ヘイ!タクシー!   作:4m

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自由研究05

「お姉さん!こっち!こっち来て一緒に食べよ!」

「わかった、わかったから・・・モグ・・・ング、今行くからちょっと待って・・・ん」

 

そのお姉さんは慌てて飲み込むと、デスクの上にあったビニール袋を持ち、みりあちゃんに手を引かれた状態で、こちらのテーブルまでやってきた

 

「こ、こんにちは」

「ああ、こんにちは」

 

頭を下げるとお姉さんも頭を下げ、みりあちゃんに導かれるままに隣に座った

 

「もう、お姉さん!ずっと会いたかったのにどこにいたの?」

「どこって・・・私はあまり美城プロには行かないからずっと事務所だよ。書類関係で行くことくらいしか・・・」

 

私がボーっとお姉さんを見つめていると、それに気づいたお姉さんがこちらに目を向ける

 

「ああ、ごめんね。私は蘭道雛子っていいます。初めまして、佐々木千枝さん」

「初めまして!あの、私のこと・・・知ってるんですか?」

「ええ、上司からよくお話伺っております」

「おねーさんは凄いんでこぜーますよ!」

 

仁奈ちゃんが目をキラキラ輝かせて話を始めた

 

「もうブンブンブーン!のキキー!キュルキュルキュルー!なんでごぜーます!!」

「凄かったよねー!!車がね!こうやってくるんくるん回るの!」

「ブンブンでくるんくるん・・・?」

 

二人して身振り手振りでその時の状況を興奮しながら伝えてくるが、全くわからなかった

お姉さんはというと、少しはにかんで笑いながらクロワッサンを口に運ぶ

 

「で、どう?楽しかった?」

「はい!美空さんが色々な部品のことを教えてくれました。ちょっかん?にしてエンジンを掛けてくれて・・・」

「げっ、あの状態でスカイラインエンジン掛けたの・・・まったく」

 

悪態をつきながらお茶のペットボトルを口にする蘭道さん

せっかくなので気になることを聞いてみることにした

 

「あの、気になってることがあるんですが、美空さんが『エンジンを掛けまーす』って言った後に返事をしてほしいって言っていたんです。それは何でなんですか?」

「それはね、例えば誰かと一緒に作業をしていたりする。エンジンって動き回る部品が沢山付いてるから、もしそういう動く部品の中に手を入れた状態でエンジンを間違って掛けて怪我をしないように確認するためだ」

「確かに・・・」

「危ないもんね」

「例えエンジンのスペースに誰もいなくても、誰かと作業していたら必ず言う。これは絶対言うと思う」

 

ペットボトルをテーブルに置いて、ソファーにもたれかかり一息つく蘭道さん

 

「他に聞きたいことはある?せっかくだし、答えられることは教えてあげる」

「あ、それなら・・・」

 

Q1、今まで乗ったお客さんの車で一番速かったのは?

 

「これは零次の影響だな・・・、うーん、難しいな・・・I-Rかなぁ」

「あいあーるだって」

「あいあーるっと」

「ああ、違う違う。えっとね、昔パルサーっていう車があって・・・」

 

Q2、今まで乗ったお客さんの車で一番値段が高かったのは?

 

「高かった・・・、これまた・・・新車か中古かわからないけど、外国のジャガーって車が一番高かったと思う」

 

Q3、工場で一番長い工具は?

 

「一番長い工具か・・・長い工具・・・、えっとね・・・大ハンマーかなぁ。大きくて長いハンマー」

 

その後も蘭道さんは色々な質問に答えてくれた、一緒に食も進み、そろそろお昼休みも終盤に差し掛かる頃、最後に気になることを聞いてみた

 

「零次さんって、おいくつなんですか?」

「歳?私より2つ下だから・・・25だな」

 

蘭道さんがそう言った瞬間、他の二人が『え?』という素っ頓狂な声と同時に蘭道さんをまじまじと見る

きっと私も同じ反応をしていると思う

 

