「奈緒〜、そこのチョコレート取って〜」
「どっからどう見ても加蓮のほうが近いじゃんか」
「奈緒が取ったチョコレートが食べたいの〜」
「なんだよそれ!自分で取れまったく!」
そう言ってぶつくさ文句を言いながらテーブルの上からビニールの包紙に入った一口サイズのチョコレートを手に取り、わざわざ立ち上がって反対サイドに寝っ転がっている加蓮の元へと奈緒は持っていく
「ほら」
「ありがと〜」
携帯を触っている手を一旦止め、加蓮は包紙を開きチョコレートを口に入れる
美味しそうに食べる加蓮に悪態をつきながら元の位置に戻り、奈緒も自分の分を口にした
「止みそうにありませんね・・・」
「どうしよう、私あの子たちに台風は来ないみたいなこと言っちゃった・・・」
雨風が建物を打ち付ける最中、窓際で美優と瑞樹は不安そうな表情を浮かべながら外の風景を眺める
家に帰れなくなったアイドルたちは、美城プロダクションのそれぞれの場所で身を寄せ合っており、別館の休憩用の一室で瑞樹たちは思い思いに過ごしていた
「あの子たちは青葉自動車さんのところで保護してもらってるみたいですし、きっと大丈夫ですよ」
「でも美優ちゃ〜ん。あの子たち言った手前示しがつかないじゃな〜い。せっかく頼れるお姉さんになりたかったのに〜」
「そんな事しなくても、瑞樹さんは充分頼れるお姉さんだと思いますよ」
「でもでも〜・・・、あーんもう!今夜は飲みたい気分!どうせ346以外どこにも行けないし!」
「み、瑞樹さん!ここにはお酒はありません!」
そっか〜・・・っと備え付けられている冷蔵庫を開けてうなだれている瑞樹
しぶしぶ中にあったオレンジの缶ジュースを二つ手に取り美優の元へ持っていく
「奈緒〜、私もジュース飲みたくなっちゃった。取って〜」
「加蓮のすぐ後ろじゃんかよ冷蔵庫!」
まったく・・・と奈緒は冷蔵庫まで行き、ぶどうジュースを三つ取り出し一つを加蓮の目の前に一つ置く
「ありがと奈緒。優しいから大好き〜」
「あたしが飲みたかったからついでだついで!勘違いするなよ!もうやらないからな!はい、凛の分」
「ああ、ありがとう」
加蓮と同じように携帯を触っていた凛が奈緒からジュースを受け取り、再び携帯へと目を戻した
「みんな同じ感じか?」
奈緒がジュースの蓋を開けて飲みながら言う
「うん、みんな不安みたいだけど・・・上手くやってるみたい。未央たちも、ふふっ・・・ほら」
「どれどれ・・・ブフッ!」
凛の携帯に映っていたのは、シンデレラプロジェクトのオフィスで未央含むみんな揃って変顔をしている画像だった
「デレポで回って今流行ってるみたい。ほら、これとかこれとか」
「ちょ、ちょっと待って・・・お腹痛いはっはっは、アイドルがしていい顔じゃな・・・あっっっはっはっは!!」
奈緒がお腹を抱えて笑っている中、携帯の画面をスライドしていくと、LiPPSメンバーが人文字を作ったり、飛鳥や悠貴、ラブライカなどの面々が同室にいた光の影響で変身ポーズをとったりと、他の部屋の暇を持て余したアイドル達も便乗して次から次へと面白おかしい画像をデレポに上げていた
「あら、私たちも何かやる?美優ちゃんにスモック着せたりとか?」
「み、瑞樹さん・・・!アレはもう勘弁してください・・・」
「川島さん。ここに神谷奈緒という優秀な人材がおりますので」
「おい加蓮!あたしに話を振るなよ!あたしは何もしないからな!大体優秀って何だよ優秀って!いつもいつも私をからかっ」
次の瞬間とてつもない低い轟音と共に、辺りを包み込むような眩しい光が一瞬外に広がった
「ひゃん!」
