「っていうか、アイドルここに居たらマズいんじゃないの?」
「緊急事態だもんしょうがないじゃない。華々しくていいじゃないの〜」
ねー?と佐々木ちゃんたちに向かい首を横に少し傾げながら姉さんがそう言う
「それに他のアイドルの子たちも美城に泊まってるんでしょ?今はウチも子会社みたいなもんだから、このガレージも会社の所有物だし、ここも美城プロみたいなものよ」
「何そのギリギリセーフでアウトなセーフは」
自分のバッグをベッド脇の床に置き、ブルゾンを脱ぐ
「あ、あの・・・ご迷惑でしたか?」
申し訳なさそうに顔を伏せながら言う佐々木ちゃん
その様子を見ていたひな先輩が、コップをテーブルに置きながら俺の方をジトーッとした目で見ていた
「いや別に迷惑ってわけじゃなくて、ただビックリしただけだ。会社でもみんな残ってるみたいだし、よかったのか?こっちで」
「へ?あ、えっと、その・・・」
佐々木ちゃんがモジモジしながら言い淀んでいると
「お姉さんたちとお話したかったの!今日すっごく楽しくて!仁奈ちゃんも泊まるって言ってて!ママに聞いて!それでね!」
佐々木ちゃんと同じようなぶかぶかTシャツを着た赤城ちゃんがそう言う
「そ、そうなんです!外がこんなお天気で、蘭道さんたちが誘ってくれまして!それで、お世話になろうかと!」
「な、なるほど」
赤城ちゃんがよっぽど嬉しかったのか、ソファーから降りてテーブルに両手をつき、みんなより一歩前のめりになってキラキラした瞳を俺に向けていた
「と、いうわけだ。仲良くしてやってくれ、まだ子どもだから」
「了解です。子どもが喜びそうなものありますかね、ここ」
「子どもはお前だ」
「え?俺?」
「ああ、お子ちy」
バシッと何かを言いかけた赤城ちゃんの口を佐々木ちゃんが塞ぎ、こちらに向かって苦笑いを浮かべていた
「とにかく飯だ、早く着替えてこっちに来い」
台所で調理していたホットプレートをテーブルの上に置き、一言そう言ってからまた台所に戻る
「あー、はいは・・・おっと、見るなよ」
「だ〜れも見ないって〜!」
自分のスペースに戻りカーテンを閉める直前、姉さんがソファーであっはっはと笑い頭を後ろにだらんとしながら言うと同時に三人が両手で目をパッと覆い、ひな先輩が台所で人数分のお茶碗をまとめながら鼻で笑っていた
ーーーーーーーーーー
「じゃ、いただきまーす!!」
『いただきます!』
姉さんの号令と同時に全員が手を合わせ、いつもより賑やかな食事が始まった
ソファーから降りて絨毯の上に座り、今をときめくアイドルが三人も食卓を同時に囲んでいる光景はとても華やかで、会話にも彩りが生まれる
「でねでね!その時にきらりちゃんと一緒にプロデューサーを捜したの!でも見つからなくて、次のステージにも遅れそうだったから、歌ってステージに行ったんだよ!そしたらたくさん人が集まってきて、パレードみたいになっちゃった!」
「何その超絶レアな現場」
今晩のメニューは焼きそばをメインに、その隣で肉やベーコンやウィンナーを焼く鉄板焼きスタイル
漂う香ばしい匂いと、美味しそうに焼ける音、ほんのりと上がる煙が食欲を誘う
「お前・・・自分だけ取るなよ・・・」
「ち、違いますよひな先輩!取り分けてるんですよ!はい、まわしてまわして」
「ありがとうでごぜーます!はい千枝ちゃん!」
「うん、ありがとう」
使い捨ての紙製の皿にベーコンを取り、市原ちゃんに渡し、それぞれの目の前へと並べられる
「美味しいです!」
「おねーさんは料理が上手なんでごぜーますね!」
「いや、ただ買ってきたのを焼いただけだし。こっちの焼きそばもそうだし」
「昨日買い置きしておいてよかったねひなちゃん」
「まぁ・・・火曜日だったし」
「美味しいだって」
両手でコップを持ち、ひな先輩は静かにくぴくぴと飲んでいたが少し俯いて顔を赤く染めていた
「それにしても、ここって何なんでごぜーます?体育館でごぜーますか?」
「ブフッ!」
「体育館って・・・」
