ヘイ!タクシー!   作:4m

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クローバー06

ガラガラガラと、壁の中心に備え付けられていた巨大なシャッターが大きな音を立てて閉められていく中、車が建物の中心に止められてエンジンが切られた

 

「はい、お疲れ様!」

「あ、はい。お疲れ様です。わぁ・・・」

 

お姉さんに続いて車の外に出てみると、そこはまるで学校の体育館のように開放された空間が広がり、外から見えたアーチ状の屋根から室内灯がぶら下がっていた

明るいLEDが室内を眩しく照らして、外にいる時は見えなかったが、車の隣には二本の柱に挟まれて上まで上げられている零次さんの車があった

これがリフトと言うものだろうか?

 

「珍しい?そりゃあ珍しいか!車の下なんて見ないでしょ」

 

キョロキョロと周りを見渡していると、車の後ろから荷物を取り出していたお姉さんにそう言われる

 

「あ、本当に来たよ」

 

その声に上を見上げてみると、シャッター付近の壁から始まるコの字型のギャラリーの左側から、零次さんが柵に両腕を乗せて寄りかかりこちらを覗き込んでいた

 

「あー、ただいま!レイジ君!」

「あ、零次さんお久しぶりです!」

 

「おお、おかえり。久しぶりに顔見たわ」

 

お姉さんとほぼほぼ同時に挨拶してしまい、お互いに顔を見合わせてしまうが、そんな様子が可笑しかったのか零次さんが笑いながら柵の奥へと消えていく

私達も自然と口元に笑顔が浮かび、笑い合う

 

「おーい」

 

今度は女の人の声が上から聞こえる

 

「あ、ひなちゃんただいま!」

「おかえり。とりあえず飯」

 

再び顔を上げると、今度は正面の上からこの前の配信で見たのと同じ、クリーム色の長髪の可愛い女性の姿があった

エプロン姿で柵に手をついてこちらを覗き込んでおり、親指で自分の後ろを指差している

 

「お、お邪魔します!」

「初めまして、とりあえず上がってきな」

 

頭を上げると、おそらく・・・彼女がひなさんだろうか?

私に向かってそう言いながらニコッと笑うと、奥のスペースへと歩いていった

 

「よーいしょっと」

 

私がその場で立ち尽くしていると、隣でお姉さんは自分が持っているバッグを奥の小上がりのスペースにあるソファに投げ込んでいた

 

「あ、ああんもう・・・」

 

バッグはソファの端に当たり、床に転がる

お姉さんは長くため息をついて、渋々ソファに近寄ると、そのまま靴を脱いで小上がりに上がり、着ている服を脱ぎ始めた

 

「あ、ごめんね!上に行ってていいよ。私もすぐ行くから。そこの端の螺旋階段から上に上がれるよ」

「は、はい!」

 

茫然とその様子を見ながら立ち尽くしていた私に、慌てて声をかけてくれたお姉さん

私の後ろを指差して、着替えの続きを始める

私は言われた通りに隅にある螺旋階段へと向かった

 

「智絵里ちゃんごめーん!悪いんだけど、そのシャッターの右にある操作盤の捻るスイッチ右にしてくれない?」

 

登る直前靴を脱ごうとしていた時に、お姉さんの声が聞こえた

お姉さんの方へ振り返るとシャッターを指差していたので、またまた言われた通りにシャッターへと向かう

 

「そうそう、それそれそれ!」

 

お姉さんの方を見ながら指をそれらしきものに向けると、お姉さんは大きくうなずいていた

扉が開かれたその操作盤を見てみると一つだけ''連動''と書かれた文字の下に、左右に捻るスイッチが取り付けられていた

 

「右に捻って、右に」

「右に・・・」

 

言われた通りにスイッチを右に捻る

すると、ガチャン!という音と共に文字の上に付いている緑のランプが消えた

 

「どう?ランプ消えた?」

「はい!消えましたよ?」

「OK!ありがとう!」

 

上は長袖、下はジャージという姿になっていたお姉さんは手を上げてそう答えていた

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

二階のバルコニーに上がると絨毯が敷かれており、ひなさんがいた部分は広く広がっていて、テーブルやテレビ、ソファが備え付けられ、まるでリビングのようだった

 

「いらっしゃい。ちょっと待ってね、今用意してるから」

 

リビングに着くと、ひなさんが人数分の食器をテーブルに並べ、またキッチンへと戻っていく

 

「おう、久しぶりだな。元気だったか」

「零次さん!」

 

ひなさんと入れ替わるように、両手にコップを持ち、腰で冷蔵庫の扉を閉めたあと、その腕にお茶のペットボトルを抱えた零次さんがリビングへとやってきた

 

「おっと、悪い悪い。そうそう、そことそこに頼むわ」

 

私はその手からコップを受け取り、教えてもらった位置へと置く

準備をしていると、キッチンから美味しそうな匂いが漂ってくる

ミートソース独特のいい匂いが漂う中、ひなさんがパスタの水を切り、オリーブオイルを加えてボウルの上で混ぜ合わせていた

 

