クローバー01
神よ、感謝します
私にこの機会をお与えくださったことを
「はい!いつもありがとうございます」
私に、今日という日を与えてくれたことを
「本当ですか?これからも・・・応援よろしくお願いしますね」
神よ、感謝します
「えへへ、そんな・・・また、来てくださいね?」
この地に、大天使チエリエルを!ご降臨!なさって!くれた!ことに!!!!
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一週間前
「・・・」
夏もいつの間にか過ぎ、季節はほのかに秋へと移り変わろうとしている今日この頃
「はい、一回でいいですか?」
世間は前年度の終わり、街を見てみても様々な職種の人たちが慌ただしく動き、後期へと入るための準備、前年度の締めのために精を尽くしている
「暗証番号をお願いします・・・はい、もう少々お待ちください」
うちも例外ではなく、仕事が大詰めを迎え、美城からの依頼を断ることが増えた
大きな仕事こそ入ってはいないが、ちょこちょこした仕事が残っており、その消化作業に追われている
「はい、カードお返しします。ありがとうございます」
今日も今日とて、少し早いタイヤ交換やオイル交換などでお客様の来店が多かった
「・・・ふー」
ひな先輩が立ち上がってお客様を見送った後、クレジットカードのレシートを整理しながら椅子の上でため息をついていた
「終わりか?今日は大体」
「はい、そうですね・・・大体予約の方は来ましたね。というかさっきので最後です」
ひな先輩から受け取ったレシートをしまいながら、パソコンを確認する
予定ではさっきのお客様で最後、その後は白紙で埋まっていた
「飛び込みが来なければ・・・の話ですが、そろそろいい時間帯だし、もうこのまま大人しく帰りたいです」
「後は姉さん次第か」
そう言ってひな先輩は工場を窓越しに覗く
椅子を少し回転させて俺も同じように目を向けると、検査ラインで運転席の窓から少し外に身を乗り出して、手に持っているリモコンを天井からぶら下がっているデジタル数字が表示されている機器に向ける
「あと・・・40分くらいですかね。書類も含めると」
「暇だったら仕上げを手伝ってやってくれ」
「はい」と返事を返して自分のパソコンに向かい、明日の予定を確認しておく
周りの書類も片付けつつ、ぼちぼちと帰る準備をしていると、出入口から人が入ってくるチャイムが事務所に鳴り響く
「この時間予定あったか?」
「いえ、特に何も・・・飛び込みですかね」
事務所の扉が開いた
「こんにちは・・・」
「こんにちは〜」
「あ!お前ら!」
入ってきたのは、二人の女子高生
少し丈の短いスカートに制服姿というのは同じだが、学校は違うのか色合いは別
同じように肩からバッグを下げて、挨拶と同時に体の前に持ち直す
「零次さん、久しぶり〜」
「ひなさん、お久しぶりです」
そのまま受付のカウンターの前まで歩き、ペコっと頭を下げた
「ああ、久しぶり。待っててくれ、今コーヒー入れるから」
そう言ってひな先輩は給湯室へ行ってしまった
「で、今日はどうした?仕事はないはずだぞ。花屋とポテト姫」
「用がないと来ちゃいけないの〜?最近346に顔出さないから会いに来てあげたのに〜」
「冷たい人」
二人カウンターの前の小さな椅子に座り、床にバッグを置いて小さく不満を呟く
「ひなさんから、暇なら遊びにきなって前に会った時に言われたから、ちょうど凛と鉢合わせして・・・そのままって感じ」
「今日は放課後仕事もなかったから、加蓮と遊んでたってわけ。午前授業だったし」
「何で?今日そんなに特別な日だったっけか」
「明日から秋休みだから〜。私たち」
「そうかいそうかい、いいですね。学生はそんな休みがあって」
嫌味ったらしくそう返しながら、俺は書類をトントンと机の上で整える
「っていうか、前々から気になってたんだけど、零次さんっていつ休んでんの?」
「何だって?」
「いやホラ・・・プロデューサーが呼んだらすぐ来てくれるし、随分働き者だなぁって」
加蓮の言葉に凛も携帯を触りながら首を軽く縦に振る
「あのなぁ・・・一応仕事なんだぞ、お前たちの送迎。それに心配しなくてもちゃんと休んでる。家にいるだけで」
「大体寝るかゲームしてるかだろ」
コーヒーを三人分手に持ちひな先輩が給湯室から戻ってきた
二人はお礼を伝えるとコーヒーを受け取る
そして両手でカップを持ち一口飲むと、苦そうに顔を少し歪めた
カウンターの上にコーヒーを置くと、すぐに一緒に持ってきたスティックシュガーを二つコーヒーに入れた
「え、じゃあ家に一人?寂し〜」
「彼女とかいないの?」
スティックシュガーのゴミをクシャっと手で握りながら凛がそう言う
「今はいない」
「昔はいたんだ」
「いいだろ俺の話は、大体そんなこと聞いて誰が得するんだ」
凛と加蓮は顔を見合わせてクスクス笑う
「じゃあ・・・今はフリーってこと?」
「イイコト聞いちゃった〜」
カウンターに両肘をつき、そのまま両手に顎を乗せてニッシッシと小悪魔のような笑顔をこちらに向けている加蓮
制服の袖で手首が隠れ、衣替えし暖かそうな格好なのに胸元が少しあいているその少しあざといスタイルは、アイドルが故の武器なのだろうか
