ヘイ!タクシー!   作:4m

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クリスマスと仕事と魔法の馬車08

千川さんによって重々しく開かれた扉から、照明の暖かい燈色の光が廊下へと漏れる

その眩しい光に包まれて一瞬目を細めると、次の瞬間には中からガヤガヤと楽しそうに笑い声を交えた、人達の会話が聞こえてきた

 

「うわっ、見てひなちゃん。あのシャンデリア。お城みたいよ」

「あ、海道さん鋭いですね。このホールはアイドルの皆さんのPV撮影にも使われたことがあるんですよ」

 

千川さんが言うように、ホール全体は姉さんの言葉通りどこかのおとぎ話からそのまま飛び出てきたような構造になっていた

 

「じゃあ、私たちは先に。奏たちのところに行ってくる。奈緒、行こうか」

「あ、ちょっと待てよ加蓮!」

 

最初に目を引くのは天井から吊り下がっている大きなシャンデリア、そこから放たれる眩しい光は部屋の隅々まで照らし出し、壁に描かれている見事な装飾を一層際立たせる

 

「あれ?きらりん達はどこかなぁ。あ、いたいたいた!ごめん、私先に行ってるね!」

「私も。卯月はどうする?」

「あ、私は響子ちゃんたちのところへ!」

 

床に敷かれている絨毯も特徴的なデザインがあしらわれ、そのホールの魅力をさらに引き出していた

 

「私は、文香さんに呼ばれているので・・・失礼しますね」

「アーニャも一緒に行きます。おそらく、アリスも一緒にいると思うので。一緒にご飯を食べようと約束しました」

 

壁際には左右対称に、外のバルコニーへと続く大きなガラス張りのドアが設置されており、今現在も何人かの社員が外へ出て雪景色を楽しんでいる

 

「さすが大企業だな」

「うちのガレージより大きいかも・・・」

 

ひな先輩と姉さんが感心している間に、千川さんが入り口の扉を閉める

 

「・・・あ!零次さーーーん!!」

「お。おうおうおいおいおい・・・!!」

 

扉を閉めた音に気づいたのか、みりあちゃんを筆頭にチヴィーズたちが一斉に俺に向かって駆け寄ってきた

 

「ぶふっ!ちょっ、待っ・・・!ぐっふ・・・!」

 

駆け寄るや否や、みりあちゃんが勢いそのままに俺の腰あたりに抱きつくのを皮切りに、次から次へと飛び込んでくる

 

「遅いよ零次さん!みりあ、たくさんたくさんお話ししたいことあったのにっ!」

「車のせんせぇ!かおるもおにぎり一緒に作ったんだよ!早く食べてみてー!」

「れいじー。おいしいもの・・・いっぱいある。あれなんかおすすめ・・・」

「わかったわかった、わかったから。まずは落ち着いて飯食わせてくれ。めちゃ腹減ってんだ俺は」

 

みりあやこずえたちに服も手もあっちへこっちへ引っ張られながら近くのテーブルをウロウロしていると、千川さんが俺たちの近くへとやってくる

 

「テーブル間の移動は自由となっております。お食事はバイキング形式となっておりますので、空いているお席でどうぞお召し上がりください。お飲み物は前方ステージ側の壁に設置してあります」

「うん!ありがとう、ちひろちゃん!さぁさぁひなちゃん行きましょう行きましょう!あっ!楓ちゃーん!!」

「ちょ、引っ張んないで」

 

千川さんの説明を一通り聞き終わると、姉さんはひな先輩を連れて足早に大人たちが集まるテーブルへと去って行く

 

「それでは、私も失礼しますね。色々と・・・準備がありますからっ」

 

ふふふっとどこか上機嫌な千川さんは俺にそれだけ伝えると、そのまま他の社員の元へと行ってしまった

なんだ?このなんともいえない悪寒は

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「あなたがもう一人の私・・・」

「初めまして。あなたもアイドル?」

「はい!いや〜、お初にお目にかかりますが本当に可愛いお方ですね〜むふふ・・・。こうして出会えたのも何かの縁。二人はいずれお迎えにくる王子様を取り合い、熾烈な闘いを繰り広げるかもしれないむふふふふ・・・」

