ!」

「···確かに、すごい。ほとんどしない、ソレいいね」

「昔のレッスンが役に立ちました···でも、はぁ···なまりましたね···」

「歳取ったね~、アタシたちも」

 

きょうこママが頑張ったおかげで、廊下の匂いはほぼしなくなっていた。

きょうこママがそうやって踊るような姿は、ママたちがもっているブルーレイでしか観たことがなかった。

 

「あ、洗濯物は別のカゴに入れておいてください。煮沸しないとさすがに全部ニオイが取れなさそうなので」

「わかったよー。だって幸子ちゃん」

「いつもいつもすみません。アレだったらお手伝いしますので···」

「いいのいいの、好きでやってることですし。会社に行かないといけないんでしょ?」

 

リビングへと戻ってきたきょうこママがそう言った。

きょうこママに言われた通り、お風呂場のカゴじゃなくてさっきリビングへと持ってきていた別のカゴへと、ビニール袋ごと入れておいた。

アレを裏の大きなお風呂場へと持っていって洗うんだと思う。

 

「大変だけど家事は好きなので!やりがいあっていいですよー!」

「もう響子さん、家政婦さんじゃないですか」

 

お料理作ってくれたりお掃除してくれたり、きょうこママはよくウチにいる。

パパも、いつもありがとって言ってるし、ママもよくお話してるし

 

「あ、それいいかも。零次さんに言ってみようかな、ここで働かせてくださいって」

「いや~ん、響子ちゃんダイタン~」

 

さちこは着なかった服も一緒に出していた。

それもまとめて消臭しないと、クローゼットに戻したときにニオイが他の服に移っちゃうみたい。

 

「これ持ってけばいいの?さちこ」

「そうですが、君では上まで持っていけませんね~、一緒に行きましょうか。どこに置けばいいか教えてください」

 

ぼくがキャリーケースを持とうとしていると、さちこが一つ持ってくれた

 

「もう片方は?」

「このバッグりあむさんのなんですよ。あ、りあむさんの着替えもこの中に···」

「ちょっと待った!!」

 

さちこがそのキャリーケースを開けようとしていたのを、きょうこママが手で押さえて全力で止めていた。

ゆいママもハラハラとした顔でぼくたちを見ていて、きょうこママを見てホッとしてた。

 

「こっちは奥のお風呂場で開けますから!リビングまで被害が及んだら大変なんで!」

「ゆ、ゆいも···手伝う!なんか···使命感が!」

 

それだけ言うと、二人はそのりあむのキャリーケースを大事そうに持って奥の扉を開けて廊下へと出ていった。

 

ぽつんと残ったぼくとさちこ。

とりあえず荷物を置きに上に行くことにした。

 

「よっこいしょっと。ありがとうございますね」

 

階段の下まで持っていくと、そこからはさちこが持ち上げて登っていく。

 

「今日は他に誰か来たんですか?」

 

階段を登ってると、さちこが聞いてきた。

 

「朝はりんママがいて、うづきママと一緒に寝たからうづきママもいた。あと、お風呂にしきママ」

「いやいや、みんなも好きですね~。まぁ、このお家が出来たときから来る気満々でしたから」

「そうなの?」

「そうですよ、大討論会でしたよ」

 

さちこが言うには、この家の設計図を決めるときに、わざわざパパが前に住んでた部屋まで来てみんなで話し合ったらしい。

 

「あの玄関を決める時も、夏樹さんや拓海さんがもう、そうじゃないそうじゃないって零次さんに詰め寄っていて···」

 

なつきママやたくみさんは、玄関と廊下に段差があったら楽器とか大きいものが運び込めないって言って、平らに作ったほうがいいよってしたんだって。

でもそのおかげで、大きな家具を運び込むときや、キャリーケースを中に入れるときにそのまま廊下へと移動できたからとても役だったらしい。

 

「部屋の数も、こんなに少なかったらみんな来られないって、加蓮さんとか法子さんも散々零次さんに文句を言ってたんですから。そんなに来てどうするんだって零次さんは言ってましたが、そういった要望がある人たちは勝手に予算を出し合ってましたね」

「ママたちお金持ち?」

「ええ、それはもう。勝手に建てちゃおうかなって言ってましたし」

「さちこは?」

「溜まっていく一方でして···使い道がなくて···」

「忙しいもんね」

 

二階の廊下に上がると、さちこは''やっぱりいつ見ても凄いですよね···''とため息をついていた。

一階と同じく、二階も奥まで廊下が伸びていて、ぐるッと一周できるようになっている。

壁にはたくさん扉があって、その中はママたちが持ってきたものが色々と詰まっていた。

 

