ヘイ!タクシー!   作:4m

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始まりは案外突然に06

「・・・以上が今回の議題だ。いつもより早く出社してもらって申し訳ない」

 

誰も喋らない会議室の中で、スーツ姿の男女が書類をめくる音だけがパラパラと乾いた音を立てていた

それぞれが真剣に書類に目を通し、納得する者、落胆する者、反応は人それぞれだった

 

「美城専務、これは全て事実なのですか?」

 

その中、一人が立ち上がり問い掛ける

美城専務と呼ばれたその女性は

 

「そうだ。報道以上の資料はこちらにもない。どうアイドル達に伝えるかは各々に任せる」

 

と、感情を込めずまるでそのまま文章を読み上げるようなトーンで冷淡に答える

立ち上がった男は、はいと一つ返事を返しそのまま椅子に座った

 

「これで緊急会議を終了する。早く出社した分は今日の残業時間につけていい、では私は失礼する」

 

そう言うと美城専務は自分の資料をまとめ、足早に会議室を後にする

会議室の扉を閉める直前に、中でどよめきが広がる声が聞こえた

 

「・・・はぁ」

 

自分の部屋に戻り、デスクに着いたときに最初に発したのは溜息だった

まさか、こんなことが起こっていたとはと自分の不覚に嘆く

そんな時、部屋の扉がノックされた

 

「・・・どうぞ」

「失礼するよ」

 

返事を返すと扉がゆっくりと開き、今西部長がいつもと同じ柔らかい笑顔を専務に向けて部屋へと入ってくる

 

「・・・おはようございます。聞きたいことが山ほど」

「おお、おはようおはよう。えぇ、私も伝えたいことがあって来たんだ。何、大丈夫だよ。年寄りは朝に強いからね」

 

あっはっはと小さく笑いを浮かべると、中央にある応接用の椅子に座る

専務は二人分のコーヒーを壁際のコーヒーメーカーで入れ、今西部長に差し出す

ありがとうとそれを受け取ると、専務も自分のデスクに着いた

 

「では、本題に。この事件を告発したのは今西部長だと伺っているのですが」

「ああ、そうだよ。ちょうどテレビ局にいて良かった」

 

今西部長は内ポケットから、例のボイスレコーダーを取り出し目の前のテーブルに置く

 

「友人の部下から預かった物だ。今回名前が上がった者以外にも、被害を受けた者は少なくないようだ。まったく嘆かわしい」

「ええ、だから今回の決定を下したのです」

 

美城専務が通達したのは、今回の騒動の元であるテレビ局とは一切手を切るという異例のものだった

346のアイドルを多く起用していたため、これにはアイドル部門のみならず、他の部署からも驚きの声が上がる

 

「シンデレラには相応しい舞台を。そこがあまりにも曇っていては光を浴びることはできない。何より・・・」

 

手元にあるアイドル部門の人員の一覧表に目を向ける

 

「彼女達や、彼女達のご両親に顔向けが出来なくなる」

 

コーヒーを一口飲み、また溜息をついた

 

「君も変わったね。強引に付き合いを続けると思っていたが」

「大事なのはアイドル達。そして彼女達の気持ちを尊重すること。それを私はここに来て学んだつもりです。大事なのは目先の利益ではなく、これからの未来。あなたからもその志を学んだつもりなのですが」

「ふっふっふ、そうだったかな。でも、気が短いのは相変わらずだね。昨日の今日で決定とは」

「時計の針は、待ってはくれません。まだ見ぬシンデレラにも思いを馳せようと思ったまでです。ところで・・・」

 

専務は立ち上がり、テーブルの上に置いてあるボイスレコーダーを手に取る

 

「この音声を録ったという"彼"に興味があるのですが」

 

そう言って再生ボタンを押すと、証拠となる証言の後に数十分間、同乗していたとされるディレクターの悲痛な叫び声が記録されていた

何を言っているのか言葉にならず、ただひたすら叫び声だけが聞こえる

 

「彼は私の友人が経営している会社の社員だよ。なんでも、優秀なドライバーだそうでねぇ。今回は私の送迎を頼んだのだが、手違いがあったようでこの事態が把握できたみたいだよ」

「ドライバー・・・」

 

今西部長がコーヒーを飲む中、顎に手を当てて考えこむ専務

そして何かを思いついたのか、デスク戻りもう一度一覧表に目を通す

 

「・・・何か、また思いついたのかね?」

「・・・ええ、まだ確証はないですが」

 

また顎に手を当てて、深く考え込み始めた

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「本っっっ当にすまなかった!!」

「プ、プロデューサーさん。もう頭を上げてください・・・」

 

昨日のことが気になり、いつもより早く会社に来てみると、事務所のデスクで頭を抱えているプロデューサーを見つけた

心配になって声を掛けてみると開口一番で謝罪の言葉、それからこんな調子である

 

