ママに連絡してみたところ、帰ってきた返答はみりあちゃんと同じようなものだった
「じゃあ私車回してくるから、ひなちゃん閉める準備しておいて!」
「うん、わかった」
美空さんに言われた通りに、私たちは荷物をまとめ、玄関口へと集まる
「じゃあ、すまないが私は先に失礼するよ!雛子君、すまない。仁奈ちゃんのこと、よろしく頼むよ!」
「ええ、社長もお気をつけて」
社長さんは蘭道さんにそう言い残し、美空さんと一緒に外へと駆け出していった
「あの・・・気になってることがあるんですが・・・」
「ん?」
蘭道さんが人差し指で鍵をクルクル回しながら私に視線を向ける
「蘭道さんたちは一緒に住んでるんですか?」
その鍵をガシャッと手のひらに収めた
「・・・一応自分で借りてる本当の部屋はあるんだけど、ガレージの方が職場から近くて使い勝手がいいからいつの間にか住み着いたって感じかな」
「ガレージってことはおっきいんでごぜーますか!」
「多分ビックリすると思う。私もビックリしたもん」
ふふっと笑いながら蘭道さんはそう言った
北崎さん含め、やはりまだまだ謎が多い
うん?北崎さん含め・・・ってことは、さっき一緒に住んでるって言ってたよね・・・
え?じ、じゃあ今夜一晩北崎さんと一緒の部屋に!?
そ、そ、そんな・・・!今日たくさん汗かいちゃったし!今私変なニオイしてないよね!
「千枝ちゃんどうしたの?」
「へ!?い、いや何でもないよ!」
手を少し上げたり、襟を掴んで服のニオイを嗅いでいるとみりあちゃんに突っ込まれてしまった
ああ・・・私も今日はこんな格好だし、かわいい服持ってくればよかったかなぁ
って何言ってるんだろ私!お泊まりするだけだよ、そう!お泊まりするだけ!
「はぁーい!お待たせー!さぁさぁ乗って乗って!ってか外ヤバすぎだし!」
「千枝ちゃん!行くでごぜーますよ!」
「あ、うん!今行きます!」
仁奈ちゃんの言葉に導かれ、私たち三人は美空さんの車の後部座席に乗り込む
「わぁ・・・何か高級車って感じ!」
「そう?そんなに高くなかったのよこれでも。ありがとね」
外では蘭道さんが鍵を閉め、急いで自分の車の元へと走っていった
「さて、私たちも行きますか。そんなに遠くないから心配しないでね」
そう言うと蘭道さんの車に続いて発進する
私たちが触っていた車が何事もなく動くその姿に、私は自分の中で素直に感動していた
ーーーーーーーーーー
都会の喧騒を抜け、蘭道さんの車の赤いライトを辿りながら私たちはアパートやマンションなどが並ぶ住宅街へと入っていく
「それでね!莉嘉ちゃんがね、たくさんカブトムシ獲ってきたんだよ!」
「あら、カブトムシが好きだなんて初耳だわ。シール集めが好きって雑誌には書いてあったんだけど・・・」
少し前屈みになり、助手席を掴みながらみりあちゃんが楽しそうに美空さんと話に花を咲かせていた
「莉嘉ちゃんはね、木に登るのも上手なんだよ!上にいるカブトムシもクワガタも獲ってくるの!前に合宿をしたときも楽しかったんだよ!みんなで水鉄砲したり!」
「いいなぁー!仁奈も水鉄砲したいでごぜーます!」
「仁奈ちゃんも莉嘉ちゃんと海行ったよね?」
「はい!着ぐるみでごぜーますよ!」
私たちが話してる様子を、美空さんはバックミラーで楽しそうに眺めていた
それから少しの間、ナビから流れる音楽と車の音をBGMに話していると、いつの間にか蘭道さんの車がいなくなっていることに気づいた
「さてさて、まだまだ積もる話はあるけど続きはここでね」
そう言いながらハンドルを切り、開けたとても広い空き地のような場所に入っていく
車のライトが徐々に奥まで照らし始めると、そこには蘭道さんの車と、大きな半円状の建物が見えてきた
「これって・・・」
「体育館?」
みりあちゃんの言う通り、その大きさは学校にある体育館と比べても劣ることはなく、むしろ少し大きいくらいではないだろうか
横には地下に下っているスロープもある
向かって正面には屋根付近まで伸びている、青葉自動車さんの工場にあるような大きなシャッターが取り付けられており、その目の前までゆっくりと車が進む
「あ、ひなちゃん。あー、はいはい」
蘭道さんの隣に車を停めると、車の中から蘭道さんが美空さんに向かって、シャッターを指差して手首をひねるジェスチャーをしていた
「ちょっと待っててね、今シャッター開けてくるから」
