「・・・で?」
「で?」
「で?ってお前・・・何があったんだ?一体」
二階ギャラリーの廊下、自分のスペース、リビング、ひな先輩、そして普段は使わない姉さんのスペースまで、見渡してみると所々にさっきまでライブをしていたであろうアイドルたちの姿が見える
テレビや雑誌などの''メディアの姿''ではなく、全員が普段着姿で歩き回っているその光景は中々にレアなんじゃないかと思ってしまった
「美空さん、すいません。突然お邪魔してしまって。いきなりだったものですから、何も用意できなくて・・・」
「いいのよ楓ちゃん!困ったときはお互い様なんだからうちの業界!今夜は無礼講でいきましょう、無礼講!」
柵から下を覗いてみると休憩スペースでは、姉さん率いる大人組がテーブルを囲んで談笑している
割と仲良くしているあたり、何処かつながるものがあるのかもしれない
「へぇ・・・ひなさん中々オシャレなのね。これはよくわからないけど」
「梨沙ちゃん、それ裏側にスイッチがあるの。これをパチッと」''Start your engine!''
「・・・」ウズウズ
「奈緒〜、行きたいなら行ってもいいんだよ〜?」
「なっ!?加蓮!べ、別にアタシはそんな!懐かしいなぁって思っただけだ!」
リビングでは、ひな先輩のヘッドの側にあるラックからベルト型のおもちゃを取り出して、梨沙と千枝がいじって触っており、それを興味深そうに見ている奈緒を、凛と加蓮がからかっていた
「まぁ、見ての通りよ。私たちは行き場がなくなって、そして前たまたま遊びに来た千枝のアドバイスにしたがって、お邪魔したってワケ。外も、まだこんなだし」
俺のベッドにペタンと座り込んでいる奏が、ベッド脇の壁の窓を指差す
先ほどと変わらず、外では雨が降りしきっており、まだ停電も回復していないみたいだ
遠くの地区はほのかに灯りが見えるが、それでもこちらはいつ復旧するかわからない
「私たちこれからどうするのかしら、もしかして・・・一晩、可愛がってくれるのかしら?」
「ガキのくせに何言ってんだか・・・だから近いんだっつーのお前は!」
「は、はわわ・・・!」
俺が自分のスペースのテーブルの前に座ると、後ろのベッドに座っていた奏が静かに俺の肩に手を置いて耳元でそう呟いてくる
それを同じく俺のスペースに座っていた卯月、美穂、悠貴が顔を真っ赤にしながら両手で顔を少し覆い、指の隙間からチラッとこちらを覗いていた
「見て見て〜、TriSaleの写真集あったよ〜」
「なに〜?零次さん好きなーん?」
「お前らはくつろぎすぎじゃ!」
奏、美嘉、志希その他はベッドなり床なりにペタンと座っている反面、フレデリカは俺の本棚から勝手に写真集を取り出し、周子はベッドに横たわりながら携帯をポチポチと触っていた
「こらっ!アンタたち!」
「えー?でも美嘉ちゃんも気になるでしょ〜?零次さん好みの・・・オ・ン・ナ」
「そ、そりゃ・・・男の趣味っていうのは、興味あるけど・・・」
中央にあるテーブルに、フレデリカが写真集をデカデカと広げると、そこにいるメンバーが顔を近づけマジマジと見る
あれだけ小うるさく注意していた美嘉も、チラチラとテーブルを覗いていた
「あ、でも。PCSのとき一緒に仕事したよね!」
「そうですね!とっても綺麗で可愛い人たちでしたよ!この人、楽屋で私にチョコレートを一つくれたんですよ!職場のスーパーで特売だったからって!」
「確か、スーパーの美人従業員三人組のユニット・・・でしたっけ、零次さん?」
「言っとっけど、別に俺が好きなわけじゃないからな。姉さんが置いとく場所がなくなっちゃったからって俺の本棚に押し込んであるだけで」
「で、結局誰推しなん?」
「・・・真ん中」
ーーーーーーーーーー
キャーッという黄色い悲鳴が零次さんのところから上がる中、ボクは紗枝さん、愛梨さんとリビングのソファーに座り、テレビのニュースを見ていた
「すいませんなんだか・・・、私までお邪魔してしまって」
「いいんですよプロデューサーさん。少しゆっくりしていってください」
