''カタンッ!''
という大きな渇いた金属音が工場内に響いた後、私は手に持っているリモコンを運転席の窓から外に出し、天井から吊り下がっているモニターに向かってボタンを押す
''ピピッ''
という電子音がモニターから響くのと共に、車の下から空気が思いっきり抜ける音が聴こえて、フロントタイヤ付近が少し下に沈むいつもの感覚がシートから伝わってくる
「・・・ふんっ」
そしてまたいつものようにブレーキを思いっきり踏み込むと、モニターにデジタルで表示されている数字が100、200と変化し、ある数で止まった
「・・・はぁ」
ブレーキから足を離し、その数字をレイジ君が持っていたバインダーに挟まっていた紙の空欄に書き込んでいく
そのいつもと同じ筈の行動が、なんだか今日は余計に寂しく感じていた
レイジ君もいじわるだし・・・そりゃ、ほんのちょーーっとは私の日頃の行いが悪いところはあるかもしれないけど
そんなことを考えながら、バインダーを助手席へと戻してハンドルに手を掛ける
・・・このノートのオーナーもニュージェネのファンなのだろうか、カーオーディオから流れていたのは先日ニュージェネがプロモーションしたVRイベントの新曲だった
「・・・しょうがないっちゃしょうがないっか」
フロントタイヤを沈ませた検査機器が上がってタイヤが床にちゃんと設置するまでの間、流れている曲に合わせてハンドルに乗っけている指をトントンッとリズミカルに叩く
思えば、今年は充実した一年だった
春先に美城に関わったと思いきや、ガレージに遊びにくるようになって
智絵里ちゃんの一件もあったりして、中々に波瀾万丈だったけど・・・
それにプライベートでミニライブを開いてもらったりと、普通じゃ考えられないファンサービスを受けさせてもらうことができた
これ以上言ったら、さすがにワガママね
自分の中に生まれる煩悩を打ち消すように、私はオーディオの音量を下げる
そして車を前に少し動かし、次はリヤタイヤを検査機器に乗せ、再びモニターにリモコンを向けてボタンを押した
「あ、あの〜・・・」
そして先程と同じように助手席に置いたバインダーを・・・ん?
この声、このトーン、この感じカンジ
リヤタイヤを下げるため、機器が空気を抜く音と同時になんだか・・・あれ?オーディオの音量は下げたはずなのに、物凄く近くから物凄くリアルに卯月ちゃんの声が聴こえたような・・・
そうね、最近の車は3D音響システムなんて積んでるのもあるから、別にリアルに聴こえるのは不思議ではないけど
でもありえないわ、だってみんなパーティーのはずだもん
「も、も、もしも〜し・・・」
コンコンコンっと今度はさらに車体を軽くノックするような感覚も同時に伝わってくるような気がする
右後ろだ、丁度運転席の後ろあたり
グググッとさっきと同じようにブレーキを踏み込み離しても、そのなんだか遠慮がちなノック音は消えなかった
あぁ・・・きっと私は疲れているんだわ
シフトをPレンジへと戻し、バインダーを手に持って車から降り、壁際に設置してあるキャディの上に置いた
「み、美空さぁ〜ん・・・」
キュッキュッと自分が着ている作業服の袖を後ろからなんだか泣きそうな声と共に引っ張られている感覚がする
丁度、右腕あたり
''美空さん''なんて呼び方する人この会社にはいないし、これまた何だかとてつもなく声が卯月ちゃんに似ていたのできっと空耳なんだろうと私はゆっくり後ろを振り返る
そうよ、きっと私がいつの間にか出したスタンドか何かよ
疲れすぎてきっとそんな特殊能力が身についたんだわ
「あ、あの・・・こんばんは!その・・・何をしたらいいか美空さんに指示を貰いに行けって言われたので・・・!私、これからにゃにをふへふぁ」
私は思わず、その喋っている美少女の両頬を掴み左右に軽く引っ張る
