ヘイ!タクシー!   作:4m

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お久しぶりです。
そして、メリークリスマスです。

まだ中編ではございますが、よろしければご覧ください。


ある日のマザーベース02

「会社にですか?そうですね、プロデューサーさんに報告もあるので、結局行かなきゃならないといいますか」

「そっかぁ、大変だね~、幸子ちゃん」

 

ソファーに置いてあったバスタオルを手にとって、顔を拭きながらしきママはそう言った。

そっか、さちこはこれから346プロに行くんだ。

 

「あぁああ~···。と、とりあえず、あのまましばらく置いておけば、ちょっとはマシかと···」

「そうだね響子ちゃん···、ゆい···うっぷ···アタシたち頑張ったよね···」

 

リビングの奥の扉がゆっくり開くと、ゆらゆらときょうこママとゆいママが入ってきて、ソファーに手をついていた。

りあむが持ってきた、ものすっごくヤバい着替えを洗ってきたみたいだった。

いつの間にか廊下に置いてあったりあむのバッグも無くなっていたので、一緒に持っていったんだと思う。

きょうこママもゆいママも凄い。

 

「りあむさんは?ちゃんとお風呂に入ったんですか?ここにはいないみたいですけど···」

「あ、はい。りあむさんはボクが二階で荷物を片付けていたら、部屋に入ってきてベッドに飛び込んですぐに寝てしまいましたが?」

「えっ···ちゃんと体拭いたんでしょうか?」

「拭いてたみたいなんですがその···教育に悪いというかそんな感じの格好だったので、Tシャツ一枚っていうか···」

「ああ···」

 

きょうこママはため息をつくと、ぼくを見てからソファーに手をついたままカクンッと頭を下げた。

 

「今日一日で少年は、随分と大人になったんだね~」

 

しきママがニコニコ笑顔でそう言った。

 

「段階が大事だってゆい思うな···」

「まぁまぁ、とにかくりあむちゃんはキチンと体洗ってたよん。床に流れていくシャワーの水がとてつもない色してたけど」

 

りあむはまた泥の中にでも転んでしまったのだろうか。

それを聞いてきょうこママはまた更にため息をついて、今度は頭を小さく上下に振ってうんうん···と呟いていた。

 

「わかりました···。そっちのお風呂を掃除するときは気合いを入れなくてはいけませんね···」

「ゆ、ゆいも手伝う?」

「いえ···これは私の戦いです。私が決着をつけないと。唯さんはお昼ごはんをお願いします」

 

その時にみんな時計のある方向に顔を向けた。

きょうこママの言った通り、そろそろ時計の針がどっちも上に向く頃になっていた。

色々やってる内に、お昼ごはんの時間になっちゃっていた。

 

「ホントだ、お昼ごはんだね~。どうしよう···幸子ちゃん会社に行っちゃうんでしょ?」

「はい。とりあえずプロデューサーさんに報告がありますので」

「それなら、お昼は外でっていうのはどう?ね、どうどう?幸子ちゃん車なんでしょ?一緒に行ってお昼しない?アタシご馳走してあげる!」

「あー···その···、人を乗せることは出来るんですが···あの、りあむさんが乗ってきた後でよければ···。前はボクの荷物でいっぱいで」

「あー···、そっかぁ···」

 

ゆいママがさちことなんだか笑ってるんだか困ってるんだかわからない顔でにらめっこしてた。

しきママにもどうするか聞いてみたけど、

 

「あー、シキちゃんもめっちゃ疲れてるから今回はパスでお願い~。ごめんね~、また今度誘ってねん。お風呂にも入ったことだし」

「しきママ寝るの?」

「寝る~、今日は仕事もないし~。じゃあねー。お留守番しとくわ~」

 

しきママはバスタオルを首に掛けて立ち上がると、あくびをしながらそのまま奥の扉を開けて廊下に出ていってしまった。

 

「あのまま寝ちゃったらお留守番できなく···なくなくない?」

「しきママはいつもあんな感じだよ、ゆいママ」

「なんていうダウナー系···」

 

結局しきママ、お昼ご飯も食べずにまた戻っていっちゃった。

大人ってご飯食べるよりも寝るほうが好きだなんて変なの。

 

「じゃあ、とりあえずゆいと一緒にお散歩しよっか!幸子ちゃんもよかったら346で合流しようよ!」

「はい、その頃にはボクも手が空いてると思いますので。今日は移動で道中何があるかわからなかったから、予定では一日移動日だったんですよ」

「その時に、ご飯かデザートだね!」

 

ゆいママとお出掛け。

物凄く久しぶりだった。

みんな家に来ることはよくあるけど、一緒にお出掛けするのは毎回バラバラだったりするから、ゆいママとは久しぶり。

みんな有名だから、集まるのって結構難しいんだって。

 

「響子ちゃんは?一緒にいく?後でお掃除でもいいんじゃない?」

「いえ、零次さんたちも帰ってくることですし、それまでに決着をつけないと。あの洗濯物も含めて」

「あー···そっか。ホントにゆい居なくても大丈夫?」

「大丈夫です。これを乗り越えてこそ、元主婦系アイドルですから。私のプライドが許しません」

 

きょうこママ、アツい。

パパの言う通りだ、パパとも家事の事で昔喧嘩したことがあったって言ってた。

きょうこママはパパが一人暮らししていた時から厳しかったって。

 

「なので、唯さんはこの子をお願いします。私はそのまま···この家からお仕事に夜向かうので、鍵を持っていってください。志希さんはたぶん寝ちゃっているので」

「わかったよー。じゃあ、幸子ちゃん一緒に出る?準備出来てる?」

「ええ。ボクはもう車に乗り込んで会社に向かうだけですから。気を付けて来てくださいね」

「バイバイさちこ」

 

ぼくがそう言うと、さちこはぼくの頭を撫でて自分の車の鍵だけ持って出ていった。

 

さちこの車の音が聞こえなくなるくらいになると、ゆいママは自分のバッグを持って準備が出来ていたようで、玄関でぼくのことを待っていた。

ぼくが玄関で靴を履いていると、ゆいママがしゃがんでぼくの腕を指差して聞いてくる。

 

「それなーに?」

「これはね、なおがぼくにくれた時計。げんてーひんなんだよ」

 

この前なおが来た時にぼくにくれたヤキニクマンの腕時計。

コンビニのクジで当たったやつをくれた。

なおはもう同じの持ってるから、あげるって。

お揃いだなって言ってたから、ぼくも大人の仲間入り。

時計は大人の必需品だって、パパも言ってたし。

 

「じゃあ困ったときは聞けばいいね~、頼りになる男だっ。今日のデートはエスコートしてね」

「デートじゃないよ、お昼ご飯」

「そ、そっかぁ~···」

 

ゆいママはことあるごとにデートっていうから、困った女の人だった。

パパともたくさんデートしたって言ってたけど、それ本当かなぁ?

ゆいママがそう言ってるだけで、本当はご飯食べに行っただけなんじゃないのかな?

それならパパが言ってた、昔うづきママとかるみおばさんとかあいこママとかとデパートに行ったり、おやくしょに会社のお手紙出しに行ったりするのだってデートになるじゃん。

よくわからないなぁ。

 

「ねぇ、ゆいのこと好き?」

 

靴を履き終わって立ち上がると、ゆいママはそう聞いてくる。

 

「ゆいママのこと?当たり前じゃん」

 

なんでそんなこと聞くんだろう、変なの。

 

「じゃないと一緒に遊ばないでしょ」

「そっかぁ、そっ···かぁ~、えへへ~、うふふ~」

 

たまーに、ゆいママはこの質問をぼくにしてくる。

そしてぼくが毎回同じように返事をすると、今のゆいママみたいにニコニコニコ~ってして嬉しそうに笑うんだ。

そんなゆいママはぼくも、かわいいと思う。

さすが元アイドル。

 

「ゆいママ、もう靴履いたから行こうよ」

「うふふ···あ、そうだね!行こう行こう!おっと、ありがとっ」

 

ニヤニヤしていたゆいママの手を掴んで引っ張りあげると、そのままゆいママが手を繋いできた。

 

「はぐれたら危ないからねっ!」

「ゆいママのほうがいつも迷子になってない?」

「それはほらっ、たまにだよ!たまーに!」

 

ガチャッと玄関の扉を開けると眩しい太陽の光が一気に玄関に入ってきて、ぼくは思わず顔を後ろに向けて目をつむった。

 

「うっひゃ~!こりゃあっついね~!途中で飲み物買っていこっか!」

 

ゆっくりと外を見てみると、雲が一つもない凄く晴れた空に飛行機雲が一つピーッと伸びて、凄く夏だなーって思った。

このまま外に飛び出そうかと思ったけど、ぼくは気になったことをゆいママに聞いてみた。

 

「ゆいママその格好暑くない?」

 

その白いモコモコの服はいくらオシャレだからっていっても絶対暑いと思う。

 

「朝は家出る時涼しかったんだよぅ~。でも確かにこの格好のまま外出たら死ぬかも···」

 

ゆいママも自分の格好を玄関にある小さな鏡を使って見て、うーん···って悩み始めた。

 

「ゆいママもパパから借りたら?」

 

玄関の扉を閉めてぼくがそう言ってあげると、ゆいママは少し考えて''あぁ~''っとぼくを見ながら人差し指を立てて頷いていた。

 

「ちょーーっと奥行ってくるからちょっと待ってて?」

「うん、いいよ」

 

ゆいママは靴を脱ぎ捨てると、バタバタとリビングの奥の廊下へと走っていった。

 

「ちょっとー、廊下を走らなーいっ」

「もういないよきょうこママ」

 

しきママの使っていたお風呂のほうの廊下の陰からきょうこママの声と、きょうこママのグーの手が見えた。

 

『ちょっ、な~に~、唯ちゃーん。イタ~イ』

 

