ああ、私は夢を見ているのだろうか
今目の前で、よく耳にする旋律に合わせて速水奏ちゃんが、ライブ映像と同じようにマイクを持って、透き通るような声を響かせている
振り付けは小ぶりながらも、節々に見られる日頃のレッスンによって培われたであろう洗練されたその動きは、よりその曲の魅力を引き出していた
「さすがはやみんっ!!いつでもどこでもシビれるねぇ〜」
「喜んでいただけて何よりだわ。でもいいのかしら、この住宅地のど真ん中で声を上げて歌ってしまって」
「大丈夫よっ!思いっきりエンジン吹かしても問題ないくらいの防音対策を施してある建物だからこれくらいじゃビクともしないわ!」
アイドルについて何か言われたらCD爆音で流してたって言えばいいしねっ!
「じゃあ次は・・・奈緒」
「えっ!私か!?」
「奈緒、頑張ってね〜」
パチパチパチ〜と周りから拍手を受けながら、ちょっとサイズの合わないブカっとしたレイジ君のTシャツを着たたまらなく愛おしい奈緒ちゃん(ここ、テストに出ます)が、頭に手を当てて恥ずかしそうに立ち上がり、奏ちゃんからマイクを受け取る
「じゃ、じゃあいくぞ!!」
そして今度は、奏ちゃんの曲とは打って変わって、ポップな曲調が印象的な奈緒ちゃんのソロ曲が流れる
ちょっとサイズの合わないブカっとしたレイジ君のTシャツを着たたまらなく愛おしい奈緒ちゃんは、その曲を綺麗に歌いあげていく
可愛らしい振り付けが、その小ぶりな動きでさらに引き立てられ、魅力が1000%増しくらいまでマシマシになっていた
いや、私は何を言っているの
そんな数字なんてもので表せられる筈がないじゃない
そもそもこのちょっとサイズの合わないブカっとしたレイジ君のTシャツを着たたまらなく愛おし
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奏の曲をスタートに、代わるがわるマイクが受け継がれていきながら、さまざまな曲が披露されていく
ソロ、デュエット、そしてユニットと変化していく度に姉さんも喜びというよりは、まるで神を崇めるような満たされていくような表情へと変わっていき、ひな先輩も周りのアイドルに合わせて手を叩きながら楽しそうに観ていた
ライブの時のような、煌びやかなドレスの様な衣装ではない筈なのに、歌声や少しの動きなどそこから醸し出しているなんともいえないオーラはやはりプロというものなのだろう
「ではでは次はー、リクエストコーナーでーす」
一通り披露された後、周子がそう言うと俺たちへとマイクが渡される
「何か聞きたい曲、ありますかー?」
「え!?そんなことが・・・!許されていいんですか!?いくら払えばいいのでしょうか!!」
姉さんが口元に手を当てて、驚きのあまり言葉を失う
本来のライブなら、絶対にありえないこのシチュエーション
あの曲もいい・・・でもせっかくだからこの曲もとぶつぶついいながら姉さんが考え込んでいると、ハーイと手が上がる
「じゃあ、フレちゃんたちが歌いまーす」
「あんたがリクエストするんかい!」
美嘉姉ちゃんがツッコんでいる中で、「さぁさぁさぁ」と隣に座っていた一ノ瀬志希の手を引きながら、テレビの前に出てくるフレデリカ御一行
このまま歌い始めるのかと思いきや
「さぁさぁさぁ」
「あ?お、おい。俺?」
フレデリカは俺の手を引いて、同じようにテレビの前へとつれていく
「ではでは今宵この場限りの限定ユニット、''レイジー・レイジ・レイジー''を結成しまーす!あ、レイジさんセンターね」
「いやいや、イヤだよ全然わかんないし。ああもう曲始まってるし!俺この曲知らないんですけど!」
「大丈夫大丈夫〜、雰囲気で踊ってお・け・ば」
「可愛く言ったってわからんもんはわからんぞ」
「イヤ〜ン、カワイイって言われちゃった〜」
そう言いながらマイクを両手で持ってモジモジしだす一ノ瀬志希と、ね〜?と適当に相槌を打つフレデリカに振り回されながら曲のイントロが終わり、二人が歌い出した
当然振り付けどころか、メロディーすらわかっていないのでどうしたらいいかわからず、とりあえず二人にリードされながら何とか手ぶりだけでも合わせていく
そんな半歩遅れた様なくだぐだなパフォーマンスでも、周りのみんなは楽しそうに声を掛けていて、何だかわからない面白おかしい雰囲気のまま進行していった
「いいじゃんいいじゃんレイジさんその調子〜」
「世界デビューの第一歩!」
「こんなのでデビューできたらお前らは神かなんかだ!」
「はいチーズ!」
曲の合間でフレデリカが携帯を取り出して、自撮りを始める
そんなメチャクチャな展開のままなんとか曲が終了し、ありがとうございました〜という二人の挨拶とともに俺は元の席へと戻る
周りが笑いながら拍手する中で、さすがのひな先輩も苦笑いであった
