「あー!見て見て零次さん、あそこゲームコーナーなのっ!行こう行こう!」
「おいおい、プレゼントはいいのか?」
「ちょっとだけだよ!行こう!」
アイスを食べ終わった後は、ショッピングモール中央吹き抜けのエスカレーターから二階に上がって、またもやみりあ先導の元、お店の選定がてら案内が始まる
歩いてみると、前に来たときに比べるとテナントが入れ替わり立ち代わり、新規オープンや閉店のお知らせなどの張り紙が見え隠れしていた
やはりテナントの一つとして展開する以上は月の売り上げ目標等もその場独自に設定されているのだろうか
そんなことを考えながらぼちぼち歩いていると、フロアの一角にガヤガヤと様々なBGMが漏れ出しているエリアへと到着する
「うーん、どれがいいかなぁ〜。あ!あの太鼓のゲームはね、智絵里ちゃんがすっごい上手なんだよっ!」
床がグレーを基調とした通路の絨毯から薄いベージュのタイルへと打って変わり、乗って動く言ってしまえばゲームといえばゲームなキャラクターの乗り物から、オーソドックスなUFOキャッチャー、体を動かすものや銃やハンドルが付いた筐体、プリクラからコインゲームまで、他の所と比べるとショッピングモール自体が大きいこともあり、割とスペースが確保されていて親子連れで賑わっていた
その隣にはおもちゃ屋が隣接されており、販売戦略がしっかりなされている
「あのプリクラはね、来たときにみんなでよく写真撮るんだよ!ほらこんな感じ!」
「おお、本当だ」
意気揚々とみりあが見せてきた携帯のカバーには他のメンバーと写っているシールが貼られていた
みんなで顔を寄せ合い、それぞれがポーズをとって楽しそうに笑い合いながら仲良さそうに写っている
唯一違うのは、普通の人と比べると写りもそうだがポージングや角度が完璧なことである
流石はアイドルか
「でもね、みんな忙しくなって中々一緒に遊べなくなっちゃったの。ここにはよく来るんだよ?来るんだけど、''揃ってみんなで''っていうのはあんまり・・・」
そう言って顔を少し伏せるみりあ
「・・・アイドルは楽しいか?」
「うん!楽しいよ!みんなで色々なところに行くの!レッスンしたり、ライブしたりっ!沢山テレビにも出てるんだよ!この前なんてね、莉嘉ちゃんがね・・・」
みりあに聞いてみると、楽しそうに身振り手振りを交えて次から次へと話が出てくる
海へ行った話、山へ行った話と、話題が変わるたびに一緒にいるアイドルが変わり、まるで仕事というよりは遊びに行ったかのように話す
どうやら俺の心配は杞憂だったみたいだ
だってそうだろう、このゲームセンターには周りに沢山の人がいるはずなのに、仲間について話すみりあの顔はその中でも一層輝いていて、とっても楽しそうなのだから
「なんか、お前のことが少しわかった気がする」
「どういうこと?」
「仕事も遊びも、楽しめれば一緒っつー話。今度迎えに行った帰りにでも暇なら連れてきてやる」
「ほんと!?なんだ、零次さんも遊びたかったんだ!」
「いやそうじゃなくて」
「なら行こ!何が空いてるかなぁ」
みりあは携帯をポケットにしまい、スタスタと歩いていくなかを一緒に人をかき分けて進んでいく
ふと隅を見ると、その先にはワニの頭をぶっ叩く昔ながらの筐体がひっそりと佇んでいた
薄汚れたその外観からかなり年期が入っているのがわかる
「これならできるね!前にね、美波さんがすごい点数とってたんだよ!」
ハンマーを手に取ってみると、持ち手の木の部分が擦れてつるつるになっており、補修されてはいるが、ハンマー部分の皮は一部剥がれて中の黄色いスポンジが薄ら見えていた
筐体のデジタルカウンターもドット欠けしているところがあり、結構ボロボロだがそれでもまだ元気にBGMを奏でており、愛されている様子がうかがえる
「零次さんやろ!やろやろ!」
俺が筐体を観察している横で、みりあは二人用の青いハンマーを持って今か今かと目を輝かせて俺を見続けていた
ーーーーーーーーーー
「あの大きなお魚を狙いたいですわ・・・ふん!ぬぬぬぬ!あっ!あー・・・ダメでしたわ・・・」
「あ、意外とちっちゃかった」
UFOキャッチャーで取ったカニのぬいぐるみを隣に置き、テーブル状の筐体を挟んで座る桃華ちゃんが肩を落とす中で、リールを巻き小さな小魚を釣り上げる
筐体の画面には''GET!!''の文字がデカデカと表示され、ポイントが入ったが数字の値は少ししょっぱかった
