ヘイ!タクシー!   作:4m

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ガレージの出入り口が開くと同時に外で吹き荒れる雨風が一瞬中に入る

テレビで言われていた通り外は相当酷いことになっているようだ、二階から見ているだけでも雨風だけでなく吹き荒れる轟音まで玄関から響いてくるのがわかる

 

「夜分遅くに申し訳ございません!私346プロの・・・」

 

聴き取れたのはそのセリフだった

肩から下まで雨に濡れ、髪型もぐちゃぐちゃになっているその男は必死に手で髪型を直しつつ、少し上がっている息を整えながら姉さんに状況を説明しているようだ

 

「誰?」

「なんか・・・美城プロの人みたいですけど」

 

俺と同じように、ひな先輩も作業を一時中断してギャラリーの柵に手をつき、姉さんとその美城プロの男のやり取りを見守る

気のせいか、少し開いている出入り口から大型のバスにでも乗ってきたのかディーゼルエンジンの音がしているような気がするが・・・

 

「・・・というわけでして、大変申し訳ないのですが少しの間、ここに彼女たちを停めておいてはいただけないでしょうか!彼女たちも随分と信頼をおいているみたいで、ここしか思い当たる節がないと言っていまして・・・。私は報告の為、会社に戻らなくてはならないのですが・・・申し訳ございません!」

 

その男の人が必死に頭を下げて謝っている言葉の中に、一言気になるワードが引っかかる

 

聞き間違いでなければ''彼女たち''と彼は言ったような

 

俺の頭の中で嫌な想像が膨らんでいく

いやいや待て待てそんなことはない、そんなはずはない

人間はマイナスな方向に考えていく生き物であると聞いたことがあるがきっとそれだ間違いない

俺はライブのチケットと共に貰ったパンフレットに書かれている、参加ユニット及びアイドルのリストに目を通す

 

何をしているんだ俺は、まだあの男は''彼女たち''としか言っていない

悪い方向に考えるのはよせ、女性スタッフというセンもある

 

そうだよきっとそうだ

 

プラスに考えろプラスに、美人な人だったらいいなぁスタッフの人、そうスタッフの人

俺はパンフレットを自分のテーブルへ戻すと、必死に自分の考えを押し殺して、今度は恐る恐る柵へと近づき動向を見守る

 

「少し待っていてくださいねっ!」

 

語尾が跳ね上がる返答を返した姉さんが、俺たちが寄り掛かっているリビングの柵の下までツカツカと歩いてくる

俺もひな先輩も同じようにその姉さんの動きを追って少しずつ顔を下に向けながら待っていると、すぐ下についた姉さんがそれはそれは嬉しそうな顔をして上を向き俺たちに一言言った

 

「車どけて!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

11月29日

わたくしの脳内にこの日を書き記す

 

「じゃあとりあえず二柱に入れますよ!ひな先輩もそれでいいですよね!」

「ああ、頼む。鍵だほら、下まで来い。いいか?落とすぞ」

 

それは雨風が吹き荒れ雷鳴が轟くある夜だった

舞踏会への招待状が紙切れと化したこの日、追い討ちをかけるように停電が起こり人々が絶望していた時、空から天使たちが舞い降りようとしていた

私の意識が、五感が、どんどんと敏感になっていく

いいのか、そんなことがこの世に存在してもいいのか、そんな天国のような空間が・・・あってもいいのか

このままでは、私自身が天に昇ってしまいそう・・・

 

「姉さん、車下げるからシャッター開けて。・・・姉さん?おーい」

 

かゆっ・・・うま・・・

 

「ちょっと・・・おーい?」

 

私は無言で出入り口の横にあるシャッターのスイッチを押し、シャッターを開けた

ガタンガタンと機械の作動音と共に重々しく開いていくシャッターと、掛かるレイジ君の車のエンジンの音

それら全てがBGMになり、オープニングとなる

さぁ、夢の時間の、始まりである

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

ガラガラガラと音を立ててシャッターが開いていく様子を背後に感じながら、俺はひな先輩の車を二柱リフトの中に入れ、鍵を抜いてゆっくり降りる

ガレージ内を徐々に照らしていくヘッドライトの光と、響くエンジンの音。やはりその正体は20人から30人クラスの大型バスのものだった

逆光で運転席の様子しか見えないのが恐ろしい

 

「はいはい、オーライオーライ!」

 

ガタンッとシャッターが開ききる音と同時に、姉さんの誘導に従ってその重いタイヤをミシミシと動かしながらバスがゆっくりと入ってくる

バスの屋根を打ち付ける雨の音が段々と無くなっていき、完全に入ったことを確認すると俺はシャッターを閉じるボタンを押して階段で上に上がった

 

