俺がエスティマを洗車場に入れると、それに合わせて加蓮が洗車機のボタンを押していく
サイドミラーをたたみ車から降りると、加蓮が最後の確認のために俺に話しかけた
「うん、うん、OKだ。慣れたもんだな」
「誰かさんのおかげでね」
加蓮がそのままスタートスイッチを押すと洗車機の中のブラシが回り始め、前側から汚れを落としていく
ガラガラと動く洗車機を、俺とトラプリの二人で見守りつつ、洗い終わった車を工場の空いているスペースで拭いているニュージェネとラブライカを横目で見る
「で、どうだった?私たちの働きぶりは」
「ん?」
横に並んだ加蓮が、期待したような眼差しで聞いてきた
「・・・まだまだだな」
「そりゃそうだろ加蓮。車なんて全然わかんないしさ」
「えぇ〜、今日のために結構頑張ったのに〜」
そう言って、二人は今日までいかに仕事を切り詰めたのか、プロデューサーがいかにはからってくれたのかを、思い出話のように語り始めた
自分たちだけじゃなく、ニュージェネもラブライカも、今日集まれたのは本当に奇跡的だと、その言葉の節々から感じ取れる
ラブライカに至っては、年明けの北海道単独ライブ準備の真っ最中だったという
「なんか・・・悪いことしたな」
「あれ、珍しく素直じゃんか」
「でしょ〜?そう思うでしょ〜?だ・か・ら」
真面目なトーンから一転、あざとく身体を俺に擦り寄せながら猫撫で声に変わる
「あのね〜、年明けにねぇ〜、駅前のストアに私の好きなブランドがコラボしたコートとバッグが数量限定で出るんだけど〜、ホラ〜、私車持ってないじゃん?朝準備してからさぁ〜、行ってもさぁ?間に合わないかもだからさ〜・・・ね?」
「ね?ってお前、まさかそれが目的か!」
「加蓮・・・」
奈緒の顔が引きつり始める
「そんなこと言って〜、奈緒は?」
「いや、私は・・・その、・・・フルボッコちゃん限定フィギュア・・・」
奈緒は遠慮がちにだが確実に、ボソッとハッキリ呟いた
「他にもあるよ?」
そう言って加蓮はジャージのポケットから折り畳んだ紙を一枚取り出す
おい何だ、その箇条書きで書かれたリストは
「えっとね、もし今日来れたら・・・莉嘉ちゃんは一緒にカブトムシを探しに行く、かな子ちゃんは年末のスイーツバイキング、奏は春に公開のファイスピ新作映画のカップル優待券の男性役、志希ちゃんは」
「やめろ、それ以上聞きたくない」
「カブトムシは、今時期ちょっと無理があるんじゃないか・・・?」
一面ズラっと書き連ねたその紙をしまうように加蓮に促すと、名残惜しそうにポケットにしまった
「ま、これだけ零次さんを助けたかった人がいたってこと」
「良かったんだか良くなかったんだか・・・」
「クリスマスプレゼントだと思ってさ」
「じゃあ、さっき俺に言ったのは一体なんだよ」
ちょうど洗車機が車の後ろまで動き、折り返すところで一瞬止まる
水の噴射が止まり、上下左右のブラシが動きを止め、洗車機内に収まった
「そうだなぁ、私ならクリスマスプレゼントに・・・零次さ」
そこから先は、洗車機の車を乾かすエアの音にかき消され、全ての音が聞こえなくなった
加蓮は口パクで何かを喋っていたが、まったく聞き取れない
俺は加蓮に耳を傾けて、何て言っているのか必死に聴き取ろうとしたが、加蓮はそんな俺の様子が面白おかしいのか、クスクスと笑っているばかり
そのまま洗車機は前側に移動してエアの噴出が止まり、加蓮と奈緒は車を吹き始めた
「なぁ、今俺になんて言ったんだよ」
「んー・・・少し恥ずかしいから今は内緒」
そう言って一瞬、加蓮は口元に人差し指を当て、作業に戻った
やっぱり、女子高生ってよくわからない
「レイさーん!終わったから手伝いに来たよー!」
「おう、サンキュー。今確認に行くからこっち頼む」
洗車機の端からニュージェネの3人が見え、3人は持っていたタオルを棚の横の洗濯機へと放り込み、新しいタオルを取って加蓮達へと加わった
「あ、そうだレイさん」
「んー?」
ニュージェネが担当したワゴンRの仕上がりを確認していると、未央から声が掛かる
うむ、よく出来てるじゃないか
「私、新しい冬靴が欲しいなー!」
「お前聞こえてたのか!」
「だてにアリーナでライブしてませんって!」
確かにそっちの方が音大きそうだけどさ
「私、新しいポーチ欲しい。結構小物増えちゃってさこの時期」
「あ、あの〜・・・私は美味しいご飯が食べたいなぁ〜って!」
未央に引き続き、凛、卯月と続いて声が上がっていく
もしかして、ボーナス消し飛ぶか?
