ヘイ!タクシー!   作:4m

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自由研究09

『あ、みんな元気・・・わぁ!すごーい!!みんないる〜!!』

「ワオ!みりあちゃんいつの間にそんな大きくなってフレちゃんビックリ!」

「みりあちゃ〜ん、顔が近すぎて何が何だかわからないよ〜」

 

とコメントするとみりあは「ごめんなさ〜い」と携帯を顔から離す

 

「赤城隊員、状況説明を求む!」

『え?えっとね・・・台風が近づいてきて、帰れなくなっちゃったの!だから、仁奈ちゃんがお母さんに連絡して、泊まることになって、それでみりあたちも泊まりたくて、今日はすっごく楽しくて、それでね!』

「な・・・なるほどなるほど!とにかく、泊めさせてもらうことになったって事でOK?」

『そうなの!!』

 

みりあは感情を隠しきれず、満面の笑みでそう伝える

 

「それで・・・そこは何処なの?」

 

背景に映し出されている巨大なシャッターと、体育館のような内装をした建物が気になる未央がみりあに尋ねる

 

『ここはね・・・青葉自動車さんのお家なの!』

「お家?」

『ああ、ダメだった!ダメダメ!ホンっとダメ!』

『次は千枝が・・・!』

 

みりあの横から別の声がした

 

『''Welcome to Ridge state''』

 

次から次へと声が聞こえる中みりあが携帯のカメラを左に向けると、リビングのようなスペースが映し出される

そこにはソファーにぐったりと深く腰掛けている零次の姿と、その隣でゲームのコントローラーのようなものを持ってテレビと向き合う千枝の姿があった

 

「そっちは今何をやってるの?」

『今はね、みんなでレースしてるの!!』

 

携帯を持ってソファーに近づくと、そのテレビ画面には近未来的な車が映し出され、千枝が『これでもない、これはダメだったし・・・やっぱりこれ・・・』と呟きながら車をスクロールしている

 

「あれ?そっちも停電なんじゃないの?」

 

よくよく考えたら、テレビやら室内を眩しく照らしているLEDなど不可解なことでいっぱいだった

 

『あのね、''自家発電''なんだって!なんか・・・えっとね、コンプレッサーが止まったら困るから、だって!!』

「こんぷれっさー?」

 

聞き慣れない言葉に未央たちは顔を見合わせる

 

『あれ、お前ら』

「レイさんやっほー!おお!珍しい私服姿ですなぁ」

『やめろ!マジマジ見るんじゃな・・・ああ!お前!一ノ瀬志希!』

「どもども〜、先程はどうもどうも〜」

 

どこか抜けたような声で返事をする志希に、零次は呆れたように頭を抱える

 

「すいません・・・よく言って聞かせましたので」

『おお、美嘉姉ちゃんじゃないか。さっきは助かった』

『懐かし〜、7じゃないか!』

 

すると、画面の端にもう一つウィンドウが開き、別室の奈緒たちに繋がる

 

『あたしも幼稚園の頃よくやったよ!これからエンジェルに挑むのか!やるじゃんか!』

『奈緒、みんなが置いてけぼりくらってる』

「しぶりんだー!!」

『私もいるよー』

 

横から凛と加蓮が顔を出す

 

「しぶりんたちもアイス食べに来ればいいのに〜」

『本格的に暗くて危ないからやめとく、そっちはどう?みんな大丈夫?』

「うん!みんな元気だよ!三村隊員のおかげで!」

「も、もう!未央ちゃん!」

 

かな子が未央の肩をポカポカと叩く

 

「あ、そういえば奈緒の動画みたよ!意外と可愛いトコあるじゃん!」

『ん?どういうこと?可愛いトコって何ですか?美嘉さん?』

 

画面の前で奈緒が首を捻っていると、凛、加蓮が順番にスッ・・・っと静かに画面からフェードアウトした

 

『ん?なんだ?』

 

奈緒が画面から離れた凛と加蓮を不思議そうに見比べていると、Live動画の一段上でポンポンといいねの星が増えていることに気づく

気になったのか奈緒が画面に人差し指を向けスライドした瞬間、画面のバックライトでもハッキリ分かるほどに奈緒の顔が真っ赤に染まった

 

『くぅぅぅおぉぉぉらぁぁ!凛!!待てコラ!!逃げるなぁぁぁぁ!!』

 

