下での騒動を何とか落ち着かせ、早苗さんに毛布をかけて寝かせると、残ったメンバーでまた酒盛りが始まったので、あまり無理はしない様にと念を押して二階に戻ったのはよかったのだが、そっちはそっちでまためんどくさい事になっていたのを忘れていた
「・・・なぁ、本当にやらなきゃダメか?俺超絶気が進まないんだけど」
「男に二言はないんでしょ?今回負けたのは零次さんなんだから、腹を括る!・・・くくくっ」
加蓮から喝が入る
クスクス節々で笑いがもれているが
「そうですよ!零次さんにも恥ずかしい思いをしてもらいます!」
「やっぱ響子お前ホットプレートの時のこと根に持ってんだろ」
結局、あの後周りにいた奏でやら一ノ瀬志希やら未央やらに、俺の携帯のトークのアカウントを教える事になってしまった
食事が終わると他のテーブルのメンバーもちょこちょこ集まり、''まぁ、どうせだからついでに"という名目の元で、ほとんどのメンバーに知られてしまった
加蓮に至ってはもうすでに専用のトークルームを作成し、いつでも連絡が取れる様にと手筈を整え始めていた
流石こういうところは女の子だ、行動がテキパキと早い
「じゃ、準備できた?光、レクチャーはOK?」
『バッチリだ!これで零次さんも立派なヒーローだぞ!』
加蓮の携帯のデレポから声が響くと、他のメンバーも携帯を取り出して撮影の準備を始める
「はい、零次さん。後ろしっかり止めましたよ!」
「千枝早くこっち来なさい!こんなの滅多に見れないわよ!早くやって早く早く!ふふふっ・・・!!」
食事の後はそれぞれ、俺のスペースで漫画を漁って読んだり、ひな先輩の後片付けを手伝ったり、色々なゲームを引っ張り出して遊んだりと、プロデューサーから連絡が来るまでの間、思い思いに過ごし始めていた
「はぁ・・・じゃあいくぞ。一回で終わらせるからな」
そして今は、ポーカーに参加したメンバーで決めた罰ゲームの真っ最中である
「ええと・・・何だっけ、セリフが・・・よし。ふぅ・・・いくぜ!ベルトさん!」
''Start your engine!''
教えてもらったセリフと同時に、何とか腰に巻いたベルトの裏側のスイッチを入れると、音声が鳴り響く
そのままベルトの右上に付いている車のイグニッションキーの様な突起を捻ると、エンジンがかかった様な音が出て、俺は右手に持っていた赤いミニカーの後ろ半分を180度回転させた
「変身!」
そのミニカーを左手首に腕時計のように装着した専用のブレスに装填し上側に倒すと、装填音と同時にベルトから音声が連続して流れた
''Drive! type speed!''
その後のメロディーの様な変身音に合わせて、光に教えてもらった通りのポーズを決めると、ベルトの液晶の演出が終わり全ての行程が無事終わった
25歳にして、生まれて初めてパーフェクトに変身ポーズを決めた瞬間である
「あっっっはっはっはっは!!!」
終わったと同時に、撮影していた携帯を胸に抱えながら床に笑い転げる梨沙を皮切りに他のメンバーも続けて笑い始めた
口元を押さえたり、顔を背けたりと何とか俺に伝わらない様にしていたが、その手に持っている携帯は変わらずに俺を捉え続けていた
『零次さん!すごくカッコ良かったぞ!これでアタシと一緒に悪を倒せるな!』
というデレポの光のセリフと同時に''ぶふっ!''っと吹き出す加蓮と凛
奈緒に至ってはなんだか感動というか、よくわからない表情をしていた
「・・・はい、千枝。これ返す」
「あ、はい。ありがとうございます!これってこうやって使うんだ・・・」
撮影場所となったテレビの前からソファーへと戻り、深く腰を落として一息つく
「じゃあ私も少し休憩しようかな。凛、そこのお茶取って〜」
「ん」