コロコロとキャリーケースを転がして廊下を歩いていきながら、部屋の扉をさちこは眺めている。

 

「君の部屋もここで変わらないんですか?」

「うん、でもママたちのものたくさんあるよ。パパたちは三階だよ」

 

そう言うと、さちこは一つの扉を開けて部屋の中へと入っていった。

ぼくのおもちゃがある棚、床にあるミニカーのサーキットを上手に避けながら、部屋の奥にあるクローゼットの前に行ってキャリーケースを床に倒した。

 

「えーっとまずは···、あ、その前に」

 

さちこはクローゼットを開けると、中には四角い透明なプラスチックのボックスが積み重なって置いてあるのがいくつもあって、その引き出しに色々と名前が書いてあるのだった。

 

「しばらく来ていないとわからなくなりますね···。凛さん、未央さん···加奈さん、法子さん···」

 

さちこはそのケースを指差しながら自分のものを探していた。

かなママものりこママも最近は来てないような気がする。

のりこママが持ってくるドーナツ美味しくて好きなんだけどな。

 

「あ、あったあった。それにしてもたくさんありますね~、もうここはアイドル専用ベースキャンプですね」

「なにそれ?お家ってこと?」

「準備をするところですね。拠点ともいいますか···まぁ、第二のお家って感じでしょうか」

 

確かに、ママたちは昔からそうだった。

たくさん服を持ってきて、来るときはたくさんお菓子を持ってきたり、しばらく泊まってご飯作ってくれたりお掃除してくれたり色々してくれるけど、パパはたまに''やかましい奴らだまったく''なんて言うけど、追い出したりはしないんだ。

 

「でも、こんなにアイドルの人たちが来て、ママは何も言わないんですか?」

「全然」

 

ママも楽しそうにしてて、まるで友達とのお泊まり会みたいな感じだって言ってた。

たまにパパがりあむとか、さなえおばさんに蹴り飛ばされてベッドから落ちてたり、みゆママとか、れいママにベッドを侵略されて、その間で窮屈そうに一緒に寝てたり、リビングで寝ちゃったメアリーとかふぇいふぇいを二階に連れていったりするのを懐かしいって見てたりする。

 

たまにママとぼくもベッドに潜り込んで、一緒に寝たりしたこともあった。

その時は、なぎとはやてがいて、なぎがこの家の''そうせつ''の時のお話をしてくれた。

駅から近い''とち''を探すのにたくさん頑張ったんだって。

あとは''りっち''とか、''ぼうはん''とか。

ぼくが寝るまで、みんなでベッドの上でお話をしてくれた。

 

「ママは、今はパパはみんなのものだからって。お誕生日パーティーの時に言ってた」

「ほほう。''今は''ですか」

「うん、パパを信じてるって。だからママも、ママだけじゃなくて、ママたちとも仲良くしてあげてほしいってパパに言ってたよ。だけどたまに、ママたちはぼくを連れて行って、パパとママの二人でお留守番することもあるよ」

「おや、どこへ行ったんですか?」

「その時は、みんなでゆかりママの家に遊びに行って、泊まってきたんだ。ゲームして映画観てお昼寝して、みんなでお風呂に入った」

 

すっごく楽しかったからパパもママも来ればよかったのに。

って言ってたら、ママたちがふふふって笑ってたり、今のさちこみたいにお顔を赤くしてたりしてた。

 

とにかく、ぼくの家はお仕事で送迎したりする前の日にママたちが泊まりにきたり、そうでない日も遊びにきたりして楽しい。

 

「そ、そうですか。それは···あの、ぼくも荷物を置いたら帰らせていただいて···」

「なんで?たくさんお話聞かせてよ」

 

さちこは自分のケースに服をしまっていくと、キャリーケースをたたんでクローゼットの奥にあるキャリーケースがたくさんあるところに置いて帰ろうとしてた。

ぼくが呼び止めると、''ま、まぁ、りあむさんもいますし···''と、もう少しゆっくりしていくようだった。

 

「それにしても、みなさん仲がいいんですね。あの時はもう大変でしたから、ボクはもうどうなることかと···」

「あの時って?」

 

ぼくのベッドに座って、さちこは腕を組みながら小さく頷いていた。

 