次の瞬間、一瞬で画面から奈緒が消え、ドタバタと走り回る効果音だけが聞こえてきた

 

「ワオ!あっちも仲がいいね!レース始めるなんて!」

「いやフレちゃん、ちゃうちゃう」

 

周子がフレデリカの肩に手を置いてそう言う

 

『''Get ready to race''』

 

画面からそんな声が聞こえてきた

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ぐぬぬ・・・!ぐぬぬぬ!」

「佐々木ちゃん、無理はするな。まずは背中を捉えることからだ」

「うん、やっぱり最近の若い子はこういうの飲み込みが早いわね・・・」

「姉さんもやってみれば?」

「私はピコピコはだめよ〜ひなちゃん。携帯でさえ完璧に使いこなせないのに〜」

 

コントローラーを持った両手を、画面の車が右へ左へと曲がるたび同じように体ごと捻りながら佐々木ちゃんは必死に相手を追いかける

 

「あ!うっすらと見えたでごぜーますよ!」

「でも遠いね・・・」

「最後まで諦めません・・・!」

 

最後のコーナーを抜けて、直線に上手く入る事はできたが、相手のシルエットは遥か先を走っていた

 

「''Finish!''」

 

テレビの画面から音声が流れた瞬間、テーブルの上に立て掛けて置いてある赤城ちゃんの携帯の画面からも『ああ〜・・・』という複数の声が上がり、前のめりになってプレイしていた佐々木ちゃんが背後の背もたれに深く腰掛けて、コントローラーを持っていた手をだらんと自分の膝の上に置く

 

「ダメです、この人?強すぎです・・・」

 

テレビからはプレイヤーを励ます音声が流れる

 

『いやいや、エンジェル相手に初心者がそこまで追いつけるのは逆にセンスあるぞ』

『あの曲がりカーブの手前からこう・・・滑り始めれば?』

『さすがに初心者に直線ドリフトは難しすぎるわ凛』

 

美城組も他に特に娯楽がないのか、アイドル同士話している者、長電話している者など様々で、彼女達も例に漏れず画面を食い入るように見ていた

 

「みりあもや〜る!みりあもやーる!!」

「みりあちゃん!ここどうぞでごぜーますよ!」

 

市原ちゃんが立ち上がり、自分が座っていた場所をポンポンと叩いた

「ありがとう!」と赤城ちゃんが返事を返し、市原ちゃんと入れ替わるように佐々木ちゃんの隣に座る

 

「おねーさーん!」

「あら!仁奈ちゃんいらっしゃ〜い!」

 

俺の前をトテトテと小走りで通り抜け、姉さんとひな先輩の間にすっぽり収まる市原ちゃん

姉さんは飲んでいたビールをテーブルに置いて市原ちゃんの頭を撫でていた

 

「どれにしようかな〜」

『その銀色のは?』

『あ、それ走りやすいぞ』

「ほんと?じゃあこれにしよ!」

 

画面から聞こえてきた神谷さんのアドバイスに従い、赤城ちゃんは自分のマシンを選びスタート画面に入る

 

「ねぇねぇおねーさん」

「「なに?」」

 

市原ちゃんの問い掛けに、姉さんとひな先輩が同時に返事をして市原ちゃんに顔を向ける

 

「あ、えっと・・・うーん?」

「フフフッ、美空でいいよ」

「美空おねーさん?」

 

姉さんに顔を向けたあと、次はひな先輩と目が合う市原ちゃん

 

「・・・ひなでいい」

「ひなおねーさん・・・」

 

市原ちゃんのポカンとした表情から一変、笑顔が一瞬で広がる

 

「美空おねーさん!ひなおねーさん!」

「は〜い」

「よくできました」

「えへへ!」

 

そうして姉さんとひな先輩の腕に抱きつく市原ちゃん

 

「えへへぇ!!」

「姉さん・・・」

 

ご満悦な姉さんの様子に呆れた表情を浮かべるひな先輩

そんな様子に気づくことなく嬉しそうに市原さんは姉さん達にくっつく

 

「あ、あの・・・」

「ん?なした?」

 

隣から聞こえた佐々木ちゃんの声に応えるように、顔だけ向けた

 

「ずっと、お礼を・・・言いたかったんです」

「お礼?何の?」

「ふん!よいしょ!えい!えい!」

 