手に伝わってくる体温が、紛れもなく''それ''が生き物であることを実感させていた
「みふぉらふぁん?」
変な顔になりつつもなお、そのキョトンとする可愛らしい顔はあいかわらずで、そのいつもと変わらない愛らしい視線が私に向けられている
スゥ〜・・・
ーーーーーーーーーー
『ほげぇぇぇぇぇぇえええ!!!』
「おお・・・凄い反応」
「サプライズは成功したみたいですな!」
工場に響き渡る姉さんの絶叫に納得の結果だったのか、未央は腕を組んで満足そうに首を縦に振っていた
「はい、奈緒。加蓮も。ガラスクリーナーはいつものところにあったから」
「ありがと凛」
前に手伝った経験から、凛が手際良く洗車機横の棚から車の中を拭くタオルを取って胸に抱え、待機していた俺たちの元へ戻ってくる
「あ、卯月ちゃん戻ってきたみたいよ?」
凛が雑巾を配っている最中に新田ちゃんがそう呟く
検査場から卯月に手を引かれて俺たちの元へとやってくる姉さんは、こちらに近づくにつれ''信じられない''という表情がみるみるうちに顔に現れ、しまいには卯月の後ろにこそこそと隠れながらやってきた
「あ、あ、ニュージェネにトラプリに、美波ちゃだぁぁぁぁぁあああ!!」
「ダー、はじめまして。私の名前はアナスタシア、です。アーニャと、呼んでください」
姉さんの絶叫に応えるように、アナスタシアはペコッと頭を下げる
「ら、らぶ、ラブライ・・・カ」
ほぼほぼ絶句しながら、何とか二人を指差して言葉を捻り出す姉さんに、アナスタシアは冷静に笑顔で応え、一歩近づいてその指を向けている手を取る
「アーニャは、怪しい者ではありません。今日は、レイジの大切な人がとても困っていると加蓮に聞きました。アー、ヒナコも言ってました。だから、みんなで終わってパーティーしましょう。たくさんアーニャの知らないお話聞きたいです」
「あ、あ・・・サンキューベリマッチ・・・」
「アー、スパスィー・・・バ?」
「おーい、そろそろ卯月ちゃんの肩が限界に近づいてるから離してやってくれ」
いつの間にか工場へとやってきたひな先輩が隣でそう言うと、姉さんは力一杯握りしめていた卯月の肩をようやく離す
アナスタシアと姉さんに挟まれながらオロオロしていた卯月は、着ているジャージの肩の部分をクシャクシャにされながらも、ホッと胸を撫で下ろしていた
「というわけで、姉さんお願いします。コントローラーの指示がなければ、俺たちは動けません」
そう言うと姉さんは、先程とは打って変わって途端に笑顔になり、りょーかいですっ!と元気に返事を返した
ーーーーーーーーーー
''コントローラー''の主な仕事は、的確なタイミングで、的確な人数に、的確な指示を与えることである
司令塔とも言えるこの役割の人物がいなければ、どれだけ優秀な人材が揃っていたとしても、現場が回らなくなってしまう
たが、今回はそれがいい方向に働いているようだった
「ラブライカはひなちゃんと洗車場の86をお願いね!洗ってあるから!ニュージェネはボードリフトのワゴンRよろしく!」
『はーい!』
今回車の仕上げと洗車に集まったメンバーは全員ユニットとしての活動経験があるため、姉さんは素早く多人数を動かすことが可能だった
アイドルの知識がこんなところで役に立つとは、世の中何が起こるかわかったもんじゃないな
「トラプリの二人はこのノートもうちょいで終わるからちょっと待っててね。終わったら中の仕上げをお願い」
『わかりました』
姉さんが車のライトテスターを壁から車の前にスライドさせて、テスター前面の画面に当てる
「そうだ、''仕上げ''っていうのは中のガラスとか内張とかメーターとかを綺麗に拭き取るんだ。最後に掃除機をかけて終わり。洗車は終わってるから車は私が拭く。わからなかったら聞いてくれ。あ、今美波ちゃん触ってるその追加メーター外れないように気をつけて」