「まぁまぁ、そんなに見つめなくてもすぐできるからもうちょい待ちぃな」

「え?いや、あの!そういうわけじゃなくて・・・!」

 

自分でも気づかないうちにひなさんのことを見つめていたのを零次さんにつっこまれ、食い気があると思われたのが恥ずかしく、一気に頬の温度が上がるのがわかった

必死に弁解しようとするが、お腹が小さく鳴ったのがより拍車をかけてしまい、ますます恥ずかしくなって言葉に詰まり、少し俯いてしまう

そんな私を見て、零次さんはテーブルにお茶のペットボトルを置きながらフフッと鼻で笑っていた

 

「わ、笑わないでくださいよ〜」

「ちょっとちょっと〜、なに智絵里ちゃんいじめてるのよ〜」

 

顔を上げてみると、零次さんの背後にいつの間にかお姉さんの姿があり、しゃがみ込んでいた零次さんを腰に手を当てて上から覗き込んでいた

 

「いやいや、いじめてないですよ。ちょっと面白いものが見れただけです」

「も、もう・・・!そんなこと言うならチ、チョップですよ!」

 

わいわいと戯れ合っていると、ひなさんがパスタの入ったボウルを持ってこちらに向かってくるが、何が起こっているのか分からず首を傾げていた

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「いただきます!」

「いただきます」

「いただきまーす」

「い、いただきます」

 

四人で手を合わせ、それぞれがフォークを持ち、それぞれのペースで夕食が始まった

 

「こんなものしかなくて悪かった」

「いえ、そんな!ひなさんのお料理、とても美味しいと聞いていたので一度食べてみたかったんです」

「あ、レイジ君ちょいソース取ってくんない?」

 

テーブルの上にはそれはそれは美味しそうに出来上がっているミートスパが並び、パスタの茹で具合と仕上がりは食べやすく絶妙で、ソースも色合い、もちろんその味も熟成された完成度であった

よくよく考えてみれば、調理している時の手際の良さといい、どこかで経験を積んでいるのかと言わんばかりの手捌きであった

一人分を作るのと、数人分作るのでは手間ひまも全く違うのに、この人は一体何者なんだろう・・・と思いながらもその手が止まらない

 

とりあえず考えるのをやめて、智絵里は食事に集中することにした

 

「で、今日は一体どういう理由で智絵里がウチに来たわけなんですか?姉さん無理やり誘ったん?」

「なにレイジ君。理由がないと来ちゃダメなの〜?ね〜?」

「零次さん違うんです・・・!前にみりあちゃん達が遊びに行って、凄く楽しかったって話を聞いていたので、私もどんなところなんだろうって気になってて、そんな時に誘っていただいたので無理やりってわけじゃないんです・・・!」

 

智絵里の返事に零次は、ふーん・・・と素っ気なく返して、再びフォークにパスタを絡める

 

「少なくともアイドルに似合う場所ではないな」

「それは言えてる」

 

零次の言葉に雛子も頷く

 

「そんな!なんだか普段見たことないものが沢山あって、不思議な場所です。まるで別世界に来たような・・・」

「智絵里ちゃんロマンチストね〜」

 

そう言う智絵里が改めて建物を見回す様子に、零次も雛子も嘘は言っていないのだろうと食事を続ける

だが気になるのはそこではなく、智絵里がここに来た本当の理由だ

いくら美空がアイドルオタクでも、まだ関係の浅い未成年を何の理由もなく連れ込むワケが二人にはわからなかった

 

「で、その握手会とやらは順調なのか?」

「え?」

「いや、ほら?よくわからない人もいるだろ?ずっとくっついてるとかさ」

「大丈夫ですよ。そうならないように現場には''はがし役''っていう人がいて、そういうファンの方を止めてくれるんです」

「それが今回私ってわけ!」

 

フフンと誇らしげな態度で美空は飲み物を口にする

 

「はい!お姉さんにはお世話になってて・・・」

 

仕事でトラブルが起きてるわけではない・・・と二人は考えつつも、美空と智絵里の様子を伺う

会話が弾んでいるところからも、ただ二人の仲が良くなっただけなのか、謎は深まるばかりだった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「へぇ・・・」

「・・・」

 

自分の車の下にキャディを引っ張り、オイルを抜こうと工具を探す

ひな先輩が台所で後片付けしている音をBGMに、俺がメガネレンチを選んでいる中、智絵里が横で興味深く車を覗いていた

 

「なんも面白くないだろ?」

「初めて見ました・・・」

 

オイルを抜くために、エンジンのオイルのドレーンボルトに工具を引っ掛けて回してる最中も、智絵里はポカーンと口を開けながら車の下を前後に行ったり来たり、あちらこちらに目線を動かしながら動き、俺の側でその動きを止めた

 

「今は何をしてるんですか?」

「ん?今?オイル抜こうとしてる」

 