筐体の画面がそのまま巨大な水槽を上から覗き込んだような感じになっており、桃華ちゃんはめげずに画面と睨めっこして再び大物を狙う
「どうですかお嬢さん、釣れますか?」
「あ、ひなさん。それが中々・・・ってなんですのそれは!凄いですわ!」
桃華ちゃんの横から小さなバケツ一杯分にまるまる入ったコインを脇に抱えて話しかけるひなちゃん
その後ろでは千枝ちゃんがコインが入った小さなトレーを両手で持って立っていた
「ひなさん凄かったんだよ!コインが沢山ジャラジャラ落ちてきて!」
「あれはタイミングと気合いと根性と運だから。たまたま今日は運が良かっただけ」
ひなちゃんはそのまま桃華ちゃんの隣に座って、持っていたコインを桃華ちゃんの投入口に入れ始める
「いいんですの!?そんなに沢山!」
「持っててもしょうがないし、それなら大物を狙ってしまおう。とりあえずこれでエサと釣竿を最高級にする。それで姉さんに勝てる」
「ちょっとズルくないそれ〜!」
「美空さん!私も手伝います!」
そう言うと千枝ちゃんは私の隣に座り、トレーを画面端に置く
むむむ・・・!っと唇を固く結んでへの字にまげ、太ももの上で拳を作って前のめりになり、固唾を飲んで画面と真剣に向き合う千枝ちゃん
ハッ!もしや、これが千枝ちゃんとの初の共同作業!そんな・・・!まだ早いわ!
まだお互いの事をあまり知らないのに!
あまり!知らないのに!でもでもでもでも!
「千枝ちゃん・・・頑張ろうねぇ!えへへっ!」
「・・・?」
「・・・」チャリンチャリン
「ひなさん?そんなに入れてしまっては・・・」
「いいんだ、あのキモい姉ちゃんさっさとボコボコにするぞ」
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「わ〜い!ねぇねぇ零次さん!見て見てトップスコアだって!」
「ハァ・・・ハァ・・・」
歳とは・・・ここまで残酷なものか
筐体がやたらテンションの高いBGMを流し、スコアの数字が点滅を続ける中、俺と年齢が一回り以上違うアイドルが隣でぴょんぴょん跳ねて喜んでいた
久しぶりとはいえ数分のプレイでここまで息が上がるとは、悲しくも体の衰えを感じてしまう
「あ、ボーナスプレイだって!もう一回できるよ!」
おいおいマジかよ、あのワニ共はまだ叩かれる元気があるのか。そりゃあ相手はアイドルだ、やる気も出るわな
スタンバイモードへと入るゲームに、日々のレッスンで鍛え上げたその素晴らしい体力と瞬発力を持ってしてみりあは戦闘態勢へと再び戻る
「どうしたもんか・・・」
画面と音声で次ラウンドのカウントダウンが始まる中、俺に向けて期待の眼差しを送るみりあの視線が一瞬俺の後ろへと移る
「おや?」と疑問を抱いた様子でそのまま俺の後ろを見ていたので振り返ってみると、そこには保育園の年長組くらいの男の子が俺たちの姿をワクワクした表情で見ている姿があった
「え?あー・・・これ、やってみるか?坊主」
「いいの!?」
「ああ、お兄ちゃん少し疲れたから」
「ほんと!?ありがと!おじちゃん!」
・・・そのセリフに少し複雑な気持ちになったが、タイミング的には丁度よかった
俺はハンマーを男の子に渡し、筐体の前へと来るように促す
男の子はそれはもう嬉しそうにハンマーを受け取ると、一目散に筐体へと駆け寄った
俺はというと、みりあ達のすぐ後ろにあるベンチへと腰を下ろし、少しうなだれながら行く末を見守る
「よろしくね!」
「うん!よろしくね!お姉ちゃん!」
カウントダウンが終わり、ゲームが開始されると二人共必死にワニを叩き始めた
二人で息を合わせたり、みりあが指示を出したりと一生懸命その男の子に教えながらゲームが続いていく
みりあには妹がいると聞いていたが、これは将来いい姉ちゃんになりそうだ
ーーーーーーーーーー
「ひなちゃん・・・あそこまで本気出さなくても・・・」
「負けるのは性に合わないから」
「でも楽しかったですわ!最後に大物も釣れましたし!」
「美空さん、元気出してください!今度はきっと勝てます!」
カニのぬいぐるみを抱きしめながら、満足げな表情を浮かべてハサミの部分をフニフニと握っている桃華ちゃんを見ていると、少し負けてもよかったかなと思ってしまうが、横で私を励ます千枝ちゃんを見ていると、勝って喜ぶ姿も見たかったかなとも思う
ああ!なんて贅沢な悩みなんだろう!
