「これと・・・これと、これ・・・ってなんだこれTシャツ?ったくなんでこんなところに・・・とりあえずこの2つの台俺の場所辺りまで持ってってくれ。戻るとき足元気をつけろ、ダンボールだらけで何があるかわからんから」
「は、はい!」
姉さんのベッドへTシャツを放り投げるのとほぼ同時に、美穂は商店などでよく使われる酒瓶を入れておくプラスチックの容器を両手にぶら下げながら『よっ、ほっ、よいしょっ』と散乱しているダンボールを器用にステップで回避して姉さんのスペースを脱出し、廊下部分に出て行った
さて、次はホットプレートか
「あ、響子ちゃん」
「美穂ちゃん、おっとっと・・・ちょっと横通してね、零次さん大丈夫ですか?」
「ああ、にしてもやっぱここすごいわ。魔窟もいいとこだこりゃ」
「すいません、ちょっと片付けていた途中だったので・・・」
「いいんだぞ別に、こんなのほっといて」
「いえ、なんていうか・・・こういうのを見ると私、黙っていられなくって!」
俺の隣にしゃがみ込み、一緒になって奥にある必要なものを取り出す響子だったが、その顔は妙に張り切っているというか・・・爛々と輝いていた
『あ、こんなところにまで埃が・・・』などと呟き、物を引っ張り出しながら後で片付ける際のプランをもはや練り始めている
掃除好きとは聞いていたがこれは筋金入りだ
「よし、今だいけ。引っ張りだせ」
「ふんにゅぅぅぅぅ・・・!」
そんなことを考えながら、俺が上に乗っかっているダンボールを支えているうちに響子が下から奥にしまってあるホットプレートを引きずり出すという連携プレーのお陰で、やっと一番めんどくさい物を確保できた
「零次さん・・・!すいませんっ!ちょっと体抜けないんですがっ!どうしましょう!」
「ちょっとそのまま動くなよいいか?よいしょっと」
俺は動けずにバタバタと動かしていた響子の両足の足首を掴むと、ずりずりとそのまま後ろに引きずりだす
「よっと・・・もう、シャツが埃だらけ・・・ハッ!」
起き上がって髪を整え、シャツの腕や肩、お腹のあたりについた埃を払っている最中にシャツがめくれてお腹が少し見えているのに気付いた響子は、慌ててシャツを戻してお腹を隠す
「み・・・見ました?」
「何を?」
「その、おへそとか・・・ブr・・・下着とか」
ペタンと床に座り、戻したシャツを両手でギュッと掴み続けながら、少し恥ずかしそうに上目づかいでポツリと呟く
「腹ならいつもライブで見せてるんじゃないの?」
「ライブと普段じゃ全然違いますー!!もう!見たんですね!エッチ!」
「子どもが何言ってんだか、大丈夫だ。別になんとも思ってない」
「それはそれで何かムカつくっ!!」
必死に俺の腰あたりを両手で掴んでグラグラ揺らしながら抗議するが、「もういいですよーだっ!」と不機嫌な様子でホットプレートを持って立ち上がる
「まったく・・・、それでこれはどこに?」
「あー、ひな先輩のスペースあたりだな」
「わかりました。ふんっ、みんなに言いふらしてやるんだから」
「おいおい、火種を増やすな火種を」
しかし響子はベーっと俺に向かって舌を出して反発すると、ホットプレートを胸に抱え、リビングへと向かっていった
「ふー・・・」
柵に寄り掛かって一息つきながら、周りを見渡す
「フレちゃん、もうちょいそっちにダンボールずらしてほしいかにゃ〜。そしたらみんな座れると思う〜」
「ワオ!これだけダンボールがあればみんなで潜入できるね美嘉ちゃん!」
「いやいや、テーブル代わりに使うだけだからね。っていうか潜入って何?」
俺のスペース辺りでは意外なことに一ノ瀬志希のアドバイスに従い、美嘉姉ちゃん主導の元テキパキと準備が進んでいる
これもギフテッドの手腕なのだろうか?