リビングから続いて開いている扉の奥からは、しきママのそんな声が聞こえてきて、ゴトゴトゴトッと何かを探している音も聞こえる。

 

『これとこれと···、あ、これならいけるかも!』

「ゆいママは~や~く~」

 

せっかく出掛けようとしてる間際になんで女の人ってアレやったとかコレ持ったとか言い出すんだろう。

ちゃんと準備してから出てくればいいのに。

 

『んにゃっ、いったぁ~』

 

またまたしきママのそんな声が聞こえてくると、奥から順番にドアがバタンバタンと閉まっていって、ドタバタとゆいママが玄関まで戻ってきたのだった。

 

「ごめんごめんっ!お待たせお待たせ~」

 

さっきまでのモコモコとしたような服から、お腹の上までしかない短いTシャツに、ぼくと同じ青いズボン、小さいバッグに帽子を被った涼しそうな格好で戻ってきた。

 

「ねぇ、これならど~お?」

 

ゆいママは手を広げてぼくの前に立って、ニコニコ笑顔でぼくを見下ろしてくる。

 

「うん、いい」

 

女の人にそう言われたときは、そうやって返事をするとおんびんに済むってパパが言ってた。

でも、ゆいママの格好は本当にカワイイからこれは嘘じゃない。

パパもよく聞かれて誤魔化してるけど、本当はカワイイと思ってるんじゃないかな。

 

「よっしゃ、じゃあ行こっか~。行ってきまーす」

 

お家に向かってそう言うと、廊下の奥から''行ってらっしゃーい''ときょうこママの声と、手がヒラヒラと揺れているのが見えた。

 

「いやー、やっぱりアッツいねー。あ、ダーリンから連絡来たよ」

「パパから?」

「そ。''ゆいママのいうことを聞くように''ってね!」

 

外に出て玄関の扉を閉めると、ゆいママは携帯を見せてくれた。

そこにはパパとのトークルームでのやり取りがあって、確かにパパからゆいママにトークが届いていた。

 

「だから今日は、お出掛けの許可が出たからどこでも行けるよ?どこに行きたい?」

「車がないからどこでもは無理だよ、ゆいママ」

 

お庭を抜けて門から出ると、ぼくは周りを見渡した。

 

お隣の家もそのまたお隣の家も、今日は日曜日だからか車が無くなっていた。

ぼくの家も、今日は車で来るママたちはみんないないから、駐車スペースには車がない。

あるといえば、庭にこの前にしゅーこちゃんと使っていたビニールプールが乾かすために置かれているのと、はるちゃんと使ったサッカーボールが置かれているくらいだった。

 

「じゃあとりあえず、いつもの散歩コースに行こっか」

「うん」

 

そうしてぼくはゆいママに手を握られて、散歩に出掛けていくのだった。

 

ぼくの家があるのは街から少し離れたところで、ちょっと歩けばビルがたくさんある街中へと出ていくことが出来る。

そこまではぼくの家のようなお家がたくさん並んでいて、げーのーじんの人もいるって言ってた。

 

みんなが言う、''げーのーじん''って何なのかよくわからない。

どういう人たちのことをいうんだろう?

 

「お腹空いたね~」

「この少し先にレストランあるよ」

「あそこたっっかいんだも~ん!」

 

ブンッ、ブンッ、とぼくの手を前に後ろに振りながらゆいママはブーブーと言ってた。

ママたちが遊びに来たときに、たまーにそのレストランに行くことがあるんだけど、パパとママがご馳走するって言ってもメニューを開いたところで大体''へへぇ···''って感じで黙っちゃうことが多かった。

 

「でもゆいママも、お家買えるくらいお金は持ってるんじゃなかったっけ?お家欲しいかもって前言ってたじゃん」

「それはそうだけどー、それとこれとは違うのー。感覚はまだ庶民なのっ、100均大好きなのっ」

 

お家を持つと、お掃除が大変ってきょうこママも言ってた。

ぼくのお家はママたちが来ると、ちょこちょこと掃除してくれているところを見る。

だからぼくの家はお部屋はたくさんあるけどママたちもたくさんくるので、お部屋を使う度に掃除してくれて凄い綺麗。

 

ママは、''やることがなくなっちゃう~''っていつも言って、やらなくていいよってみんなに言うけど、みんなここは第二の家だからってまるで自分の部屋みたいに掃除していく。

 

「だからっ、アタシはそういうレストランとかじゃなくても全然いいよ!ハンバーガーでもいいし、うどんでもいい」

「安いもんね」

「そう!安いの!うどんもねダーリ···パパとね、たくさん行ったんだよ!ゆいが奢ってあげたこともあるんだよ!」

「うどんはこの前パパと行ったからいい」

「ハンバーガーは?」

「かれんと行った」

 

かれんはぼくと出掛けると、ほぼ絶対ハンバーガー屋さんに連れていってくれる。

ぼくがおもちゃセット、かれんはハンバーガーと必ずフライドポテトを頼んで一緒に食べる。

でもいつも、みおママやりんママたちにはここに来たことは内緒にしてねって言ってくる。

 

なんでだろう、たくさん食べると太るから···かなぁ。

でもみんなぼくには、たくさん食べるんだよーって言うのに、変なの。

 

あ、かれんとハンバーガー屋さんに行ったことゆいママに言っちゃった。

 

「なーんだ、ハンバーガー久しぶりに食べたかったのに」

「ゆいママ」

「んー?」

「太るよ」

「んぐっ」

 

やっぱり、太るかもしれないことを知られたくなかったんだ。

ゆいママは片手で胸を押さえながら、ぐぐぐっ···と悶え苦しんでいた。

 

「···鋭いね、さすがダーリンの息子。ゆいも昔、ダーリンに同じことを言われたことがあって···」

「言われてたのにやめないの?」

「んぐぐっ···ふえ~ん···」

 

ゆいママは体が段々と前に倒れていって、顔を手で覆って悲しんでいた。

やっぱり女の人ってよくわからない。

わかっているのに何故やろうとするのかわからない。

 

「でも、ゆいママ別に太ってるわけじゃないし、かわいいからいいんじゃない?」

 

ぼくがそう言った瞬間、ゆいママは''はぁ~···っ!''っと息を吸い込みながら体を起こして、キラキラした笑顔を浮かべてぼくのほうを見てきた。

 

「そうだよねっ!そうだよ!別に太ったわけじゃないもん!そうだもん!別にゆいたくさん食べてるわけじゃないし!たまにならいいもん!たまになら!体重計もちょーっと前に見たときはプラマイゼロだったし!」

「お風呂上がった時とかに乗るよね、体重計。ね?昨日乗ったの?」

「それに!ゆいは元アイドルだもん!まだまだゆいもイケてるってことだもんね!」

「ね。ね。乗ったの?昨日。ねぇ」

 

ぼくがそう聞いても、あまり女の人にそういうこと聞いちゃダメなんだぞってゆいママは言って、またぼくの手をブンブン振って歩き始めるゆいママ。

 

やっぱり食べすぎるのは太るからよくないけど、ゆいママも好きみたいだから今度一緒に行ってあげよう。

とにかく、ゆいママが元気になってよかった。

 

「フンフンフフ~ン、フンフフ~ン」

「フレデリカ~」

「知ってるんだ!」

「フレデリカよく歌ってるもん」

 

ここはずっとお家が並んでいる道路で、街の中にあるようなたくさんの人が住んでいるマンションはない。

マンションみたいな建物はあるけど、出入口は一つだけで、一つの家族だけが住んでいるところが多かった。

街の中みたいにガヤガヤしてないし、凄く静かでドロボーもいなくて歩きやすい。

道路も歩道も凄く綺麗。

凄くカッコいい車が走っているのをよく見る、映画に出ているようなやつ。

 

そろそろそのレストランも見える頃なんだけど···そうそう、ここ。

 

「ゆいママ、ほら見て。ここなら野菜のメニューとかもあるよ。ヘルシーだよ」

「そ、そっかぁ···。わぁ···お野菜だけでも高いなぁ···」

 

レストランのおもてにあったメニュー表を見て、ゆいママは静かになっちゃった。

うーん···って悩んでいたので、ぼくは言ってあげた。

 

「ぼくはこの前来たからここはいいよ?言ってみただけだし」

「そっか!じゃあゆいともうちょっと歩いてみよ!」

 

ゆいママはここはイヤそうにしてたから、別のところに行くことにする。

デートする時はちゃんと相手のはんのーを見ろって、パパが言ってた。

ずっとここにいてもゆいママはずっとこうだろうし、それなら二人で美味しいって言えるところでご飯食べたほうが楽しいと思う。

ゆいママも歩き出した瞬間から、また楽しそうな顔をしてるし、きっとこれでいいと思う。

 

「あ、抜けちゃったね」

「うん。ゆいママどっちに行きたい?」

 

道から出ると、目の前には大きなビルが少しずつ見える大きな道路に出る。

たくさんの会社が並んでいて、たくさん車が走っている。

 

右か左。

真っ直ぐ行くと駅まで行っちゃって、ゆいママたちの会社に行っちゃう。

駅前は今の時間なら、凄い人の数。

みんなご飯食べたいからね。

 

「うーん、それなら~···こっちかなっ」

「きょうこママのお家のほう?」

「あそこは響子ちゃんの''お家''っていうか···職場?でもお仕事じゃなくて半分趣味なんだけど···」

「でもいつもいるよね」

「まぁ···家みたいな···かな」

 

ゆいママとうんうん考えながら、ぼくたちはその方向へとズンズン歩いていく。

街じゃなくて、そこからちょっと離れたところにあるお家がたくさん並んでいる場所だ。

でもぼくが住んでいるようなでっかいお庭やプールがあるようなところじゃなくて、マンションとかアパートとかが並んでいて、スーパーとかがある。

 

「そうだ!今日なら誰かしらいるかもしれないから、その子たちも誘ってみよっか!ご飯はみんな一緒に食べたほうが美味しいでしょ?」

「うん、いいよ。しゅーこちゃんもいるかな?」

 

目的地が決まったので、ぼくたちはブンブンと手を振りながら、ズンズンと歩いていく。

 

そこは、346プロの女の人たちが、たくさん住んでいる場所。

でっかい食堂があって、大きなお風呂もあって、二階に上がればみくにゃんやりーなのお部屋もあって、三階にも同じように人が住んでいる。

ぼくのお家よりもお部屋の数が多い凄く大きなお家。

 

「周子ちゃんは···いるかなぁ~?今日はスケジュールはお休みみたいだったけど···」

「じゃあ寝てるね」

 

しゅーこちゃんはアイドル···だったんだけど、ぼくは今でも本当にアイドルだったのかわからない。

凄いよ、ぼくのうちに来たときは凄いんだよ。

ずっと寝てる、ぼくが朝起こしに行ったときも、一緒に寝ようって言われてずっと寝てた。

一緒にプールに行く予定だったのに、結局お庭にビニールプールを作って遊んで、お風呂に入ってまた寝た。

 

しゅーこちゃんはいつも疲れてるみたい?