「うわ!今のは結構近くに落ちたわね」
奈緒が頭を抱えてしゃがみ込み、瑞樹と美優は窓の外を覗き込んで外がどうなっているか確かめていた
加蓮も思わず起き上がり、部屋のドアを開けて廊下に顔を出す
「な、なんだよぉぉ・・・びっくりしたじゃんかぁ・・・」
「奈緒、可愛かったよ」
「ちょっ・・・凛!」
奈緒が凛に詰め寄ろうと立ち上がった次の瞬間、部屋の電気が消え一面真っ暗になった
「今度はなんだよぉぉ!」
「停電?」
凛が携帯のライトを点け、辺りを照らす
エアコンも冷蔵庫も止まり、加蓮と同じように廊下に出ると、照明も自動販売機も電源が落ち、辺りが暗闇に包まれていた
「そっちは大丈夫ですかー!!」
「うん!こっちは大丈夫!ありがとー!!」
声がした方向に振り返ってみると、姿は見えないが同じフロアの別室にいた茜が遠くから話しかけてきた
加蓮が返事を返して再び室内に戻る
「とりあえずここにいましょう。電力が復旧するかもしれないし、外は暗くて危ないわ」
「そうですね」
瑞樹の言葉に凛も加蓮も元の位置に戻り、デレポに目を通す
オフィスビル、本館の方も同じようだ
子ども達は怯えてしまっているようで、必死になだめている呟きが次から次へと投稿される
瑞樹も美優も携帯で必死になだめていた
「テレビもつかないなんて・・・暇だなまったく」
「奈緒〜、チョコレート取って〜」
「またかよ!暗くてわからないわ!」
そんな中、先程と変わらないやり取りを続ける奈緒と加蓮
凛はこんな状況下でもいつもと変わらないメンバーに少し心が落ち着く
「・・・ねぇ、奈緒」
「まったく加蓮は・・・ん?何だ?凛」
携帯のライトで照らしながら、凛は奈緒から渡されたぶどうジュースを手に取り顔の高さまで持ち上げて、奈緒の方にそのまま腕を伸ばす
「こんな状況だけど」
「あ・・・ふふっ。ああ」
そう言って奈緒も自分のジュースを持ち上げた
「ま、楽しくやるか」
そしてほんの少し笑顔を浮かべながら、凛の缶に軽くぶつけようと腕を伸ばすと、凛から返事が返ってくる
「私オレンジジュースがいい」
「ったく!!どいつもこいつも!!」
ーーーーーーーーーー
「うーん・・・」
「幸子はん。うろうろしても何も始まりまへん」
「そうですよ!悩んだときは、お外を走れ・・・ないですよね!今は!!」
暗闇の中、携帯を片手に幸子はうろうろと部屋の中を行ったり来たり、デレポの更新通知を見ながら落ち着きなく動いていた
「もう少し早く帰ってきていたら、北崎はんが送ってくれてたみたいやけど・・・こんな状況じゃ仕方ありまへんなぁ」
「プロデューサーさんも何か食料はないか探してくるって本館に行ったきりだし・・・こんなに暗かったら写真もまともに撮れないね。私のカメラもバッテリーが切れちゃって」
「よし!走れないならトレーニングしましょう!杏ちゃんがリングなんとかアドベンチャーというゲームを持っていたので、みんなでやれば運動も出来て楽しめる!一石二鳥ですよ!!」
「茜さん・・・電気が来てないのでテレビは動きませんよ」
「そうでしたね!!」
勢いよく立ち上がった茜は何もすることなく、そのまままた床に座る
幸子もまた携帯の画面を消してその隣に腰掛けた
「それにしても災難ですね、こう暗いとカワイイボクを見ることも出来なくなってしまいます!」
「・・・まぁまぁ幸子はん、あ、こんなところにお菓子ありましたえ?幸子はんどうぞ」
「え?いいんですか?食べましょう食べましょう!」
「あ、それは・・・」
「私もいただきます!!」
紗枝と藍子が使っていたテーブルに近づき袋の中からお菓子を一つ取ると、藍子が何かを言い出す前に二人は口に頬張った
