「シャワーはかわりばんこに使ってくれ。お湯張ってるところだから、今のうちに着替えなり何なり用意しておいて欲しい。わからないことがあったら私なり零次なりに聞いてくれ」
「あ、あの・・・ひなさん。私、また借りてもいいですか?着替え持ってなくて・・・」
「私も、お願いしたいわ。パパに持って来てもらうわけにもいかないし・・・」
「ああ、いいぞ貸してやる。他には・・・幸子ちゃんや紗枝ちゃんは大丈夫か?」
「そうですね・・・ボクもお願いします!」
ひな先輩に引かれる様にベッド傍のクローゼットへと案内される比較的''コンパクト''なお方々は、年相応の女の子と同じように楽しみながらひな先輩と寝巻きを選んでいる
アレが似合うコレが似合うと自分の前に服を近づけて見せ合いながら、楽しそうに笑い合っていた
心なしか、ひな先輩にもいつもとは少し違う柔らかい笑顔が浮かんでいる様に見える
まぁ、あっちはあっちでいい
問題はこっちである
「ねー、もっとカワイイのないん〜?」
「寝るだけなんだから何でもいいだろうが」
「女心がわかってないわね〜、零次さん。そんなんじゃ、私たちにモテないわよ?」
「大きなお世話d・・・。おーい、この枕元にあった携帯誰のだ」
「あ、それ私の〜。志希ちゃんの秘密が満載だから覗いちゃダ〜メ」
ベッドにのしかかり俺のクローゼットから服をティッシュのように次から次へと引っ張り出して着せ替え人形の様にアレコレ身につけながら好き勝手に選んでいく彼女たちをすり抜け、ベッドの上やテーブルの上に散らかっているものを片付けていく
「じゃあみくたち先に行くにゃ。ついでにお湯の様子も見てくるよ」
「ひなさーん。丁度よかったらそのまま止めといていいんですかー?」
「ああ、その後にボイラーの温度下げといてくれ。入り口の右上あたりにあるから」
了解!とみくと李衣菜がシャワー室へと向かっていった
シャワー室そのものは特に狭いというわけでもなく広いというわけでもない、一般家庭のボイラーを使用したオーソドックスなものだ
まぁ、一人暮らしの俺のアパートよりは十分広い
一人が浴槽に入り、一人がシャワーを使うというスタンスをとれば二人なら十分入れるだろう
「あ、あの。零次さん」
「ん?」
服を出すために散らかしたクローゼットの中をこの際だからと整理していると、後ろから声がかかった
「このぐらいのサイズって他にないですかね?試しに着てみたのはいいんですが、胸のあたりがちょっと・・・」
「どらどら・・・そいつはちょっとマズいな」
「で・・・ですよね」
振り向くと、他の物は大方取られたのか、白いワイシャツを羽織って、前のボタンを留めたのはいいが今にもパツンと弾けてしまいそうなくらいパツパツな状態になってしまっていた愛梨がいた
「ちょっと待ってくれ、確か大きめのスウェットが・・・」
「か、彼シャツだと・・・」
スウェットを探すためにまたクローゼットを漁ると、後ろからめんどくさい反応をする奈緒の声が聞こえてきた
「''彼シャツ''って何?奈緒ちゃん」
美穂が地雷へと足をつっこんでいく
「彼シャツっていうのはホラ・・・マンガとかで見たことないか?彼女が彼氏の家に泊まりに行って、朝彼氏のワイシャツを着るっていう・・・」
「奈緒、詳しいんだね。体験談かな〜?」
「は、はぁ!?一般常識だろ!一般常識!なぁ、そうだよな!だろ!?な!?」
「ふぇ〜・・・」
気になったのでチラッと後ろを見てみると、奈緒の返答に美穂が頬を赤く染めながらアホ毛をピンッと伸ばして赤面している傍ら、奈緒のことを面白そうな目で見ているトライアド御一行プラスαがいた
「そういえばさ〜、前に凛と一緒に事務所行ったとき零次さん彼女いたことある的なこと言ってたけどさ、どんな子だったの?綺麗系?それともカワイイ系〜?」
「へ?フレちゃん初耳!私というものがありながらっ!」
まっっっっためんどくさい事を
「別に、どっちもだどっちも。綺麗だったし可愛かった。というか昔の話だぞ、学生時代の話だ」