「?」

「日菜子チャン、ひなさんが面食らってるにゃ」

 

「美空さん見てくださいっス!御三方のイラストを描いてみたっスよ!」

「あら!あらあらあら!見て見てひなちゃん!私たちが漫画になってる!相変わらず上手ね〜、でも良かったの?なんだか、年末のコミックマーケット?っていうののスケジュールがどうとかで忙しかったって・・・」

「そこは気合いと根性っス」

 

テーブルに座って、大人組のやりとりをボーっと眺めながら、俺は食事を進める

主にさっき俺に駆け寄ってきたのと同じメンバーがテーブルを囲み、誰かに呼ばれて席を離れたり、逆に誰かが来たりと入れ替わり立ち替わりでなんとも賑やかな食卓になっていた

 

「せんせぇどうどう?おいしい?おいしい?」

「ああ、よく作ったな。俺よりも上手だ」

「本当!?えへへ・・・」

 

薫が作ったというおにぎりを口に入れると、たちまちおかかの香ばしく少し甘じょっぱい味が広がる

 

「れいじー。これも・・・おいしい」

「これか、・・・うん美味い。俺に気を使わなくても、自分で食っていいんだぞ」

「大丈夫。あっちにたくさんある」

 

こずえが自分の皿から俺にからあげを一つ寄越したので、その期待の眼差しを受けながら俺は口に運ぶ

その衣と肉の絶妙な旨味が口に広がり、これまた絶品だった

この会社に専属のシェフでもいるのだろうか?

 

「あ、悪い。ちょっと飲み物取ってくる」

「うん」

「いってらっしゃーい!」

 

飲み物がなくなってしまったので、こずえやみりあ達に見送られて俺は一人、人混みをかわしながらドリンクバーへと向かう

 

「あら、零次さん。あなたについて色々お伺いさせて頂きたいのだけれど」

「そんな諜報されるほどの情報は持ち合わせてない」

「零次、後でこちらにも是非いらして。世界レベルのお食事をご馳走してあげる」

 

その道中で様々な人に話しかけられながらも、何とかドリンクバーへとたどり着き、コップを機械へとセットすると、やっと一息つくことができた

こうしてみると、本当に色々な人たちが集まっている

アイドルだけでも百人近く集まっているこの光景は中々に壮観であり、あらためてこのアイドル部門の規模の大きさを感じられた

 

「あっ!ダーリン!」

「げっ」

 

突如聞こえたその黄色い声に目を向けると、これまた頭の先から爪先まで黄色のカラーがあしらわれたギャルがこちらに向かって手を振っていた

俺もそれに応えてなるべく関わらないように小さく手を上げると、その人物はみるみるこちらに近づいてくる

やめろ、来るな、来るんじゃない

 

「もうっ、ダーリン!なんで来たことゆいに教えてくれないの!ずっと待ってたのに!」

 

目の前に来るや否やぷりぷり怒り出す大槻さん

 

「随分と寒そうな格好だな、大槻さん」

「話逸らさない!」

 

もう12月も終わりそうだというのに、肩出しの上着にミニスカート

女の子は本当にわからない

 

「それに、ゆいには''唯''って名前があるんだよ!なんでいつも名前で呼んでくれないのっ!せっかく可愛いカッコもしてきたのに!」

「ああ、可愛いと思うぞ。寒そうだけど」

「えっ!本当!?えへえへ、えへへ・・・」

 

怒ったり喜んだり随分と忙しい人物だ

ひとしきりやりとりが終わると、大槻さんは''そうだ!''と俺の腕をそのまま引っ張り、一つのテーブルへと連れていった

 

「あれ?零次さんじゃーん。こんばんは★」

「レイ君!ここ座っていいよ!ここ☆」

 