「し、しかし俺のせいで・・・」

「プロデューサーさんのせいじゃありません。昨日川島さんにもそう言われたでしょう?」

「それは・・・そうだが・・・」

 

あの騒動の後、川島さんからボク達のプロデューサーに檄が飛んだ

いつまでもくよくよしない!あんなやつの事を考えるくらいなら、この子たちのことをもっと考えてあげなさいと

そんなことを言う川島さんを、ちょっとカッコいいと思ってしまった

 

「だからこれからも、カワイイボクのプロデュースをお願いしますね!」

「さ、幸子。う・・・うん」

「もう!ホントに気にしないでくださいってばぁ!」

 

プロデューサーの肩を掴んで前後に揺らす

そうするとプロデューサーの口元に少しずつ笑顔が戻り、それにつられてボクも少し笑ってしまう

 

「それで、こんなに朝早くからなんで頭を抱えてたんですか?」

「・・・実は」

 

プロデューサーから事のあらましを聞いた

テレビでは話題になっていたが、そんなことになっていたとは

 

「専務も思い切りましたね」

「ああ、大事なのはお前たちのことだって。

しかし・・・どうしたもんかなぁ」

 

するとプロデューサーはデスクに戻り、上に散らばっている書類を漁り始める

結局のところ仕事が無くなったことに変わりはなく、穴を埋めなくてはならないのだが、中々スケジュールに合うものが無いのである

 

「これは・・・ダメだ、次の日はここで仕事なのに遠すぎる。これも・・・時間が合わないし・・・」

 

あれでもないこれでもないと書類を書き分けるプロデューサーのデスクから書類が一つ落ちる

それを拾い上げたボクは、ふとその書類に目を通すと書いてあることに興味が湧いた

 

「これって・・・」

「ああ、いいんだいいんだ。昨日からとにかく何でもいいから仕事を集めてただけだから。拾ってくれてサンキュー」

 

そう言ってボクから書類を取ろうとするが、逆に身を翻し、書類を読みふける

 

「・・・幸子?」

「おはようございまーす!」

「おはようございます〜」

 

そうしているうちに、他のメンバーも事務所に入ってくる

脇目も振らず書類を読みふけるボクを不思議に思ったのか、二人が心配そうにプロデューサーと話していた

 

「あ、あのプロデューサーさん!!」

「は、はい!」

「この仕事について、お話があるんですが!」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「おはようございまーす」

「おお、おはよう。昨日は休日なのにすまなかったね。何事もなかったかい?」

「ええ、まぁ・・・」

 

会社に着くと社長が既に出社しており、自分のデスクをせっせと片付けていた

 

「今日入庫沢山あるんですかね?」

「う〜ん・・・私が昨日見た感じではそうでもなかったと思うが・・・」

「工場入らないといけなかったら言ってくださいね。俺も今日はそこまで忙しくないですから」

 

そう言ったあとアルコールチェックの機械で検査し、パソコンの電源を入れる

確かに、そこまでの入庫はないようだ

 

「おはようございます」

「あ、ひな先輩。おはようございます」

「おはよう雛子君!あ、それと一つ頼みが・・・」

「何ですか・・・?」

 

パソコンの電源を入れ、荷物を置きデスクの上にある社員証を首に掛けながら怪訝そうに答えるひな先輩

 

「このトルクレンチを美空君に返してくれないかな?なんだか怒られそうで・・・ハハハ・・・」

「わかりました。自分で返してください」

「そ、そんなぁ・・・」

 

ガックリとうなだれる社長を横目に、俺の隣に座り髪を手で払ってメールボックスを確認するひな先輩

頑張れ社長、きっといいことがあるはずだ

そんなことを思いながら俺も荷物を整理し、業務の準備をしようとしたその時、ひな先輩がバンッ!とキャスター付きの椅子に座ったまま机を両手を伸ばして押し、机から離れた状態で、相当驚いたのか手を伸ばしたまま停止していた

 

「ひな・・・先輩?」

「おっはよーございまーす!あら、ひなちゃんどうしたのー?そんな椅子に座ったまま両手広げてー」

「おはよう美空君!あの・・・これを家から持ってきたんだが・・・」

「ああ!!もー、今度から気をつけてくださいね!」

 

まったく〜と社長からトルクレンチを受け取ろうと姉さんが動こうとしたが、それよりも早くひな先輩が立ち上がり、社長からトルクレンチを奪い取ったあと急いで姉さんに渡し、そのまま姉さんの手を掴んで自分のパソコンの前まで連れて行く

 

「え?ちょっ、何?」

「見て」

 

半ば強引に姉さんをパソコンの前に座らせ、メールボックスを見せるひな先輩

それから数分たち、姉さんの表情がみるみる変わっていく、その瞬間

 

「あああぁぁぁぁぁ!!!」

 

という姉さんの悲鳴が事務所の中に轟いた

 

メールボックスには、キャンペーンガールの仕事の件について美城プロダクションのアイドル部門、KBYD担当プロデューサーという名前でメールが届いていた

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