「どうぞ」
「ありがとうっ!」
「ありがとうございます。ひなさん」
俺がカップ麺にスープの素を入れている傍で二人はひな先輩からジュースを受け取り、一息ついていた
ひな先輩もそんな二人を見ながら満足そうに昼食を続ける
「いきなり押し掛けて申し訳ありませんわ、お昼もまだでしたのに・・・」
「いや、いいんだ。社長やら姉さんやらのお客さんが来るのはしょっちゅうだし。それに私も、お客を招くのは慣れてる」
「連絡が来てから秒だったな。今日はどういう用件だ?送迎の仕事はないはずだぞ」
そう言って俺が割り箸を割ってカップ麺にありつこうとすると、二人はその光景をなんだか物欲しそうに見つめてきた
「もしかしてお前たち・・・飯食ってないのか?」
「外に出るので、みりあさんと一緒に済ませてこようかなと思っていたのですが・・・」
キュルルと可愛いお腹の音が桃華から聞こえ、桃華は恥ずかしそうにお腹を押さえる
顔を少し赤くしてこちらを見ているが、その視線は俺の顔とカップ麺を行ったり来たり、物欲しそうな感情がところどころにはっきりと見え隠れし始めていた
「・・・食うか?」
「いいのっ!?」
俺の言葉にみりあがこれまた即答すると、待ってましたと言わんばかりにキラキラした笑みを浮かべ、もう視線がカップ麺に釘付けになる
俺はカップ麺のふちに割り箸を乗せて、テーブルの上をスライドさせながら二人の方に差し出すと、まずはみりあが手をつけた
「う〜ん・・・!美味しい!はい、桃華ちゃん!」
「美味しそうな匂いがしますわ。ですがわたくし、このようなものをあまり食べた事がなくて・・・」
桃華がそう言うと、みりあが食べ方からレクチャーを始める
それに従いながら、おぼつかない手つきで恐る恐る言われた通りに口に運ぶと、その瞬間なんとも言えない満足そうな表情に変わった
「こ、こんなに美味しいものがこの世にあっただなんて・・・!」
「はい、おにぎりもどうぞ。コンビニのだけど」
ひな先輩が冷蔵庫からおにぎりを取り出し、二人に差し出した
「・・・て、それ俺が後々食べようと思ってたやつじゃないっすか!」
「ケチケチするな。この際だからいいだろう、後でお菓子か何かやるから」
ひな先輩が昼食に戻ると同時に、二人は差し出されたおにぎりに手をつける
包装紙を何とか破ることに成功した桃華がおにぎりを口に含むと、これまた未知との遭遇と言わんばかりの表情を浮かべる
「とってもシンプルなお味・・・!こ、これは一体何なんですの!食べやすくて、嫌気が全然しませんわ」
「まぁ、コンビニのおにぎりってそんな感じじゃないか?・・・おお、麺が半分以上減ってる」
おにぎりと引き換えにカップ麺が俺の元に再び召喚されたが、体力が半分以下まで削られていた
「零次さんありがとうっ!あの・・・よかったらおにぎり食べる?」
「いいっていいって、食え食え。腹減ってんだから」
「ほんと?じゃあ食べるね!」
俺を気遣ってくれたのか、みりあが食べかけのおにぎりを差し出してくれたが、さすがにお腹が空いている子どもから食べ物を奪う趣味はないため拒否すると、みりあは再びおにぎりにありつく
みりあの行動に気づいたのかハッとした表情で口元を押さえながら桃華が俺の方を向くが、その手からおにぎりは既に消えていた
気にするなとジェスチャーすると、桃華は少し恥ずかしそうな顔をしながら申し訳なさそうに頭を少し下げていた
「あぁ〜お昼お昼・・・あらっ!みりあちゃんに桃華ちゃん!」
「美空さん!こんにちはっ!」
「お邪魔しておりますわ」
休憩スペースの仕切り板の奥から、丁度作業がひと段落した姉さんが、自分の分の昼食が入ったコンビニの袋を持って休憩スペースへとやってくる
ーーーーーーーーーー
「いやいやまさかみりあちゃんと桃華ちゃんに会えるだなんて〜。あながちテレビの占いって間違ってないのね!」
「そういえば、この前ガレージでみんな揃ってライブしたんでしょ!みりあも行きたかったなぁ〜」
「楽しかったわよ〜。みんなにありがとうって伝えておいて」
「あれはライブじゃなくて完全にカラオケのノリだったけどな」
姉さんが菓子パンを口にしながら、二人と談笑を続けている
俺とひな先輩は一足先に昼食を終えて、テレビを流し見しつつ三人の会話に相槌を打っていた
「それで、今日はどうしたの?私たちに何かご用事?」
「あっ、そうだった!」
みりあはそう言うと、懐からノートの1ページを切り取ったような紙切れを取り出してテーブルに広げた
「何だこれ?」
「仁奈ちゃんの学校の宿題なのっ!色んな英語を集めて読み方を考えるんだって!」
その紙の中央には、慌てて殴り書きされたようなアルファベットが書かれており、一生懸命に考えたのか、その周りには日本語でさまざまな読み方が書かれていた
たるぇ〜んって何だ?