ひな先輩が少し吹き出し、姉さんがクスクスと笑っていた
「違う違う。ここも会社の持ち物で・・・元々は倉庫だったな、俺が来たときは」
「で、私が設備投資するって言ったから実質私の。リフト付けたり、ここみたいに住めるようにしたりねぇ、ひなちゃん」
「人住むように作ってないからこのスペースもポン付けみたいなもんだ。姉さん段ボール片付けてって言ったじゃん」
「しょ、しょうがないじゃない。次から次へと届くんだもん、片付けるのめんどくさくて・・・」
「何だか秘密基地みたい!」
完全に物置と化している姉さんのスペースの中心に、うっすらとベッドが見える
「子どもってああいう場所好きだよね」
「も、もういいじゃない!ほらほら焼けてる焼けてる!食べなさい食べなさい」
「ありがとうございます。北崎さんもどうぞ、食べてください」
「いい、いい。遠慮しないで食え。俺も食べてるから」
「このバラ肉今日は切り方厚いな、ちょい待ち・・・焼けるまで時間掛かるからこっちあげる」
三人それぞれの皿の上に、焼きたての焼きそばや野菜や肉が乗せられていき、美味しそうに食べ進めていた
「喜んでくれてよかったわ〜」
「ええ、ん?姉さん大丈夫ですか?食べてます?」
「もう・・・色んな意味でお腹いっぱい・・・」
そう言いながらうっとりした瞳でため息をつき、三人の様子を見ていた姉さん
・・・お酒入ってないだけまだマシか
ーーーーーーーーーー
『ごちそうさまでした!』
「はい、お粗末様でした」
最初と同じように全員で手を合わせ、食事を終えて一息つき、テレビの電源を入れた
「美味しかったでごぜーますね!」
「もうお腹いっぱいだよ〜、ふぅ」
赤城ちゃんと市原ちゃんがソファーの足の部分にもたれかかり、お腹を押さえて満足そうな表情を浮かべていた
「あの・・・夜ご飯、ありがとうございました!」
佐々木ちゃんが、ホットプレートを持って台所へ向かうひな先輩に向かって言う
「いえいえ、普段もっと良いもの食べてるんじゃない?ごめんね、こんな物しか用意出来なくて」
「そんなことないよ!」
気づけば机の上にある紙の皿をまとめてゴミ袋へ入れて、台所へ持っていく赤城ちゃん
「何だかお家に帰ったみたい!あのね!みりあの家も、家族みんなでおんなじようにご飯食べるんだよ!妹も一緒に!」
「あら!みりあちゃん妹がいるの?」
姉さんがコップを片付けながら台所へ向けてそう言う
「うん!まだ赤ちゃんなんだよ!」
「あ、そっちに戻るついでにこの台拭きテーブルに持っていってくれる?」
はーい、とひな先輩から受け取った数枚の台拭きを持ってテーブルに戻り、上に置いた後に携帯の画像を姉さんに見せていた
「ふきふきするですよ〜」
「おお、市原ちゃん偉いな。サンキューサンキュー」
「あ、私も手伝います」
俺と一緒にテーブルを拭いてくれている市原ちゃんと佐々木ちゃん
黙々と三人で作業を進め、テレビの音だけがリビングに響いていた
「あ・・・!」
「おっと、悪い」
途中で佐々木ちゃんと手がぶつかってしまう
「・・・佐々木ちゃんってさ」
「はい?」
沈黙に我慢できず、会話したのをきっかけに話を振ってみた
「どうしてアイドルになろうと思ったんだ?」
ぶつかって止まっていた手を動かして、佐々木ちゃんの返答を待つ
「えっと、私は・・・」
所々で手を止めたり動かしたり、繋ぎ繋ぎで考えながら作業を続けていた
「実は、アイドルになるつもりなんて・・・最初はなかったんです」
「そうなのか」
「なりたいとも全然思ってなくて、ママがすすめてくれたんです。学校じゃ勉強できないことがあるって・・・だから、養成所に入ったのは自分の意思ではなくてママが言い出したことで・・・あ、これありがとうございます」
「ああ、どうも。市原ちゃんもありがとう」
「ピカピカでごぜーますよ」
ニコッとした笑顔で俺に台拭きを返してくれる市原ちゃん
佐々木ちゃんからも受け取り、折り畳んでテーブルに置いた後に、ソファーに佐々木ちゃんを中心に三人並んで座る