たまにしきママやみかお姉ちゃんと一緒に仕事はしてるみたいだけど···。

 

「本当に寝てるかなぁ···ゆいは色々とやりたいことやらないとね~って言ってたの聞いたけど···」

「ううん、寝てる」

 

なんとなく、そんな気がする。

パパもいつもそう言ってたから。

 

「うっはぁ~、こっちくるの久しぶりだなぁ~。この前いつ来た?」

「うーん···ちょっと前。パパと来た」

 

ゆいママは珍しそうに周りを見ていた。

ぼくはこの前、アイドルのみんなを送り迎えするときに、一緒に乗ってこっちに来た。

女子寮に行くと、みんなぼくに遊びに来てねって言ってくれる。

今日は誰がいるんだろう?

 

「あ、飲み物いる?自販機あるけど」

「いい。まず、しゅーこちゃん起こしてくる」

 

女子寮···の前に、ぼくはある場所の前で止まった。

駐車場のあるアパートだった。

車を止める場所がたくさんあって、入ると階段とエレベーターがある。

このアパートの三階、きっとそこにいる。

 

「懐かしいな~」

「パパの部屋?」

 

そう、ここは昔、ぼくが生まれる前にパパが住んでいたお部屋があるアパート。

ママたちはここにたくさん遊びに来たってパパが言ってた。

一緒にご飯を食べたり、一緒にゲームをしたり、泊まって夜、パパと遊んだんだって。

 

「そう!ゆいたちもたくさん来たんだよ!朝ごはん一緒に食べて~、そのまま会社に行ったりもしたの!ダーリンのお部屋に集まってね」

「でもここ、346プロのアパートだって聞いたよ?」

「元々は違ったんだよ?でもダーリンが住んでて···そうしたほうが便利だったし、全部じゃないんだけどね~。今お部屋いくつ346の物なんだろう···。一つは響子ちゃんのだし···後は臨時で泊まれるようになってるのがいくつか···」

 

ここは今は、ほとんど346プロの物だってせんむが言っていた。

お仕事で遅くなった時も、お家が遠い人は無理に帰ることなく泊まれるようにしたって。

 

「···鍵はもうここに無いんだ」

「何やってるの?ゆいママ」

 

ゆいママは駐車場の端っこにある物置きのようなとこの扉を開けて、中に入ることもなくしゃがみこんで何かを見ているのだった。

 

「なんでもないなんでもないっ!さっ、行きましょー行きましょー」

 

さぁさぁさぁとゆいママはぼくの背中を押してアパートの中へと入っていくのだった。

扉を開けて中に入ると、ズラッと右に左に部屋が並んでいる通路に出る。

その一番右にエレベーターがあるから、それで三階まで上がっていく。

乗り込んで、ゆいママが三階のボタンを押した。

 

「きょうこママも来たかったかな?」

「来たら怒ると思うよ~」

「だね」

 

ウォーンとエレベーターが上がっていって、ゆっくりと止まった。

扉が開くと外からの風が入ってきて、下にいるよりは涼しかった。

通路に出てみると、ここは一階と違って柵になっているから外が見えて良い景色。

通路は綺麗に掃除されていて、目の前一直線に何もない。

しゅーこちゃんのお部屋は廊下を少し進んだところにあるんだ。

 

「ん~···!さてと、いるかな?」

 

ゆいママは歩きながら少し腕を上に伸ばしてそう言うと、そのお部屋のインターホンを押した。

 

「行くって電話もしてないけど大丈夫かな」

「大丈夫だよ、ゆいママ。電話してもたぶん出ないから」

 

してもしなくてもしゅーこちゃんは一緒。

無理やり引きずり出さないと休みの日は出掛けないし。

たまにぼくの家には来るんだけど、それ以外は知らない。

 

「おっかしいなー···、いないのかなぁ」

 

ゆいママがインターホンを押しても全然ドアが開かない。

何回か押してみたけど、まったく反応がない。

ゆいママはアゴに手を当てながら考え込んでしまった。

 

「もしかしたら、仕事が入っちゃったのかもね!周子ちゃんもたまにLiPPSのみんなで仕事してたりもするし、雑誌の撮影とか···」

「いや、待って。ゆいママ」

 

しゅーこちゃんはそんな簡単な人じゃない。

 

「もうちょっと待って」

 

帰ろうとしているゆいママをぼくは止めて、あとちょっと待ってみる。

 

すると、部屋の中で少しずつモゾッ、モゾッていう音が聞こえてきた。

 

「やっぱり」

「···すごっ、ゆいびっくり」

 

ゆいママと二人して待っていると、ドアの鍵がガチャガチャッて音がして、ゆっくりとドアが開いていく。

 

ガタンッと、ちょっと開いたところでドアのチェーンが引っ張られて止まり、中からヌヌヌッと女の人の顔だけ見えてぼくたちを見つめていた。

 

「···どちら様~···」

 

その女の人は掠れたような元気のないような、まるで寝て起きたばかりのような声でそう言って、まずはゆいママを見ているのだった。

 

「ヤッホ、周子ちゃん。遊びに来たよ~」

 

そんなしゅーこちゃんにゆいママは手を小さく振って元気に挨拶をすると、それに返事をすることなくしゅーこちゃんは隣にいるぼくを見下ろしてきた。

 

「しゅーこちゃん元気?」

「すこぶる元気よ~···で、今日は''いる?''」

「ううん、いない。今はぼくの家」

 

バタンッ!と、ぼくがそう言った瞬間ドアが閉まって、中でガチャガチャと音がする。

チェーンがジャラジャラと中で外されてぶら下がった音が聞こえると、ギギギーッとドアが開いていくのだった。

 

「ウェ~ルカムウェルカム~。おはよう、しょうね~ん」

「もうお昼だよ」

 

ドアを開けた瞬間、窓を開けていたのか部屋の奥からブワッと風が吹いてきて、しゅーこちゃんの良い匂いがしてきた。

しゅーこちゃんはその短くて綺麗なベージュっぽい髪の毛を手で払いながら、ニコッと笑ってた。

その時、ヒラヒラの肩が紐で腕が丸見えな薄いシャツがパラパラってなって、おへそが見えた。

 

「しゅーこちゃん、おへそ見えるよ」

「だってあっっっついんだも~ん。どーせ部屋にいるし~。ささっ、上がって上がって~」

 

にしし~って、なんだかイタズラしてるような顔でしゅーこちゃんはぼくたちを中へと入れてくれた。

玄関へ入ったのはいいけど、何だか足下にごちゃごちゃと何かが当たる感触がする。

 

「ちょっと周子ちゃん、靴!」

「ごめんごめーん。テキトーに脱いじゃってよ」

 

も~ぅ、とゆいママは足下に気を付けながら入っていって、壁に手をついて靴を脱いでいた。

 

「片付けないと怒られるよ~、周子ちゃん」

「あーあ、あーあ、そのうちやるから~、そのうち」

「靴箱にしまえば?しゅーこちゃん」

「いっぱいだも~ん」

 

歩けば歩くほど足にカタカタ靴が当たって、それを避けながら玄関に入っていくとようやくスペースを見つけた。

 

「よいしょっと」

 

ゆいママはその玄関にある靴を飛び越えるように廊下へジャンプして、脱いだ靴とまわりの靴をある程度を揃えてまわりをキョロキョロしながら進んでいく。

ぼくも玄関に入ると、ドアを閉めて鍵をかける。

 

「廊下は何もないんだねー」

「''廊下は''ね。あ、そっちの部屋は見ないでね。''検閲''の時にちゃんと片付けるからー」

 

ぼくも靴を脱いで廊下を歩くと、廊下には特に何も無いみたいだった。

でも廊下にあるお部屋のドアの隙間からその中がチラッと見えたけど、何だか色々な物が散らかってるように見えた。

 

「周子ちゃんヒールの靴多くない?」

「なんかしっくり来なくて買い直してたら増えちゃってさー。やっぱ高さが5cmあったら引っ掛かるんだよねー、溝にー」

「わかるーっ!」

「ほーんともう、ネットって試せないからツラいわー」

 

しゅーこちゃんはそう言いながら頭をポリポリとかいてリビングの扉を開ける。

可愛いモフモフとした絨毯に、小さなソファー。

テレビ、テーブル、それら全部が白で揃ってて、凄くお部屋の中は綺麗でいい匂い。

だけど、ソファーには服が掛かってるし、テーブルの上にはお化粧の時に使うような小さなビン、鏡、パレットが置いてあって、その横には···ハンバーガ屋さんの袋?