「ふむ・・・ピリッと程よい辛さが中々・・・」
「そうですね、でも少し物足りな・・・ほ、ふぉぉぉぉぉ!!!!」
茜がまた立ち上がった
「きましたきました!!きましたよ!!燃えるような熱い感じ・・・はぁぁぁぁ!!走りたくなってきましたよー!!」
「あ、茜ちゃん!はい、お水お水!!」
「あひぃぃぃぃ!!!!」
「幸子はん、その隣の冷蔵庫に飲み物入っとります」
携帯のライトで冷蔵庫を照らす紗枝からそれを聞いた瞬間、幸子は我先にと冷蔵庫の扉を勢いよく開き、中身が水であろうペットボトルを一心不乱に飲み始める
「あ・・・幸子ちゃんそれは」
「ゴクゴク・・・うんぶっふぉぇぇ!!あがぎぃぃぃうひぃぃぃ!!!!」
藍子の心配が的中し、幸子は床に手をついて激しくむせ返りのたうちまわっていた
「幸子はん。はい、お水」
「おお!これは炭酸水ですね!!」
茜がペットボトルを確認する横で、今度は紗枝がコップに水を注ぎ幸子に渡す
一気に飲み干しまた両手を床について肩で息をする幸子
「なんで炭酸水がここに・・・し、し、死ぬかと思った・・・」
「ごめんね幸子ちゃん!このお菓子プロデューサーさんが番組の罰ゲームにどうかって持ってきたやつだったの!なんでも一番辛いお菓子の10倍は凄いよって・・・」
心配そうに幸子に駆け寄る傍ら、内心ちょっと番組でやったら面白いかもと思ってしまった藍子だった
「ま、まったく・・・ボクじゃなかったら対処できませんよこんなの」
藍子に介抱されながら、幸子はテーブルの上に突っ伏す
「まぁまぁ幸子はん。ほら、このデレポの動画でも見て機嫌直しておくれやす」
そう言って紗枝はついさっき投稿された『私たちの可愛い奈緒』という題名の動画を再生する
そこには雷に可愛い悲鳴をあげて恐がっている奈緒の姿があった
「・・・どこもみんな暇なんですね」
「せやなぁ、何にもすることな・・・おや?」
「あぁぁぁ辛いですね!すっごく辛いですね!美味しいですね!!」
「茜ちゃん、それくらいにしておいたほうが・・・」
よっぽど気に入ったのか次から次へとパクパクお菓子を口にする横で、紗枝はデレポに書き込まれた一文を目にする
「未央はんからですなぁ、何々・・・『エマージェンシー、冷蔵庫が停止した今、三村隊員が大量に買い込んでいたアイスが全滅の危機、至急シンデレラプロジェクトルームまで応援を求む』やって」
「アイス・・・」
幸子が呟いた瞬間、辺りは暗いはずなのに三人(一人はお菓子に夢中)それぞれ目が合ったのがわかった
真夏の真っ只中にエアコンが停止した今、幸子はもちろん他三人もラフな格好はしているがジワジワと衣服の内側に汗が滲んでくるのを薄々感じていた
保存していた飲み物もだんだんと温くなり、当然自動販売機も動かない
電力復旧の目処も今は立っていない
もう答えは決まっていた
「行きますよ!!」
「茜ちゃん!そのお菓子置いて!」
「え?あ、うおぉぉぉ!藍子さーーーん!?」
普段のゆるふわなイメージからは想像もつかない程の強靭な力で茜の腕を引っ張り、紗枝も幸子も四人部屋を飛び出した
ーーーーーーーーーー
「うん、多分これで大丈夫なんじゃないかな」
「ごめんね未央ちゃん、私のせいで・・・」
「いいのいいの!この暑さじゃ逆にアイスは救世主だよ!それにしてもかな子ちん〜、こんなにアイスを独り占めしようなんて感心しませんなぁ〜」
「ち、違うよ!私はみんなで食べようかなぁって思って・・・!」
「はい、文香さん。アイスです」
「ありがとう・・・ありすちゃん」