「大丈夫ですよ零次さん!カッコ良かったです!」
「そうかい。その言葉で、元気100倍だ」
千枝が一生懸命励ましてくれているが、俺はソファーに座ってだらんと背もたれに寄りかかり、気が抜けた様に後ろに首を倒した
「じゃあお次は〜・・・ヒナさ〜ん!かみやんもカモカモーン!」
「・・・私か?」
「へっ?アタシ!?ちょっ、加蓮押すなよ!」
「よっ!ひなちゃん!」
まるでコントの様に未央につれていかれる奈緒と、姉さんに送り出されながら二人と合流するひな先輩
未央と奈緒が話し合いながら、曲を決めていく
「じゃあコレ!」
「うおっ、これまた懐かしい。未央よく知ってるな」
「ちょうど世代だったからさ、あそこの棚におもちゃあるの見えたし。ヒナさんもOK?」
「知ってはいるけど・・・上手くできるかはわからない」
未央が選んだのは、10年近く前の特撮ソングだった
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それからは、懐メロや流行曲のオンパレードだった
それがドラマや映画の主題歌だったり、ゲームやアニメの曲だったり、その中でも知ってる曲があったりなかったり、でもみんな楽しそうにしてる
実際にやるとすれば、どれだけのお金が動いたら実現できるのかわからないその豪華なミニライブは大団円のまま終了し、千枝ちゃんや梨沙ちゃん、そして幸子ちゃんなどもそろそろ眠気に負けそうだったので、今日はこれくらいにしておこうということになり、今はみんなで寝床を作っていた
「すぴー・・・」
「まったくこの子は・・・」
美嘉ちゃんが腰に手を当てて見下ろしている先には、周子ちゃんが既に零次さんのベッドに潜り込んで占領し、寝息を立てている姿があった
「わたくし、押し入れで結構ですので・・・」
「やーい、フレちゃんの猫型ロボット〜」
「とときんはどうする?どこで寝る?」
「私は・・・まだ起きてるから大丈夫だよ」
「そう?わかった!しぶりんもうちょいそっちつめて?」
「うん。卯月、大丈夫?」
「はい!まだちょっと余裕があるので!」
LiPPSのメンバーは零次さんのスペース、千枝ちゃんや梨沙ちゃん、幸子ちゃんたちはひなさん
藍子ちゃんや響子ちゃんは美空さんのスペースでお掃除がてらと言いつつ、力尽きてベッドで物に囲まれながらまどろんでいる
奈緒ちゃんや加蓮ちゃんはリビングの3つのうちの一つのソファーを使い、一つは私が
残りの一つは飛鳥ちゃんと蘭子ちゃんが使い、既に二人も夢の中だ
「みくちゃんたち大丈夫?私変わろうか?」
「大丈夫にゃ!意外と快適にゃ」
「そうそう、悠貴ちゃんはどう?狭くない?」
「大丈夫ですよ!何だか合宿の時みたいで楽しいです!」
足元では、テーブルを少しテレビ側にずらしたスペースで、床に毛布を敷きその上でゴロゴロとしているみくちゃんたちがいた
「まるで猫だな」
「なっ!零次チャン!みくはネコみたいじゃなくてネコちゃんにゃ〜」
''にゃーん''と猫の様に右手で自分のこめかみを撫でる仕草をしながら零次さんを見上げるみくちゃん
その様子をなんともいえない表情で見つめていた零次さんは、何も言うことなく私とは反対サイドに座る
「やっぱりお前面白いやつだな」
「・・・何だかバカにされてる気がするにゃ」
「玉ねぎ食える猫なんて珍しいなぁって」
「やっぱりバカにしてるにゃ!!」
ふしゅー!と今度は猫の様に威嚇し始めたみくちゃんを、李衣菜ちゃんがまぁまぁと肩を叩いてなだめていた
ふんっ!とみくちゃんは零次さんから目を逸らすと、毛布を被ってしまう
「・・・ふぅ」
「た、大変ですね」
「いや・・・別に」
零次さんはソファーの肘掛けに手をついて、こちらを向くことなく淡々と答える
「何だか久しぶりですね。こうやって話すの」
「そうだなぁ。何だかお前たち忙しそうだったし」
零次さんの言う通り、ライブが近づくにつれ、私たちの予定はそれに関連したもので埋まっていった
レッスンはもちろん、それに伴ったプロモーション活動。テレビ、雑誌、ネット番組や写真撮影などやることは山々で会社にほとんど顔を出さないこともあった
次第にアイドルのみんなとも、そういう活動で顔を合わせることはあれど、プライベートなどで関わる時間が中々取れない日々が続き、零次さんたちと顔を合わせるのも久しぶり
「だから何というか・・・すっごく久しぶりで楽しかったです。こうやってみんなでワイワイやるの」
「仲良いんだな、お前たち」
「はい!よくショッピングに行ったり、映画に行ったり、今ここにいないアイドルのみんなとも色んなところに出掛けたり・・・」
それからは零次さんと色々な話をした
所々から寝息が聞こえ始める中、堰を切ったように次から次へと話に花が咲き始め、私たちは二人ソファーに座りながら語り合っていた