加蓮に続き、他のメンバーもトランプを一旦テーブルに置くと、手洗いに行ったり、携帯を見たりと思い思いに過ごし始めた
「ほら、あんた見てみなさいほら。よく撮れてるでしょ?もう最高だったわよほら!」
「お前いつかみてろよこの野郎め」
まだクスクス笑いながら、俺の右隣に座って俺に自分の携帯を見せつけながら満足そうにしている梨沙であった
「でも零次さんあれですよほらっ!新しい一面が見れて楽しかったですし!」
「・・・そのフォローは藍子にもかけて差し上げろ」
「ううう・・・私、こんな事したの初めてで・・・恥ずかしい・・・」
愛梨の言葉を受けてもなお、床に座り込みソファーの足元に寄り掛かっているのは、俺の前に同じ運命を辿る事になり見事に撃沈した藍子だった
俺とは違い銃型のデバイスとカードを使って変身する様は意外と迫力があり、さすがヴァルキュリアだとかなんだとか周りから称賛の声が上がったが、当の本人は撮影ではなかったのでと意気消沈してしまった
「でも藍子ちゃんもかっこよかったんだけどなぁ〜。ほら最後のセリフとか」
『あなたのお宝は、ボクが頂いた!』
愛梨が俺の左隣に座り、撮影した動画を再生する
凛々しい藍子の声が聴こえた
「消してください〜!お願いですから消してください!」
「どうしよっかなぁ〜」
「おいおいお前たち」
俺の隣で取っ組み合いが始まり、俺を押しのける
「ちょっと、狭い」
「悪い悪い」
梨沙が肘掛け部分に追いやられ、半分俺の膝の上に乗り掛かる形になってしまった
「にしても、みんな意外とすんなり受け入れてるわね。もっと緊張するかと思ったけど」
「そこに関しては俺も同意する」
周りを見てみれば年少組も年長組も、特に臆する事なく過ごしているように思う
「さぁ蘭子、次はキミだ。早く人生の行く末を決めたまえ」
「ふっふっふ・・・さぁ、運命の歯車よ。我が未来を指し示すがよい!・・・あ、子供が一人増えました!」
「次はボクですね!このまま行けばボクが一番・・・''銀行のコンピューターにウィルスが侵入する。2億円を失う''」
「はい、幸子はん。約束手形」
ひな先輩のスペースではボードゲームで盛り上がり
「みくの車壊すなにゃあ〜!!」
「し、しょうがないでしょ!みくちゃんの車じゃないとこのレースに出れないんだから」
「さっきみくが稼いだ賞金が修理代でパァにゃ!せっかくのカワイイ丸いお目々が半目になっちゃってるにゃあ」
「それなら次は私の使いなよ。エボリューションって名前がロックだよね!」
「・・・みくのほうがカワイイにゃ」
「私のほうがロックだもん」
「みくの」
「私の」
「みくのっ!」
「私のっ!」
『ふんっ!』とお互いにブー垂れながらテレビゲームに熱中している御一行もいる
「おい、お前たち。その喧嘩外で絶っっっ対やるなよ」
「そうだ、延々と決着がつかない。ドツボにハマるぞ。おっと悪いな、こっちはもういいからみんなと遊んでこい」
「はーい」
「シューコちゃん!早く早く、レイジさんの卒アル見つけたよ!」
「お前らなっ!」
俺が二人に声を掛けると、台所で作業をしていたひな先輩からも声がかかり、一緒に作業を手伝っていた周子はフレデリカに呼ばれると、俺のスペースで美嘉姉ちゃん主催の恋のテクニック''カリスマ編''がいつの間にかアルバム閲覧会に様代わりしている輪へと加わっていった
通り過ぎざまの不敵な笑みが気になる
「アンタも学生だった頃があるのね」
「当たり前だ、ちょうど今あいつらがその片鱗を目の当たりにしてる」
俺の卒アルを見ながらLiPPSや卯月や美穂がきゃーとかわーとか言って盛り上がっている様子が目に入った
フレデリカがデレポでその様子を実況し、投稿しているのか仕事用の携帯がポンポン鳴っている
「そして、私も''元''女子高生だ。はい、お口直しにどうぞ」