話を聞きつけたアイドル達がポツリポツリ現れ始め、テーブルの上に置いてあるアイスが少しずつ減っていく
「たのも〜」
「ちょっと周子!ごめんね〜、お邪魔するよ!」
「う〜ん、部屋に広がる甘〜い香り・・・ゾクゾクする〜」
「あ、見て見てシキちゃん。『私たちの可愛い幸子はん』だって。カワイイね!!」
「応援にきたわよ」
「うむ!ご苦労であります!」
続いてLiPPSメンバーも到着し、未央に誘導されながらテーブルの上からアイスを取っていく
「あ〜、ありすちゃ〜んさっきぶり〜」
「こんばんはフレデリカさん。それと、橘です」
「テイク2〜、橘ちゃんさっきぶり〜」
ソファーに文香と一緒に座っているありすの元へとフレデリカが駆け寄っていった
「あ、美嘉ねぇお疲れ!はい、アイス」
「うん、ありがとう。ごめんね〜急に押し掛けちゃって」
「呼んだのは私たちだし、大丈夫大丈夫!それにしても困ったもんだね〜」
「ホントね、莉嘉は無事に家に帰ったみたいだからよかったけど・・・志希ちゃ〜ん、何とかなんない?」
「いくら私がギフテッドでも何もないところから電気を作るのは無理・・・うーん待ってよ、とりあえず壁壊して中の配線を見ないと」
「やめなさい」
コツンと志希の頭を軽く叩く奏に未央たちはクスッと笑う
「他の子たちは?」
「しぶりんたちは部屋にいるって、ちびっ子組もプロデューサーと遊ぶ!って動かないみたいだし、後は来たら来たってカンジかな!」
「なるほどね〜」
そう言ってアイスを口に咥える美嘉
「ちびっ子といえば」
美嘉が口元をペロッと舐めて言う
「みりあちゃんたちは?自由研究・・・だったっけ?」
「ああ、なんか青葉さんに泊まるみたいだよ?あっちもあっちで大丈夫・・・なのかなぁ?」
「大丈夫なんじゃな〜い?」
地べたに座り込んでいた志希が顔を上に向けてそう言った
「今日一日追いかけてみたけど・・・特に?ってカンジ。仕事は仕事って人?志希ちゃんわかんな〜い、にゃは?」
「あんたねぇ、今日は仕事なかったからよかったけど・・・」
「ごめんなさ〜い。そしてこれからもごめんなさ〜い」
またコツンと志希の頭を軽く叩く奏
「それでここをこうするとページがスクロールできて・・・あれ?」
「ありすちゃん?下に帯のようなものが・・・」
暗がりで本が読めないため、ありすがこれを機にと文香にタブレットを勧めていたところ、画面にポップアップがスライドしてきた
文香がその帯を指差そうと前のめりになった弾みで人差し指が画面に触れ、ポップアップが拡大される
「デレポですね」
「ああ・・・皆さんがよく使っているという」
遅れて、部屋にいた数人の携帯にもほぼ同時に通知が届く
「・・・ライブ配信?」
そこにはタイトルが『エンジェルとの対決!』と書かれている一本の動画が上がっていた
左下に''Live''と書かれているため、動画のサムネイル自体はブラックアウトしており、再生しないと分からない仕組みになっている
「みりあさんみたいですね」
思わず再生ボタンをタッチする
「なになに?」
「みりあちゃんだって」
タブレットの大きな画面で見ようとアイスを片手にありすの座っているソファーの背後に回り、画面を覗き込む未央、美嘉を始めとする数人のアイドルたち
それに気づいたありすは目の前のテーブルにタブレットを立てて置く
未央たちは片手をソファーについて、前のめりのような姿勢になった
画面の中で右回転する数個の水玉模様が消える
『あ、映った?ああ!映った映った!!みんなー!こんばんはー!!』
「おお!みりあちゃーん!」
再生されると、みりあの顔の右半分が拡大されて写り込んでいた