「・・・こう見えても私は先輩なんだぞ」

「いえ、あの、けっして深い意味があったわけではなく・・・」

「でもおねーさん凄くカワイイでごぜーますよ!」

「お姉さんは、ハーフ?なんですか?」

「マm・・・母がアメリカ人」

 

『小学生に可愛いって言われちゃったよ・・・』と呟き、複雑そうな顔をしてまたお茶を飲む蘭道さん

 

「あの・・・蘭道さん」

「ん?」

 

私は意を決して聞いてみた

 

「''先輩''になるにはどうしたらいいんでしょうか?」

 

ペットボトルに口をつけながら、蘭道さんは無言で考え込む

 

「私たちもアイドルとして活動していて、たくさん後輩が入ってくるんです。だから、そんな人たちに負けないように、恥ずかしくないようにいい先輩になりたいんです。瑞樹さんみたいなカッコいい大人の人に・・・だから」

 

ペットボトルをテーブルに置き、蘭道さんは腕を組んでしばらく考える

 

「・・・そう気を張らなくてもいいんじゃないか?」

「え?」

 

蘭道さんは立ち上がって隅に置いてある冷蔵庫まで歩いていく

 

「アイドルっていう仕事が私には詳しくはわからない。でも、私の経験から言わせれば、先輩っていうのはなろうとしてなれるものじゃない」

「うーん?」

 

二人も頭を傾げる

 

「いいか?先輩っていうのは、後輩ができて初めて''先輩''になるんだ。それまでは難しいことは考えず、自分の出来ることをやりなさい。そうしてたら、いつか後輩ができたときに胸を張れるようになる。だから、そうだな・・・一生懸命やればいい」

 

そう言って冷蔵庫を開ける蘭道さん

・・・そうか、無理にやる必要は無いんだ

私は今の今まで、ただ先のことばかり、先輩という立ち位置に立ったときのことばかり考えていた

 

「一生懸命に・・・」

「そう。だから今やるべきことは」

 

振り返る蘭道さんの両手には、よくテレビで見るあのスイーツが握られていた

 

「あいつらが帰ってくる前に、このデザートをコッソリ食べる」

「ああー!」

「ゴージャスセレブプリンでごぜーます!!」

 

二人の言葉に、にっしっしと悪戯っぽく笑う蘭道さんは、そのまま元の席に戻り、私たちの前にそっとその宝石を差し出す

販売店には行列ができ、並んでも買えるかどうかわからないレア中のレアもの

ああ、凄く美味しそう・・・こころなしかキラキラ輝いて見える

その色艶、そしてその美味しそうな匂いがテーブルの上を支配していた

 

「あ、ちょい待ち」

 

蘭道さんは台所まで行き、人数分のスプーンを持ってくる

 

「でも、よかったんですか?これ中々買えないっていう話をよく聞くんですが・・・」

「いいのいいの、私も買ったのはいいけどいつ食べようかタイミングわからなかったし。こういうのはみんなで食べたほうが美味いし」

「いただきまーす!!」

「いただきますでごぜーます!!」

 

二人は辛抱たまらず、そのままデザートにありつき始める

 

「お腹空いてるから余計なこと思いついちゃうんだ。これ食べたことは内緒ね?」

 

人差し指を立てて口元に当てる蘭道さんの言葉をありがたく頂戴し、さっそく私も食べ始める

 

「いただきます!・・・ん〜!美味しいです!」

「そうかそうか、どんどん食え食え」

 

次から次へと手が止まらず、一生懸命食べ進める私たちを蘭道さんは嬉しそうに眺めていた

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

『ごちそうさまでした!』

「はい、お粗末様でした」

 

食べ終わったゴミを蘭道さんはビニール袋にまとめて入れて、台所へと片付けに行った

 

「一生懸命に・・・かぁ」

 

その一言で片付けてしまった蘭道さんも同じように悩み、考えたんだろうか?