赤城ちゃんが運転に四苦八苦し、市原ちゃんが姉さんたちと楽しそうに話す

そんな騒がしいはずの室内に、俺と佐々木ちゃんだけの空間が出来上がっていた

佐々木ちゃんは太ももの上で両手の指同士を合わせて指先をつけたり離したり、完全に顔をこちらに向けるわけではなく、目線だけをこちらにチラチラ向け遠慮がちに話す

 

「と、突然すいません。前に、私の誕生日会に間に合わせてくれたこと・・・」

「ああ、そんな事もあったなぁ」

 

春頃だったか、初めて三人に会ったときだった

 

「あの後、北崎さんはご飯を食べたら帰っちゃって・・・ちゃんとお礼を言えなかったから」

「いや、別に。大した事はしてないし、それが仕事だったから」

「いえ!」

 

佐々木ちゃんが顔をこちらに向ける

 

「私嬉しかった・・・本当に嬉しかったんです。あんな風に言ってくれる人、今まで居ませんでした。大人の人はみんな、お話しするのはお仕事のことばっかりで・・・いつもお仕事のことを考えてて・・・でも」

 

顔を下に向けて、少し考えてから再び俺に顔を向けた

 

「私のことを考えてくれた人は・・・北ざk・・・零次さんが・・・初めてでした」

「・・・そっか」

 

改めて、こいつらがそういう世界にいることがわかる台詞だった

 

「今日は楽しかったか?」

「・・・はい!」

 

俺の質問に満面の笑みを浮かべて答える

子どものように無邪気な・・・いや、そんな言い方は止めだ

これは本来あるべき純粋な笑顔なんだろう

 

「えい!えい!えーい!!」

「わわ・・・!」

 

隣でコーナーを曲がる際に体も動いていた赤城ちゃんの腕が当たり、こちらにもたれかかってくる

 

「ご、ごめんなさ・・・!」

「ん?いや・・・」

「えい!むむむ・・・むーん!」

『みりあちゃんがんばれー!』

 

携帯から聞こえてくる声援と、ゲームプレイに夢中になり体を振り回す赤城さんから少し離すよう、肩に手を置き少しこちらに引き寄せる

 

「ふわ・・・わ・・・わわわ・・・わわわわ・・・!」

「おい、大丈夫か?」

「・・・はい・・・大丈夫・・・れふ」

「それならいいけど・・・、いやなら言えよ、千枝」

「・・・!はい・・・零次さん。えへへっ」

 

そう言って千枝は、俺の肩に軽く頭を預けた

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

『ねぇ、何かおかしくない?』

 

そんな声が携帯から聞こえてきたのでテレビ画面を確認すると赤城ちゃんが運転していた車が壁にぶつかり続けていた

赤城ちゃんに目を向けると、コクリコクリと顔を小刻みに下に向けて目を閉じ、コントローラーを持っていた手は力なく両膝の上に落ちている

 

「仁奈ちゃんも限界みたい」

 

姉さん達の方も、市原ちゃんがひな先輩の方に倒れ込み、その膝を枕にしてすやすやと寝息を立てている

俺は自分の携帯をひとまずテーブルに置いて、赤城ちゃんの携帯を取る

 

「悪い、こっちちょい限界きてるみたいだから切らせてもらうわ。お前らも早く寝ろよ」

『うん!みりあちゃん達のことよろしくね!レイさん!おやすみー!』

 

本田ちゃんがそう言うと、続け様におやすみと挨拶が聞こえて一人また一人と画面から離れていく

 

『や、やっとついた・・・茜ちゃんダッシュで行っちゃうんだもん・・・』

『いやー楽しかったですね!また一緒にやりましょう!』

『さ、さすがに・・・30階を階段で登るのはもう・・・堪忍やわぁ・・・』

『おお!ギリギリだったね!はいどうぞ!』

『やっと着きましたー!いくらカワイイボクでもエレベーターなしでここまで登るのは初めてですよ!さぁ!早くアイスをボクに!』

『あっ、ごめん丁度無くなっちゃった』

 

バタン!と何かが背後で床に倒れる音をバックに橘ちゃんの指が画面に近づくと同時に通話が切れる

時計を確認すると、もう9時半を回っていた

 

「さてさて、どうしようかねひなちゃん」

「とりあえず・・・仁奈ちゃんとみりあちゃんは私のベッドに運ぶ。千枝ちゃんは丁度お前にくっついてるから何とかしてくれ」

 