バスの窓はカーテンが閉められて中が見えなくなっており、誰が乗っているのかわからないのが恐い

いやいや、きっとスタッフの人もお疲れなんだろう、ライブ会場の設営のバイトもめちゃくちゃ忙しいって聞くし

バスからエアが排出される大きな音が響くのと同時にエンジンが切れて、大きなドアが開く

 

「あ、ひな先輩。はい、鍵」

 

リビングのスペースへと戻り、先程と同じように下を覗いていたひな先輩に鍵を渡す

 

「おう。で、誰なの?」

「きっとスタッフの人たちですよ。そうですよきっとそう。カーテン閉めきってるのはみんな疲れて寝てるんですよ」

「さっきの姉さんの喜びようを見た感じそうは思えないけど」

 

確かに、今姉さんはというと下の休憩スペースにある小さな姿見で自分の格好を整えている

いやそんなハズはない、まだ希望はある

しかし、開いたバスのドアの中から、比較的若い女の子の声が沢山聴こえるような気がする

 

「・・・いないって言ってください」

「何?」

「俺は、いないって言ってください!」

 

微かに聴こえたその''人物たち''の声に、俺は急いで自分のスペースに隠れた

くそっ!もっとクローゼットの中整理しとくんだった!

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「うわぁー!広ーい!しぶりん見て見て!体育館みたい!」

「確かに、聞いてはいたけど・・・ここまでとは」

 

バスから降りた瞬間、開口一番未央と凛が意気揚々とそんな声をあげる

二人とも噂程度には聞いていたが、広さはもちろんそれ以上に中の設備や壁にかけられている工具、部品の数に驚き興味津々に眺める

 

「ここが噂の・・・」

「凄いね悠貴ちゃん。私こんなところ初めて・・・あ、二階のダンボールが沢山積み重なってるところ、埃溜まってそう・・・」

「正に異界の地、数々の神具がその封印を解かれし時を待っているというのか・・・」

「ふむ、ボクたちは知らないセカイに迷い込んだ子羊というわけか。しかしボクたちはまだこのセカイ触れたばかり、どう染まっていくかは運命が決めていく」

「あ!ソラ姉ー!久しぶりー!」

「未央ちゃーん!久しぶりー!」

 

バスから出てくるメンバーたちは各々がそれぞれ驚きの声を上げ、恐る恐る近づいたり眺めたりとその反応は十人十色である

美空と未央は再会を抱き合って喜び、ライブに行けなかったことを美空は未央に謝罪していた

その脇を通り過ぎて、瑞樹と楓は壁にかけられている工具を顎に手を当てて眺め、美優と菜々、愛梨は床、壁、天井と頭を動かして室内を見て回る

 

「なんだか不思議な感覚ですね。ドラマの撮影の時にこういうところは見たことはあったんですが・・・」

「ナナも一緒ですよ・・・、いやはやここまでのガレージはウサミン星でも見たことがな」

「あっ!菜々さん!」

「え゛っ」

 

凛のところに未央が戻ったタイミングで、美空は菜々に声を掛けて小走りで駆け寄る

 

「ご無沙汰してます〜!」

「あ、あ、あぁ。こ、こんばんはー、お姉さん・・・」

 

美空に話しかけられた瞬間、全身から冷や汗が噴き出し始め、言葉の節々がしどろもどろになっていく

 

「アイドルになられたって聞いて、一度改めてご挨拶したいと思ってまして〜。うちの親もまた菜々さんに会いたいなんて言っててもう困っちゃいますよねあっはっはっ」

「そ、そうなん・・・ですか?は、はははっ。そんなにわた・・・ナナこと知ってるんですね!キャハッ!」

「それはもう!地元の''花''なんですから〜。また昔みたいにうちに遊びに来てくださいよ〜」

 

普段の様子とは打って変わって、口元に手を当てながらもう片方の手を丁寧に体の前に添えて菜々に話しかける美空だったが、肝心の菜々はというと、目がグルグルと泳ぎまくりその純粋な美空の眼差しを流しに流しながら落ち着きなく呼吸が乱れ始め、後ろから降りてくる奈緒と加蓮の不思議そうな視線をそれはもう肌にビンビンと感じると、フェンシング選手も顔負けのスピードで一気に美空へと間合いを詰めて、美空の肩へと腕を回してかがみ込む

 

顔をゼロ距離で近づけてボソボソと何かを相談している様子を続けて降りてきた卯月と美穂も''はて?''と顔を見合わせて眺めていると、美空と菜々はおもむろに立ち上がった