台所で片付けている蘭道さんの背中を見ながらそう思う

瑞樹さんと同じ、やっぱり大人って凄いなぁ

 

「やっぱりおねーさんは凄いでごぜーます!」

「後輩・・・どんな人が来るんだろうね!」

 

二人も私と同じような反応を示していた

もしかしたら、私と同じように薄々どこかで悩んでいたのかもしれない

この業界は実力主義だ、力あるものだけが上のステージへと登っていける

それが全てだと思っていたが、それだけでは無いということが会社に入ってわかった

''個性を伸ばし尊重する''

それこそが346の理念であり、基本概念である、そうプロデューサーは教えてくれた

専務の一件の時もそれを武器として揺らぐ事はなく、結果的に垣根を越えて行動し、私たち自身を守り、アイドルとして導いてくれた

私は、私であることを許してくれた

 

「そうだね、楽しみだよね。どんな子が来るんだろう?」

「ゴージャスセレブプリン買っておかないとね!」

 

個性も立派な力の一つである事を教えてくれた

 

「みんな揃って何の話?」

「あ!美空さん!」

 

やぁ、と蘭道さんと同じようにビニール袋を下げて美空さんがソファーに座る

 

「乙女の秘密って話」

「えぇー、ひなちゃん何それぇ〜」

 

台所から戻ってきた蘭道さんが再度私たちに向かって口に人差し指を当てる

私たちは揃って首を縦に振った

 

「えっと・・・あれです!今まで乗ってきた車の中で速かったのは何かなって蘭道さんに聞いてて!」

「速かった車・・・うーん、一概に・・・どれも個性があるから・・・」

 

美空さんが考え込んでしまった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

午後からはなんと、車のエンジンを見せてくれた

木でできた台座の上に、大きくて色々な機械やホース、電気の配線といったものがゴチャゴチャっとついている塊が乗せてあり、何が何だか全くわからなかった

きゅーあーる?という名前のエンジンらしい

しかし、美空さんが丁寧に説明してくれた

発電機、エンジンを掛けるときに使う始動装置、エンジンの力をみっしょん?(自転車でいう段切り替えみたい)に伝える大きな歯車など、想像していたものとは一味も二味も違うものだった

 

「じゃあ、これ外してみよっか!」

 

そう言うと美空さんは机(キャディというらしいです)から一方方向にしか回らない、棒の先に六角形の切り欠きがついた工具を渡してきた

 

「え!?ほ、本当に外していいんですか!?」

「うん、全然いいよ。ここと、ここと、ここのボルトを外してみて?」

 

教えられた部分に工具を当て、回してみようとするが全然回らない

 

「じゃあ、ここで千枝ちゃんに問題です!ネジはどっちに回したら緩むでしょうか!」

 

美空さんに言われて三人で頭を傾げて考える

確かに言われてみれば、どっちに回せばいいんだろう?

 

「うーんとね、水道の蛇口はどっちに回したら緩む?」

「えーと・・・あ、じゃあ!」

 

その方向に回してみると、あっさりボルトが外れる

 

「大正解!その工具はそのまま当てた状態で逆に回してもカチカチ音がして空回りするから、回しづらい位置まできたら戻す、緩む、戻すっていうことができる工具なの。ドラマとかで多分この音は聞いたことあるかな?」

 

言われた通りに動かしてみると、断続的にカチカチという音を響かせながらボルトがみるみる内に外れていく

 

「うんしょ、うんしょ・・・とれた!とれたよ!」

『おおー!』

 

二人から拍手が上がり、それに合わせて美空さんも褒めてくれた

 

「次は私!」

「あら、みりあちゃんできるかなぁ?」

 

私と同じようにやると、ボルトが上手く外れ、仁奈ちゃんも外すことができた

そして三本のボルトが取れると、やっとその部品が外れる

 

「これが、ウォーターポンプという部品です。これでエンジンを冷やす水を送ってるってわけ!こういう風に、壊れた部品なんかを外して交換したりするのが私たちの仕事」

 