 

「ああ、ゴメンゴメン。朝ごはんデリバリーでさ」

「しゅーこちゃん、ちゃんとご飯作って食べようよ」

「お休みだったからさー。今日だけだよ、今日だけっ。紗枝はんには内緒ね?」

「でも片付けなよ」

「ゴメンってー、何だか響子ちゃんに似てきたねキミ」

 

しゅーこちゃんは、テーブルの上にあったハンバーガーの袋を取ると、クルクルと綺麗に丸めてキッチンの横にあるゴミ箱へと捨てた。

 

「ちょっ、周子ちゃんキッチンっ」

「後でやるからー、後でー」

 

なんだかしゅーこちゃんはいつもこんな感じで、今もゴミを捨ててくるとすぐにリビングのソファー···には座らずに、隣の床に置いてあるビーズクッションにズモッと座って、ゆいママにヒラヒラと手を振っていた。

 

「まったくもう。ゆいちょっと片付けるねー」

「あ、バッグお預かりしまーす」

 

ゆいママから受け取ったバッグを床に置くとすぐにダラーンとなって、手を広げて寝転がるのだった。

 

「あっっっつい、あっついあっつい、もう何もやる気しなくてさー、ねー?少年。ふー、窓開けないとやってられないわー」

 

そのまま服を掴んでパタパタと扇ぎ、暑そうにしているしゅーこちゃん。

窓から吹いてくる風に当たりながら、しゅーこちゃんは大きく手を上に伸ばすと、服を直すことなくそのままビーズクッションの上に大きく仰向けに寝転がる。

 

「しゅーこちゃん、おへそ」

「まぁまぁ少年、立ち話もナンだから座って座って。ほら、おなかおなか。シューコちゃんのおなか」

 

ぼくもしゅーこちゃんの隣に寝転がると、しゅーこちゃんはぼくの手首を持って自分のおなかの上でナデナデさせてくる。

ぼくみたいに外で遊んだような日焼けの痕がなくてボツボツもない、サラサラしてるけど、少しモチッとした綺麗なお肌。

前に一緒にプールで遊んだときはお薬を塗ってたから、それもあるのかも。

 

「ポンポンはダメだよ、ナデナデねー」

「なんで?」

「先週ちょっとシューコちゃん、お腹痛かったの。だからね、優しく、やさしくー」

 

しゅーこちゃんに言われた通りに力を入れずに滑らせるように動かす。

するとしゅーこちゃんは目を閉じてもの凄くリラックスするように体の力を抜いていた。

 

「大丈夫なの?しゅーこちゃん。病院は?」

「大丈夫大丈夫、もう治ったから。いつものことなの」

 

えへへーっと、しゅーこちゃんはこっちを向いて笑う。

寝転がってるから、まるでいつもみたいに上から見下ろしてるような顔だった。

しゅーこちゃんはぼくの手首を持って、ゆっくりとナデナデを続ける。

 

「少年のおてて、あったかいねー」

「よくなった?」

「よくなったよくなった、すごい···うん、お腹の中あったかいわぁー。ありがたやありがたや」

 

お腹の下辺りをゆっくり撫でてあげると、しゅーこちゃんは手を離してくれた。

いつもお腹痛くなるなんて、しゅーこちゃん大変だ。

 

「えっコレ、周子ちゃん大丈夫?結構キツめのやつだけど、ロキソニン」

「うん、ホントに大丈夫大丈夫。今月は久しぶりに結構なの来ただけだから、もうOKOK

 

ゆいママはキッチンの端に置いてあった、風邪薬の箱みたいなのを持ってしゅーこちゃんにそう聞いていた。

あ、あれぼくのウチにもあるやつだ。

りなりなも前に飲んでた。

 

「それならいいけど···、じゃあしまっとくね?」

「あ、2錠くらいちょうだい。バッグのケースに入れとくから」

 

しゅーこちゃんがそう言うと、ゆいママは箱の中からお薬を取り出してちぎって、しゅーこちゃんに渡していた。

 

「お薬のケース?」

「そっ。これが風邪薬で、花粉のやつにー···今のやつよりも軽い薬とー、普通のやつ。痛み止めね」

 

テーブルの横に置いてあったいつも持っているバッグをしゅーこちゃんは開けて、中から小さなプラスチックのケースを取り出す。

手のひらよりも小さなサイズのケース、その蓋をスライドして開けるとその中にしゅーこちゃんはお薬を入れていった。

他にもいろいろなお薬が入っていて、白とか黄色とかのお薬がある。

 

「しゅーこちゃん大変だね」

「んー···?んっふっふー」

 

しゅーこちゃんはぼくのほうをちょっと見ると、そうやって少し笑っただけでそのままバッグの中にお薬箱をしまっていた。

しゅーこちゃんは時々、こうやって笑うだけで何も教えてくれないことがあったりする。

 

「痛くなったら言ってね、またナデナデするから」

「ふふふふふー、しょうねーん」

 

お薬をしまったバッグをまたテーブルの横に置いたしゅーこちゃんは、ビーズクッションに仰向けになってぼくの頭を撫でてきた。

 

「少年は将来、イイ男になるかもね」

「ホント?」

「どうかなー?」

 

それだけ言うとしゅーこちゃんはビーズクッションの後ろまで大きく手を伸ばして体をノビーっとして寝転がる。

 

「あ、テレビでも見なよ。よいしょっ、ふぇ~ーーーーー···」

 

しゅーこちゃんはリモコンでテレビを点けると、そのままため息なのかよくわからない声を出して、リモコンを持ったまま後ろに伸びて動かなくなった。

テレビでは346プロのアイドルの人たちが浜辺で歌ってた。

仰向けになったから、風でしゅーこちゃんのTシャツがまたパタパタ揺れてる。

ぼくはそんなしゅーこちゃんの隣に座って、キッチンにいるゆいママを眺めていた。

 

「これは···こっちで、これは···そっちか。もぉ~、なんか色々なもの出しっぱなし~」

「後でやろうと思ってたんだよ~。後で~」

「そう言っていっつもやってないんじゃーん」

 

流し台の隣に置いてある白い箱の中からお玉とかしゃもじとかを取り出して、壁の金属のアミアミに引っ掛けていくゆいママ。

これならどこに何があるのか料理をしていてもわかりやすい。

ぼくのお家でもママがそうやって使っていた。

 

何だかのんびりとしゅーこちゃんと過ごしていると、しゅーこちゃんは聞いてきた。

 

「で、今日は二人ともホントは何しに来たの?。っていうか、何しに外に出てきてたの?」

 

しゅーこちゃんは起き上がってぼくと同じように座ると、返事を待っていた。

そうだ、ご飯食べに来たんだった。

しゅーこちゃんの雰囲気に飲み込まれそうになっていた。

 

「あ、そうそう!そうだった!周子ちゃん今ヒマ?」

「見ての通りですー」

 

しゅーこちゃんは手を広げながらそう言う。

手を戻すと、その途中でぼくを背中から抱き締めてきて、しゅーこちゃんの前にズリッとズラされた。

 

「じゃあさ、ゆいたちご飯食べようと思ってこっち来たの。よかったら周子ちゃんと、女子寮にも誰かいたら一緒にどうかな~って」

「女子寮···あ、今ならあの人たちいるかもね。曲作るって昨日会社で言ってたし」

「だれ?しゅーこちゃん」

「ん~、ないしょー。すっごい楽しい人たちー」

 

しゅーこちゃんはぼくの肩の上から前に手をまわしてきて、耳元でそう言うとギューッと抱き締めてくる。

 

「このまま抱き枕にして寝るのもいいかもなー」

「ヤダ、お腹空いたもん」

「周子ちゃんダメだよ!ご飯はちゃんと食べないと!ほら行くよ!」

 

お片付けが終わったのか、ゆいママがリビングに戻ってきて、ぼくたちを見下ろしながらそう言った。

ゆいママは床に置いてあったバッグを持つと、腰に手を当ててしゅーこちゃんを見ていた。

 

「ゆいもお腹空いてるんだからっ」

「ぶーっ、わかったよーん」

 

しゅーこちゃんはぼくの頭の上にアゴを乗せたままそう言うと、ぼくの後ろからゆっくりと立ち上がる。

 

「ふんっ···んーー···っと。はぁ~、じゅんびしますかー」

 

腕を大きく上に上げながら、体を気持ち良さそうに伸ばしているしゅーこちゃん。

窓から風が吹いてきてTシャツがパタパタと揺れるから、座ってるぼくからは中が丸見え。

 

「しゅーこちゃん、おっぱい見えてるよ」

「おや、エッチ~」

「もうっ!周子ちゃん!」

 

ごめんごめんて~、なんて言いながら手をまねき猫みたいに動かしながら、しゅーこちゃんはベッドがあるお部屋へ入っていって押し入れの中の三段ケースから服を取り出していた。

 

「とりあえずちょっと片付けておいたから、後は自分でやってね!」

「へいへーい、もうちゃんとお母さんじゃん、唯ちゃん」

「お母さんみたいなもんだからねっ!ゆいだって、おっぱい見られてるし!ねっ?」

「うん、まぁ、見たことあるけど···。しゅーこちゃんのも何回もあるよ?」

 

一緒に何回もお風呂入ったし。

しゅーこちゃんと入るとちゃんとお風呂の中に入ってないといけないから大変。

キチンと暖まらないと出られないし、いつも最後に上がるのはしゅーこちゃんだった。

 

「少年はいつか、このありがたみに気付くときがくるんだよ。そう、いつの日か···」

「なに言ってるのかわかんない。早くブラジャー着けて、ぼくお腹空いた」

「しんらつ~」

 

しゅーこちゃんはTシャツを脱ぐと、ブラジャーを着けてちゃんとした服に着替えていた。

下が涼しそうな、膝の上まである白いズボンにして、上も首から少し下まで見えるような可愛い服。

さっきまでのダボダボTシャツ姿とは大違い、綺麗な女の人に大変身していた。

女の人って凄い、うづきママもかなママも寝てる時とは違って大変身する。

 

りあむは別。

 

