ヘイ!タクシー!   作:4m

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クリスマスと仕事と魔法の馬車05

「よし、よし・・・こことここもやったし、OK。姉さん、ノート終わりました」

「ん・・・!いつものとこ、置いといて・・・!」

 

工場にかけられている時計が5時を回った頃、エンジンルームに頭を突っ込んで作業をしている姉さんに声を掛けると、姉さんは顔を向けることなく指差しだけで俺にそう指示を送る

俺は言われた通りに工場の休憩室にある、作業が完了した仕事のオーダーを置く専用のスペースへとバインダーを置き、椅子に座って一息ついた

工場のラジオからは、明日のクリスマスイブの話題がちょくちょく流れてきており、やれこのレストランがいいだのイルミネーションがどうだの、恋人と行くならこのスポットだのと、浮かれた話題ばかりが耳に入ってくる

 

話題も話題だが、それと同時に脳内へと響いてくる聴きなれた声

 

「美嘉姉ちゃんと・・・妹ちゃんか。一ノ瀬志希と、周子・・・もいるし」

 

今をときめくカリスマギャルにこの冬のイチオシのポイントをレポーターが聞き、その行く先々で一ノ瀬志希と周子が好き勝手動き回るのを美嘉姉ちゃんが止めるというスタイルで番組が進行、それに便乗して妹ちゃんも一ノ瀬志希たちに加わろうとするが、それを必死に美嘉姉ちゃんが止めるという流れも生まれてスタジオの笑いを誘っていた

 

「アイツらも頑張ってんだなぁ・・・」

 

次の仕事のオーダーを棚から手に取ったあと、携帯を取り出して再び時刻を確認すると、ロック画面にニュースアプリのポップアップが表示され、そこに書いてあるクリスマスにオススメのレストラン特集にも何だか見覚えのある人物たちの名前が並んでいる

こんな高級レストランなんて、一度でいいから行ってみたいもんだ

 

「それで最後か?」

 

ガラガラと休憩室の扉が開き、ひな先輩がオーダーが挟まっているバインダーを抱えて中へと入ってきた

 

「はい。ですが・・・この有様じゃあ、いつまで掛かるか」

「そうだな・・・とりあえず終礼やるぞ、終礼。姉さん呼んで」

 

俺はひな先輩に言われた通りに、休憩室のドアから顔を出して姉さんを呼ぶ

それと同時に、工場の中をあらためて見回して現在の状況を確認した

空いているスペースに車が3台ほど

さっき終わったばかりのノートが検査場に一台

工場の空いているスペースに一台

そして洗車場に一台

どれも、検査も室内清掃も洗車も終わっていない

俺が持っているオーダーの車も、これから整備して検査が残っている

 

「はいはいはい〜、えっと・・・あ、またひなちゃんオーダー持ってきてぇ」

「これは明後日までだから今日は手、付けなくて大丈夫。で、今日は何時?」

 

休憩室へと駆け込んできた姉さんがひな先輩の持っているオーダーを見つけるや否や、ブーブー文句を言いながら棚を確認する

ここで言う終礼とは、定時近くの夕方になると一度このように休憩室等に集まり、これまでの仕事の進行や残っている仕事を確認し、残業になるなら何時までやるのか、などを話し合うものである

 

「そうねぇ・・・これから3台検査・・・あ、レイジ君が持ってるのもあるから4台かぁ〜・・・ん〜、今やってるエクストレイルもあるから9時過ぎるんじゃない?」

「今姉さんがやってるT31は時間貰ったから別に今日やらなくてもいい」

「ホント!?じゃあ検査だけだから・・・あ〜でも洗車とか仕上げ残ってるんだから結局それくらいかな・・・」

「わかった。じゃあクリスマスパーティーは諦めて」

「はぁ〜・・・」

「一応うちのメンツもあるから社長には顔出しに行ってはもらおうと思ってるけど」

「はぁぁぁぁあああ?」

 

スパッとハッキリ言い切るひな先輩に姉さんは抗議の声を上げるが、ひな先輩は一貫として首を横に振る

 

「とにかく、今日終わらせるものは今日終わらせてちゃっちゃと帰ります。はい、とにかくまずは9時」

「はぁい・・・」

 

そう告げるとひな先輩は棚にバインダーを置くとスタスタと休憩室を後にし、事務所へと帰っていった

 

「やっぱりダメかぁ・・・」

「あれでもひな先輩、結構予定空けられないか頑張ってくれてたんですよ」

 

結構重い作業なので予定外に時間が掛かったこともあるが、姉さんが今やってる仕事を明日まで延ばしてくれたのも、何とかして時間までに間に合わないかというひな先輩の必至の配慮だったりする

俺が夕方工場に入るまでの間も、ひな先輩もなんとか工場を手伝えないかと仕事を詰めたりしていたが、やはり入るものは入ってくる

社長も営業でいないし、受付も受付で結構忙しかった

 