そうやって案内されたのは、大槻さんとは別タイプのギャル二人が談笑していた大きなテーブル

俺はされるがままに大槻さんに引っ張られつつ、莉嘉の隣へと腰を下ろした

テーブルの上を見渡してみると他にもメンバーはいたみたいだが、今は席を外しているようだ

 

「今日は行けなくてごめんねレイ君。どうしても仕事抜け出せなくって・・・寂しかったでしょ?」

「いや、別に」

「もぉ〜なんで〜!」

「こら、莉嘉。零次さん困ってるでしょ」

 

莉嘉が若干上目遣いになりながら俺にそう言うが、美嘉姉ちゃんに止められてしぶしぶ食事へと戻る

 

「うぅぅ〜ダーリン!もうちょっとゆいにも構ってよ!はい!飴あげるから!」

 

すると胸ポケットから飴を取り出して俺に渡してきた

そのやり取りを見ていた美嘉姉ちゃんの顔がみるみる赤くなっていく

 

「ダ、ダーリンって・・・」

「ねぇそういえば、何で唯ちゃんはレイ君のこと''ダーリン''って呼ぶの?」

「え?えっとね、前にみくちゃんがプロデューサーのことはPちゃんって呼ぶなら、零次さんのことは何て呼ぶ?ドライバーだからDちゃん?みたいな話してて、それなら同じDが頭文字でダーリンのほうがいいよねって思ったからだよ!ね?ダーリン?」

「あ、ホントだー!唯ちゃん頭いいー!」

 

でしょ〜?と莉嘉の質問に笑顔で答える大槻さん

唖然としている美嘉姉ちゃんの傍で俺はその若干頭の悪い会話に頭を抱えていると、スタスタという足音が聞こえ、席を外していた数名が戻ってくるのがわかった

 

「これはこれは、零次様!お待ちしておりましたわ!」

 

上品な言葉使いと共に椅子へと腰を下ろしたのは、アグレッシブお嬢様率いるノーブルセレブリティの面々、西園寺琴歌と涼宮星花と水本ゆかりが飲み物を片手にお上品に話しかけてくる

 

「・・・お久しぶりでございます。御三方」

「無事にお会いできて何よりですわ。実はこの後にバイオリンを披露する機会がございますの。是非楽しんでいってくださいまし」

「私のフルートもご一緒に」

 

そう言ってお上品に飲み物を飲む三人

こういう場に慣れているのか、落ち着いた振る舞いで会話に花を咲かせる

で、これはどういう組み合わせなんだ?

お嬢様方にギャルズと方向性が全く逆のメンバーが集まっている

 

「あ、ダーリン今すっごい失礼なこと考えてるっしょ!」

 

それが態度に出ていたのか、大槻さんに鋭く見抜かれてしまった

 

「あのねレイ君!この後ね!私たちでイベントやるんだよ!ね、お姉ちゃん!」

「う、うん・・・」

 

・・・莉嘉の言葉に合わせるように美嘉姉ちゃんが顔を赤くして縮こまったと思ったら、反対に琴歌たちの面々は今か今かと会場の奥に設置されているステージをチラチラと見ながら何かを待っていた

 

しばらくそこで会話を続けていると、琴歌が何かに気付く

 

「あ、千川さんが合図していますわ!行きましょう行きましょう!」

「お姉ちゃん!ホラ、行くよ!」

「うぅ・・・仕方ない、仕方ないんだよ。クジ引きで決まったことだから・・・」

 

琴歌の号令でセレブリティの面々が先行し、莉嘉に手を引かれる形で美嘉姉ちゃんもステージの舞台袖に消えていく

 

それからしばらくすると、会場の照明が少し暗転し、ステージへと明かりが集まっていった

 

「あ!零次さんここにいた!」

「れいじ、はやく・・・いこ」

「ああ、ダーリン!ゆいも行くよ!」

 

いつのまにか側に来ていたみりあ達に押されながら、ステージへと近づいていく

会場にいた他の人たちも続々とステージ前に集まり、何かのイベントが始まるのを待っていた

 

「あ、レイさん!」

「おお、未央。何が始まるんだよこれ」

「まぁまぁ見てなって〜」

 

