つい先日智絵里の握手会が行われたというショッピングモールへと車を入れて、停める場所を探して蛇のようにくねくねと駐車場内を動き回る
週末らしく駐車場はそこかしこに車が溢れ、歩道からも正面玄関に子供大人問わず人が出入りしている様子はさすが休日といったところか
運良く玄関から近い場所で丁度軽自動車が一台出ていったのでそこにすかさず自分の車をねじ込みエンジンを止めた
車の中で必要なものを探して助手席やドリンクホルダーをガサガサと漁っていると、ふと正面玄関脇で、短いツインテールを可愛いシュシュで結び、下の髪をピョンと跳ねさせたスタイルが印象的な小さな女の子が被っているベレー帽のつばを触りながら右左へと顔をキョロキョロ動かしている様子が目に入る
青っぽい色が印象的な秋服に身を包んでいる少し背伸びをしたようなそのコーディネートが大人っぽく印象を醸し出していた
待たせているのも悪いので、ドアを開けて外に出るとその女の子はこちらに気づき、大きく俺に向かってパタパタと手を振っていた
ーーーーーーーーーー
「い、いえ!あのっ!違うんです!別に深い意味はないっていうか!ただお見送りしたかっただけっていうか!た、た、確かに!私たちを助けてくれたり!運転してる姿はカッコいいなと思ったりもしますけど!あ、あれ?千枝なに言ってるんだろう・・・!」
手を前にこれでもかと大きく突き出し、パタパタと左右に振りながら千枝ちゃんは必死に否定するが、最後は顔を真っ赤にしながら頬に両手を当てて俯き、目を指で覆いながらうぅ〜・・・と恥ずかしそうに唸っている
やっぱりあの子モテモテねぇ
「まぁ!千枝さんは零次さんのことがお好きなんですの?」
あらあらまぁまぁとお嬢様オーラを醸し出しながらも、目の前で繰り広げられている恋バナに、年相応に目をキラキラさせて桃華ちゃんは容赦なく食らいついていく
「違うのっ・・・!す・・・す、好・・・す、きとかっ・・・そういうのじゃなくてっ!」
違うの違うのとすぐさま否定する千枝ちゃんがとっても愛おしく・・・ダメよ私
愛おしいなんてそんなレベルではないわ、それこそ千枝ちゃんに失礼というもの
そうよ、このふわふわ素敵空間を表現できる言葉などこの世に存在するのだろうか、いや無い
尊い・・・いやダメだ、この言葉ですら安っぽく聞こえてしまう、これを超える最上位互換はないものだろうか
しかし現に
「ふんっ」トスッ
様々な考えが頭の中でぐるぐるし始めた時、タイミングよく後ろから後頭部に軽く何かがぶつかった感触が広がる
振り返ってみると、手を垂直に真っ直ぐ構えて振り上げているひなちゃんがいた
「なんかヤバそうな表情してたから」
私がまだ何も言っていないのにそう返事を返すひなちゃん
そんな、私はそんなに表情にでるほど考えこむタイプだろうか
ただただ目の前に広がるオアシス・・・いや、ガーデンについて想いを馳せていただけだというのに
ほら見てごらんなさい。今も眩い小さな天使二人が顔をほんのり赤らめながらお話していらっしゃる
これを黙って静かに見守る以外の行動こそ罪、この空間時間次元こそ誰も経験していないs
「そうですわ!」
トスッとまた後頭部にチョップが当たったタイミングで桃華ちゃんが私たちの方に少し体を横に向け、手を胸元でパンッと叩いてそう言った
「こうやって集まる機会は中々ありませんから・・・わたくし、前々からひなさんや美空さんと一度はお出かけしてみたいと思っておりましたの!その、皆さんがおっしゃっている''女子会''というものをやってみたくて・・・いかがでしょう?」
叩いた手を合わせたまま口元まで持っていき、人差し指を唇に合わせて少し上目遣いになる桃華ちゃん
瞳をウルウルとさせて、懇願するようにそのまま私たちの反応を待っていた
隣で千枝ちゃんも同じように、私たちと桃華ちゃんを交互に見比べながら、期待の眼差しを私たちに向ける
「・・・」
後ろにいたひなちゃんも私の右肩から顔をひょっこり出して、そのまま顔を私の方に向け、どうする?と私と視線を合わせた
ーーーーーーーーーー
「ここはね!事務所のみんなと遊びに来たときに、よく集まってお昼ご飯とか食べるんだよ!あのハンバーガー屋さんとか、チキン屋さんとかアイス屋さんとか!いっぱいいーっぱいあって、どれも美味しいのっ!みりあが好きなのは、あのアイス屋さん!その中でもね、これとこれが・・・」
ショッピングモールに入ると、みりあは嬉しそうに俺の腕を引いて中を案内してくれた