「は、はい!気をつけます!」
洗車場の86はひな先輩、ボードのワゴンRは凛、検査場のノートは加蓮が指示役に回ることができる布陣になっているのも、考えられたものである
「レイジくーん!そのエスティマ終わりそー!?」
「オイルだけなんで後下ろしてオイル入れてエア調整と増し締め、ウォッシャーっす」
「じゃあそのまま上げといてー!下見るから!あー、そのアンダーカバーつけていいわ!」
「わかりました」
「な、何言ってるか全然わかんねー・・・」
待機していた奈緒が俺の作業を見ながらそう呟く
そんな奈緒の足下に、そのエスティマのアンダーカバーが転がっているのが見えた
「奈緒、それ取ってくれそれ。足下のアンダーカバー」
「こ・・・これか?」
「そ。それ。持ってこっち来てくれ」
そう奈緒に言うと、奈緒は恐る恐るアンダーカバーを持ち上げてこっちに持ってこようとするが、持ち上げた瞬間にその上乗っていた細かいプラスチックのビスが地面にバラバラと落ちる
「ちょ、ちょ、ちょ・・・!なんなんだよもうっ」
「あーもうほら奈緒、何やってるのさー」
「し、しょうがないだろ!黒くて全くわからなかったんだからさ!」
「あるあるだから気にするな」
やっぱり姉さん、取り付け用のビス、アンダーカバーの上に置いてたか
加蓮も一緒になって床に散らばったビスを拾う
「はい、これでいいのか?」
「サンキューサンキュー。ちょうどいい、そのビス持っててくれ」
「あ、ああ」
奈緒はそのまま俺と同じように車の下に入り、俺はアンダーカバーを車の下に押し当て、奈緒からビスを受け取って付けていく
このプラスチックのカバーが車の下に付いていることで、ゴミや雪国なら雪の車体下からの侵入を防いでいるのだ
「ん、ん、もうちょっとなんだけど・・・んんん・・・」
アンダーカバーをつけ終わり、書類の記入をしながら姉さんを待っていると、隣の洗車場から一生懸命フロントガラスを拭こうと頑張る新田ちゃんの声が聞こえた
「んんんー・・・!」
全力で前のめりになりながら、フロントガラスの下ふちに手を伸ばしていると、クラクションが短く鳴り響き、後ろを拭いていたひな先輩がひょこっと顔を出す
「なしたー?」
「す、すいません!前のガラスを拭いていたんですがその・・・ハンドルに胸が・・・」
「ミナミ、大丈夫ですか?」
「・・・そうか。奥拭きにくいなら靴脱いでシートに上がっていいよ」
そんな新田ちゃんを微妙な目で見ていたひな先輩だった
それと同時に反対サイドの車を仕上げしていた凛と目が合ったと思いきや、その途端ジトーっとした視線を俺に向け始める
あいつ、まだこの前のこと根にもってるな
「奈緒ちゃん、加蓮ちゃんお待たせ!お願いね・・・ってどうしたの?」
「意外と零次さんって・・・エッチなんだなぁ〜って」
「俺まだ何も言ってないだろうが!」
加蓮がそんなことを俺に呟く様子を見て凛は仕返しとばかりに満足げにケラケラ笑っていた
ーーーーーーーーーー
「アー、レイジ?ミソラはあれ、何してますか?」
「ん?ああ、下見てるんだよ」
ひな先輩が姉さんの書類を処理する準備のために事務所に一時的に戻ったため、俺がラブライカのサポートにまわる
その途中、左のドアの内張を拭いていたアナスタシアが車の下を叩いている姉さんを指差して聞いてきた
「キチンとボルトが締まってるかどうか、最後にあの小さいハンマーで叩いて確認するんだ。緩んでいたら叩いた時鈍い音するから」
「なるほど、大事な作業ですね。レイジ詳しいです」
「そりゃ、まぁ・・・いつものことだから詳しいもなにも・・・」
未だに、この子がどんな子なのかイマイチ掴めない
