クリスマスと仕事と魔法の馬車01
季節も12月ということで、346プロダクションも本格的な年の瀬の仕事に入り、周りが慌ただしく動き始める
それはどこの部署も同じで、いつもの仕事に加え、得意先へのお歳暮の準備、年始へ向けての仕事の手配など、やることは山積みだった
毎年のことではあるが、やはり体を慣らすのに少し時間がかかる
アイドル部門もクリスマスの特番や年末ライブ、年始のイベント等華やかに聞こえるが、仕事として考えるととてつもなく膨大な仕事量にプロデューサーたちもてんてこまいになっていた
「やっぱり、プロデューサー忙しそうだからまた後で聞こう?」
「そうですわね。プロデューサーちゃま、最近大変そうですもの。この前に見た時は、イベントがたくさんあるからと、机の上がスタミナドリンクで溢れていましたわ」
そんな中、手に学校で使うようなノートの1ページを持って事務所から出てきたみりあを待っていた桃華
二人はそのままオフィスビルを後にすると、本館まで戻り、壁際にあった休憩用のソファーに座って一息つくことにした
テーブルの上にノートの1ページを置いて、そこに書いてある殴り書きのようなアルファベットに、うーん・・・と唸るみりあ
「やっぱり私、たるぇ〜んだと思うなっ!」
「違いますわ。つるぇんですわ」
いきなりお互いにわけのわからない呪文のような言葉を大真面目な顔で言い合う二人だった
しかしお互いに譲る気はなく、ムムム・・・と固唾を飲みながら睨み合う、・・・とまではいかないが、頭を悩ませていることには違いはない
事の発端は朝の事務所での出来事だった
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「学校の宿題?」
「そうなんでごぜーます!身の回りのえいごを調べてくるんでごぜーますよ!」
朝、みりあがいつものように事務所の扉を開いて中に入ると、ソファーに座って学校などでよく使うノートを目の前に掲げ、うーん・・・と考え込んでいる仁奈がいた
相当悩んでいるのか、ノートを上げたり下げたり、うさぎの着ぐるみの耳がそれに合わせて上下に目まぐるしく動く
気になったので声を掛けてみることにしたのだった
「わぁ、色々な事が書いてあるんだねっ!」
「はい!仁奈、頑張って調べたでごぜーますよ!2ページも!」
試しにノートを開いてみると、このノートの表紙に書いてある''NOTE''を始まりに、様々な単語が羅列され、その隣に読み方がセットで書かれていた
家だけではなく、事務所でもいくつか調べたのであろう、ライブ、シンデレラ、オフィスなどの単語も並ぶ
授業の懐かしさに引かれつつ、みりあは次々と読み進めていくのだったが、一箇所だけ読み方が書いていない単語を見つけた
「それだけ・・・全然読み方が分からないでごぜーますよ。みりあちゃん分かるでごぜーます?」
「これは、どこで見つけたの?」
「地下の駐車場ですよ!端っこにあった車に書いてあったでごぜーます!」
一体何と読むのだろうと、みりあも思わず頭を悩ませる
それは、''T''から始まる単語。おそらくは車の名前だと思うが、なかなか読み方が思いつかない
「ネットで調べてみるのは?」
「ダメでごぜーますよ!まずは自分で考えて書くんでごぜーます!それでわからなかったら、みんなに相談してみるって言っていたでごぜーますよ!」
一番手っ取り早い方法だったが、それも封じられる
「美世おねーさんに聞いてみたかったんですが、車のラジオ収録のお仕事でいなかったでごぜーますよ・・・」
確かにあの人に聞いてみたら間違いなく答えが返ってくるだろうが、いないなら仕方がない
再び頭を悩ませる
「おはようございます。あら、みりあさん。仁奈さん。ごきげんよう」
扉を開ける音に振り向くと、そこには桃華がいつもと変わらない様子で一言挨拶を交わし、一礼しながら事務所へと入ってくる姿があった
「おはようごぜーますよ!桃華!」
「桃華ちゃん、おはようっ!」
「ええ。お二人ともどうしたんですの?随分とお悩みになっていたご様子でしたが・・・」
桃華は別のソファーに荷物をひとまず置くと、仁奈とみりあが座っている場所へと近づき、仁奈が持っていたノートを不思議そうに覗き込む
「実は・・・これなんでごぜーますよ。車の名前なんですが、読み方が分からねーんでごぜーます」
「まぁっ、懐かしいですわね。わたくしも昔学校でやりましたわ。それで・・・」
桃華は仁奈のノートに書いてある単語を指差すと、仁奈は無言で頷き桃華も一緒になって考え始める
「つ・・・と、つる・・・ぇ〜ん、でしょうか・・・?」
「それは一体何でごぜーます?」
桃華から発せられた、物なのか生き物なのか全くわからない単語に仁奈が冷静にツッコむ中、みりあが勢いよく手を挙げた
「はいはーい!みりあわかったよっ!それならこれは・・・たるぇ〜んだよ!」
みりあから発せられた同じような単語に、仁奈はさらにポカーンとした表情をすると、壁に掛けられた時計の時刻に気づく
「あ!ごめんなさい!これから仁奈仕事でごぜーますよ!みりあちゃん、桃華、ありがとうでごぜーます!プロデューサーにも聞いてみるですよ!」
仁奈はそう言うと、自分のバッグにノートをしまい、足早に事務所を後にしていった
「結局あれは何だったのでしょう・・・少し気になりますわね」
「私もプロデューサーに聞いてみよっ!・・・あ!ノート持ってっちゃったんだった!」
「車の名前・・・とおっしゃっていましたわね。それなら・・・専門家に聞いてみるのが一番なのでは?ちょうど、''あの件''も聞いてみたかったですし」
「そうだね・・・みんなに聞いてみてわからなかったら行ってみよっ!」
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「午後からノートが一台車検で来るから」
「えっ、また増えるんですか」
テレビから正午を告げるナレーターの声と共に、いつもの昼の情報番組が入る
ひな先輩がパソコンに表示されているウィンドウを閉じ、自分のバッグから昼食を取り出して奥のソファーへ向かうのに合わせて、俺もカップ麺を取り出して給湯室へ向かった
「お前、そればっかり食ってると体壊すぞ」
「いや、最近ハマっちゃって」
「今度弁当の作り方教えてやるから・・・」
ひな先輩がそう言いながら自分の手作り弁当をテーブルに広げるのを見て、俺も自分の大盛り醤油ラーメンにお湯を入れる
「ノートっていつまでなんですか?」
「明後日」
「げっ、それもですか」
カップ麺をテーブルに置き、スープのパッケージを上に乗せて携帯を取り出す
最近、クリスマス前日にかけてまで仕事が目白押しだった
それまでにみんな色々終わらせておきたいのだろうか、ボーナスが入る月なのもあって、普段はやらないであろう追加の作業も積極的に依頼してくる
売り上げが上がるのは嬉しい事だが、仕事量が増えていることに変わりはない
「ふー・・・、ん?」
そんなことを考えながら何気なく携帯に目を向けると、メッセージアプリにみりあと桃華からトークが届いていることに気づいた
「どした?」
「みりあと桃華からメッセージが来てまして、なになに・・・お昼?うちに来r」
「こんにちはー!」
「ごきげんよう」
お昼に尋ねにいくという文章に目を通し始めた瞬間に、事務所の扉が開いて聞き慣れた可愛らしい女の子たちの声が聞こえた