一階にあった化粧品売り場や、惣菜売り場、そして今いるフードコート
確かに仕事終わりに食品なんかを買いに来たりでフラッと立ち寄ることはある
でも、今みたいに見て歩いたりってことはそうそうなかった
仕事を始めてからは尚更だ、必要なものを買いに来る以外でテナントに立ち寄ることなんてない
「あ!アレも美味しいんだよ!みりあいつも迷っちゃうの!」
そんな中、満面の笑顔を浮かべて楽しそうにあれよこれよと紹介してくれるみりあ
「なぁ、何でそんなに楽しそうなんだ?」
「楽しそうじゃなくて、楽しいんだよ!だってだって、零次さんとお出かけするの初めてだもんっ!」
アイスが入っているケースを見ながら、みりあはそう言う
「みんなとよくここ来てんだろ?誰と来たって一緒じゃないか。むしろいつものメンツの方が」
「今日は零次さんと一緒だから、楽しいんだよ!」
みりあはポケットから可愛らしい財布を取り出す
「だって零次さん、いつも送り迎えが終わったらすぐ帰っちゃうんだもん!遊びに行ってもお仕事中だからゆっくりお話できないし、だからね、今日はみりあの番!ねーねー!零次さんどれがいい?」
「あ、いや食べるなら俺が」
「ダメだよ!前に美嘉ちゃんと来た時言ってたもん、''奢られて当たり前の女はダメ''だって!それだとね、えーと・・・''将来そういう女''になるんだって!嫌われちゃうんだって!私零次さんに嫌われたくない!今日だって誘ったのは私なのに!」
そう言って頑なに自分の分は払うときかないみりあ
しまいには俺の分まで奢ろうとしていたので流石にそれはとみりあを止めた
そういえば、いつの間にアイスを食べる流れになったんだ?
女の子とは恐ろしい
ーーーーーーーーーー
「でもでも、ひなさん喜んでくれるかなぁ」
「ああ、みりあだったら何あげても喜ぶと思う。絶対そうだ」
二段アイスを片手にフードコートの隅にある二人がけの席に腰掛けて、アイスにかぶりつくみりあ
一応芸能人と一緒ということで、出来るだけ目立たないような席に座る
周りの客の数はまばらだが、何を言われるかわからない
「きっとビックリするよね!私今日行けないって言ったもん!」
「千枝も桃華も何も言わなかった、仕事なら仕方ないって俺を外に出したし」
やり方は少々あからさまだった気はするが
「ほんと!?じゃあじゃあ!絶対驚かせようねっ!えへへ・・・!」
嬉しそうにニコッと笑うと、そのままアイスをペロッと舐めるみりあ
今日は、みりあが考えた共同作戦
仕事があるのは本当だが、実は午前中だけ
午後は俺にアドバイスを貰いながら、ひな先輩にプレゼントを買って、サプライズで渡すということらしい
その為プレゼントタイムは昼食時に見送ったわけだ
ワクワクしながら食べ進めるみりあ
鼻の先にクリームがちょこんと付いているのを自分の鼻を指差してジェスチャーで伝えると、突然のことで、むぐぐっとむせ返りそうになりながら人差し指で拭き取る
そして再びこちらを見ると、「え、えへへ・・・」と恥ずかしそうに少し俯き、脇をキュッと締めて、持っていたアイスの影に顔を隠した
「まぁまぁ、ゆっくり食え。溶けはするけど逃げはしないだろ」
「うん、あ!零次さんのも美味しそう!一口頂戴!でもそれだと零次さんのなくなっちゃうから・・・私のも一口あげる!」
そう言うとみりあは少し腕を伸ばして、俺の方にアイスを傾けた
コーンの上に乗っている綺麗に一部がなくなっている抹茶アイスが俺の口元まで伸びる
俺も同じようにバニラアイスをみりあの前に傾けると、パクッと小さくかじった
同じように俺も少しいただく
「どうどう?美味しかった?」
「ああ」
「でしょー!みりあのオススメだもん!でも零次さんのアイスも美味しかったよ!今度来た時はバニラにしよ!」
また自分のアイスに戻る
「お前・・・中々恐ろしい奴だな」
「え?なんで?どういうこと?」
「えーっとな・・・なんていうか、今みたいなのは、本当に好きな奴ができた時にやってやれってこと」
「私、みんなのこと大好きだよ!千枝ちゃんも桃華ちゃんも!零次さんのことも好き!」
「男にするのは意味が違ってくるだろ?」
「そっか!あ、じゃあじゃあ!」
今度は体ごと俺に傾けて、側でこっそり小さく呟いた
「なんだか、デートみたいだね!零次さん!」
それだけ言うと、みりあは体を戻してまた夢中でアイスにかぶりつく
こいつ・・・中々に魔性を秘めているのかもしれない