怪しげな態度を取る未央に若干不安を感じつつステージを見ていると、さっきステージ脇に消えていったセレブリティの面々が、それはそれは綺麗なドレス姿の衣装に着替え、琴歌はチェロ、星花はバイオリン、ゆかりはフルートを持ち、ステージへと姿を見せた

 

おお〜と会場からも感嘆の声が響き、三人は一礼すると演奏を始める

何かのクラシックなのだろうか

どこかで聞き覚えのあるメロディーが、とても綺麗な音色で奏でられてゆく

相当練習したのか、それぞれの楽器の音色が絶妙に噛み合いまるで包み込まれるように耳に入ってくる

三人とも楽器を嗜んでいるとは聞いていたが、その腕前は見事なものであった

さっきまで騒がしかった会場が一瞬で静まり返り、誰しもがその音色に聞き惚れていく

これがお嬢様というものなのだろうか、佇まいというか気品が違う

まるでここが舞踏館の会場のような、そんな丁寧な空気が漂っていた

 

一通りの演奏が終わり、三人はまた最後に一礼する

会場からは盛大な拍手が送られて、それと同時に感想も混じった声援が三人に贈られていた

 

 

 

そんな時だった

 

「待て待て待てーい!」

 

上手側のカーテンから、上は黒いジャケット、下も同じく黒っぽいジーパンと、なんだか全体的に黒っぽい服装に身を包んだ城ヶ崎姉妹が、莉嘉の一言と共にステージ上へと現れる

 

「さっきから聞いていれば、その素晴らしい演奏!素晴らしかったけどっ!影に生きる私たちにとっては、体を蝕む光の旋律!でもよかったけどねー!」

「わ、わ、私たちは日向の道を歩けない・・・。それならば、その光は消し去る!・・・のみ」

 

『おほぉぉぉー!』と俺の隣で叫んでいる蘭子とは打って変わって、相手に喧嘩を売っているのかどうかわからない莉嘉と、恥ずかしがりながらも必死にセリフを喋る美嘉姉ちゃんだった

 

「くっ!こんなところに、地獄姉妹のお二人が!」

 

身構えながらこっちもこっちでセリフを言うアグレッシブお嬢様

 

「私達の影を・・・味合わせてあげちゃうー!」

 

莉嘉が三人に向かって叫んだと同時に、その姉妹はポケットからバッタのような形の何かを取り出し、ジャケットを脱いで舞台袖に放り投げ、黒いタンクトップのような姿になった

 

寒そう

 

「変身!☆」

「へ、変身・・・★?」

 

そう言うと、ジャケットに隠れていたベルトのバックルにあるスイッチを押してパカっと台座を展開すると、二人はそれぞれ莉嘉は茶色の、美嘉姉ちゃんは緑色のバッタのデバイスをスライドさせてはめ込んだ

 

''Henshin''

''Henshin''

 

電子音声と共にバッタのデバイスのLEDが緑に赤に光り、その間に莉嘉と美嘉姉ちゃんが背中合わせになってセレブリティの前で腕を組む

 

''Change punch hopper''

''Change kick hopper''

 

英語の音声が流れて変身が完了すると、周りからステージを沸き立たせるように声援と拍手が次から次へと巻き起こった

 

「莉嘉ちゃん美嘉ねぇ最高ー!!」

 

未央も二人にエールを送ると、美嘉姉ちゃんが恥ずかしそうに手を振った

 

「これは永久保存版やーん」

「あ、シューコちゃんその動画後であたしにちょーだい。上手く加工してあげる」

 

俺の後ろでは周子と一ノ瀬志希が何かよからぬことを企んではふふふっと笑っていた

こっちが悪役のほうがよかったんじゃないか?

