「わ〜お、停電かにゃ〜?」
「志希、そんな呑気な」
「そんな〜奏ちゃん、隠さないとそのおヘソ取られちゃうよ〜?」
「・・・黙りなさい」
にゃはは〜と私の隣で志希は呑気に笑っている
特に気にする様子もなく窓際で携帯を触っている周子越しに外を見てみると、照らしているのは車のライトくらいで、建物の電気はもちろん、街灯、信号機に至るまで完全に光が消え闇が支配していた
・・・なんだかこれじゃ言い回しが飛鳥みたいね
「見て見て奏ちゃん!周り真っ暗だから今ならめっちゃ星綺麗に見えるよ!フレちゃん感激!なんてロマンチック・・・」
「いや、曇ってて何も見えないんですけど・・・」
「そんな美嘉ちゃん〜、いつでも星は空に輝いているんだよ!」
いかんせん状況がロマンチックではない
「おいプロデューサー、どうなってんだよ。これマジ帰れないやつだぞ☆」
「そ、そうは言われてもだな・・・」
「電車も止まってるみたいですねぇ、今日はウサミン星には戻れないかも・・・」
運転席の後ろに座っている佐藤さんがプロデューサーにつっかかっている間にも他のアイドルたちも窓際に張り付いて、外の様子を伺う
携帯を確認して今の状況を調べたり、家族に連絡したりと何かしらの対応をとる中でラジオから今の状況が説明された
雷の影響により広い範囲で停電が起こっており、病院などの自家発電のシステムが整っている施設を除けばここら一帯は完全に沈黙しているらしい
電車が使えなくなったのでバスに乗り換える人、タクシーを止める人でターミナル周辺もごった返しており、おちおち帰るのも困難だという
「困ったなぁ・・・これじゃあ会社に戻るのも、・・・おっと」
プロデューサーの携帯に着信があったのか、バスを道路脇に停めて携帯を耳に当てる
「はい、はい・・・えっ!?本当ですか!?ゲート・・・いやそれじゃ俺たち、あっ!ちょっ!待ってくださ・・・!あぁ・・・」
会社と連絡を取っていたのか、一連のやりとりを私たちはじっと見守る
あれだけ騒がしかった車内が静まり返り、外で未だゴロゴロと唸っている雷鳴の音だけが際立って響いていた
「何?どうだったの?」
携帯を閉じてポケットにしまい、額に手を当てて項垂れているプロデューサーに凛が尋ねる
「それが、停電で会社の正門のパワーゲートが開かなくなってるらしいんだ。普通の車も入れないくらいの隙間しか空いてないらしくて」
「手で開けられないのかい?」
「それがな飛鳥、飛んできた金属片だか木片が引っかかって開かないらしいんだ。いまスタッフが総出で作業してるみたいなんだが、復旧できるかどうかは未定らしい」
「え、じゃあ会社に戻れないってことですか!?」
「今のところは・・・な」
『えぇ〜!』と車内に不満の声が上がる
「マジかよ〜、あたし大きい荷物会社に置きっぱなしだぞ」
「私は・・・お腹が空きました・・・」
「何も飲まず食べずの歌い通しだったもんね。悠貴ちゃんに少し賛成かも・・・私もこういう時に限ってバッグに何も入ってないから・・・」
「プロデューサー君、子どもたちだけでも駅かどこかで・・・」
「ダメよ瑞樹ちゃん、とても車を停められる状況じゃないわ。駅前なんかで降ろしたらそれこそパニックになっちゃう、犯罪にまきこまれるかもしれないわ、これだけの人数を帰宅まで一度に管理するのは不可能よ。いくらプロデューサー君でもね」
あながち早苗さんが言うことも間違ってない
今チラッとすれ違った駅前やバスターミナルを覗いてみても、すでに帰宅難民と化した人たちが押し寄せており、とてもではないが外の天気も相まって降りるのはほぼ不可能に近い
ライブ帰りのファンの人たちもいるだろうし、大騒ぎになるのは目に見えている
20人以上の人数を管理するのはさすがに酷というものだろう
「じゃあ今日はバスの中で夜明かしってこと?それならどこか大きい駐車場とか、お手洗いがある場所に・・・メイクも落としたいし」
「それがな美嘉、そうもいかないんだよ。燃料がな・・・」
プロデューサーが次は車の燃料計と向き合っているようだ
『エンジンが止まればヒーターも止まる。風は出るだろうが暖かい風が出なくなる。バッテリーも上がるだろうし寒いところじゃ致命的だ』と、今になって零次さんのセリフが頭をよぎった
「でも外がそんなに寒くなければ・・・雨と風が強いだけかも、よいしょっとあばばばばば!!」
「幸子はん!はよ閉めて!」
幸子が少し窓を開けただけでも、雨風はもちろん肌を突き刺すような寒い冷気が入り込む
「うへぇ・・・」
「もう、幸子はんったら・・・」
顔面がびしょ濡れになっている幸子の顔を、紗枝が自分のハンカチを取り出し呆れた様子で綺麗に拭いていく
いよいよ打つ手がないかもしれない、私も今住んでいる部屋の戸締りなんかを気にし始めてる
「・・・」
「千枝、あんた大丈夫?さっきから黙ってるけど」
