「・・・よし、じゃあ行くか」
ひなちゃんがドアノブを引っ張ってガタガタと出入り口が閉まっているのを確認すると、千枝ちゃんと桃華ちゃんは「はい!」と嬉しそうに返事をして、私たち二人の前を歩き出す
外はお昼時と変わらず晴れ渡っており、気温もちょうど良く、散歩には持ってこいであった
「それにしても、歩くなんて久しぶりね〜。いっつも車で出て行っちゃうから」
「私も何年ぶりだ、歩いて出かけるなんて」
敷地内から外へ出てしばらく歩いていると、休日だからか車通りは中々静かで、周りもチラホラ同じように散歩している人が見える
他にもどこかへ出かけずに家の前やマンションの駐車場で走ったり、チョークでアスファルトに絵を描いて遊んでいる子ども達
そんな子ども達を見守りながらも、ベンチに座ったり、子ども達の側で会話に花が咲いているお母さんたちなど、見ていると休日の空気を感じられる
「私たちも車を運転できれば、いっしょに遠くまでお出かけ出来たんですが・・・」
「たまには車から降りるのもいい、新しい発見がある。大人になったら一緒にツーリングにでも行こう」
前を歩く千枝ちゃんの両肩に後ろから手を置いてひなちゃんはそう言った
「わたくしもああ言っておきながら、車で送迎してもらうことが多いんですの。ですが事務所の仲間たちに誘われて、外でティータイムを過ごしてみると、わたくしの知らないことばかりでしたわ。ああ、すごい!これ、見てくださいまし!」
桃華ちゃんは小さい交差点の角にあった自動販売機の前で足を止めた
「この自動販売機、ボタンがありませんわ!346プロのとは違う・・・どう使うんでしょう?」
「こんなのがいつの間にか置かれてたのね、今まで知らなかったわ」
「置かれてる場所が凄いけど」
桃華ちゃんが自販機のタッチパネルを一生懸命タッチしている横で、ひなちゃんは腕を組んで置かれていたお店の看板を見上げる
「うわ、駄菓子屋なんて小学校の遠足以来!懐かしいわね〜、あ!私これめっちゃ好きだったの!」
「置かれてる場所のギャップ」
「駄菓子屋!わたくし、また来てみたかったんですの!」
「おやおや、いらっしゃい」
私が吸い込まれるように中に入ると、続いて桃華ちゃん、ひなちゃん、千枝ちゃんとお店に入り、白髪の優しそうなおじいちゃんがカウンターに座って出迎えてくれた
おじいちゃんは一言挨拶すると、再び新聞紙に目を通し始め、私達は店内を回る
店内と言っても、壁際に備え付けられている棚と、中央に置かれているテーブルが大部分を占めるほどこじんまりとしており、棚とテーブルには紙で手作りした仕切りが置かれ、駄菓子が沢山陳列されていた
カウンターの上に備え付けられている小さな棚に置かれたテレビからは相撲の音が聞こえる
壁には古い地域イベントや特撮ヒーローのポスター、レジカウンターにはおそらく生徒が手作りした近くの小学校の学芸会ポスターがテープで貼られていた
「これですわ!前に薫さんに教えていただいた、お肉の味がする不思議なお菓子!」
「あの、ひなさん。これはどうやって食べるんですか?」
「これはな、この横に置いてあるストローを袋の端から刺して中の粉をジュースみたいに吸うの。にしてもまだあったのかこれ、私の地元のほうでしか見たことなかったぞ」
それぞれが色々な駄菓子を手に取って、懐かしんだり楽しんだり、私も中央のテーブルに置いてあった、袋に入っている一枚の大きな煎餅を手に取る
「おや、今日は美人さんがたくさんだ。生きていると、良いこともあるもんですねぇ」
「おじいさま、ごきげんよう。申し訳ありませんわ、騒がしくしてしまって」
「いいのいいの、子どもは元気が一番。最近は来てくれる子が少なくなってねぇ。もう時代じゃないのかもねぇ」
そう言って寂しそうに外を見るおじいちゃん
「最近じゃ、いいね悪いねを携帯電話で言い合う時代だそうじゃないですか。私もねぇ、最近の子はわからないから、今の子に合わせてあんな自販機を置いてみたんだけどねぇ・・・」
「ああ、だから・・・」
「でも、そんなには変わらなかった。昔はここを待ち合わせ場所にしてくれた子どもが沢山いたが、今はどこにいてもわかる時代だから・・・そんな子たちにお菓子をプレゼントするのが好きでねぇ。ごめんなさい、長くなってしまったね。ゆっくり見ていってくださいね」
おじいちゃんはまた新聞を開き、先程と同じように静かになる
そんな中、桃華ちゃんがいくつかのお菓子を手に取ってカウンターへと持ってきた
「おじいさま。わたくし、この場所が好きですわ。もう一度、来てみたいと思っていましたの。これからも、お会いする機会がきっとございますわ」
「おやおや、これはこれは綺麗なお嬢ちゃん。ありがとうね。でも、それまでこの店があるかどうか・・・、きっとお嬢ちゃんたちにはもっと、お上品なお店が似合うと思うよ?」
「世の中にこんなに素敵なお菓子屋さんがあることをわたくし、お恥ずかしながら最近初めて知りましたの。誰になんと言われようと、わたくしはここが好きですわ。それに、お店が心配ならわたくしが是非お力になりますわ」
「はっはっは」
おじいちゃんは桃華ちゃんの言葉に軽く笑顔を見せる