「ああ、なんだか懐かしいな。私もやったわ昔」
「なんかねっ、地下の駐車場の端っこにある車の後ろに書かれてたんだって!これだけ読み方が全然わからなくてプロデューサーに聞こうと思ったんだけど、忙しそうだったから・・・」
「もしかして、端っこでブルーシート被って放置されてたやつか?」
「うん、そう!たしかそんな感じのことも言ってたよっ!」
俺が初めてプロデューサーに連れていかれた時からある、地下の駐車場の一角でブルーシートに被せられた状態のまま放置されている車輌で間違いなさそうだ
本当に誰も使ってないのか、一向に触られた形跡が全くなかった
大きさから見てもそれほど大きい車ではなく、小さいセダンクラス程度だろうか
それなら名前も限られてくるだろうが、それでも範囲が広すぎる
日本車なのか外車なのかの区別もつかない
「それに書かれてたってやつか・・・何ですかねひな先輩。俺は全然検討つかないです」
「そもそもこれスペルは合ってるのか・・・?た、つ・・・た、つるぇ・・・ん?」
俺が手に取ったノートの1ページを横から覗き込み、ひな先輩も頭を悩ませる
「あっ、えっとね・・・ノートは仁奈ちゃんが持ってっちゃったから、こんな感じだったかな〜って書いたの!だから合ってるかどうかはわからなくて・・・」
「車って言っても作ってるのは日本だけじゃないからこれだけじゃ私はなんとも・・・姉さんはどう?」
「う〜ん・・・ねぇねぇ、こーんな大きい車じゃなかった?こーんな荷台がある、なんて説明したらいいかな・・・ほら、ファイスピの映画とかに出てきたような外車のトラック」
姉さんが両手を大きく広げて二人にアピールするが、二人は実際に見に行ったわけではないそうで、急ぎ足でここに向かったらしい
俺も姉さんに大体の大きさを説明すると、それなら!と何処かへ連絡を取り始めた
「・・・というわけで、Tから始まるアルファベットが書いてある車なんだけど、ん?ツアラーV一択しか思いつかない?もっと他の・・・え?智絵里ちゃんのサイン?今智絵里ちゃん年末の特番で忙しいからまた今度っ。わかった、わかったから。うん、クリーニングは夕方届けてくれてでいいから、その時に回収もお願い。はいはい、お疲れ様〜」
そう言って姉さんは電話を切る
「文殊の知恵にはちょっと遠かったみたい」
「やっぱりお手上げですね、これはさすがに。それならもうネットで」
「「それはダメ(ですわ)」」
どうやら学校の先生は、自分たちで考える力を身に付けたいらしく、無闇やたらにネットを使うのを禁止しているらしい
二人に軽く説教された俺は、何だか軽く沈みつつ、再び考え始める
俺、何も悪いことしてなくね?
ひな先輩も、''そうだぞ、そんな悪い子にはサンタさんこないからな''なんて笑いながら俺に言ってくると、それを聞いていた二人がハッとした表情になり、テーブルに前のめりになる
「ねぇねぇっ!23日ってお仕事休みなのっ?」
「なんでだ?」
「実は、その日にアイドル部門の皆様で・・・」