「バスを停められて、暖かくて、電気が使えて、お手洗いがあって、みんなが入れるような広い場所・・・?」
ーーーーーーーーーー
「どーすんだよこれ・・・」
「いや、俺に聞かれましても。本当だったら一等の北海道旅行を当てたかったんですが・・・」
「なになになあに?あら〜!すっごい!高そうなお肉!」
ガレージに戻り、肉の塊と野菜を引っ提げてリビングに上がると、エプロン姿のひな先輩がガスコンロなどの器具を準備している途中だった
姉さんも珍しくダンボールだらけの自分のスペースへと赴き、タンクトップ姿で荷物の整理をしていた
・・・LiPPSの曲を流しながら
「とにかくバラして冷凍しておくか。さすがに食いきれんわこれは。スペースあったかなぁ冷凍庫」
肉を両手で抱え、冷蔵庫の前でしゃがみ込み冷凍室を開けて中の様子を確認するひな先輩
「これだったら野菜のほうが欲しかった・・・っていうか肉買う必要なかったじゃん」
「今更レディースのみんな呼ぶわけにもいかないしね〜」
「あれ?帰ってきてるんだっけ?」
「いや、まだ何人か海外」
ひな先輩はゴソゴソと手を突っ込んでスペースを確保しようとしてるみたいだが、物がありすぎて一向に上手く進まないようだ
「せっかく買ってきましたし、こっちもいただきましょうよ。一応高いお肉ですよ」
「どれどれ、お姉さんも・・・わぁ!ホントだこっちもすごい!ありがとうレイジ君!今夜は高いお酒開けちゃおうかな〜。何本あったっけ?」
「ダメ。あったとしても一本だけ」
ひな先輩に覆い被さるようにする体勢で上の冷蔵庫を開けて中を漁る姉さん
俺はひな先輩から作業を引き継ぎ、テーブルの上に皿と調味料を並べる
その際にテレビを見てみると、どうやら外の様子は予想以上に悪いようだ
ここら一帯で停電が起こり、交通機関が麻痺してごった返している様子が映し出されている
気温もグングン下がっているようで、もはや冬の息吹どころか真冬に近い肌寒さになっていた
そんな中姉さんがタンクトップなんて格好で居られるのもこのガレージが自家発電なんて無駄に豪華な設備が整っているせいだろう、一体どこからそんな資金が出てきたのだろうか?
そんな姉さんはふんふん〜とLiPPSの曲を口ずさみ、小刻みリズムにのって体を揺らしながら片手にまずビールを持つ
「ちょっと、さっきから頭の上にポフポフっておっぱいが当たって鬱陶しいんだけど」
「あ〜、ひなちゃんごめんね〜。上これ一枚だからさ」
「ちゃんとブラしてよ、垂れちゃってみっともない」
「もうめんどくさいんだもん、どうせ私たちしかいないし。あ、レイジ君これ。ビール、これ」
「あー、はいはい。持ってきます」
俺にビールを渡すと今度はつまみを探して冷蔵庫を漁っている姉さん
ひな先輩もなんとか肉を冷凍庫に押し込み、しまってあった野菜をテーブルまで持ってくる
買ってきたものと合わせても今日はなんとか足りそうだ
あの肉を食べる際にまた買ってくればいいか
「あぁ、ホント鬱陶しかった」
「お疲れ様です。俺はどっちかっていうとLiPPSのほうが苦手です」
「前々から聞いてたけどそうか?カッコいいと思うんだけど」
「そりゃあ歌ってるときはそうですが、普段の様子見たらビックリしますよ」
そうだ、普段のあいつらときたらたまったもんじゃない
フレデリカときたら何だか突拍子もないことを突然思いつき、塩見周子がそれを煽るように拍車をかけるし、一ノ瀬志希ときたら何処へともなく突然消えるし、速水奏は苦手だあのタイプ
なんでだ、なんであんなに迫ってくるんだ
パーソナルスペースがなさすぎる
本館のソファーに座っていた時なんか、気づいたら顔がすぐ隣にあったりして心臓に悪い
あの時振り向いていたら唇が当たっていた
その驚いた俺の様子を見てクスクス笑ってるし、あいつ本当に高校生か?
美嘉姉ちゃんに関しては、いつもすみませんと謝ってくるので日頃の苦労がうかがえる
「とにかくあいつらは・・・あいつらだけは苦手です。ほんっと勘弁してください」
「ほほう・・・休日暇なら付き合ってやればいいじゃないか」
「いやほんっっっと勘弁してください」
イタズラっぽく笑うひな先輩に、俺は全力で否定を振りかざす
休日まであいつらに振り回されたらたまったもんじゃない、自分用の携帯の連絡先だけは守り通さねばならない
「ただでさえ凛と加蓮にアカウントバレてるんですから、これ以上増えたらそれこそ体がもたな」
ピンポーンっとその瞬間、ガレージにインターホンの音が響き渡った
俺たち三人は思わず顔を見合わせる
「あ、私行くからひなちゃんとレイジ君は準備してて。よいしょっと・・・あ、ブラ下か」
そう言って姉さんはトントントンと螺旋階段を降りて下に行き、格好を整えて出入り口へと向かった
「外がこんなになってるのに客?」
「新聞の勧誘にしてはアグレッシブですね」
はいはいはい・・・と小走りになる姉さんを上の柵から少し乗り出して覗く
一体誰だ?こんな嵐の夜に