ファンが魅了される気持ちがまた少し分かった気がした
「だからって休みの日にお前らに付き合う理由はないからな。俺にだって予定っていうもんが・・・」
「送迎なり荷物持ちなり好きに使ってくれ、どうせ暇だから」
「ちょっ!ひな先輩!」
俺の抗議も虚しく、聞き流しながらひな先輩から差し出されたお菓子のチョコスティックを口で受け取り美味しそうに食べる二人
まったく人の気も知らないで
「ふぅ〜、後は書類だけだわ〜。片付けて終わり・・・ん?」
工場の扉が開き、大型のバインダーを抱えて事務所奥の検査員用デスクに来た姉さんがこちらの様子に気づく
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って・・・!本物?ホンモノ!?トライアド・・・プリム・・・ス!?」
慌てふためきながらデスクにつき、バインダーで顔を隠すものの、少し目から上を出してこちらをうかがっていた
「こんにちは〜、初めまして」
「こんにちは。すいません、今日は神谷奈緒はいなくって・・・」
凛と加蓮がそれぞれペコっと頭を下げ姉さんに挨拶するが、姉さんは「いえいえぇぇ・・・」などと小さく返事をして縮こまってしまっていた
「あ、ああ。そういえば会ったことないよな。うちの整備士で検査員で工場長。基本工場にいるから会ったことないのも無理はない」
ひな先輩はそう言うと小さく姉さんに手をこまねく
姉さんは自分自身を指差して困惑していたが、ひな先輩がうんうんと頷くと恐る恐るバインダーを前に抱えたままカウンターまで歩いてくる
「は、初めまして・・・海道美空っていいます!最初に一つだけ言っていい・・・?もう最っ高!!大ファンなの!!」
「ホント?お姉さんありがとう!」
興奮冷めやまぬ姉さんに加蓮が手を差し向けると、姉さんは慌てて俺の机にバインダーを置き、手を軽く服で拭いて同じように差し出す
「ああ・・・一応ちゃんと手は洗ってるんだけど、こういう仕事してるから・・・もう少し綺麗にしておくんだったわ」
少し手が引っ込みかけるが、それを逃がさず加蓮は手をしっかり握る
「応援してくれてありがとうお姉さん。今日はいきなり来ちゃってごめんなさい」
加蓮がそう言って手を離すと、次は同じように凛も手を差し出す
「初めまして、いつもお世話になっています。わぁ・・・!職人の手ですね。カッコいいです」
凛も加蓮と同じように何の躊躇いもなく姉さんと握手を交わした
「そんなことないわ。あなたたちの方が何倍もカッコいいわよ」
「いえ、私は機械はよくわからないから・・・直せるお姉さんって凄い」
「機械系得意なアイドルもいるけど・・・私もあまりって感じだから」
加蓮と凛の言葉に「いや〜ん」と嬉しそうに喜ぶ姉さん
さっきとは裏腹に意気揚々とバインダーを持って奥のデスクへと向かっていった
「・・・あんなんだけど、悪い人じゃないから。よろしくね」
「全然〜、面白そうなお姉さん〜」
加蓮が興味深そうに視線を姉さんに送る横で、凛が加蓮とは少し違った意味合いで姉さんを見ていた
「う〜ん・・・」
「凛?」
唸っている凛に加蓮が声を掛ける
「どこかで会ったこと・・・あるような」
「・・・姉さんって美城プロ行ったことあったか?」
「最初車取りに行ったときくらいしか・・・ニュージェネとすれ違った、みたいなことは言ってましたけど''会った''とは言ってなかったですし」
「いや、そういう感じじゃなくて・・・」
顎に手を当てて考え込む凛
「どっか仕事で行ったときだったかな・・・会場?ライブじゃないし・・・」
「まぁ・・・あの人は謎が多いから」
「ライブにでもたまたま行ってたんじゃないですか?その、トライアドプリズムの」
『トライアドプリ''ムス''』
カウンターの二人と、姉さんからツッコミが入った
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それからしばらく談笑していると、姉さんは工場を閉めるために戻っていった
日がすっかり落ちてゆき、辺りはすっかり暗闇に包まれていく
道路にも帰宅ラッシュの車が溢れ、街頭に灯りが灯り始めた
「ただいま〜。おお!これはこれは!」
「あ、こんばんは」
「こんばんは〜。お邪魔してます」
手に自分のコートと書類を抱え、社長が慌ただしく入ってきた
凛と加蓮は同時に立ち上がり、社長に向かって頭を下げる
「うむ、こんばんは。いやいや、やっぱりいつ行っても美城プロは大きくて緊張するねぇ」
「今西さんに会ってきたんですか?」
キーボードを叩きながらひな先輩が尋ねる
「会いたかったんだが、会議が長引いてね。残念だが会えなかったよ。ああ、そんなかしこまらなくてもいいよ。ゆっくりしていってくれたまえ」
「は、はぁ・・・」
呆然と立ち尽くす二人に、はっはっはと笑いながら社長室へと向かうがドアの前で立ち止まる
「ああ、そうだ。もう一人お客様が今入ってくる」
「お客・・・?」
コートを持っている手を軽く出入口に向け動かすと、事務所のドアが開く
「あれ?プロデューサー!?」
「凛、加蓮!お前たちどうしてここに?」
スーツ姿の青年が、凛と加蓮に向かい合った