「ヒナさんありがとう!いただきます!・・・う〜ん!しぶりん!これ最高においしいよ!」
「ほんとだ。久しぶりにこんなに美味しい林檎食べた」
「ありがとう、実家の母にも伝えておく」
透明なガラスの器に美味しそうな林檎が沢山入ったものを中央のテーブルに置き、小皿をその隣へ置くと、ひな先輩もひと段落したのか、ソファーへと腰掛けた
「今日の料理も口に合っていればよかったんだけど」
「とんでもない!今日の焼肉美味しかった人ー!」
未央が一声かけると、所々から『はーい』という声と共に手が上がる
「喜んでもらえてよかった。今度はもっとマシなものを用意する」
「そんなこと・・・え?ということは、またここに来てもいいんですか?」
「ん?ああ、休日なら大体いるし。私も姉さんも、こいつも」
「ちょっと、ひな先輩。そんなこと言ったら・・・」
「やった!!ねぇ、聞いた聞いた?またみんなで遊びにこようよ!今度は沢山お菓子とか持ってきてさ!」
「確か、この近くに駄菓子屋さんがあったような・・・ねぇ?奈緒」
「へ?」
千枝と一緒にベルトをいじっていた奈緒が素っ頓狂な声を上げる
「勘弁してくれお前ら。ホラホラ、そろそろ帰る時間じゃないのか」
「えぇ〜、レイさん私たちに会えて嬉しくないの〜?アイドルがこんなにいるのに〜?」
「俺はお前たちのプロデューサーになった覚えはない」
「冷たい人」
「ブーブー」
加蓮がブーイングを始めると、それに合わせて周りからもブーイングが巻き起こる
「そんなこと言っても無駄さ、ほらプロデューサーから連絡だ。何とか送ってってやるから今日は大人しく家に帰れ」
「リサリサ!奪いとって!」
俺の体に乗り掛かりながら、渡しなさいと必死に俺に手を伸ばすが、迫る梨沙の頭を片手で押さえつけ、そのまま電話に出る
「はいもしもし。ああ、プロデューサー。・・・ええ、いい子にしてますよ。ご飯もこっちで。いつ戻・・・はい?」
そのまま俺はプロデューサーの話を聞く
だが、話が進むたびに体から力が抜けていった
「何?どうしたのよ」
何も抵抗しなくなった俺を不思議に思ったのか、梨沙もおとなしくなり俺の電話が終わるのを黙って待っていた
そして、プロデューサーからの連絡が終わる
「・・・プロデューサーが何とか会社に入ったのはいいんだけど、門が完全に閉まって開かなくなったんだと。人は出入りできるけどこの天気だし車がもう出せなくて戻れなくなったから何とか出来ないかだと」
「それはつまり・・・プロデューサーは戻ってこないということですかな?」
「そして、外に出るのも危ない?と」
未央に続いて凛が問い掛ける
「・・・よし。何とか送ろう!さ、準備準備」
「この天気で外に出るんですか?」
愛梨の言葉に合わせて黙ると、雨が強く屋根を打ち付ける音が聞こえてくる
「・・・寮組なら近いし送っていける」
「私たちだけ外に放り出すおつもりどす?」
いつの間にか、ボードゲーム組からも声が掛かり、俺は''その選択肢''が何とか起こらない様に抵抗してみたが
「私、前に千枝さんからお話を聞いて以来、お泊まりに興味あったんです!」
悠貴の言葉にあっさり脳内で白旗が上がる
「ほら、アレだよ。親御さんとか心配するしさ」
「さてと、準備するか」
ひな先輩が立ち上がったとほぼ同時に
「あ、お母さん?うん、今日は帰れそうにないから''会社''に泊まって行けって。うん、未央たちも一緒だから」
「パパ?うん、ごめんなさい。寂しいと思うけど、我慢してね」
「そうなんです!ボクと紗枝さん、みくさんや李衣菜さんも。はい、今日のライブのメンバーが・・・」
他のメンバーもそれぞれ連絡を取り始める
「ねぇ?零次さん。私、今日は帰りたくない・・・いて」
加蓮が妙にぶりっ子な態度でそう言ってきたのがちょっとムカついたので、頭に軽くチョップした
もう、色々と諦めた