「これでどう?変じゃないかい?」

「うん、凄い綺麗だよ。しゅーこちゃん」

「いいねー少年。大きくなってもそれを堂々と言える大人になりたまえ」

 

そう言ってリビングに戻ってきたしゅーこちゃんは、窓を閉めてテレビを消して薄いほうのカーテンを閉めて、部屋の角に置いてあった自分の小さなバッグを持ってきて中を確認していた。

 

「しゅーこちゃん鍵は?」

「かべー」

 

しゅーこちゃんが指をさすほうを見てみると、廊下に出る扉がある壁、このリビングの電気のスイッチのところに鍵がくっついてぶら下がってた。

近づいてよく見てみると、電気のスイッチの外枠のあたりに鍵がくっついてる不思議な光景だった。

 

「なにこれ」

「すごいでしょー、零次さんがここ出てく前にやってくれたんだー」

「へぇ~、ゆいもやってもらおうかなー」

 

鍵を取ってみると、子どものぼくでも簡単に取れた。

どうやらこの電気のスイッチの外枠のプラスチックの中に磁石が貼り付けてあって、そこにこの鍵の輪っかの部分をくっつけて垂れ下がってるみたい。

 

「こういうとこ器用だよね、零次さん」

「まぁ、ダーリンは車直せるくらいだしねー」

「はい、しゅーこちゃん。鍵」

「どもどもー」

 

これなら出掛ける時に簡単に鍵が取れて、失くすこともない。

パパはこういうように色々なものを改造するのが得意だった。

''物は使いよう''だって。

 

「零次さんのこういうとこが好きなんだよなー」

「パパのこと好きなの?」

「どうかなー?」

 

鍵を指に引っ掛けてクルクル回しながらしゅーこちゃんは言う。

ニコニコ笑っているけど、しゅーこちゃんの考えていることはよくわからない。

 

「はい行くよー。よいしょっ、はいはいはいはいー」

「ぐえっ」

 

しゅーこちゃんは肩にバッグを掛けると、ぼくの両脇を掴んで持ち上げると、そのまま玄関までぶら下げられたまま運んでいく。

 

「しゅーこちゃーん、降ろしてー」

「たまには遊びに来なよーん」

 

廊下を進んでいって玄関まで行くと

 

「はいっ、着地」

 

ストッと玄関に降ろされて、しゅーこちゃんは隣に並ぶとしゃがんで靴を探していた。

 

「片付けないと、きょうこママに起こられるよ」

「また''検閲''のときにこっそり教えてね」

 

前はきょうこママがしゅーこちゃんのお部屋に遊びにいこうとしているのをこっそり教えてあげた。

その前にきょうこママがここに遊びに来たときに物凄く''お片付け''されたって一緒に寝たときに言ってたから、これはきょうこママには内緒。

 

その時は、''たぶん次はない''ってしゅーこちゃんも言ってたし。

 

「これかなー」

「ゆいのもとってー」

 

女の人は靴を履くのに時間がかかる。

夏用のこの小さなベルトみたいなのがたくさんついている靴を履くのが難しいみたい。

ぼくはただ履くだけでいいので、ゆいママがドアを開けて外に出ておいた。

 

「あ」

「ア」

 

通路に出た瞬間だった。

しゅーこちゃんの隣のお部屋のドアの前にいる女の人と目があった。

 

「あきらママ」

「こんにちは。遊びに来てたんデスか?」

「うん。ゆいママもいるよ」

 

りんママみたいな黒い髪。

それを後ろで一本に纏めたかのような髪型。

お仕事から帰ってきたのか、ヒールじゃなくてぼくと同じような履きやすい靴に涼しそうな格好。

 

あきらママも346プロの社員の人。

昔はアイドルをやっていたみたいだけど、今は違う。

会社に行くのは珍しい、あきらママは他のママたちとちょっと違う。

 

「あっ、あきらちゃん。おつかれー」

「お疲れ様です。皆さんでお出掛けデスか?唯さんもいるとか」

 

ポケットから鍵を取り出して、部屋のドアの鍵を開ける。

その鍵には、ゲームのキャラクターのキーホルダーが付いていた。

 

あきらママはゲームをするのがお仕事、プロのゲーム配信者っていうお仕事。

どんなゲームをやってもあきらママに勝てない、買ってきたばかりのゲームをやっても勝てない、凄いカッコいい。

いつかあきらママを倒すのが目標。

 

でも、あきらママと協力して一緒にパーティーゲームをするのも好き。

 

「はいはーい!お疲れあきらちゃん!あ、りあむちゃん今この子の家にいるよ」

「エッ···、あのまま行ったんですかりあむサン」

「お風呂は入ってたみたいだけどね」

 

あきらママが何だか苦いものを食べたときみたいな顔をしていた。

あきらママもりあむと凄い仲良し、あかりんごとも仲良しだし、でも最近はみんなに会えないって言ってた。

 

なぎとはやてとも仲良しで···みんないつ来たかな?

またみんなでゲームしたい。

 

「あっ、あきらちゃんもお昼一緒にどー?」

「自分はその···申し訳ないんデスが、丁度収録というか配信が会社で終わったばっかりでその···動画が···シリーズ物だったので···眠くて」

 

よーくあきらママの顔を見てみると、話すのを止めた途端、目はパチパチと閉じようとしているけど何とか開く···みたいな、とても疲れているような顔だった。

髪の毛もところどころボサボサ。

 

もの凄く眠そうだった。

もしかしてずっと会社に行ってゲームしてたのかも。

最近お家に来なかったのもそのせいかな。

 

「PCのスペックに釣られたのがマズくて···、やっぱり環境が違うとトークも中々ノらなくて···反省点が目立ちます」

「うわ~···ゆい、ゲームのことはよくわからないけど、ストレス溜まりそうだね」

「そうですね···。そのせいなのか、今月ちょっと···二回来まして」

 

あきらママが自分のお腹をさすってる。

しゅーこちゃんみたいに痛いのかな?

 

「あらら、それは限界だ。休んで休んでー、お薬あるけど?」

「いや、もう終わったんで···大丈夫デス」

 

あきらママはお腹を押さえながら、しゅーこちゃんにそう言った。

 

女の人はお腹が痛くなって大変だ。

しゅーこちゃんもあきらママも他のママたちもみんなそれは知ってて、でもそれは病気でも風邪でもない。

大人の人って不思議でいっぱいだった。

 

「じゃあご飯はまた今度ね!その時はまた誘うから!」

「すみません、またよかったら誘ってください」

「また今度ゲームしよ、あきらママ」

 

ぼくがそう言うと、あきらママは精一杯笑って手を軽く振って、部屋の中へ入っていく。

ゆっくり休めればいいんだけど、ママたちって大変だ。

 

「んじゃ、行こっか!」

「うん」

 

ゆいママが先に歩いてエレベーターへと向かっていく。

そんな中、しゅーこちゃんはぼくを見てニヤニヤと笑ってた。

 

「えらいぞー、少年。あきらママと遊びたくなかったの?」

「それどっちの意味?遊んだほうがよかったの?」

 

しゅーこちゃんはよくわからない。

エレベーターのボタンを押して、ごほうびにお先にどうぞーなんて言ってくれるけど、何がごほうびなのかわからない。

 

「いやいや少年、あそこで今日は遊びたいって言わなかったのは中々だぞ?」

「だって、あきらママツラそうだったし」

「よしよし」

 

ゆいママもぼくの頭を撫でて、ニコニコと笑っていた。

エレベーターの扉が開くと、二人はぼくの手を握って一緒に降りていく。

右にしゅーこちゃん、左にゆいママ。

ぼくは両手を握られたまま、アパートの駐車場に出ていく。

 

「偉いぞー少年。そういうのがわかる大人になりな」

「なんでエライの?当たり前のことじゃない?パパもそう言ってたし」

「世の中わからない男がいるんだよこれがー。偉いぞーっ」

 

ほーい、よいしょー、っと、二人はぼくの両手を上に上げて、ぼくがぶら下がるようにして遊んでくる。

ブラブラ揺られたり、また歩いたりして、ぼくたちは駐車場を出て歩道を進んでいく。

 

「やっぱりあっっっついねー外、冷たいものにしようよお昼」

「もうゆいも溶けちゃいそう···」

 

太陽さんがやっぱり眩しくて暑くて、ゆいママはおでこを拭って、しゅーこちゃんはアゴまでたれてる汗を手で拭き取る。

確かにずっと歩いていると、頭の中に冷やしラーメンとか、アイスクリームとか、スイカとか、色々と冷たいものが浮かんできてそっちのことばかり考えてしまう。

 

ご飯を食べる前にアイスはきょうこママに怒られるから、やっぱり冷やしラーメンとかがいいかも。

 

「もー、早く女子寮に行ってみんな誘ってご飯食べにいこ!ほら!ここのスーパーで何か買ってもいいし!」

「ここのお弁当何気に美味しいんだよねー。零次さんと響子ちゃんのお墨付きだし」

 

パパもよく行ってたっていうスーパー。

きょうこママもよく使ってるっていうし、パパもアイドルの人を女子寮に送っていった帰りに、ママがいなくてご飯が無かったらたまに買ってくる。

スーパーの前を見てみると、並べてある美味しそうなスイカをお客さんたちが楽しそうに眺めていた。

 

「ほらほら!あの角を曲がったらすぐだよ!外に行かなくても女子寮でもしかしたら何か食べてるかもだし!」

 

ぼくたちはそんなスイカたちから目をそらして少し早歩きで歩く。

しゅーこちゃんも実はお腹が空いてるのか、ぼくの手を引いてスタスタと歩き始めた。

朝ごはんにハンバーガー1個だったらやっぱり大人には足りなかったのかな。

 

「はいー、着いた着いたほいほいー」

 

そうしているとあっという間に女子寮に着いたぼくたち。

 

「おおーっ、ゆい来るの久しぶりー。ふぅ~」

 