床に緊張気味に体を固まらせて座り、ひなさんが差し出したお茶を申し訳なさそうに受け取るプロデューサーさん
「それがですね、あまりゆっくりしてる暇もないといいますか・・・」
「どういうことにゃ?Pチャン」
リビング脇の柵に腕を掛けて立っていたみくさんがプロデューサーさんに問い掛ける
「一応、今日のライブの報告を本社にしなくてはならなくて・・・、ライブの行程がスムーズにいったかとか、終了後のアイドルたちや、ライブ中に気分が悪くなったお客さんがいなかったかなどの健康状態を報告する書類が私のデスクにあるので、結局私は何とか戻らないと」
「この天気の中で?車もないのに・・・、いやバスはあるけど、これでまた戻るのはかなりロック・・・っていうか無理じゃない?」
李衣菜さんの言う通りだ、まだ外の天気は荒れに荒れている
バスで戻ったにせよ車を停める場所がない
「ああ、それなら一応」
するとひなさんは自分のベッドにいる千枝ちゃんに一言声を掛けると、千枝ちゃんは壁にかけられていた鍵を取り、ひなさんに渡す
「一台車あるんでよかったら使ってください。姉さんー!T30使うけど使わないでしょー!使うから!」
鍵をプロデューサーさんに渡すのと同時にみくさんの隣に行き下に向かってひなさんが叫ぶと、''おけまるー!''と返事が返ってきた
「出入り口出てすぐ隣にSUV停まってるんで、行くなら気をつけて。この子たちなら居ても大丈夫なので」
「え?プロデューサーさん本当に行くんですか?」
愛梨さんも心配そうに尋ねるが、プロデューサーさんは本気らしい
本社に連絡を入れ、帰る旨を伝える様子をボクたちは黙って見つめていた
「確認が取れたので、私は本社に戻ります。お茶までいただいて、食い逃げみたいですみません。終わったらすぐ戻ってきますので・・・お前たちいい子にしてるんだぞ」
「ちょっ、そこまで子どもじゃないよプロデューサー!」
不満をぶつける未央さんを軽くあしらいつつプロデューサーさんが上着を着て外に出る準備をしている最中、零次さんの声が上がる
「えっ・・・え!?プロデューサーさん帰るんっすか!?」
「はい、すみません。少しの間、こいつらをよろしくお願いします。北崎さんなら、信頼されているみたいですし」
「いやいやいや!さすがにこの人数はちょっ・・・!離せ・・・こらっ!」
「う〜ん、なんだかケミカルな匂い〜」
ずずずっと、足にくっついて離れない志希さんを引きずりながら通路に顔を出しプロデューサーさんをなんとか引き止めようとする零次さんだったが、その抗議も虚しくプロデューサーさんはその横を素通りして階段を降りて出入り口へ向かう
「あ、プロデューサーさん!そういえば、打ち上げってどうなるんですか!?」
出て行く直前に、美空さんの場所のダンボールを響子さんと一緒に整理していた藍子さんが声を掛ける
「残念だが、お前たちの参加は難しいだろうな。スタッフのみんなには言っておくから!悪い、もう行くぞ!すぐ戻ってくる!」
「なんと!」
蘭子さんの驚く声を最後に、プロデューサーさんはそそくさと出て行ってしまった
少しの間沈黙が流れるガレージだったが、それを破ったのは奈緒さんから聞こえてきた小さなお腹の音だった
「な!ちょっ・・・!」
「なんだ、お前たちもしかして腹ペコか?」
恥ずかしそうにお腹を押さえている奈緒さんの様子を見ていたひなさんが、私たちに向かって尋ねる
「実は、本社に戻って食事も兼ねた打ち上げがあったんどす〜。ずっとライブやったし、何も口にする暇もなく・・・というわけでして」
「・・・」コクコク
紗枝さんが答えると、奈緒さんは縮こまったまま小さく頷く
周りを見ても、大体の人たちが同じような反応をしており、このカワイイボクも例外ではなく、今すぐにでも何かつまみたい気分であった
「ふむ・・・」
その様子を見ていたひなさんは顎に手を当てて考え込むと、何かを思いついたのか零次さんに声をかける
「零次、ホットプレートいくつあったっけ」
「たぶん・・・4、5台なかったでしたっけ?全然使ってなかったですけど」
「焼肉パーティするから全部出せ!」