「孫も昔、同じことを言っていてねぇ。ありがとうお嬢ちゃん。気持ちだけ受け取っておくよ。さてさて、おいくらかな」
「わたくしは本気ですわ。よければ証明として、サインを差し上げます」
「おやおや、最近はそういうのが子ども達の間で流行っているのかい?そうだねぇ・・・このカウンターの下にでも書いていっておくれ、あっはっは」
おじいちゃんはそう言って黒のマジックを桃華ちゃんに渡すと、さてさてとゆっくり腰を上げてそろばんを取り出し計算を始めた
その間に、桃華ちゃんは受け取ったマジックで学芸会のポスターの隣に慣れた手つきでサインを始める
「おじいさん、私はこれをください。それと、私も書いていいですか?」
「ええどうぞどうぞ。おやおや、お嬢ちゃんは若い頃の婆さんそっくりだ。髪留めがとっても可愛いですねぇ」
「ありがとう、おじいさん」
書き終わった桃華ちゃんからマジックを受け取ると、今度は千枝ちゃんが書き始める
「さて、いくらになったかな・・・、では合計で50万円だ。はっはっは」
「あら、申し訳ありませんわ。今現金で持ち合わせておりませんの、カードでよろしくて?」
「桃華ちゃん桃華ちゃん。100円出して、100円」
すると桃華ちゃんは私の言った通りに財布から100円玉を取り出しておじいちゃんに渡す
「これでよろしいんですの?」
「はい、100万円お預かりしますね・・・50万円のお釣り。ありがとうお嬢ちゃん」
またはっはっはと笑うおじいちゃんと、受け取った50円玉を不思議そうに見つめる桃華ちゃん
「おじいちゃん、今日はよかったね」
「ええ、久しぶりに楽しかったよ。よかったら、また来てくださいね」
「このサイン、大事にしたほうがいいよ。おじいさん」
「なるほど!このお店では、50円が50万円。100円が100万円なんですのね!」
桃華ちゃんがなんだか変な方向に勘違いしていた
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買った駄菓子をお店の外のベンチに座って食べた後、私達は大きな通りへと出て街を歩き始めた
ここまで来ると、普段桃華ちゃんたちが使うお店がチラホラ見え始め、解説しながら案内してくれた
事務所へ向かう途中にあるという文房具屋さん
ここには可愛い文房具がたくさん揃っており、桃華ちゃんたちだけではなく中学生組や高校生組もよく利用するらしい
そしてその近くには美城プロアイドル部門の女子寮へと続く道、角の電柱で野良猫があくびをしていた
駅前まで来るとさらに利用するお店が増え、カフェにペットショップ、雑貨屋さんなどをお忍びで回るのだそうだ
アイドルの中には特に動物好きが多く、たとえアレルギーを持っていてもペットショップに立ち寄ってしまう人もいるのだとか
「・・・ふぅ、やっぱり今日ここは人通りが多いですね。カフェには入れそうにありません」
「時間も丁度おやつタイムだし、仕方ない。また今度にしよう」
「それにしても、なんだか珍しい光景ね。私達が来るときはほとんどお店が閉まっちゃってるから」
「まぁ!遊びに来るなら誘っていただければ良かったですのに」
桃華ちゃんが横から私の顔を見上げてそう言う
「いやいや、私達はこの辺って言ったら飲みにしかこないのよ〜。大人になったら誘ってあげるわ。そう、丁度そこの」
駅前から少し離れたところにある小さな雑居ビル、その前で私達は足を止めた
昼でも変わりなく、まだ準備中の札がかけられているが、正面上に''たるき亭''と書かれているその居酒屋は、目の前に来るだけで何だかテンションが上がる
「ここにひなちゃんや零次君とよくお酒を飲みに来るの、大人が遊ぶって言ったらこういうとこに来ちゃうのよ」
「そうなんですね。どちらかというと、私達はこっちによく来るんです」
千枝ちゃんが指さしたのは隣の四角い建物、黄色の壁にデカデカと''GAME''というカラフルな文字盤が備え付けられているその建物の窓から中を覗くと、筐体のLEDがチカチカと点滅し、楽しそうなゲームの音が微かに漏れ出していた
「ゲームセンターなんてまた、ひなちゃん御用足しじゃない」
「最近は忙しかったから、私も中々来れなかったけど。そうだよな、本来小学生が遊びにくるって言ったらこういうところを言うよな・・・」
ひなちゃんが千枝ちゃん達の方を向くと、私もつられてそちらを見る
すると千枝ちゃんの隣で目を爛々と輝かせている桃華ちゃんの姿が目に入った
「ゲームセンター!わたくし、あまり来た経験がございませんの!是非、是非遊んでいきましょう!ね、千枝さん!」
「う、うん。私も久しぶりに行ってみたい・・・です」
千枝ちゃんがチラッと恐る恐る私たちの様子を伺う
ひなちゃんも別に入ってもいいという反応をしていたので、先走る桃華ちゃんに続き自動ドアを潜った
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「あら?」
ゲームセンターの自動ドアから中に入っていく人影の中に、何だか見覚えがある姿を見つけた
あの可愛らしいシルエットは・・・
「なんだか、久しぶりに面白そう。仕事までまだ少し時間があるし・・・」
時計を確認してもまだ余裕がある、何より・・・面白そう!