美空さんはそう言い残し、車から降りてシャッターへと近づく
するとパッと淡黄色のライトが点き、シャッターの横に隠れていたドアを照らす
美空さんは持っていたバッグから鍵を取り出し、ドアノブに差し込んだ
そのまま中に入ると、ドアの窓から室内の電気を付けた様子がわかる
「おっきいでごぜーますね・・・」
仁奈ちゃんの呟きとほぼ同時に、ガランガランガランと大きな音を立てて目の前のシャッターが上へと上がっていく
少しずつシャッターの下から漏れる光が地面を照らし始め、蘭道さんの車が完全に見えるようになる位置までシャッターが上がると、低い音を少し響かせてライトを消し、蘭道さんの車が中へ入っていく
「ごめんごめん!今車入れるから!ふーっ・・・」
美空さんが駆け足で車に乗り込み、濡れた前髪をかき分けて、車を進める
少しの段差を乗り越えて、車は無事また蘭道さんの隣で停車する
「いやいや、大変だったわねー。お疲れ様、もう降りて大丈夫よ」
エンジンを切り、美空さんはそう言うと車を降りていった
それに続き、私たちも自分の荷物を持ってそれぞれ車から降りたのだが、一足先に降りたみりあちゃんが上を見上げ、そのまま固まっていた
「どうしたの?みりあちゃ・・・わぁ!」
「おおー!」
私の後に出てきた仁奈ちゃんも開口一番、驚きの声を上げる
『すっごーーーい!!!』
目の前にあった、というよりは広がっていたのは想像していたものよりはるかに広い空間と、見たこともないようなまさに秘密基地というような内装だった
体育館よりも更に大きい、鉄鋼が剥き出しの天井に一階の床はつるつるしたコンクリートのような感触で、二階部分はギャラリーとなっており、上から下を覗けるように吹き抜けとなっている
「かまぼこガレージへようこそおいでませ〜」
そう言って一階スペースの奥にあるソファーやテーブル、冷蔵庫に電子レンジなど、ちょっとした小上がりになっている場所に荷物を置いてツナギを脱ぐ美空さん
「工場にあったリフトと同じ・・・ここでも車を直せるんですか?」
「直すっていうか、ここは完全に私たちの趣味全開スペース」
「うわぁ・・・!」
車を二台止めた両脇には、工場にあったものと同じ、二本の柱からアームが伸びているリフトが左右一機ずつ備え付けられており、それでも横幅にはまだまだスペースがある
「すごーい!壁にたくさんパーツと工具があるよ!」
壁際には、おそらく整備に使うのであろう工具類と、車のパーツが所狭しと壁に掛けられていた
じっとみりあちゃんが眺めている
「あー、こっちこっち。荷物あるでしょ。とりあえず二階のギャラリーに上がってくれ。階段上がる前に靴脱いでね」
蘭道さんに諭され、私たちは入り口側の左角にある螺旋階段へと向かう
そのすぐ側に天井から伸びる長い透明なカーテンが紐で壁に括り付けてあった
「お邪魔しまーす・・・」
螺旋階段を上がりながら下をみると、改めてこの建物の大きさが分かる
反対角にも螺旋階段があり、それは地下にも続いているようだ
「わぁー!たかーい!おねーさーん!」
「いや〜ん、仁奈ちゃんに覗かれちゃった〜!」
仁奈ちゃんの言葉に合わせ、美空さんは胸を隠しつつも、着替えながらこちらに手を振ってくれた
段々と車も人も小さくなり、二階部分に辿り着く
ギャラリーは左右角の螺旋階段を始まりにコの字になっており、内側はガラス板が貼り付けられた柵、床には絨毯が敷かれていた
吹き抜け部分に目を向けると、天井から吊り下がっている大きなLEDの室内灯が見える
通路を進むと、道の途中に衝立に挟まれた部屋のようなスペースがあり、通路からは上手く見えない様にベッドやテレビ、タンスや小さいテーブルなどが置いてあった
テーブルの上にはゲーム機のコントローラーのようなものが置いてある
「そこは零次のスペース。ちなみに私はあの中央。で、その右隣のやたら段ボールが積まさってるところが姉さんのスペース」
中央部はホテルのバルコニーの様に他の部分より大きく迫り出しており、ちょうど一階部分にあった小上がりのスペースの上に位置していた
大型テレビに大きなテーブル、まるでリビングの様なスペースでその奥には本格的なキッチンと大型の冷蔵庫、食器棚が置かれていた
その隣に衝立を挟んでベッドとテーブル、可愛らしい小物や、ぬいぐるみがあるところを見ると蘭道さんのスペースに間違いないらしい