ーーーーーーーーーー
「ホントに助かった、ありがとう。私が車工場にしまうから、零次とお前たちは着替えて準備しててくれ」
事務仕事のほうも無事終了したのか、ひな先輩が工場へとやってきて俺たちにそう伝える
その手には車検完了のステッカーと書類が抱えられており、俺たちが仕上げした車たちにそれぞれ置かれていった
「よし。助かった、ありがとう。戻って準備するか」
俺が続けて声をかけ、事務所の扉から受付へと戻っていく
「うわぁ〜ん!ありがとー!みんなぁ!」
ひな先輩が工場のシャッターを開ける音をバックに、事務所へ入ったニュージェネの3人を大手を広げて包み込む姉さん
検査員の机が片付けられているところをみると、綺麗に仕事が終わったようだ
「ニェット!ズルいです!私もハグして喜びを分かち合いたいです!」
そう言っていたアナスタシアの目が、俺に向けられる
その瞳の奥には''期待''の二文字が見え、アナスタシアはゆっくりと俺に向けて腕を広げた
「レイジも、アーニャと分かち合いましょう」
「俺がやると意味が若干違ってくるからダメだ」
「カレンとナオとミナミも一緒だから大丈夫です」
『え゛』
アナスタシアが放った一言に、三人の表情が強張る
俺に視線をチラチラ向けたり髪をいじりだしたり、自分の身体を少し抱きしめて一歩引いたり、様々な反応を見せ始めていた
「ダメですか・・・、私たちとレイジはもっと、アー、親密?知り合う必要があると、アーニャ思っていたのですが」
「ブッフォ!」
「ブフッ!」
アナスタシアのセリフに奈緒が吹き出し、姉さんが鼻を押さえながら顔を下に向けた
「ちょっとソラ姉大丈夫!?」
「だ、大丈夫だから。すぐ・・・すぐ収まるから」
未央達が心配する中、姉さんはそのまま今度は顔を上に向けて鼻を押さえ始める
アナスタシアが首を傾げて、頭にクエスチョンマークを浮かべている後ろでは、加蓮がニヤニヤした表情で奈緒を見つめ、新田ちゃんは顔を赤くしながら口元を押さえていた
「奈緒〜、ナニ想像してるの〜?」
「ち、違・・・!何も想像してないし!」
「さ、さぁさぁ!早く帰る準備しましょ!会社でみんなが待ってるわよ!」
その場を取り直すように、手を合わせて号令をかける新田ちゃん
シンデレラプロジェクトというグループのなかではリーダーも務めていたということもあって、ハキハキと現場を動かしていた
それに従い、ニュージェネのメンバー、奈緒加蓮アナスタシア、そして姉さんまでもが大人しく''はーい''と返事をして動き出す
コントローラーの才能があるな
ーーーーーーーーーー
「はぁ・・・」
事務所の玄関先で、玄関に背中を預けてみんなが出てくるのを待つ
目の前に停めてある車の排気ガスがやたらと白く見えるのは気温のせいだろう
あいつらが来た時よりも肌寒く感じる、雪は先ほどよりは止んではきているが、それでも車の屋根、地面に至ってはすっかり白い絨毯ができていた
「よっ・・・と!お待たせしましたっ!」
「おう」
玄関の扉が開き、未央を先頭にぞろぞろと暖かそうな格好をした御一行が外へと出てくる
「わぁ〜、ホントに雪景色ね〜。こんな中みんな歩いてきたの?」
「そうですよ。私たちが来た時はここまで寒くはなかったですが」
そう言って加蓮は寒そうに手を合わせて、スリスリと擦り合わせて息を吹きかけていた
「アーニャちゃん大丈夫?寒くない?」
「大丈夫ですよミナミ。きっとヒナコも大丈夫と言います。あ、ヒナコ。寒くないですか?」
「ん?ああ、別に大丈夫。雪降ってるってことは今日は少し暖かいんだな」
「さ、さすが北海道組・・・」
そうは言っても寒いものは寒い、最後に出てきた凛と卯月も、外に出た瞬間に体を震わせていた