「え?じゃあこのアルバムの中に写ってるんじゃない!?もしかしてこれ?この仲良く二人で写ってる人!凄くカワイイ子!」
「ん?違う違う・・・ああ、薫か。いやいや美嘉姉ちゃん、可愛いってお前そいつは」
「じゃあどんな子だったの?私気になるわ」
奏まで興味津々のご様子だった
「んー・・・藍子みたいな子」
「ふぇぇぇぇぇええ!?」
これ以上追求されまいと適当にはぐらかしてまたクローゼットへと戻ると、かなり不意打ちだったのか藍子の素っ頓狂な叫び声が聞こえ、周りのメンバーからからかわれ始める
「ほら、スウェットあったぞ。そんな大袈裟にしなくても、お前たちも彼氏の一人や二人いるだろ?」
「いやいやレイさんいないですって。恋愛禁止とは言われてないですが・・・は!それなら・・・」
途端に俺の渡したTシャツに顔の下半分を隠して、ニヤニヤした表情を俺に向ける未央
「この中でぇ〜、彼女にするなら誰がいいですかっ!」
「はぁ?」
いきなり何を言い出すのかと思えば、そんなの本気にするやつがいるわけ・・・あるなぁ、何人か
''うひゅぅぅぅ''なんて声にならない悲鳴を押し殺しながら未央と同じようにTシャツに顔を埋めてる卯月はいるし、何か面白そうな話が始まったと言わんばかりにさっきまで寝転がっていた周子は食いついてくるし
どうしたもんか・・・そうだ
「そうだな・・・お前が彼女だったら毎日楽しそうだ」
「・・・ふぇ?」
その瞬間、その場にいた全員の視線が未央へと突き刺さる
「え?いや、あの・・・そんな、そ、そ、それはあの・・・なんていうか、えっと・・・そのあの、い、いきなり言われてもさ・・・!私はあの・・・アイドルだし・・・さ、は、はじめ、てだからさそんな事言われたの、だから・・・心の準備っていうか」
「未央顔真っ赤」
「もぉぉぉ!しぶりんっ!言わないで・・・!あぁぁぁぁ!何かこの空気いやぁ!恥ずかしいもぉぉ!」
ひゃーっとTシャツに顔を完全に埋めて悲鳴を抑える未央だった
「卯月が彼女だったら毎日幸せそうだし、美嘉姉ちゃんが彼女だったらグイグイ引っ張ってってくれそうだ」
「わ、私ですかっ!?き、恐縮です!」
「なーんだそういうことか☆ダメだぞ零次さん、あまり女の子をからかっちゃ」
「お前たちから振ってきたんだろ。ホラホラさっさと風呂入ってこい・・・おい、この靴下の片割れ誰のだ」
「あ、それシキちゃんの〜。欲しい〜?」
「いらねーよ!」
ーーーーーーーーーー
「ふ〜、やっとサッパリできましたね!」
「なんだかこうやってみんなでお風呂入るんは、修学旅行みたいで楽しいどすなぁ」
首にタオルを巻いて顔に当てつつ、階段を幸子と紗枝が仲良く談笑しながら登ってくる
その入れ替わりでラスト、響子と藍子が入れ替わりでシャワー室へと向かっていった
「さぁ、幸子。君の歩んできた人生の集大成だ。早くルーレットを回してくれ」
「・・・借金もお湯に流せないですかね」
「みくの勝ちにゃ〜」
「ちょっとみくちゃん!私にぶつかったんだから反則じゃん無効だよ無効!」
あれから順繰り順繰り回した結果、シャワータイムは比較的スムーズに進んでいった
幸子たちと同じように、ホクホクとした顔で首にタオルを巻いたり頭から被せたりしながら、それぞれがまたくつろいでいる
「いや〜、でもあったかいよねここ!こんなにデッカいガレージなのに冬とは思えない」
「そりゃ暖房が上下5セットずつ完備だからな。さて、後は寝るところだけか」
「えぇ〜、もっとお話ししようよ〜レイさん。恋バナとかさぁ〜」
「そういうのはお仲間たちとしなさい。それに話すほどの恋バナがない」
えぇ〜という抗議の声を受けながら、俺は今夜の寝床について考え始める
やはりこれだけの人数なので、雑魚寝は避けられない
バスの中で寝るというのもアリっちゃアリだが、いかんせん車自体がシャッター近くに置かれていて暖房から離れているということもあって、隙間風で少し肌寒くなってしまうのは避けられない