ゆいママがまたおでこの汗を拭いている間に、しゅーこちゃんが女子寮のフェンスの扉の向こう側に手を入れて鍵を開け、ギギギとその鉄の扉を開いた。

 

「おや、庭の芝あそこ入れ換えたんだ」

「ホントだ!メチャ綺麗になってる!」

 

お庭の中に入っていくと、前に来たときに見たお庭の端の少し枯れてしまっていた芝が綺麗な緑色になっていた。

これでまたはるちゃんとサッカーができる。

 

「響子ちゃんいないなら今日はおばちゃんかなー?」

「じゃあ顔パスだね」

 

しゅーこちゃんとゆいママはものすごく慣れた感じで入っていくけど、やっぱりいつ見ても大きなお家だなーって思う。

 

綺麗に作られたコンクリートの道を進んだ先にあるでっかい建物。

右にも左にも大きなお庭。

建物は三階立てで、横にも大きなお家で、窓がたくさん付いていて、上に上っていく階段にも窓が付いていて外が見えるのが凄い。

ちょっとした屋上もあって、そこで焼き肉をしたこともある。

ぼくが上を見上げてもその屋上が見えないくらい大きいお家。

 

中に入ると大きなリビングがあって、そこでみんなでいつもご飯を食べるんだよ。

でも時間を過ぎると貰えなくなるんだって。

たまにみんなで映画を見たりゲームをしたり、毎日凄く楽しそう。

二階と三階に行くと、廊下にズラッと扉が並んでいて、らんこちゃんとかりーなとかのお部屋があって、新しく入ってきたアイドルの人達もいる。

 

「おや、リビングに誰もいない」

「みんなお昼ご飯食べちゃったかな?」

 

しゅーこちゃんは大きなガラスの扉越しに中を覗き込むと、その後ろからゆいママも同じようにしてそう言った。

 

「お昼ご飯の時間帯だから、まだおばさんに言ったら食べられると思うけど···」

「とりあえず入ってみよっか」

 

ゆいママがちょっと下がると、しゅーこちゃんがそのガラスの大きな扉の取っ手を引っ張って開ける。

ギュパァッと少しゴムが擦れるような音がすると、グワッと大きく扉が開いた。

 

その瞬間、ホテルみたいないい匂いがして、涼しい風が中から吹いてくる。

 

「すーずしー!」

「はい入ってー、はい閉めはい閉めー」

「ゆいママはーやーくっ」

 

ぼくたちがそう言うとゆいママは慌てて玄関に入って扉を閉める。

するとその玄関に涼しい風が吹いて、ぼくもTシャツをパタパタした。

ごめんごめんとゆいママが手を立てて謝っている隙に、しゅーこちゃんが壁際の窓からその奥の部屋を覗き込む。

 

「おばちゃーん、おばちゃーん?」

 

窓の横にあるピンポンを押しても出てこないので、しゅーこちゃんは窓を開けて顔を中に入れながら叫ぶけど中々出てこない。

 

「いないのかな?」

「うーん···」

 

ぼくがゆいママに聞いてみると、ゆいママも顔を斜めにする。

ぼくたちの目の前には中に入るための大きな自動ドアがあって、目の前に立つだけじゃ開かない。

この窓の奥にいるおばちゃんか、中から開けてくれない限り中に入ることができない。

女の人しかここにはいないから、セキュリティは万全ってせんむも言ってた。

 

いつもはここにいるはずなんだけど、二階にでも行ってるのかな?

 

「あ」

 

ぼくが何気なく自動ドアの奥にある階段を見ると···いた。

 

「どしたの?あっ」

 

ぼくの声でゆいママもそっちを見ると、同じように気づく。

偶然上から降りてきたのか、その人物はぼくたちを見つけると、こちらを覗き込むような仕草でゆっくりと自動ドアに近づいてきた。

 

女の人で背が高くて、カッコいい人だった。

髪が長くて、目がキッとしててキリッとして、ペットボトルを片手に近づいてくる。

涼しそうな格好だった。

袖が無くて肩からヒモが伸びてるだけの、スポーツ選手が着てるようなTシャツに短いズボン。

 

『おー?なんだなんだぁ?珍しい組み合わせだなぁ』

「たくみじゃん」

 

ぼくがそう言うとたくみはハッハッハッて笑って、壁にある大きな柱に寄りかかって腕を組んでいた。

そうか、しゅーこちゃんが言ってた面白い人たちってたくみのことか。

 

あれ、でも人''たち''って言ってたなしゅーこちゃん。

ってことは

 

「たくみ、もしかしてみんないるの?」

『ああいるぜ。上に、上上』

 

するとたくみは上に向かって指をさす。

そっか、''えんじん''のみんな上にいるんだ。

 

「たくみーん!ここ開けてー!」

『ちょい待ちー、ちょっと待ってな』

 

ゆいママがぼくの後ろから中のたくみに向かってそう言うと、たくみは自動ドアの周りをキョロキョロし始めた。

するとしゅーこちゃんがこっちに気づいて近づいてくる。

 

「おばちゃんいるの?この奥にいなかったんだよね」

『あ、上にいるわ。ちょっと待ってな、開けていいか聞いてくるわ』

 

手でちょっと待っててとこっちにジェスチャーすると、たくみはトントンッと階段を登っていって、しばらくして降りてきた。

おばちゃん上の洗面所でも掃除してたのかもしれない。

 

『入っていいってよー、そこの帳面も書いてくれって』

「ああ、もう書いた書いた。拓海左だわ、あ、違う違う拓海から見て左。そう、その壁のスイッチ」

 

たくみはしゅーこちゃんに言われるがままにキョロキョロ周りを見回して壁のスイッチを見つけると、これか?と確認してからスイッチを押すとやっと自動ドアが開く。

 

「やっと入れるー!涼しー!」

 

ゆいママに続いて入っていくと、たくみが小さく手を上げて挨拶してきた

 

「ようっ、久しぶりだな坊主」

「久しぶりだねたくみ」

「ちょっとおっきくなったんじゃねーか?」

 

入るなりぼくの頭をわしゃわしゃと撫でてくるたくみだった。

 

たくみはなんだか男の人みたいなしゃべり方するけど、ちゃんと大人のお姉さん。

こう見えてママたちと同じアイドルだったんだよってみんな言うけど、たくみがフリフリした可愛いお洋服着てるのがぼくは全然想像できなくて、みんな嘘を言ってるんじゃないかと思う

 

「ああー、涼しーねー。ってか退出時間ってテキトーでいいの?」

「いい、いい。書いてくれさえすればいいってさ」

 

しゅーこちゃんも受付のところに置いてある本に色々と書き終えると、中に入って手のひらで顔を扇いでいた。

ここに来たときには、来たよっていうのをその本に書かなくちゃいけなくて、それで誰がいつ来たのかっていうのがわかるんだって。

それで怪しい人が来ないようにしてるって。

 

「とりあえず上に来いよ、みんないるからさ」

「そ?お邪魔しまーす」

「お邪魔しますっ!」

 

しゅーこちゃんに続いて、ゆいママと一緒に中へと入っていく。

たくみを先頭にして歩いていくとリビングが見える、けどもう誰もご飯を食べていなかった。

 

「それにしてもよく来たなぁ、外暑かったんじゃねーのか?」

「めーっちゃ暑かったよたくみ」

「だからここ天国ー!」

「ハッハッハ、ちげーねーなっ」

 

階段を上がっていくと、上からのエアコンの風も吹いてきて凄く涼しい。

階段の窓から外が見えたけど、よくこんな中を歩いてきたなと思った。

 

「しっかしなんで今日は外歩いてたんだ?仕事ねーんだから、家で涼んでりゃよかったのに」

「あたしはそうだったんだけど、この子に連れ出されちゃった」

「お昼ごはん食べようとしてゆいママと歩いてたの」

「ああっ!あー!あー!あーっ」

 

たくみが何かを思い付いたのか、指を立てて天井に向けたあと、ぼくたちを指差した。

 

「グッドタイミングじゃねーかよー、おいー。ハッハッハー」

 

二階に着くと、たくみは携帯を取り出してどこかに電話を掛けはじめた。

そんなたくみの後を着いていくと、丁度洗面所の前を通る。

 

「あ、おばちゃん」

「あら、いらっしゃい。ゆっくりしていって」

「お邪魔しまーす!」

 

しゅーこちゃんとゆいママに合わせて、ぼくもペコッと頭を下げる。

 

おばちゃんが一生懸命その洗面所をお掃除してた。

おばちゃんがお掃除してくれてるおかげで、このお家も凄くピカピカ。

奥までずーっと伸びてる廊下もキラキラしてるし、お部屋のドアまで全部綺麗で、天井の電気もこの間全部もっと明るいやつに取り替えたって言ってたから、凄く明るい。

 

きょうこママが''電気代が安くなった!''って喜んでた。

 

「おばちゃんも変わらず元気でよかったねー」

「響子ちゃんが来てくれるようになってから凄く助かってるって前にゆい聞いたよ。もう見違えるように色々なところが綺麗になって凄いって!周子ちゃんも一緒にやればよかったのにって」

「あたしは向いてないない、きっとない」

「···よしっ!飯は確保だ!」

 

たくみが携帯をしまいながらそう言ったから、ぼくはたくみを見上げたんだけど、ニッシッシッて笑ってた。

 

「今日は食堂やってないんだ?珍しいね」

 

しゅーこママがたくみにそう言った。

前に住んでいたみたいだし、珍しいのかも。

 

「昼だけな。だからアタシたちも、みんなで飯でも食おうかって話になってよ。なんだなかんだ言い合ったら、作るかってな。部屋にコンロもあることだし」

「何食べるの?」

 

たくみに聞いてみたけど、''まぁまぁまぁ''ってもったいぶって教えてくれなかった。

お楽しみってやつだって。

 

「まぁとにかく、中で待ってようぜ」

 