「とにかく、まずは美城プロに向かいましょうか!みんな荷物があるから・・・私とひなちゃんとレイジ君で分散して」
ひな先輩が事務所の鍵を閉めている間に、姉さん先導の元で話し合いが始まる
とりあえず、姉さんがラブライカ、ひな先輩がニュージェネ、そして残る奈緒と加蓮は俺が受け持つことになった
「ま、まさか・・・零次さん、''アレ''をやるのか?」
「やらないやらない。路面状況が全くわからないんだ、そんな命知らずなこと」
「零次さん、くれぐれも''安・全・運・転''でお願いしますね」
俺の言葉を信じ切れないのか、新田ちゃんは姉さんの車に向かう直前、俺の胸を指差しながら強くそう言われた
ーーーーーーーーーー
「ねぇ、いつになったら助手席乗せてくれるの?」
「10年早いわ」
「またそれ・・・」
地下駐車場から本館を抜けて、アイドル達の案内に従い別館を目指す
相変わらずのデカくてお洒落な本館の受付も既に人の姿はなく、行き交うのはやはり書類を持った社員たちのみ
照明が若干落とされ、正面玄関と窓に吹き付ける風の音だけが寂しく響いていた
それでもところどころに、ミニサイズのクリスマスツリーが置かれたり、四角いプレゼント箱の形の小物が受付の端に置かれていたりと、忙しい中でもクリスマスを祝おうという心が見えた
「ここの廊下を抜けた別館の8階です。みんなもうだいたい集まってるみたいで」
「私・・・こんな格好でよかったのかしら。今通ってきた受付はお城みたいだったのに、ツナギ姿にブルゾン羽織っただけで・・・」
「俺も同じようなもんですよ」
「大丈夫だよソラ姉!みんなそんな畏まった格好じゃないし!仕事終わりにちょっと寄ってくって感じだから!それにわかりやすい!」
「ひなちゃんはスーツだからある程度格好はつくけどさ・・・」
ラブライカが先導して廊下を抜ける間に、改めて自分の格好を確認して少し落胆している姉さんだった
「せめて前髪くらい手で払ったら?ぺったんこになってんだけど」
「げっ・・・ホントだ」
「零次さんも髪型変になってんぞ」
「マジかよ。あ、マジだわ」
「この二人は・・・」
新田ちゃんがエレベーターのボタンを押して待っている間、壁にかけられた恐らく他企業から寄贈された大きな鏡で姉さんと一緒に髪型を整える
「ほい、行くよお二人さん」
「ああ、ごめんね未央ちゃん」
「おおっと、そんな引っ張るなよ」
そのまま未央に引っ張られる形でエレベーターへと慌ただしく乗り込んだ
「ああもう、零次さんまだ前髪変だよ。ちゃんとしたらみてくれは良いんだからさ」
「言われてるぞー」
ひな先輩のツッコミに周りがクスクス笑う中、エレベーターの中で加蓮に髪を触られる
「はいOK。こんなもんじゃない?」
「おお。どうよ」
「えっ!?ああ、えっと・・・!カ、カッコいいですよ!それはもう・・・!カッコイイです!」
「卯月、無理しなくていいんだよ」
「ブフッ!」
卯月に話を振ると、身振り手振りを交えてわたわたと答えるが、凛から冷静にツッコミが入ると奈緒が吹き出した
正面扉の上にあるデジタル表示の画面が''8階''を示すと、ゆっくりとエレベーターの扉が開いた
外で待っていたのは、黄緑色のスーツを着た三つ編みの女性
「あ、ちひろさーん!」
「未央ちゃん!あ、お待ちしておりました。青葉自動車の皆さん。どうぞ、こちらに。もう会食は始まっていますので」
「すみません。30分も遅れてしまい」
ひな先輩が頭を下げると、いえいえと千川さんは首を横に振る
「無事に来ていただけただけでも嬉しいです。皆さん到着を心待ちにしていらっしゃいましたから」
そしてそのまま今度は千川さん先導の元廊下を進み、大きな扉の前で立ち止まる
「それではどうぞ、お楽しみください」
そう言って千川さんは扉を開けて、俺たちを中へと案内した