途中美空さんがガレージの電気を落としてからは、キッチンの小さな電気をひとつだけつけて話す
「もうそんなことがあって、プロデューサーさんが大慌てで会社に戻ってなんとか間に合ったんですよ。もうその日は大変で・・・」
「その人数を管理してるプロデューサーもすごいな。そもそも美城プロダクションってプロデューサー何人いるんだ?100万人くらいか?」
「社員数は多いですが・・・」
様々な分野へと手を広げている為、正確な人数までは私も把握していなかった
「実は・・・私たちのアイドル部門は、なくなってしまうかもしれなかったんです」
「どういうことだ?」
「美城専務・・・その頃は常務でしたが、あの人が346に帰ってきたときに・・・」
私はあの時の詳細を零次さんに話した
専務が何をしたのか、私たちが何をしたのか、何を決断して、どう行動を起こしたのか
零次さんは黙ってそれを聞き終わると、「そうか」と一言だけ呟き、キッチンへ行ってコップに一杯お茶を入れて持ってきてくれた
「喋り疲れたろ、ビール渡すわけにもいかないしな」
「あ、ありがとうございますっ!」
気がつけば、周りはもうすっかり静かになり、寝息と、時々回る暖房のモーター音がガレージ内に響いている中で、私たちは静かに二人でコップに口をつける
これだけ周りに人がいて静かなのは初めてかもしれない
「でも、あれだ」
「・・・?」
「そこまでして守り通したものなら、それは本物だ。それは・・・胸を張っていいと思うぞ。お前たちはやり抜いたんだ」
もしかして・・・励ましてくれてる?
「まったく・・・お前たちはわからない奴が多い。科学者だったり、お嬢様だったり、警察官だったり」
「・・・そんな私たちのこと、どう思います?」
ちょっとイジワルかもしれないけど、私は胸の内にある疑問をそのままぶつけてみた
「どうって・・・」と零次さんは少し困った表情をして、ポツリポツリと話し始める
「いつもいつも振り回されっぱなしで、あれ奢ってだのなんだの構ってくるし」
「あはは・・・」
「でも、まぁ・・・」
すると零次さんは私に表情を見せないようにそっぽを向く
「仕事仲間っていうよりは・・・気の合うダチっていうか、一緒にいてつまらなくはないっていうか。何かそんな奴ら。知らんけどっ」
そう言うと、私から顔を背けたまま、またお茶を一口飲む零次さん
その表情は少し照れてるような、そうでないような、ハッキリとはわからない
・・・そっか、零次さん。そんな風に思ってくれてたんだ
私は何だかやっと一歩前進出来たような気がしたのが嬉しくて、同じようにお茶を一口飲んだ
ふと床で寝ている未央ちゃんや凛ちゃんの方を見ると、たまたま起きていたのだろうか、私たちが話し終わるのと同時に目を閉じたまま少しはにかんだように笑っていた
未央ちゃんに至っては、零次さんに気付かれないようにこっそり毛布から手を出して、私に対して親指を立てていた
「あ、これこいつらに絶対言うなよ。また調子に乗るんだから」
「ふふふ・・・はいはい。あ、それはそうと零次さん」
私は懐から携帯を取り出す
「私、零次さんのアカウント、聞きそびれちゃって。よかったら教えてもらえませんか?」
「お、お前もか」
「お友達。お友達から始めませんか?」
「・・・その言い方は何だか引っかかる」
でも零次さんは観念したかのように携帯を取り出して、アカウントを表示させた
私は一人分零次さんに距離を詰めて、若干寄りかかるように零次さんの携帯を覗き込む
「はい、ありがとうございます!」
「そいつはよござんした。おお、''十時愛梨''って本名だったのか」
「何だと思ってたんですか?」
「なんだろ、''みさき''とか・・・''ひとみ''とか」
「私ってそんなイメージです?あ、せっかくだから。零次さん、ちょっと寄ってください。もうちょっともうちょっと」
「お、おいおい」
「はい、チーズ」
私は少しテンションが上がっていたのか、零次さんに強引に詰め寄ると、ほぼくっつきそうなくらいに顔を寄せて、携帯で写真を撮る
「2ショット、いただきました〜」
「まったく・・・」
撮った写真を見ていると、私はなんて大胆なことをしたのだろうと段々恥ずかしくなり、顔が火照ってきたのがわかった
「な、何だか暑いですね。ちょっと脱いでもいいですか?」
「ああ・・・ってお前、その下!」
「え?あ・・・!」
零次さんが慌てて顔を背けたので、私は自分の格好を改めて確認すると、すぐに上着のスウェットを下ろす
そ、そうだった。替えの下着もないし、部屋も暖かかったからこの下は何も・・・
「俺、寝る!」
「あ、ああ零次さん!ごめんなさい〜!もうちょっとお話しましょうよ〜」
肘掛けに頭を倒して横になる零次さんを慌てて私は揺する
一歩前進・・・できたよね?