なんで私の体は一つしかないのだ!
分身とかできれば異なる未来を掴み取ることができたかもしれないのに!
「あら・・・!あれは!」
そんな事を考えていると、タタタッと桃華ちゃんが小走りで駆けていく
その先には、少し細長の筐体に赤いバケットシートが備え付けられ、特徴的なレース用のハンドルが印象的なレースゲームが四台横に並べられていた
「そうですわ!」
と桃華ちゃんが言いながら持っているカニのぬいぐるみの両ハサミをぽふっと合わせる
「お二人とも、車の運転がとてもお上手だと聞きましたわ!このゲームなら四人でできるみたいですし、是非ともお手合わせ願いたいですわ!来る前に少し練習もしましたし!」
練習というのはおそらく、ガレージで遊んでいたゲームのことだろう
その為か、桃華ちゃんが妙にやる気になっていた
千枝ちゃんを見ても同じようにワクワクしているし、ひなちゃんに至っては久しぶりの対人戦なのか、ゲームカードを用意して準備万端だ
「私カード持ってるし、これあれば皆速くした車で戦える。どう?やる?」
そうやる気満々でひなちゃんが言ってきたので、私は久しぶりにバケットシートへと腰を下ろすことにした
ーーーーーーーーーー
「楽しかったねっ!」
「うん!ありがとうお姉ちゃん!」
スコア表示が消え、再びコイン投入を促す音声が聞こえ始める中、スコアは決して良くはない数字ではあったものの、嬉しそうに二人ではしゃいでいた
「おじちゃんもやらせてくれてありがとう!」
「おお、ちゃんとお礼言えて偉いな。いいんだいいんだ、楽しそうでよかった」
そう言うと二人はまた顔を合わせてにっこり笑い合う
「あ!ここにいた!」
「お姉ちゃん!」
男の子は唐突にそう言うと、俺が座っているベンチを横をすり抜けて、買い物袋をぶら下げている黒と白の横ストライプの上着が似合う中学生くらいの髪が長い綺麗な女の子へと駆け寄る
「一人で行っちゃダメって言ったじゃない」
「ごめんなさい。でも、お姉ちゃんが遊んでくれたよ!」
男の子が振り返り、再び俺たちの方へ向くとそれに合わせて女の子もこちらを向き、一つ頭を下げる
「すみません、うちの弟が」
「いいんだ、丁度一回分余ってたし、それならやってくれたほうがよかった」
「楽しかったよ!また遊ぼうねっ!」
みりあがそう言うと、男の子は満面の笑顔でうなずき女の子を見る
そんな男の子にクールな印象だった女の子の顔に一瞬暖かい笑顔が浮かび、再度俺たちに頭を下げた
「すみません、それでは失礼します。行こうりっくん。お母さんがフードコートで待ってるから」
「うん!バイバイ!お姉ちゃん、おじちゃん!」
大手で手を振る男の子にみりあも同じように手を振り、俺も手を軽く上げると、二人はゲームコーナーから去っていった
「さて、俺たちもそろそろ行くか。どこに行けばいいんだ?」
「あ、えっとね!こっちこっち!この先にね、可愛い小物屋さんがあるんだよっ!」
またみりあの案内が始まった