「まったく姉さん、段ボール片付けろって言ったのに。これじゃ寝るスペースもないわ、ああ、荷物は適当にそこらへんに置いといていいよ」
私たちはリビング部分に案内されると、大きなテーブルを囲む様に置いてあるソファーに座る
吹き抜け側にテレビが設置されており、そのテレビが置いてある台はかわいい小物があしらわれ、その奥にBDレコーダーがひっそりと佇む
「ん・・・んん・・・ふぅ〜、しょっと・・・」
蘭道さんがスーツの上下を脱ぎ、下着に少し胸元がはだけたワイシャツ姿でタンスを開けて次から次へとTシャツやジャージや短パンをベッドの上に取り出す
「これと、これ・・・は無理か。となると、これだな・・・」
私たちがそれをじっと見ていると、蘭道さんはその視線に気づきこちらに顔を向け、改めて顔を上下に動かし自分の今の格好を見る
「・・・いやん」
その言うと同時に両手で自分の体を軽く抱きしめ、下が正面から見えないように斜めになりながら少し体勢を後ろに引いた
その様子をみて私たちは少し笑う
「もっとかわいい下着着てればよかった」
「でもでも!すっごくかわいいですよ!そのピンクのブラとか!」
「お褒めに預かりどうもね」
そう言うと蘭道さんは自分の服を持って立ち上がる
「今は多分姉さんがシャワー使ってるから、今のうちにこの中から着るもの選んでいいよ。貸してあげる」
「ありがとうございます!」
私たちが服を選び始めると、蘭道さんはかわいい白いTシャツワンピースに着替え、台所へ向かい冷蔵庫を覗いていた
ーーーーーーーーーー
「ああまったく、こんなに降るとは思わなかった」
車の中で一人悪態をつきながら、大雨が降り続く中、俺はガレージへと向かっていた
送迎は無事終わったが、この天気で交通機関はほとんど停止し、帰れなくなったアイドル達を送り届けるのは骨が折れた
遠くなので会社に残って泊まる者、家といっても女子寮へ帰る者など様々で、意外と俺の家と女子寮が近いことが判明してしまった
ということは、気をつけなければリアル突撃隣の晩ご飯されてもおかしくないわけだ
「・・・気をつけよう」
特にあの、LiPPSとかいう奴ら
問答無用で人をあちこち振り回してくる
今日だって一ノ瀬志希とかいう奴が失踪したとか何とかでアイドル達が事務所中を探し回っており、俺が帰る間際車に向かうと、車の影からアホ毛がピョコンと飛び出していた時は驚いた
その後他のLiPPSメンバーに引き渡したが、速水奏とかいう奴がお礼という名目を引っ下げてぐいぐい迫り、『今日、会社に泊まっていかない?』などと言い始めたもんだから、『十年早い』と言い美嘉姉ちゃん?に引き渡し何とか会社から抜け出した
「あれ、明かりが点いてる」
すでに事務所を閉め帰ってきたのだろうか、シャッターの前に車をつけ、小窓から中を覗くと中央の埋め込み式リフトのスペースに姉さんたちの車が入っている
自動シャッターのセンサー電源は切られており、今は外からは開かないため、隣の出入り口から中に入りシャッターを開けた
中央のスペースには既に二台入っているため、隣の門型リフトのスペースに車を停める
「おお、おかえり」
「はい、ただいま戻りました」
車から降りると、ギャラリーから部屋着姿のひな先輩がお皿を持ってこちらを見ていた
俺は二階のリビングへと向かう
「あら、レイジ君おかえり!よく戻ってこれたわね!」
ソファーに座っていた姉さんが手をあげる
「いやもう大変でしたよ。次から次へとアイドル達をあっちへこっちへ、特によしのんとかいうアイドル、俺の車に乗ったのは初めてなのにまったく微動だにしなかった。一体何者なんですかあの子は」
「あ、おかえりなさい。北崎さん」
「ああ、ただ・・・って待て待て待て、なんでいるの!」
姉さんの陰からピョコンと現れたのは、サーキットのコースレイアウトがあしらわれたひな先輩の部屋着に身を包んだ佐々木ちゃんだった
「おかえりなさい!」
「おかえりなさいでごぜーます!」
ソファーの影から、これまたひな先輩の部屋着を着た二人が顔を出す
「今夜のお客様」
「・・・マジか」
お気に入り登録数が1000件を突破いたしました
本当にありがとうございます
そして、誤字報告、感想を書いてくださった読者の方々、評価をつけてくれた方々、この場をお借りして御礼申し上げます
とてもとても嬉しいです、これを糧にしてこれからも執筆に励んでいこうと思っております