 

「菜々ちゃん初めまして!ごめんね〜、私知り合いとすっかり勘違いしてて!大変だったでしょう!上で休んできて!」

「はい!ありがとうございますお姉さん!キャハッ!」

 

いつもと変わらない(?)様子で受け答えする菜々は、後ろで見ていた加蓮たちを''さぁさぁ''と螺旋階段の方へ、美空に言われた通りに誘導する

 

「あ!ソラ姉!ここは靴脱いで上がるの〜?」

「そう!そこに適当に置いといていいから〜!あ、あなたたちも・・・。!!!LiっっっPPS・・・!!!!」

「あら、お姉さんこんばんは。初めまして。ごめんなさい、突然お邪魔してしまって」

 

奏に続いて降りてきたのは、後部座席に座っていたLiPPSの面々だった

 

「やっぱ零次さんいない〜ん?」

「でも車あるっぽいから居るんじゃなーい?」

「レイジさーん!あなたのフレデリカだよ〜!」

「こらっ!すいません、騒がしくしてしまって・・・」

「い、いえいえぇぇぇ・・・」

 

顔を手で押さえながら感情と息を押し殺している美空に、美嘉が頭を下げる

 

「あ、あのあの・・・わ、私あの、大ファンなんです!!あの、これあの・・・アりゅ、アルバム買いました!!」

「あ、私たちの。ありがとう、お姉さん」

 

美空が腕を伸ばしてLiPPSのメンバーにアルバムを見せると、奏はニコッと笑ってそれを受け取り自分のバッグからペンを取り出す

そして美空に目配せをすると、大きく首を縦に振ったので、ケースにサインを書き込んでいった

書き終わると次はフレデリカ、周子、志希、美嘉へと渡っていき、それぞれのサインが書き込まれると、真ん中のわざと開けられたスペースに''美空さんへ''の五文字をそれぞれが一文字づつ分けて書き美空へとCDを返すという粋なファンサービスを行っていた

 

「た、宝物にしますぅぅぅ・・・」

「喜んでくれてよかったわ。あ、握手するならそれよりも・・・藍子、少しいいかしら?」

「私ですか?」

 

丁度降りてきた藍子に奏は一声掛けると、美空に許可を貰ってから藍子に美空の携帯を渡す

大層喜んだ様子で携帯を渡した美空は、メンバーに言われた通りにしゃがみ込んだ

すると奏が美空の後ろから首に腕を回して抱きつき、右腕をフレデリカ、左腕は志希が腕を組み、美空の前では周子と美嘉がピースをしながら美空が見えるように間隔を空けてしゃがむ

 

「それじゃあ撮りますよ〜。はい、チーズ!」

「美空さん。はい、笑顔」

「は、はいぃぃぃ・・・」

 

前後左右をLiPPSのメンバーに密着された状態で囲まれ、それを346きってのカメラマンである藍子が撮影するという公で再現するととんでもなくお金が動きそうな空間がそこに出現する

 

「はい!いい笑顔でした!」

「あり、がとう・・・藍子ぢゃん!」

 

藍子から携帯を受け取っている最中、もう美空の頭の中は感動やら感激やらの感情が入り乱れ訳がわからなくなっていた

 

「それじゃあすいません、お邪魔します。こらっ志希!自分の荷物自分で持って!」

「さてさて、零次さんはどこかにゃ〜?」

「おまえはホーイされているっ!」

 

志希に続き、フレデリカ、周子と螺旋階段に向かっていき、それを美嘉が追いかける

そのあとに奏も一つ美空に頭をさげると、階段へと向かっていった

 

「あの、美空さん・・・大丈夫ですか?」

「私、もう死んでもいい・・・」

 

千枝の問い掛けにも、美空は上の空だった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

カンカンカンッと螺旋階段を上がってくる、''やつら''の足音が聞こえてくる

 

「さぁ〜、手を挙げて出てくるのだ〜」

「もうネタは上がってんのよんっ!」

 

誰が出てくっつんだよ誰が、俺は逃走者か!

しかし、その足音が俺のスペースの前でピタリと止まる

 

「シキちゃん?」

「くんかくんか・・・なんだか零次さんの匂いがする〜」

 

あいつは犬か何かなのか

俺は外の様子を確認しようと恐る恐るクローゼットの扉を少し開けた瞬間

その隙間に顔がニュッと外から押し付けられ、中にいた俺と目が合った

 

「私だよ、私」

「うぉあぁぁぁぁぁ!!!」

 

周子がいた

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