そう言うとこれまた興味深そうに俺の動きに注目し始める

その視線になんだか少しやり辛さを感じつつも、俺はドレーンから工具を外し、キャディへと戻す

 

「あれ?いいんですか?」

「ああ、まぁ・・・せっかくだし教えてやる。一生使わないと思うけど」

 

オイルの受け皿をドレーンの真下に置いた後、俺は人差し指で弾くようにドレーンを回す

少しずつ少しずつ回っていき、オイルが若干滴の形で垂れ始めたら、一気にドレーンを指で弾いた

するとドレーンが受け皿にカランカランと金属音を立てて落ちるのと同時に、黒いオイルが一気に流れ出てくる

 

「わぁ・・・!」

「指で摘んで回してたら、このドレーンが外れた瞬間に手がオイルまみれになっちゃうだろ?だから弾くように回して最後はドレーンを落とすんだ。そうしたら手が汚れないってわけ」

 

一通りの解説が終わったあと、俺は受け皿に落ちたドレーンをキャディへと持っていき、その汚れをウエスで綺麗に拭き取る

 

「真っ黒ですね」

「5000キロも乗ったらそんなもんだ。うえっ、きったな」

 

智絵里は流れ出るオイルを眺めながらそう呟いた

 

「この機械はなんていうんですか?」

「それ?ミッション。トランスミッション」

「これは?」

「トランスファー」

「じゃあ、これは?」

「ラジエーター」

「・・・知らないものばかりです」

 

智絵里が指を指して、部品の名前を聞いてくる

オイル交換がいつの間にか、車解説講座になってしまっていた

オイルだけでなく、様々な部品にも興味深々に眺めている智絵里は、普段の様子からはその絵面はどうにもミスマッチで、独特な空間が生まれていた

 

「なんでもかんでも触ってたらその可愛い服が汚れちまうぞ、母ちゃんに怒られちゃうんじゃないのか」

 

拭いたドレーンをオイルパンに取り付けながら、今度はキャディの上に置いてある工具を眺めている智絵里の背中に語りかけると、少し顔を下に向けたのが分かった

別に気になる工具があったわけじゃない、その手は完全に止まっている

 

「私の・・・お父さんとお母さんは・・・」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「苦労してるんだなあの子も」

「あんなにいい子なのにね」

 

私とひなちゃんはギャラリー柵にもたれかかって、下にいる二人を覗いていた

 

「ひなちゃんはどう思う?」

「こればっかりはあの子の家族のことだから、どうすることもできない。私は・・・そう思う」

 

ひなちゃんは柵から離れてソファーに座り、テーブルに置いてある自分のコップにお茶を注いで口に運ぶ

 

「で?」

「うん?」

 

コップをテーブルに置き、今度は私の目をジッと見つめる

 

「今度は何に首を突っ込んだの?いや、突っ込みかけてんの」

「・・・何のことだか〜」

 

私は目を逸らして下にある自分の車に目を向けるが、背後から分かる

ひなちゃんはその視線を外してはくれていない

 

「実は、頼みたいことがあって・・・」

「うん」

「言い出しにくいんだけど・・・」

「早く言って」

 

ひなちゃんに諭されていると

 

「お前逃げんのかよ」

 

下からレイジ君の声が聞こえた

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「・・・え?」

 

俺はオイルエレメントを手でエンジンに取り付けながら智絵里に話しかける

 

「そうは言ってもお前の父ちゃんと母ちゃんなんだろ?仕事忙しくてカリカリしててもお前の父ちゃんと母ちゃんなんだろ?そこらへんのさ、優しくてカッコいい父ちゃんとか美人な母ちゃんとかと車の部品みたいに取っ替えることなんて出来ないんだからさ」

 

エレメントを手でしっかり締め付け、汚れたところをスプレーのパーツクリーナーで綺麗に清掃する

 

「話しづらいかもしれないけど、一度向かいあってみたらどうよ。私こんな事今してるんだよって、こんな友達が出来て、こんな歌うたってって、逃げないで話してみたらどうだ?」

 

そう言って智絵里にパーツクリーナーを渡す

 

「あのな、逃げるのはな、負けるのと一緒だぞ」

 

智絵里は俺からパーツクリーナーを受け取ると、何かを考えているのか、それを少しの間眺め続けていた

 

「お前は根性があると聞いてる。頑張れ、ド根性女」

 

エレメントやドレーンの残った汚れをウエスで拭き取っていると、智絵里がこちらを見ていることに気づいた

 

「・・・いい目になったじゃん」

 

軍手で頬を擦りながら言うと、智絵里がふと笑い始める

 

「なんだよ」

「零次さん、変な顔」

 

そんなことを言い始めたので、ウエスをキャディに戻しに行くついでに手鏡で確認すると、頬に黒い擦った跡がハッキリ残っていた

 

「うお、マジか!」

「あはは・・・!」

 

今日は奢らされたり笑われたりと、散々な一日だった

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