「君のパパとママが、まだ結婚する前の前のお話ですね···。あれはもはや、オーディションも霞むほどアピール合戦···いや、戦いでした」

「スポーツみたいな?」

「そうですね、まさに周りもライバルと認めた公式戦でしたねアレは。厳粛に定めたレギュレーションの元に···いやいや、あの''話し合い''の場面は今でも忘れないですよ。ボクはエントリー枠ではありませんでしたが、ルールの妥協と認定の阿鼻叫喚で···」

 

思い出しながら話しているさちこは、何だか恐がったりしみじみしたり忙しそうな顔をしていた。

何やったのかは全然わからないけど、ママたちともっともっと仲良くなろうと、パパはスポーツ大会をしたみたい。

なんか凄い面白そう。

みんなで仲良くできるなら、ぼくも混ぜてほしかった。

 

「ママが優勝したの?」

「そう···ですね!君のママは強かったんですよ!」

「楽しそうだからもっかいやろう?」

「···それは、難しいのではないかと···あはは」

 

なんだ、みんなでスポーツなら楽しいのに。

今度ママたちにも聞いてみよ。

 

「ママは昔どんな感じだったの?」

「そうですね~、君のママはアイドルの時に、零次さんが前のお家で···」

「つっっっっっかれたぁ~!」

 

いきなり部屋の扉が開いて、りあむがTシャツ一枚で入ってきた。

キチンとお風呂に入ったおかげでツヤツヤしていて、あのニオイもしない。

でも、髪をちゃんと乾かしてないから少し湿っていて、よく見たらTシャツも少し湿っていて、ペタッと体に張り付いている。

りあむもブラを付けていない、おっぱい浮き出てる。

 

それにこれ、パパのシャツだ。

 

「ちょっ、りあむさん!なんて格好をしてるんですか!教育に悪いです!」

「いや~、洗濯物全部持ってかれたからさ。この零次さんのシャツしか近場になくってぇ~。いいよ、ぼくもう今日家から出ないし」

 

さちこに目を手で隠されてるから見えないけど、ペタッペタッて足音が聞こえるからこっちに向かってきてると思う。

 

「うーん···このベッドふかふか~。もう無理、疲れすぎてる。寝かせて、今日はもう無理」

 

バタンっていう音が聞こえたのと同時にベッドがギシギシと揺れたので、りあむがぼくのベッドに倒れたのがわかった。

 

「まったく···」

 

さちこの手が離れると、りあむの姿が見えた。

ベッドにうつ伏せになって、グーグーと眠り始めた。

一瞬だった、相当疲れてるんだと思う。

 

「まぁ歩き通しでしたし、外に出ないというのならヨシとしますか」

「りあむ疲れてるね」

 

気持ち良さそうに寝ているりあむだったけど、ゴロンと動いてうつ伏せになった時だった。

足が左右に開くと、足まであるパパのTシャツがめくれて、その隙間から

 

グパッ

 

っと、開くのが見えた。

 

「ねぇ、さちk」

 

言いきる前に、またぼくの目が覆われて目の前が真っ暗になった。

 

「下に行きましょうか下に!それはもう下に行きましょう!ゲームでもしましょう!そうですよゲームゲーム!さぁさぁさぁ!」

 

そのまま廊下に出るまで、目を隠されたままだった。

さちこに連れていかれるがまま、ぼくたちはリビングへと戻る。

 

「ああ~、ホンットムリ。シキちゃんあれ以上はムリ。ヤバッ、戻しそう···」

「志希さん!まったくもう志希さんまでパンツ一枚で!」

「Tシャツも着てるじゃーん」

「そういう問題じゃありません!教育に悪いんですよ!」

 

リビングにはお風呂から出たしきママが、またパパのシャツを着て、その下はパンツだけ履いた姿でソファーに手をついていた。

 

「アンタたちはどうしたの?何だかドタドタと下に降りてきたみたいだけど」

「ええっと、上でりあむさんが寝てしまったので、邪魔にならないようにと···」

「りあむにも穴開いてたよ、黒かっt」

 

そう言うとさちこがぼくの口を塞いできた。

でもそれを聞いてしきママはわかったみたいで、ウフフフフッと口に手を当ててニヤッと笑い出す。

 

「少年、君はね、恵まれているのだぞ?」

「志希さん!」

 

にゃはは~と、しきママはソファーに座った。

 

「そんで、幸子ちゃんはどうするの?行くんでしょ?346プロに」

 

346プロとは、パパたちが勤めている会社だった。

とってもとっても大きな会社、せんむもいるし、ちひろお姉さんもいる。

あ、うさみんもいる。




読んでいただいて、ありがとうございます。
今後の展開も、またお待ちいただけると幸いです。
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