たくみは洗面所から少し歩いたところの、廊下の真ん中くらいの場所で立ち止まって、お部屋の扉を開ける。

ここ、らんこちゃんのお部屋のはずだけど、開けた瞬間に見えたのは、しゅーこちゃんちみたいに靴がごちゃっとした玄関だった。

どれも色も形も違ってて、なんだかみんなで友達の家に遊びに来た時みたいな感じになってる。

どう見てもらんこちゃんの靴じゃない。

 

「おいっ、靴揃えとけって言ったろお前らぁー」

 

靴の中をなんとか歩きながら、たくみはそう言いながら部屋へと入っていった。

そうすると、奥から''ハイハーイ''って返事が返ってくる。

 

「ごめんぽよー、たくみんー···おや?おやおやおや?」

 

玄関の奥からたくみの脇を通り越して、こちらを覗き込むようにわざと手をおでこに当てている女の人が一人。

長い金髪で、おめめがパッチリの長いまつ毛。

でもゆいママとは違うサラッとしたその長い髪が肩からスルッと前に落ちながら、ぼくをジッと見て朝のゆいママみたいに''おやおや?''って言ってくる。

 

「ちょりーっす~。おつぴょ~ん」

「りなりな、おつぴょん」

「おいおい、変な言葉覚えさせんなよ···?」

 

たくみが困ってる横で、頭のおでこあたりでピースしながらぴょんぴょん言ってくるのは、りなりな。

 

「まぁまぁたくみん。英才教育?しなきゃだし」

「ギャルにする気かよお前、グレたらどうすんだ」

 

ママたちと同じ会社の人だけど、りなりなは''ギャル''なんだって。

今はアイドルじゃなくて、ゆいママと同じ色々な格好で写真を撮られる仕事をしてるみたい。

 

でも、りなりなのスゴいところはそれだけじゃないんだよ。

あ、奥から別な女の人が来た。

 

「里奈。アンタのアレ、めっちゃ使いやすいよ。めっちゃいい」

「でしょー?りょーちゃ。アタシのことソンケーしてくれてもいいよ?」

「するする、小物めっちゃ片付いたし」

 

なんとりなりなは、パパがいつも使ってる工具を使って色々なことが出来るスゴいお姉さん。

たぶんパパの工具を使うことができる人なんてママたちの中でもりなりなくらいしかいないと思う。

前にりなりなのお部屋に遊びに行ったときにも、りなりなが作った色々なモノを見せてもらった。

そのお部屋の角に置いてあった、木でできた棚はお店で売ってあるやつみたいだったし、トイレットペーパーを置く棚も自分で作ったって言ってた。

 

「おっ、やぁ、来たのかい?」

「うん。こんにちは、りょうさん」

「···うん、こんにちは」

 

そんなりなりなの後ろからこちらを覗き込んでたのは、りょうさんだった。

 

松永涼さんもたくみたちの仲間だけど、たくみとは違ってとても···静か?ていねい?な人で、今も耳につけてる可愛いイヤリングをシャラシャラさせながら、こっちに向かって軽く手を振っていた。

 

「唯も周子も久しぶり」

「ひっさしぶり~!外暑くてもうやんなっちゃう!」

「おじゃましまーす。蘭子ちゃんいないけど」

 

ゆいママもしゅーこちゃんもりょうさんにご挨拶すると、この玄関の端っこのほうになんとか靴を置いて中に入っていく。

 

みんなみんなアイドルの仲間で、昔から知り合いみたい。

よくりーながたくみのバイクに乗せてもらってツーリングに行ったって話してくれる。

たくみのバイク、スゴいカッコいいんだよ。

 

「おいでよ」

 

ぼくがどこに靴を置こうかと迷っていると、りょうさんが靴をよけてくれて小さくスペースを作ってくれた。

 

「うん、ありがと」

「どういたしまして」

 

玄関の中に入ると、いつものらんこちゃんのお花みたいないい匂いがして、廊下にあるガスコンロと、その奥の部屋に繋がる白い薄いカーテンみたいなのが見えた。

 

「勝手に来て入っていいの?」

「蘭子もいいって言ってたって、拓海が言ってた。さっき電話してなかった?」

「ああ、そうだった」

 

あれはらんこちゃんに電話してたんだ。

ってことは、みんなこの中にいるってわけか。

···結構、ギュウギュウになっちゃうかもだけど大丈夫かな?

 

「あきおねーちゃんもいる?」

「いるよ、今ちょっとトイレだけど」

 

玄関を閉めて靴を脱いで上がっていく。

綺麗にお掃除された木の床と、黒くて小さい絨毯···キッチンマットって前に言ってたかな?

それがキッチンのコンロの前の床に敷かれていて、その丁度お向かいがトイレとお風呂になってる。

 

「おっとっと!失礼したでありま···隊長!」

 

ぼくたちがその前を通りかかったちょうどその時に、トイレのドアが開いて女の人が出てきた。

その喋り方から、誰なのか一瞬でわかる。

 

「あきおねーちゃん、こんにちは」

「こんにちはであります!隊長殿もお変わりなさそうで!」

 

''ピッ''とぼくもあきおねーちゃんも頭に手を当てて敬礼するとぼくの後をついてお部屋の奥へ進んでいく。

 

あきおねーちゃんは鉄砲の使い方を何でも知ってるお姉さん。

パパのお部屋に飾ってあるスナイパーライフルもあきおねーちゃんから貰ったものって言ってた。

一緒に水鉄砲で遊ぶとスゴい楽しい。

この前しゅーこちゃんも一緒に遊んだ。

 

「亜季さんこんにちはー」

「周子殿!唯殿まで!今日はみなさんお揃いでお出かけでしたか!」

「ご飯食べに来たんだよ~!みんなはここに何しに来てたの?」

 

らんこちゃんのお部屋に入ると、真ん中にある一つのテーブルを囲んでみんな座っていた。

床に座ったり、らんこちゃんのドレッサーの椅子に座ったり、ベッドに座ったり。

テーブルには飲み物とか携帯電話とかハンドクリームとかメモ帳とかが置かれていて、そこでみんなワイワイお話してた。

 

「ちょっと曲を作ってたのさ。だりーと蘭子も居たしな」

 

ポロポロンと、部屋の中に響き渡るようなギターの音が、らんこちゃんのベッドの上から聞こえた。

 

りーなと同じような髪型だけど、中身が全然違う。

昔の写真を見せてもらったけど、その時は髪の毛が上に上げられていて全然同じ人には見えなかった。

ギターがスゴく上手なお姉さん。

 

「なつきち、こんにちは」

「はい、こんにちは。よく来たな、ゆっくりしてきな」

 

するとシャラシャラーンと、静かにギターを少しだけ引いたなつきち。

 

なつきちもアイドルだったんだって。

その時からりーなの師匠で、今もよくりーなと一緒にギターを引いているのをよく見る。

 

なつきちが言うには、昔のりーなは···なんだっけ、''ニワカ''?とかなんとかいう称号があったとかなんとか言ってたけど、それをなつきちが言うといっつもりーなが、''あんとき私まだ高校生だったし!''ってなつきちに言う。

 

でも、ギターはまだなつきちのほうが上手で、りーなのよりも安いギターなのに物凄く色々な音が出る。

ギターの価格にこだわるのはちゃんと弾けるようになってからなんだって。

違いがわからないから。

 

「よっこらしょっと。ホラ、おまえも来いっ、よしっ。今日はお前んちに誰が来てたんだ?」

「りんママと、きょうこママと、うづきママと···奥の部屋にしきママと、途中でゆいママが来て、さちことりあむが来た」

「響子ちゃんの朝ごはんマジ裏山ぽよ~」

 

床に座ったたくみに手をつかまれると、引き寄せられるようにたくみのあぐらをかいている足の真ん中に座って、背中からぼくのお腹に手を回してきてくっつかれた。

たくみのおっぱいが頭の後ろに当たって柔らかくて、たくみがイスみたいになってくれてるから凄い楽チン。

 

「ハッハッハ、相変わらず大所帯だな」

「でも、ゆいが来てちょっとしたら凛ちゃんと卯月ちゃんはお仕事で出てったんだ。それでその後にさちこちゃんとりあむちゃんが来て···りあむちゃん、とてつもない洗濯物だったから、頑張って響子ちゃんと洗ったっていうか、あれは処分するっていったほうがいいカモ」

「そんなに酷かったのかふっふっふ、やるなぁ、はっはっはっお前のママたち!ふふふっ」

「森でしばらく暮らしたら相当でありますよ!響子殿にも敬意を表します!」

 

ぼくの後ろで笑ってるたくみと、それを見て''いやいや、マージでヤバかったホントホント、笑い事じゃなくて''と自分の顔の前で手をチョップの形にして左右に振りながらビミョーな表情をしていたゆいママ。

 

あきおねーちゃんは経験があるのか、腕を組んでうんうんって頷いてたし、りょうさんは苦笑いだった。

 

「それっでっ、色々片した後にお昼ごはんってカンジ~?アタシも昔の現場を思い出すぽよ~」

「ふぉえっ」

 

隣に座ってたりなりなが、ぼくに伸びているたくみの手の間をすり抜けるように腕を入れてくると、そのまま抱き抱えられて今度はりなりなのお膝の上に行った。

 

今度は両肩の上から腕をまわされて、りなりなにギュッと抱き寄せられる。

頭の後ろがりなりなの首もとに当たって、そこからいい匂いがしてきた。

ちょっと大人な香水みたいな匂い、みかお姉ちゃんもこんな匂いしてた。

 

「なかなかツナギの土汚れって落ちなくてねー。いつものクリーニング屋さんにまとめて持ってってもらっても、もう汚れが染み込んじゃって完全には元に戻らなかったりしたぽよー」

「パパもおんなじだよ。''ぐりす''が一番ヤバいって」

「わっっっかるぽよ~!」

 

りなりなはぼくの頭にアゴを乗っけてグリグリしてくる。

しきママもそうだけど、みんな好きなのかなこれ。

 

「はーい、こっちこっち。こっち向いて」

 

りょうさんがそんなぼくたちを携帯のカメラで撮っていた。

りょうさんに続いてあきおねーちゃんも、そしてりなりなも自分の携帯電話を取り出して画面をこっちに向けてぼくと一緒に自撮りしてくる。

なんだか今日だけじゃなくてみんな色々なところでこうやって写真を撮ってくるけど何がいいんだろう?

