ヘイ!タクシー!   作:4m

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クリスマスと仕事と魔法の馬車03

「クリスマスパーティ!?も〜う、早く言ってくれればいいのに〜。飯食ってる場合じゃないわ!」

「いや、あの・・・昼食はお召し上がりになった方がよろしいのでは?」

「じゃあ遠慮なくいただきますっ!」

 

菓子パンを片手に桃華とよくわからないやり取りをしている姉さんだった

ひな先輩はというと、自分の弁当箱をさっさと片付けて、受付のカウンターへと戻りパソコンのキーボードを叩いている

 

「にしても何で23なんだ?24か25じゃなくて」

「あのね、クリスマスの日だと何かしら予定がある人が多いと思うから、その前日にしたって専務が言ってたんだってっ!プロデューサーが教えてくれたよ!」

 

23日に行われるという、美城プロダクションアイドル部門のクリスマスパーティへの招待・・・というのが、ここへ来たもう一つの目的だったらしい

恐らくだが、部門の忘年会も兼ねての集まりなのだろう

確かに、あれだけの社員がいる会社だ

恋人や家庭を持っている人も少なくないだろうし、そういう時間を大切にする方が、仕事の効率も上がると思ったのだろう

みりあの話では、自由参加で特に時間を決めず、仕事が終わり次第足を運んで会食を始めるスタイルだというのも、中々に考えられたものだと思った

それなら参加できなくても変に気を負わずに済む

あの専務、やはり中々できる人物らしい

 

「でっ!どうするの!?来るっ!?来れる!?」

 

子供ながらに無邪気な表情で、一切ためらいのない視線を俺に向けながらテーブル越しにそう聞いてくるみりあだった

姉さんと話していた桃華も、返答が気になっているのかチラチラと視線を感じる

 

「いつも最後にはね、みんなで歌ったりするんだよっ!アイドル部門のみーんなで!」

 

畳み掛けるようにみりあがアピールを重ねると、姉さんがそれはもう興奮気味に''それなら・・・!''と俺、ひな先輩の順で了解を得るように目線を動かすが、ひな先輩に顔を向けたところでその視線が止まる

見てみると、パソコンの操作を終えたひな先輩が静かに首を横に振っていた

 

「みりあ、悪いがダメらしい」

「えぇぇぇー!?何で何で〜!?」

 

俺がみりあに答えると同時に、ひな先輩もこちらに戻ってくる

 

「私たちもとてもとてもとても行きたい。だけど、どうしても仕事の予定がいっぱいで、この日は残業になりそうなんだ。とてもじゃないが、合流は無理だ」

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ・・・またこのパターン・・・」

 

みりあとひな先輩のやりとりを見ていた姉さんが、全てを悟ったかのようにソファーの背もたれにだらんと首を預ける

 

「せっかく、今度は本当にみんなでご飯が食べられると思ったのに・・・」

「みりあさん。お仕事ですもの、仕方ありませんわ」

 

そう言ってみりあを励ましている桃華の声も、一つトーンを落としたような寂しげなものに変わっていた

俺はひな先輩のデスクへと赴くと、パソコンの画面に23日の予定が映し出されていることに気づく

確かに、ひな先輩がああ言うのも無理はない

その日はクリスマス前最後の追い込みと言わんばかりに、朝から夕方まで予定が無駄なくキッチリと入れられていた

 

「さ、そろそろ戻らないとお昼休みが終わってしまいますわ。みりあさん、行きましょう」

「うん・・・、それじゃあ!今度は本当にみんなで集まって遊ぼうね!お邪魔しましたっ!それと、ごちそうさまです!」

「では、お邪魔しました。昼食、大変美味しかったですわ。ご馳走様でした。ごきげんよう」

 

二人はそう俺たちに告げると、玄関の出入り口でまた俺たちに向かって一礼し、素早く事務所を後にした

送っていこうかと提案したが、''私たちは歩いてきましたので、同じようにそのまま帰りますわ。お気遣いありがとうございます''と言い残しそのまま出て行ってしまう

 

ライブの時といい今回といい、あいつらには悪いことをしてしまったと少し罪悪感が芽生えた

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「残念だったね」

「こればっかりは私たちに決められることではありませんわ。あの方々も働いてらっしゃるんですもの、346の社員ではありませんし、口を出すわけにはいきませんわ」

 

青葉自動車から346へ戻ってきた私たちは、一旦オフィスビルへと戻り、午後のレッスンの準備をして別館へと向かっていた

少し肌寒い別館へと続く渡り廊下を、少し俯き気味なみりあさんと共にトボトボと歩く

 

昼休みが終わった途端、また社内は慌ただしく動き始め、少し振り返ってみると、通ってきたオフィスビルの中はその狭い渡り廊下をの入り口からも確認できるほど、人の往来が激しくなっていた

 

「あっ!今西部長!」

「お、おやおや。二人ともこんにちは」

 

渡り廊下も終わりに差し掛かったところで、みりあさんがそう声を掛けた先には、別館から今西部長が渡り廊下へとやってくる姿が見えた

仕事の相談でもあったのだろうか、何かしらの書類を抱えていた

 

「これからレッスンかい?」

「うん!あ、あのねあのね!さっきまで、青葉自動車さんに行ってたんだよっ!」

「おお、青葉君のところに。彼からよく話は聞いているよ、凄く仲が良さそうにいつもアイドルのみんなと社員が話している姿をよく見かけるとね」

 

楽しそうに話しているみりあさんと今西部長だったが、次第に元気がなくなっていくみりあさんに気づいた

 