それは本気で言っているのか天然なのか、ハーフなところだけは同じなひな先輩とは180度逆のスタンスなため、ツッコミが難しい
「アーニャちゃん、お待たせ。掃除機持ってきたわよ」
新田ちゃんが戻ってくると、アナスタシアに明るい笑顔が浮かぶ
この子を知るにはまだまだ時間がかかりそうだ
「スパスィーバ、ミナミ。でも、このままじゃ少しやりにくい・・・ですね」
俺とアナスタシアがいる助手席側は、ドアを開けると壁際のタオルが置いてある棚と結構ギリギリになる
ドアが開くには開くが、そのままでは間に人が入って作業するには少し窮屈だ
下手するとドアを棚にぶつけかねない
「ふむ・・・新田ちゃん。新田ちゃんって免許持ってんの?」
「え?え、ええまぁ、パp・・・父が取っておいたほうがいいからと、実家にいた頃に取りましたが・・・。コホン、私も資格習得が趣味ですから」
「よし、乗れ」
「へ?」
車の免許を持っていることに少し自信ありげにしていた新田ちゃんに俺がそう言うと、途端に素っ頓狂な声をあげて固まってしまう新田ちゃん
「ミナミ、掃除機はアーニャが預かっておきますね」
そんな新田ちゃんからアナスタシアが掃除機を素早く奪い取ると、再び左側へ戻り興味津々とばかりに行く末を見守っていた
狼狽している新田ちゃんにシートに座るよう俺はシートを指差す
え?え?あの・・・え?とか言っていたが、とにかく時間がないのでシートに座らせる
「俺助手席でステッカー剥がしてるから、今運転できるの新田ちゃんしかいないんだわ」
「でも、私、だって!全然運転なんてしたことなくて!パパが危ないって言うから・・・!アクセルとブレーキは分かりますが!」
「1mくらい真っ直ぐ下げるだけだから大丈夫だ。アクセルはたぶん使わない。言ってしまえばハンドルも曲げない。ほら、ブレーキ踏んで。このスイッチ押す」
「ええ・・・?」
新田ちゃんはハンドルに一旦手を置いて一つ深呼吸すると、俺が言ったことを小声で確認しながら、言われた通りにブレーキを踏み、オーディオ下にあるプッシュ式のスタートスイッチを押す
エンジンが無事掛かったが、マフラーがスポーツ用に交換されていたため、その音が工場内に野太く響く
その音に新田ちゃんは少し驚いていた
「わ、わぁ〜・・・ははは・・・」
「スゴイですミナミィ!カッコいいです!」
「まだエンジン掛かっただけだぞ」
パチパチと拍手するアナスタシアだったが、もう新田ちゃんは右に左に目が泳ぎ始め、それに返事を返す余裕すらなくなっていた
アナスタシアに少し下がるように言うと俺は助手席のドアを閉める
それを見た新田ちゃんも運転席のドアを閉めた
「じゃあ、後ろに下げてくれ。ほらオートマだからこの車。見た目スポーツカーだけど」
「えっとじゃあ・・・い、い、いきます・・・!」
そう言うと新田ちゃんは改めてハンドルを両手でギュッと握りしめると、左手をシフトレバーに掛け、ゆっくりとRレンジに入れた
「離す、離すだけ・・・ゆっくりとブレーキを、離すだけ・・・」
自分に言い聞かせるようにそう言うと、新田ちゃんの右足がゆっくりと上に上がっていった
それに応えるように車がゆっくりと後ろへ下がってゆく
「おお、もうちょいもうちょい・・・ん?どうした?もうちょい。これじゃあまだ近すぎる」
「あ、あ、あ、あの、あのあのあの。ブレーキ離しても、車・・・動かないんです・・・け、ど・・・」
「・・・ああ、洗車場の輪止めに引っかかってるのか。じゃあちょっとアクセル踏んで」
「・・・は?」
「ちょっとアクセル踏んだら脱出できるから」
そう言った途端に、ヒュー・・・!ヒュー・・・!という変な呼吸に変わり、目が血走り始めて今にも泣き出しそうな表情に変わる新田ちゃん
ああ、懐かしいな。俺が初めて車を工場に入れた時のことを思い出す