特にゆいママが凄い。

 

「りなりな、ちゃんと撮れた?」

「バッチリぽよ~」

 

携帯を置くと、またりなりなはぼくの後ろから抱き付いて···来る前に、今度はあきおねーちゃんに脇を掴まれて、空中に浮いてからそのままあきおねーちゃんの膝の上に着地して座った。

あきおねーちゃんによしかかりながら、ぼくは後ろから腕を掴まれて上に下に動かされる。

 

「それにしても蘭子殿たちは遅いですね、何かあったんでしょうか?」

 

あきおねーちゃんは、ワシャワシャとぼくの腕をマッサージするように揉みはじめると、なつきちにそう言う。

 

「お昼だから混んでるんじゃないか?スイカ安売りしてたし」

 

そう言うとなつきちはベッドのすぐ上にある窓から外を覗き込んでたけど、すぐ首を横に振った。

こっちを向くとぼくにも首を横に振って、そしてすぐにギターを覗き込んで、端っこのネジを回して何かをし始めるのだった

 

「あきおねーちゃん、何食べるの?」

「そーだよ、何食べる予定ー?」

 

しゅーこちゃんもベッドの端に寄りかかりながら、ぼくと同じようにあきおねーちゃんに聞いた。

だけどそれを聞いたえんじんのみんなが、ニコニコと笑ったり、ハハッて笑ったり、りょうさんもたくみもニシシッて笑ってる。

 

「まぁ、最近打ち上げとかで揚げモンばっかりだったからよ、たまにはサッパリしたものってな。なぁ?涼」

「そっ、夏といえばだね。これは」

 

その時だった。

お部屋の外の廊下から、バタバタと誰かが動いてる音が聞こえた。

ドアにトントンと何かがぶつかるような音も聞こえたから、両手が塞がってるのかもしれない。

 

『蘭子ちゃんちょい待って、待って待って開けてあげるからちょっと』

「りーなだ」

「あ、ゆい行くゆい行く」

 

ゆいママが立ち上がると、トタトタと玄関へと向かっていった。

りょうさんが体を斜めにしてそんなゆいママが向かっていった玄関を覗き込む。

 

「ちょっと待ってー、はいはい開ける開けるー」

 

ゆいママが玄関のドアを開けようとしている最中にも、外でらんこちゃんが持っているであろう買い物袋みたいなのがトントンとドアに当たる音が聞こえていた。

 

「おかえり~、わっ!ナニソレ~!」

「ただいま~、わっ!本当にたくさん来てるね~、いらっしゃ~い。ふ~っ、涼しい~」

 

ドアが開く音と同時にらんこちゃんの声が聞こえて、ゆいママが外に出てらんこちゃんが入ってきてとバタバタしていた。

ぼくも覗き込んでみると、らんこちゃんが両手いっぱいにビニール袋をぶら下げて一生懸命靴を脱いでいた。

 

「らんこちゃん、こんにちは」

「あ、来てたの~?いらっしゃ~い。あ、手伝ってくれるの?ありがと~」

 

それはもう、らんこちゃんは凄くやりずらそうにしていたので、ぼくはらんこちゃんの荷物をキッチンの上に上げてあげる。

 

「カッコいいですぞ!隊長殿!」

 

あきおねーちゃんに続いてりなりなも''いえ~い''とぼくに向かって言っているのが振り返らなくてもわかった。

らんこちゃんが持っていたビニール袋をキッチンに置いた時に、その中身がチラッと見えた。

細長い何かがたくさん入っている袋がいくつもある。

 

「おー、そうめんじゃーん」

 

いつの間にか後ろにいたしゅーこちゃんが、ぼくと同じようにビニール袋を覗き込んでそう言った。

 

「そう、夏らしいもの食べようってみんなで話してさ。拓海もそれでいいんじゃないかってね」

「揚げ物っつーか、ジャンクフードとかばっかでもよー?カラダのこと考えていかなきゃいけねー歳になってきたしな」

「···だって?しゅーこちゃん」

 

ぼくが丁度上を向いたらしゅーこちゃんのアゴがあったので聞いてみると、''ふーん、ふむふむ''としゅーこちゃんが喉を震わせて、ぼくの話を聞いているのかいないのかビニール袋の中を見ていた。

 

「っちょ、あれだりー大丈夫か?」

 

なつきちが半笑いで玄関を覗き込みながらそう言ったので見てみると···なんだかでっかい箱みたいなのが部屋に入るのか入らないのか右に行ったり左に行ったりウロウロと動いているのが見えた。

 

「ちょっ、見えなっ···どっち?どっち?右なの?左なの?なつきち?なつきちー!」

「待って待ってゆいが見るね。もうっっっちょい右、あ、違う違う李衣菜ちゃんから見てなら左」

 

たぶんそれを持っているのがりーなで、その反対で一生懸命指示をしているのがゆいママ。

でもユラユラ動いてるだけで、中々入ってこれない。

 

「縦にしろ縦にしろ。縦だ、縦縦。クルッと回すんだクルッと。あーっもうアタシが···って通れねーしっ、おらっ、無理かっ」

 

中からたくみが手を右に左に動かしながら入り方を教えてあげてたけどやっぱりダメそう。

たくみが立ち上がってこっちに来た···けど、廊下にはまだらんこちゃんもいるからたくみが通るにはちょっと無理かも。

横になってすり抜けようにもたくみのおっぱいが引っ掛かってそれでも無理。

今度はたくみが右に左に動き始めちゃった。

 

「ぼくが行ってくるよ」

「マジか、ならよろしく頼むぜ。よしっ、潜れ」

 

ぼくなら通り抜けられそうだったので、たくみのお股の間を潜り抜けて玄関へと向かっていった。

たくみが脚を上にグググッと上げてくれたおかげで楽に通り抜けることができて、らんこちゃんの背中の後ろをすり抜ける。

 

「拓海っ、なんていう格好してんのさ、ふふふっ」

「言ってろっ、ったく」

 

りょうさんが笑ってたくみが脚を下ろすと、たくみはりょうさんを指差して文句を言っていた。

 

「おっとっと···ああ!これで行ける!」

「りーな大丈夫?」

 

りーながやっと体を横にして入れるようになったので、ぼくはいらなかったかも。

声を掛けると、両手が塞がってるりーなは頭をバッと動かして髪の毛をはらってぼくを見た。

 

「あ、久しぶりだね!これで行ける?行けるよね?」

「うん、大丈夫。そのままそのまま」

「待って待ってゆい潰れちゃうゆい潰れちゃうんむほぉ···ぷはっ!」

「唯ちゃんごめーん!」

「大丈夫大丈夫、無事」

 

ゆいママが壁に挟まれちゃうところを、しゃがんでりーなの足の間を通ってなんとか廊下に逃げてた。

ゆいママ凄い体柔らかい。

 

「おお、おお、おぉ、なんだなんだ?車か何かのパーツか?」

「予想外すぎるね」

 

りーなが持ってる反対側を持ってあげて部屋上がっていくと、その様子を見ていたたくみとりょうさんが慌てて真ん中のテーブルの上の物を片付け始めた。

 

「なんだなんだ、デカイな」

 

なつきちもギターを一旦ベッドの上に置くと、興味津々に見てた。

 

「そうだ李衣菜、そのまま下ろしていいぞ。テーブルにはなんもねーから大丈夫だ」

「ホント?じゃあいくよー?よいしょっと」

「よいしょ」

 

りーなの掛け声に合わせて、でっかい箱をテーブルの上に置く。

テーブルよりも少し大きいくらいのダンボールだった。

重くはないけど、とにかく大きい。

 

「一体これは何でありますか!」

「凄いでしょ、蘭子ちゃんが当てたんだよ」

「えへへ~」

 

荷物を置いたらんこちゃんが部屋に入ってきた。

他のみんなもこのダンボールが気になるみたい。

 

「ふー、大変だった」

「よっと、よしよし偉いぞ」

 

ぼくはベッドに座ると、なつきちが抱き寄せてきて頭を撫でてくれた。

それにしても、これは一体何なんだろう?

 

「今回のお昼ごはんにはピッタリなんじゃかいかなー」

 

りーながダンボールの上に貼ってあるビニールテープを剥がしながら、なんだか楽しそうにそう言うのだ。

お昼ごはんに使うものってことは、そうめんに使うもの···なんだろう?おつゆ?

 

「じゃじゃじゃ~ん」

 

りーながダンボールの中に両手を入れて、中に入っている箱をゆっくりと上に引き出していった。

カラフルな絵が書いてあって、ヤキニクマンの人形がその機械の上に乗ってるのが見える···

こ、これは!これは凄い!早く使ってみたい!

 

「アッハッハッ!これはいいぜっ!よかったなぁ坊主!これは楽しみだなぁ!見てみろホラ最高にカッコいいじゃねーか!」

「アタシもこれは初めてみるね、早くやってみようよ」

 

たくみとりょうさんも凄いじっくり見てる。

 

「シューコちゃんもお腹空いたわ~」

 

それを見たしゅーこちゃんに、えっへんっ!とかまえたりーな。

あきおねーちゃんは早く開けたがっていた。

 

りーなが持っていたのは、ヤキニクマンとコラボしたCMでやってた商品。

ヤキニクマン流しそうめんマシーンだった。




後編も気長にお待ちいただければ幸いです。
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