だからといってエンジンをかけると排気ガスで二酸化炭素中毒になりかねない
換気扇回すと今度は室内が寒くなる
「雑魚寝になるのはやっぱり避けられないか・・・」
「私はそれでも全然いいよ。前に凛と一緒に奈緒の家に行ったときもそうだったし」
「私は布団用意するって言ったのにそのままアニメ観て寝落ちしたからな・・・あの時」
まぁ、そういうなら仕方ない
他のメンバーも頷いて、しょうがないよねと了承してくれた
ならぼちぼち準備するか
「はいはい、ちょいどけてくれ。テーブル移動させるから」
「わ、私も手伝います!」
「いいっていいって、ゆっくりしててくれ」
テーブルを持つと、美穂も反対側を掴み手伝おうとしてくれた
申し訳ないのでやんわり断ろうとしたが、お世話になったのでやらせてください!と押し切られてしまったのでそのまま手を借りることにした
その姿を見た他のメンバーも次々と手伝いを始める
ダンボールの上の飲み物を脇に避けたテーブルの上に片付け、自分たちの荷物をその下に入れる
「李衣菜ちゃん、一旦ストップにゃ。みくたちはどうすればいい?」
「それなら・・・テーブルをちょっとテレビ側にずらしてくれ」
「わかったにゃ!」
今度はリビングの整理を始める
みくと李衣菜が協力してテーブルをどかし、ダンボールを端に避けてソファーの前にスペースを作った
それを見ていたひな先輩のスペースの御一行も片付けを始める
「フレデリカ〜、これフレデリカのじゃない?」
「あら!今度はそんなところに!まったくもう、勝手に居なくなって・・・うん?なにこれ〜」
「ああ、ゲーム機用のカラオケのマイクだ。テレビ台の下に入れておいてくれ」
「ふ〜ん・・・あ、そうだ!!ねーねー奏ちゃん!奏ちゃん!」
フレデリカがマイクを持ってLiPPSのメンバーの元へと向かっていった
また何を企んでいるんだか
ーーーーーーーーーー
「うーん・・・一体何だろう?」
「まぁまぁ、行ってみればわかりますよ。さぁさぁ」
美優ちゃんと早苗ちゃん、そして心ちゃんと瑞樹ちゃんも酔い潰れてしまったので、楓ちゃんと静かに飲んでいると、楓ちゃんの携帯にメッセージの着信が入った
楓ちゃんはそれを一読すると、私の作業台に置かれていたライブのチケットを手に取る
すると私の手を引いて、螺旋階段へと向かっていった
「さぁ、どうぞ」
手で促されたので、私は言われるがままに階段を登っていく
そういえば、やけに上が静かだ
階段を登る音がガレージに響き渡る
「お待ちしておりました」
「あら、フレデリカちゃん。どうしたの?なんだかいつもと様子が違うような気がするけど?」
登り切ると、そこにはレイジ君の寝巻きに身を包んだフレデリカちゃんが厳かな雰囲気でお辞儀をして待っていた
私の後ろから来た楓ちゃんがフレデリカちゃんと話す
「はい、確かに。ではでは・・・一名様、ご案内しまーす!」
フレデリカちゃんがそう言うと、楓ちゃんが再び私の手を引いてリビングへと向かう
そこには、上にいたメンバー全員が集まっていた
「あ、美空さん。どうぞ、こちらに」
「う、うん。ありがとう奏ちゃん」
私は言われるがまま、レイジ君とひなちゃんが座っていたソファーへと一緒に座る
「えー、では。コホン」
テレビの前に今度は未央ちゃんが立ち、私たちと向き合った
「海道美空さん。今夜は私たちを受け入れてくれてありがとうございます!美味しいご飯もありがとうございます!そこで、みんなで話し合った結果、ささやかではありますが・・・恩返しをさせて頂きたいと思います!」
未央ちゃんがそう言うと、周りからわーっと拍手が巻き起こる
「ではまずトップバッター・・・はやみん!よろしく!」
「最初は私?何だかライブより緊張するわ」
ふふふっと笑いながら、奏ちゃんは未央ちゃんからマイクを受け取り、未央ちゃんと入れ替わるようにテレビの前に立った
「では、美空さんに愛を込めて歌います」
そう言った瞬間テレビから流れてきたのは、奏ちゃんのソロ曲だった