公道や屋内駐車場とはまったく違う、完全に封鎖され周りに色々な日用品や工具や機械が置かれたまさしく''室内''で車を運転するあの独特な恐怖がいま新田ちゃんを襲っているのか
「はぁ・・・!はぁ・・・!はぁぁ・・!ふぅ・・・!」
新田ちゃんが握っているハンドルが手汗でびっしょりになりつつも、藁をも掴むかのようにギュッと握りしめ、ゆっくりとアクセルへと足を移動させる
「ゆっくり踏め。ゆっくり」
「ふー・・・ふー・・・!」
するとタコメーターの回転数が少し上がった
「まだ、もっと」
「ふー・・・!ふーんんん・・・!」
車が少し後ろに動こうとした
「もうちょい」
「んあぁぁん・・・!」
一瞬タコメーターの針が勢いよく動き、エンジンが吹けると、車が輪止めの段差を乗り越えたのがわかった
「はい、ブレーキ」
「んんん!」
キキっとタイヤを鳴らして車が止まると、新田ちゃんは素早くシフトレバーをPに戻した
「はい、お疲れ」
「はぁ・・・はぁ・・・ハァ〜・・・」
最後に大きく息を吐き出すと、新田ちゃんはそのままハンドルにおでこをくっ付けて突っ伏してしまった
「よく出来たな」
「もう、二度とやりたくない・・・」
突っ伏したまま新田ちゃんはそう答える
すると運転席の窓をコンコンとノックする音が聞こえ、それに合わせて起き上がると、アナスタシアが外でパチパチと新田ちゃんに向かって拍手をしていた
「はぁ〜・・・私、運転してるときに家族以外で助手席に座った男の人、零次さんが初めてなんですけど」
クシャクシャになっていた前髪をかき分けながら、新田ちゃんはそう言う
「そいつは光栄だな」
「もうちょっと・・・ロマンチックな感じが良かった・・・」
「ふーん」
新田ちゃんの言葉を聞き流しながら、俺はフロントガラスのステッカーを剥がした後のノリを綺麗に取っていく
「あーあ、初体験がこれだなんて」
「じゃあ将来もっといい男見つけな」
「私、プロデューサーとか以外でよく知ってる男性、零次さんしかいないんだもん」
そんなことを新田ちゃんが言ってると、運転席の扉が開く
「ミナミ、掃除機を掛けるのでよけてもらってもいいですか?」
「ああ、ごめんねアーニャちゃん。今出るから」
「エンジン切ってくれー」
新田ちゃんは言われた通りにエンジンを切ると、室内清掃に戻る
アナスタシアが掃除機をかけ、新田ちゃんが床のマットを外してゴミを落としていた
俺は剥がしたステッカーを捨てるため、ニュージェネが作業している近くのゴミ箱へと向かう
「あ、レイさーん。終わったよ!」
「ん。おお、綺麗になったな。いい感じじゃないか。教える人が上手かったか」
「褒めても何も出ないからね。それに、''帳消し''になったわけじゃないから」
そう言いつつも、凛は満足そうな表情で自分の髪を撫でていた
「でもさ、まっっっさか私たちが自分の車を掃除してくれたなんて思わないでしょ。持ち主も」
未央が腰に手を当ててやりきったようにそう言う
「ああ。洗車場の白いスポーツカーも、あの新田美波が汗だくになりながら運転した車だなんて俺たちしか知らないだろうな」
「頭と胸を押し付けたあのハンドルだけでも結構なお値段するんでしょうな〜」
「み、未央ちゃん。それはちょっとさすがに・・・」
「お前、恐ろしいやつだな」
「レイジ君、いいよこれ降ろして。それと」
俺は姉さんに言われた通りにリフトのレバーを下に倒し、車を下げる
「美波ちゃんのおっぱいを押し付けたハンドルって何?なにそれ?ねぇ。私検査場にいたからわからなかったんだけど」
「知らないっす。聞き間違えたんじゃないですか?ほら、今日の夜に鳥の胸肉食いたいみたいな。クリスマスだし」
「ふ〜ん・・・」
車を降ろしている最中、なんだか疑うような目で俺のことをジッと見つめていた姉さんだった