千枝も他の二人と同様に、俺に肩を預けたまま頭をこちらに傾け、すやすやとリズミカルに寝息を立てていた

くっつけている腕が窮屈にならないよう無意識に俺の左腕に自分の腕を回し、倒れ込むように枕にして寝ている

 

「おい、ここで寝たらダメだ。おい・・・まったく」

 

千枝の頭のつむじ部分を右手で軽くトントンとつつくが

 

「んむぅ・・・むふぅ・・・んん・・・ん」

 

軽く起こすつもりが、千枝は体を少しもぞもぞと動かした後に右腕も俺の腕に絡ませて完全に抱き枕にされてしまっていた

 

「よし、仁奈ちゃんはこれでいい。みりあちゃんもよろしく」

「はいは〜い。よいしょっ・・・と」

 

姉さんが赤城ちゃんの手からコントローラーを離し、そのまま抱き抱えるように持ち上げて後ろのひな先輩のベッドまで運ぶ

 

「ひなちゃんのベッドが・・・よっと、セミダブルで良かったわ」

「ベッドがちっちゃいのが嫌なの」

 

赤城ちゃんをそのままベッドに下ろし、市原さんと同じように横にする

薄いタオルケットを掛けると、安心したのかお互いに寝返りを打って向き合う形ですやすやと寝息を立てていた

 

「まぁそれにしても凄いわね、まだこんなに小さいのに」

「中々に肝が座ってる」

 

姉さん達が話しているのを聞き、改めて千枝に目を向ける

きっと、俺たちには想像も出来ないような、途方もない苦労があるのだろう

でも、それでも諦めずやってこれたのは自身の強さもあるだろうが、それ以上に仲間にも恵まれているからではないだろうか

 

「・・・」

 

俺は赤城ちゃんの携帯をテーブルから取り、そう思った

 

「職場環境は・・・いいんじゃないですか?」

「ふん・・・で、そっちはどうする?」

「ええ、そっちはいっぱいみたいなので、俺の場所まで運びます。あ、これ赤城ちゃんに」

 

そう言って携帯をひな先輩に渡す

 

「じゃあ、私は下にいるから三人をお願いね。んー・・・さて、やりますかぁ」

 

腕をグーっと上に伸ばし、姉さんは下に繋がる階段へと歩いていった

 

「じゃあ千枝ちゃんを頼む。・・・ふわぁ、私も少し眠い。どこで寝るか・・・」

 

ひな先輩は小さくあくびをして、二人が寝ているベッドに赤城ちゃんの携帯を置きに行く

 

「さて・・・よっこいしょっと」

 

俺も千枝を持ち上げて自分のベッドに向かう

さすがに抱き抱えるわけにはいかないので、いつぞやの櫻井ちゃんのようにお姫様抱っこで持ち上げてとりあえずベッドに座らせる

 

「ん・・・ふぅ?」

「ちょい待ってな、今この毛布をどけてタオルケットにするから・・・よしOK」

 

寝ぼけ眼の千枝の横で、寝苦しくないように準備をする

遠くから姉さんが階段を降りる音が聞こえてくる

 

「これでいいだろ。ほら横になって」

「んー?」

 

返事にならない返事を返しながら、千枝は大人しく横になった

 

「じゃ、おやすみ」

 

そう言ってタオルケットを掛けると

 

「うーん・・・えへへ」

「な、ちょっ」

 

タオルケットから腕を出して、前屈みになっている俺の首にそのまま回し俺をベッドに倒す

 

「おい、離せ。おい聞いて・・・はいないな絶対」

「・・・」

 

すぴーっとそのまま寝息を立て始めた

ひな先輩に助けを求めようとしたが、あちらも携帯を置きに行ってそのまま俺と同じような境遇になっているようだ

 

「これは逃げられそうにないな・・・明日の朝、嫌われてなきゃいいけど」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

次の日の朝

 

「はわぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・!」

 

小さくて可愛い悲鳴が零次のベッドの上で上がった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「・・・」

 

様々な部屋でパソコンのキーボードを打つ音、人が歩く音、話し声が聞こえる中、第3芸能課のオフィスのど真ん中で、一ノ瀬志希はあるノートに目を通す

 

「・・・ふむ」

 

顎に手を当てて、そのまま片足に軽く重心を移動させ若干楽な姿勢になり、立ったままノートを読み進めていく

時計の針が進む音だけが部屋の中に響き渡り、志希の目は文字を追っていく

 