部品を見せてくれたあと、美空さんはあっという間に三本のボルトをつけ、元に戻してしまった

私たちが三人がかりでかかった時間より圧倒的に早い

やっぱりプロってすごい

 

「何面白いことしてるの?」

「あ、蘭道さん」

 

蘭道さんも工場へ見学に来ていた

 

「あ、ひなちゃん!」

「零次から連絡が入って、夕方まで帰れないって。まぁ、こっちはいいって言っておいたけど」

「わかった、今はウォーポン外してたとこ」

「ふーん・・・」

 

蘭道さんはエンジンをマジマジと見ている

 

「じゃあ今度私の車、同じとこ壊れたら三人にお願いしようかな」

『えぇぇー!?』

 

そんな様子を美空さんは笑いながら楽しそうに見ていた

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

時間はあっという間に過ぎ、その後もエンジンはもちろん、車のバネ(さすぺんしょんだったかなぁ?)や、タイヤのナットの締め方、検査ラインの機器類(しゃけん?で使うんだって)などを見せてくれた

陽はどんどん傾いていき、丁度終業時刻に差し掛かるところだった

 

『台風が進路を変え、本土に接近しています。住民の皆さんはくれぐれも外出を控え・・・』

「まいったわね・・・」

 

気づいた時には外は雨風の大荒れの天気、まともに歩くことすらままならず、打ち付ける雨や風の音が事務所中に響いていた

 

「ただいま!ふぅ・・・災難災難」

「あ、社長!」

「おじいちゃん!」

「おお、仁奈ちゃん。今日は楽しかったかい?」

 

テレビの前に集まっていた私たちだったが、社長さんの元に駆け寄る

 

「どうしましょうか、こんな大荒れの天気じゃ・・・」

「ああ、今日はもう事務所を閉めよう!早く車を工場に入れて・・・」

「もう工場は閉めました。問題はこの子たちなんですが・・・」

「ママは今日、家に帰ってこねーでございます・・・」

 

仁奈ちゃんがしょんぼりした顔で社長さんにそう言った

交通機関も機能しなくなってきており、それで仁奈ちゃんのお母さんが帰ってこられないんだそうだ

 

「そうか・・・うーん、それは困ったなぁ・・・」

 

社長さんは腕を組んで考え込むが、美空さんをみてハッと何かを思いつく

 

「そうだ、美空君。仁奈ちゃんを今晩あのガレージで預かってくれないかね」

「え・・・えぇぇえぇぇぇぇぇぇええ!!?」

 

慌てふためく美空さん

 

「し、社長。ほ、本当にいい、いいんですか?そ、そ、そんなご褒美をいただいても!!」

「そんなに今日は楽しかったのかね、それなら尚更だ。一晩預かってはくれないか?」

「それは、そ、そ、それは・・・」

 

チラッと蘭道さんを見る美空さん

 

「食材もあるし、別に私はいいよ。零次もいずれ帰ってくるだろうし。寝る場所なら腐る程あるしね」

「じゃあ、今日はおねーさんたちとお泊まりでごぜーますか!!」

 

ええ、と蘭道さんが答えると仁奈ちゃんはとっても嬉しそうに喜んでいた

しかし、その隣にいたみりあちゃんは

 

「ずるいずるい!!私もお泊まりしたーい!」

 

顔をぷくっと膨らませ、美空さんに詰めよっていた

 

「で、でもそれじゃあ私の身が保た・・・ほら!お母さんとかに許可を頂かないと!」

「じゃあ聞くもん!」

 

そう言うとみりあちゃんは携帯を取り出し連絡を取る

しばらくすると、携帯を切って美空さんに嬉しそうに再度詰めよった

 

「この天気だったら朝まで会社で預かってもらった方が嬉しいって!いいって言ってくれたよ!!」

「会社・・・そうか、今は美城の子会社みたいなもんだから・・・」

「・・・美城には私が連絡しておく。だから大丈夫だ」

 

すると、今度は蘭道さんは私に向き直る

 

「・・・泊まってく?」

「・・・はい!」

 

私も家に連絡を入れた

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