赤城ちゃんは別のソファーで姉さんと楽しそうに話を続けていた
「最初は右も左もわからなくて、レッスンの毎日でした。正直・・・わからなかったです、このまま続けていたら何が待っているのか」
膝の上で両手の指同士を合わせて、少し俯きながら続ける
「ほら、あの・・・私、他のアイドルの子たちと比べると、その・・・」
「・・・大人しい?」
「えっとあの・・・はい」
遠慮がちに笑いながら佐々木ちゃんは言う
「莉嘉ちゃんやみりあちゃんみたいじゃないし、このままどうなるんだろうって。でも、レッスンを続けていくうちにたくさんのお友達が出来て、みんな色んなプロダクションに誘われていきました。その時思ったんです、私もいつかテレビで見るような舞台に立って、歌って踊ってみたいって」
テレビは丁度、歌番組が始まっていた
「そんなときに、プロデューサーさんに出会いました。こんな私を見つけてくれたんです、''昇格''って言われて最初はわからなかったんですが、私もアイドルになれるんだって・・・!すごく・・・嬉しかったんです・・・!」
「そのときに千枝ちゃんと会ったでごぜーます!とってもかわいいおねーさんだなーって思ったですよ!」
「も、もう仁奈ちゃん!昔の話だから・・・!千枝恥ずかしい・・・」
今度は両手で顔を覆ってしまった
「この音・・・あ!みりあちゃんみりあちゃん!これ、L.M.B.Gじゃない!?」
「ホントだ!仁奈ちゃん、千枝ちゃん!私たちだよ!」
「本当でごぜーます!」
「あわわ・・・!これ、先々週に撮ったやつ・・・!」
テレビには、まるでマーチングバンドのような衣装に身を包んだ五人のアイドルが司会の人に紹介され、ステージで楽しく踊り歌っている様子が映し出されていた
「不思議な感覚ね」
「あ、ひな先輩」
顔を上に向けると、俺の丁度真後ろの背もたれに両腕を乗せてテレビを見ているひな先輩がいた
「たった今テレビに映ってる芸能人がすぐ隣にいるなんて、この前までは考えられなかったわ」
「人間慣れるもんですね、姉さんは別として」
赤城ちゃんは姉さんと、佐々木ちゃんは市原ちゃんと楽しそうにテレビへと視線を送る
「で?お前はどうだ?」
「俺?」
ひな先輩が顔を下に向け、俺と上下逆さまに目が合う
クリーム色の長髪がするっと垂れて俺の顔の周辺を覆い、閉鎖された空間で俺とひな先輩の顔だけが向き合う
「彼女たちのこと」
「・・・別に。ただ・・・」
「ただ?」
ひな先輩が口を動かすたびに、髪の毛が俺の顔をくすぐる
「きっかけはどうであれ、お互いがお互いを認め合ってると思います。いつも話をしていると、最後はいつも一緒なんです。凄いアイドルになるって。競争も激しいみたいだし、そんな中育て上げられたこいつらのプロデューサーたちは、よっぽどこいつらの事をわかってるみたいですね」
「・・・ふん」
ひな先輩は一言そう呟くと、トンっとソファーの背を叩いて立ち上がり、また眩しい室内灯のLEDが俺を照らす
「そんな彼女たちの送迎ができるなんて、お前も役得だな」
「いやいや、やっと挨拶返してくれるくらいになっただけっすよ」
「言ってろ」
コツンと俺の頭の上に何かを乗せて、リビングに入っていくひな先輩
徐々にその頭の上の物体からひんやりと冷たい感触が頭に伝わってくる
「アイス食べる人」
「アイスだー!」
「ひなちゃーん一本ちょうだーい」
「はいはい、お二人もどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうでごぜーます!」
ひな先輩は全員に配った後に姉さんと赤城ちゃんが座っているソファーに腰掛け、赤城ちゃんと楽しそうにアイスを食べ始めた
「いただきます」
「いただきまーす!」
佐々木ちゃんと市原ちゃんと同時に、俺も頭の上からアイスを取り食べ始める
「・・・なぁ、佐々木ちゃん」
「んむ?」
アイスを咥えながらこちらに顔を向ける
「後で車の運転の仕方教えてやる」
「・・・へ?」