「おやおや、どうしたのかね」

「・・・それがね」

 

今までの経緯をみりあさんは今西部長へと説明する

そうかいそうかい・・・と今西部長は相槌を打ちながら、黙ってみりあさんの話を聞いていた

 

「青葉君のところも今は中々忙しい時期だからねぇ。ついこの前にも彼に会ったのだが、忙しなく動いていた合間だったし、今回は難しいかもしれないね」

「で、でも・・・」

 

みりあさんはまだ諦め切れないのか、今西部長に食ってかかる

 

「私からも、もう一度連絡してみよう。何か事情が変わるかもしれない」

「ほんと!?」

「ああ」

 

今西部長がそう言うと少し調子が戻ったのか、みりあさんの顔に笑顔が浮かぶ

 

「おっと、私もそろそろ行かなくては。では、レッスン頑張ってね」

「うんっ!ありがとう!そうだっ、今度また妹の写真見せてあげるね!」

「はははっ、楽しみにしているよ。私も可愛い孫の写真が増えてね」

 

最後に今西部長がみりあさんと楽しそうにそうやり取りすると、今西部長は私にも一礼して挨拶し去っていったので、それに返して私も頭を下げた

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「それは残念ですわね・・・」

「でもねでもね!今西部長また連絡してくれるって言ってたの!もしかしたら、まだ来れるかもっ!」

「まぁ。それなら、私のフルートを零次さんにお披露目できる機会がまだあるということですね」

 

レッスンルームの片隅で、壁に寄り掛かり座って休んでいた琴歌さんとゆかりさんに今日あったことを教えてあげた

 

「それにしても・・・ついに桃華さんもあの味を体験したのですね!あの3分で出来てしまう魔法のような食べ物の!」

「琴歌さんもカップ麺好きなの?」

「あの味は忘れられませんわ!お仕事の帰りに送ってもらう途中、コンビニという何でも置いてある販売店に立ち寄って、その場で作ってその場で食べるあの新しい感覚・・・!私にとってとても刺激的でした・・・とってもおいしい体験で・・・。父に伝えて是非あの素晴らしいシステムを全国展開すべきだとアドバイスしてあげなくては!」

 

琴歌さんは何かを思い出しながら、うっとりしたり燃えていたりと、何だかわからないけど張り切っていた

カップ麺って、もう全国になかったっけ?

あれ?違うのかなぁ、新しい商品を開発するってこと?琴歌さんのお家はお金持ちって聞いたし・・・

 

「ゆかりさん、フルートをご披露する際には是非わたくしのバイオリンもご一緒に。共に零次様方を歓迎いたしましょう」

 

いつの間にかレッスン室に響いていた靴の擦れる音が消え、星花さんがタオルで汗を拭きながら、私たちのところへとやってきて一緒に座り込む

 

「よし、お前たち。今日はここまでだ。四人とも、今日は特に動いたからしっかりクールダウンしておくように。あとアイシングもな。じゃあお疲れ様」

 

今日のダンスレッスンの担当であるベテトレさんが私たちにそう言い残して、いつものバインダーに今日の活動記録を書き込むとレッスン室を後にして行った

出て行く間際に私たちも一言挨拶を交わすと、再び井戸端お嬢様会議へと戻る

 

「お力になれず残念ですわ、人材を派遣したいところですがあいにく、つてがありませんの。琴歌さんはどうです?」

「私もお父様の仕事に関しては詳しくは分かりません・・・なにぶん社名がコロコロと変わるので、そういう分野に関わっているかどうかも・・・それならいっその事、会社ごと買い取ってしまうとか・・・」

「それは青葉自動車さんが困ってしまいませんか?資金的な援助ならまだしも」

 

普段と変わらない口調で、割とと言うかとんでもなくぶっ飛んだ話を何食わぬ顔でしている光景に、私も思わず苦笑いしてしまう

す、すごいなぁ・・・お金持ちって何でも出来ちゃうんだなぁ

私もお金持ちだったら、何するんだろう・・・妹におもちゃを買ってあげるとか?

 

「おや?おやおや?これは珍しい組み合わせですなぁ。ノーブルの三人にみりあちゃんじゃん?」

 

ガチャっという扉の音と共に中に入ってきたのは、丁度営業から帰ってきたであろう未央ちゃんだった

 

「どうしたのさ、こんなところでお嬢様方が揃いも揃って。ここ一帯だけ雰囲気が違うよ雰囲気が」

「春のライブのダンスレッスンだったのっ!同じパートなんだよ!それで丁度・・・」

「丁度零次さんのお話をしていましたの!」

 

琴歌さんがこれまでの経緯を説明する

 

「なるほど・・・それは由々しき事態ですなぁ。せっかく色々なイベントを考えていたのに・・・」

「そうですわよね!私も是非''変身!''してみたいですわ!」

「アレは生で見たほうが絶対面白いよ」

 

興奮している琴歌さんと対照的に、ふふふ・・・と怪しい笑みを浮かべている未央ちゃんを見て、デレポで生配信されていた零次さんの罰ゲームを思い出した

零次さん、もしかしたら来ないほうが良いかも・・・?

 

「何はともあれ!何をするにしてもその本人が来ないと意味がありませんからなぁ、よし!色々と!考えて!みますか!」

 

最後に未央ちゃんが変身ポーズらしきものをとりながらそう言うと、琴歌さんも同じようにポーズをとり、それに合わせてチラチラと琴歌さんを見ながら星花さんとゆかりさんもたどたどしく控えめに腕を動かしていた

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