「あ、シキちゃーん」

 

開きっぱなしの扉からそんな素っ頓狂な明るい声が聞こえたが、志希は一瞬目を扉に向けるも、そのまますぐノートに目を戻す

 

「なになに?そんな真剣なシキちゃん久しぶりに見たよ?」

「ふふ〜ん、ちょっと散歩がてら面白そうなもの見つけちゃって」

 

部屋に入ってきたフレデリカはそのまま志希の背後に回り、肩から覗き込むような体勢でノートを覗き込む

 

「あ、それこの間の自由研究ってやつ?ワオ!アタシも元小学生だからね、その気持ちよくわかる!」

「フレちゃんって出身パリじゃなかったっけ?」

「見た目はパリジェンヌ、頭脳は日本、その名はフレちゃんなのだー!」

 

そう言って両腕を上に伸ばすフレデリカに合わせるように、志希も「なのだー」と同じように両腕を上に上げる

 

「で、シキちゃん。さっき美嘉ちゃんが探してたよ?志希ちゃんどこ行ったんだろう?って」

「きっとその100倍は怒ってるよね〜」

 

現に今は営業時間真っ只中、前にここに来た時とは違い、時計は1時半を回っている

午後一でレッスンの予定が入っていたが、午後は誰もこの事務所にいないことを聞きつけた志希は知識欲を抑えきれず足を運んでしまった

 

「あれ?もういいの?」

「うん」

 

志希はノートを元の位置に戻す

 

「知りたいことはわかったし」

「フーン・・・」

 

今度はフレデリカがノートを手に取り目を通し始める

 

「ほら、早くいかないと。待ってるんでしょ?この前も散々だったからさ〜、美嘉ちゃんの機嫌損ねちゃ」

「シキちゃん、そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だよ〜?」

 

フレデリカの言葉に喋るのをやめ、ドアノブに手を掛けたまま停止する志希

 

「・・・は?」

「うん?」

 

一旦扉から離れフレデリカに近寄ってくる

 

「あたしが?心配?いつ?あたしは研究対象がどういうものか気になっただけ。どうして?そう思ったの?教えて欲しいなぁフレちゃん?にゃはは?」

 

早口早足で捲し立てながら、猫のような笑顔を口元に浮かべフレデリカにピッタリと近寄った

3cmの身長差から、若干志希がフレデリカを見上げる体勢になる

 

「あの子たちなら大・丈・夫ってコト!あの真面目な千枝ちゃんが大丈夫なんだもん、きっと大丈夫だよ!ほらシキちゃん、笑って笑って!」

 

両手の人差し指で志希の口元の両端を上に吊り上げる

猫のような形から一変、ヘンテコな笑顔に形が変わった

 

「こっちの方が今のシキちゃんに合ってるよ!みんなのことが心配な、優しい優しいシキちゃん」

「・・・」

 

志希は何も言わず、フレデリカにされるがままになっていたが、徐々に顔を伏せていき、自分の顔に当てられているフレデリカの手を掴んで、そっと下に下ろした

 

「?」

 

フレデリカが頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると、志希は俯いたまま自分の首元を撫で始める

 

「あ、いた!志希ちゃーん!!全くすぐあんたはいなくなるんだから・・・志希ちゃん?」

 

部屋に勢いよく入ってきた美嘉はいつもと違う志希の様子に気づく

首元に当てた手が下ろされると、首元がほのかに赤く染まっていた

 

「早く、レッスンでしょ」

「ええ、ってちょっと志希ちゃん?」

 

美嘉が近づく前に志希は美嘉の横を通り抜け足早に廊下に出て行く

 

「あら、志希ちゃん」

「え・・・?」

 

偶然通りかかったちひろが声をかけた

 

「トレーナーさんが探してましたよ?早くレッスン室に・・・志希ちゃん?大丈夫ですか?ほっぺたが少し赤いですが・・・」

「あ・・・いや・・・」

 

そう呟くように話した後、少し俯いて再び顔を上げる

 

「何のことかにゃ〜?にゃはは!」

「あ、志希ちゃん」

 

するとまた、志希は足早に去って行ってしまった

 

「あの子どうしたんだろ」

「大丈夫だよ美嘉ちゃん!大丈夫って話してただけだから!」

「はぁ?」

 

今度は美嘉の頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいた

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