「まぁ、とにかくまずこれ終わらせますね。それから仕上げにまわります」

「ん。さて、3台やっちゃいますか・・・。今夜はガレージでヤケ酒ね。レイジ君付き合ってくんない?」

「やです」

「いいじゃな〜い。せっかくのクリスマスイブ前夜祭なんだから楽しみましょうよ。男と女なんだし、いい雰囲気でも出しながらさっ。お互い携帯が鳴るような相手もいないでしょ?」

「そんな逆に寂しいクリスマス嫌です」

「この時期は一人じゃなんだか肌寒くって・・・」

「下の姉さんのとこにストーブ持ってきます」

「いじわるぅ〜」

 

ちぇ〜っと姉さんは文句を言いながらも、完了済みのオーダーを持って検査場へと渋々向かっていった

結局酒飲んでベロベロになったあと介抱するのは俺なんだから勘弁してくださいマジで

ひな先輩を抱き枕にして寝たときの救出作戦の大変さといったら・・・

 

いや、もう考えるのはやめだ

とにかく俺は車を持ってくるために休憩室を出た

パーティーに参加できないのは仕方ない、・・・アイツらには詫びを入れておこう

そして工場の出入り口の扉に手を掛けたその時だった

俺の携帯がトークの通知の音と共に連続的に振動する

 

「なんだなんだ誰だ?・・・加蓮?」

 

バインダーを腋に挟んで携帯を確認すると、加蓮からよくわからないスタンプが連続で送られてきていた

クリスマスかなんかのバージョンなのか、サンタの帽子を被った猫みたいなキャラクターが笑って''お疲れ様''とか言っている

 

「零次、零次ー!」

 

後ろからひな先輩の声がしたので振り返ってみると、事務所の扉を開けて俺に向かって呼びかけていた

 

「お客さんだ」

 

そう言って親指で今度は事務所の中を指さしたので、俺は言われるがままにひな先輩に導かれながら事務所へと入っていく

ん、とひな先輩が自分の席へと戻りながら今度は事務所の出入り口を指さした

・・・よく見ると出入り口に誰かが立っているのが見える

長い暖かそうなロングコート、背丈からして女性だろうか

しかも一人じゃない、その後ろにも複数人いるようだ

俺は恐る恐る近づいて扉を開ける、すると

 

「やぁやぁ、零次さんこんばんは」

 

そこにいたのは、寒そうに手を合わせてスリスリしている加蓮だった

 

「・・・新聞とかなら間に合ってます。あ、洗剤とかもいらないんで」

「あちょちょちょ、閉めないでってば」

 

俺が扉を閉めようとすると、加蓮は足と手で強引に割り込み阻止しようと動く

俺は渋々また扉を開いた

 

「なした。どうしたのさ」

「いや〜、なんか零次さんたち忙しいって聞いてさ。パーティー参加できないかもっていうのも聞いたから、だから・・・何とかできないかなって思ってさ。それで・・・」

 

加蓮は少し早口になりながらもそう言うと、体を半分ずらしたので後ろを確認する

 

「はぁ〜い、レイさん。こんばんは」

「・・・どうも」

「こ、こ、こんばんはっ!」

 

そこにはニュージェネレーションの御三方

 

「や。助けにきたぞ」

 

神谷奈緒もその隣に

これでトライアドプリムスも揃っている

 

「レイジ。こんばんはです」

「零次さん、こんばんは。ご無沙汰してます」

 

そう言って丁寧に頭を下げる新田ちゃんとアナスタシア

チラチラと雪が降っている中で、アイドル達が玄関の前で立ち尽くしていた

 

「お前たち・・・」

「手伝えないかなって声かけてみたんだけど、これしか集まらなくてさ。前に凛とやったことあったじゃん?ああいうことできないかなって。迷惑ならごめん」

 

あはは・・・と加蓮が普段とは違い素直な様子で苦笑いする

吐息が白い

もしかしてこいつら、それだけの為にわざわざこの寒空の下歩いてきたのか

ちょいちょい距離あるのに

ただ、それだけの為に

 

「・・・とにかく、入れ。女の子が体冷やしちゃダメだ」

「あ〜、ありがと〜。うぅぅ〜さむさむ」

「おお。あーこらこら卯月。頭に雪乗ってるからちょいまち」

「あわわ・・・!す、すみません・・・」

 

中に入ろうとしていた卯月の頭を手で簡単に撫でて、雪を落としてやる

 

「あら、アーニャちゃんも」

「アー、スパシーバミナミ」

 

他のメンバーもお互いに雪を落としてから事務所へと入っていった

 

「こんばんは、ひなさん」

「おお。おー、結構な数だな。外寒かっただろう」

「救援に参った次第であります!雛子長官!」

「・・・すまない、よろしく頼む。私ももう少しで工場に行くから」

 

そして、それぞれ奥の休憩スペースに荷物を置き、俺たちは工場に向かう

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