「おお、上手いじゃないか。普段料理とかするのか?」
「本当だ。奏さん、意外と包丁さばき上手いんですね。これはロックかも・・・」
「一人暮らしですから、料理する機会は割と多いんです。・・・でもこれだけ大きなお肉を切ったのは、初めてです」
キッチンでは、せまいスペースを何とかやりくりして、ひな先輩指示の元、おそらく料理ができるメンバーが集まり、肉の塊を捌いていた
「・・・あ?」
それをボーッと眺めていると、ふと振り向いた奏と目があう
「なんだ?」
奏は包丁の動きを止めて、包丁を持っている手とは逆の手の指先を唇に当てると、次の瞬間俺に向かってその指先を素早く向ける
隠れていた唇は少し窄められおり、指を向けるのと同時にウィンクのおまけ付きだった
「おっと・・・!」
俺はそれに合わせるように、片手でその''奏から送られた何かを''キャッチする動作をすると、奏は『つれないわね』とでも言いたげに首を横に振りながら視線を元に戻し、また包丁を動かし始める
年齢に似合わないあの大人っぽい雰囲気もきっと人気の一つなのだろう
「あ、零次さん。あっちでわからないことがあるって千枝ちゃんが呼んでましたよ!それと、何かボクに手伝えることはありませんか!このカワイイボクに!」
廊下に視線を戻すと、いつの間にかそこにいた幸子ちゃんが自信満々な様子で腰に手を当てて俺を下から見上げていた
「それじゃあ、このダンボールを元の場所に戻しておいてくれ。そこだ、そのスペースに」
「これをですね。わかりました!任せてください!」
「あ、その前に」
「はい?」と首を傾げる幸子ちゃんに俺は黙って握ったままの拳を差し出す
何かを貰えるのかと幸子ちゃんは期待しているのか、ワクワクした表情で両手を合わせて受け皿を作り拳の下に差し出して待機する
が、開いても何も出てこない様子にますます首を傾げていた
「何なんですか?これ」
「ん?''真心''ってやつらしい」
「もうっ!作業に戻りますね!」
そう言って俺の脇を通り抜け、俺が指示したダンボールに手を掛ける
「んっ!・・・と意外と重い、ふんっっっ!おぉぉんどぅぅるぇぇあぁぁぁっ・・・!」
床に転がっているダンボールに自分の体ごと密着させて、力一杯踏ん張りながら元の位置へとズリズリと押していく幸子ちゃんの様子を見ながら、俺はリビングへと戻る
「おっと、零次はん。幸子はんは?」
「あっち」
途中で紗枝とすれ違い
「あ、アンタやっと来た!ちょっとテーブルが足りないんだけど、どうしたらいいのよ」
リビングで用意していたメンバー達と合流する
「ああ、じゃあ余分にまだダンボール持ってくるか。幸子ちゃん!」
「あ゛あ゛、やっと戻せた・・・何ですか零次さん!ダンボール戻しましたよ!」
「やっぱそれ使うからまた出して」
「勘弁してくださいよもうー!!」
「ああ、じゃあ私も手伝ってきますねー」
幸子ちゃんの様子を見ていた愛梨が、手伝うために幸子ちゃんの元へと向かうのと入れ替わるように千枝が紙皿とプラスチックのコップを持ってひな先輩のスペース前までやってくる
「零次さん、これはここでいいんですか?」
「そうだな、何枚かあっちに回してやってくれ」
「わかりました。奈緒さんこれ、そっちに置いてくださいって」
「おお、サンキューサンキュー。探してたんだよ」
「あ、奈緒チャン。今そこにホットプレート置くからそれ横に少しズラして欲しいにゃ」
奈緒にいくつか紙皿とコップを分け与えると、千枝と梨沙と共に準備に入る
「それにしても、凄く賑やかですね」
「そうだな、こんなにお客がくるのは久しぶりだ。昔はよく姉さんのレディース仲間たちが来てワイワイやってたんだけどさ。なんだかデジャヴだ」
「あ、だからこんなにホットプレートがあるんですね」
「そ、色々買ってきて鉄板焼きスタイルでパーティーだった。その後みんなでゲームしたりしてって感じ」
「後でまた勝負しましょう!千枝も上手になったんですよ!」
「お?俺とやる気か?いいだろう、その心意気やよし」
千枝と話しながら準備を進めていると、ホットプレートを組み立てていた梨沙が俺たちの会話を聴きながら不思議そうな顔をしていた
「アンタたち・・・随分仲が良いのね。普段そんな感じだっけ?」
「仕事の時はあまり時間取れないことが多いからな、話す時は話す」
「でも、送ってもらう時とかはお話するよ?私はほら・・・ここに遊びに来たこともあるし」
「ふーん・・・」
何かを疑うかの様に俺たちを見ながらホットプレートの電源ソケットを壁のコンセントに刺す梨沙
そしてひな先輩に呼ばれて俺がキッチンへ行くのと同時に、梨沙が千枝の首に腕をまわして俺に背を向けながらヒソヒソと千枝と話し始めた
「アンタ・・・あの男は・・・」とか「いや、違・・・!そういうのじゃなくて・・・!」など、なんだか失礼なことを言われている様な気がする
「さて、ぼちぼち始めるか。お前たちも零次と一緒に肉を配るのを手伝ってくれ」
切り終わった肉が調理台の上に皿に乗った状態で綺麗に並び、俺に続いて奏、李衣菜が手を洗ってそれぞれのテーブルへと運ぶ
「蘭子ちゃん!そう、そのままそのまま!オーライオーライ!」
「よいしょっ、よいしょっ」
「蘭子、もう少し右だ。そう、その位置だ」
リビングの端のテレビの横あたりの柵から、蘭子が紐の先端にホットプレートの箱の取っ手を引っ掛けて、釣り糸を垂らす様に姉さんの指示の元、下へとおろしていた
「蘭子ちゃん!おじょーずおじょーず!」
「無事に降ろせて''ホット''する。ふふっ」
姉さんの隣では早苗さんと楓さんがビールの入ったコップ持って蘭子ちゃんに妙なテンションでエールを送っている
っていうか既に酒盛り始まってやがるし
「よし、やるか。はーい、みんな待たせて悪かった。座ってくれ」
ひな先輩の号令に合わせて、それぞれが持ち場につく
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
「幸子はん、お疲れ様どす〜」
丁度幸子ちゃんたちもダンボールを持って姉さんのスペースから戻ってきた
「あ、零次さん。ここどうぞ!丁度空いていますので!」
「あ、ああ。サンキュー」
俺も悠貴にポンポンと手で促されると、隣に座る
さて、どんなディナーになるのだろうか
少し恐ろしい気もする