 

「むむっ・・・それならば、私達も変身するしかありませんわね!星花さん!ゆかりさん!」

 

琴歌の言葉で三人はステージ脇に持っていた楽器を丁寧に置くと、再び地獄姉妹の前に立ち尽くす

 

「待っていたぞ!これを受け取ってくれ!」

「ありがとうございます光ちゃん!大切に扱いますね!」

 

するとステージの上に3つのアタッシュケースが床を滑るように三人の前へと放られた

それと同時に三人はそのドレスのような衣装を脱ぎ捨てて、舞台袖にいた千川さんへと渡す

代わりに現れたのは、地獄姉妹と同じような姿だった

琴歌は白いTシャツにジーパン姿、星花は黒いレザージャケットに黒いジーパン、ゆかりは上は青、下は黒のウィンドブレーカー姿と先程とは真逆のスタイルである

 

それから三人は足元にあるアタッシュケースを開けて、なんだか色々な物が付いているベルトをそれぞれ腰へとつける

 

「さぁ、いきますわよ!」

 

琴歌の号令で、琴香と星花は手に持っていたガラケー型の携帯電話を開き、番号を電子音と共に押していく

 

''Standing by''

''Standing by''

 

携帯から音声が聞こえると、待機音声と共に琴歌の携帯が赤に、星花の携帯が黄色に光ると自分の顔の前にカッコよくかざした

 

「変身!」

「変身」

 

一方、ゆかりは銃の持ち手のようなデバイスを顔の横に、まるで携帯を耳に当てるように構える

 

「・・・変身」

''Standing by''

 

デバイスにゆかりがそう言うと、それに応えるようにデバイスから音声が聞こえ、他の二人のように待機音声が流れ始めた

 

『Complete』

 

そして琴歌と星花の二人はベルトのバックル部分に、ゆかりは右腰あたりにぶら下がっている銃の先端部分のようなデバイスにはめ込むと、電子音声が揃って鳴り響き、デジタル音のような音と共に変身が完了した

 

「ライブの始まりですわ!」

 

琴歌がそう言うのと同時に、バックから音楽が流れ始める

おそらくこの琴歌たちが変身したヒーローの特撮ソングだろうか、子どものころに聞いたことがある

周りから歓声が聞こえ、ステージ上にいるメンバーへとマイクが渡されると、さっきのクラシックの時とは逆に一様に盛り上がりながら、その歌を歌い始めた

 

「うん!みんな完璧だったぞ!家からベルトを持ってきて正解だったな!」

「うむ、あの二人の変身・・・非常に興味深いな。是非ともご教授願いたいものだ」

 

光と飛鳥がそれぞれ感想を述べる

そして曲の一番目が終わり間奏に入ると、俺のことを見つけた琴歌は手招きで俺を呼んでいた

俺は確認するように自分を指差すと、琴歌は大きく頭を縦に振り、ステージに上がってくるように誘われる

 

「いやいやさすがに・・・ちょ!お前ら押すなおい!」

 

俺が躊躇っていると、周りの未央やら周子や梨沙に背中を押されて無理矢理ステージへ上げられる

すると光からベルトと赤いミニカーを渡された

マジで言ってるのか

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「はぁぁぁぁ〜・・・」

 

バルコニーへと出て、俺はガラスに背を預けると、寒空の下、大きなため息と同時に白い息を吐き出す

まさか、この場でやらされるとは思わなかった

姉さんもひな先輩も大笑いしてたし、周りも爆笑だった

まったく・・・一体どうなっているんだか

 

「おや、零次君」

 

社長の声が聞こえそちらを向くと、社長がワイングラスを片手にこちらへと近づいてきた

 

「無事に来れたようで何よりだよ」

 

社長は誰かと一緒にいたらしいが、その人物が中に飲み物を取りに行ったらしく、今は一人でいるらしい

社長は俺の横で中の様子を覗き込んでいた

 

「中で随分楽しそうなイベントをやっていたらしいが、一体何があったのかね?」

「何でもないです。それはもう果てしなく何でもないです」

 

社長の問い掛けに俺は即答するように答える

 

「それにしても、いい仲間ができたようだね。さっきまで話していた友人も言っていたよ、今日青葉自動車を手伝えないかどうか沢山相談されたと」

「そう・・・ですか」

「最初は不安だったが、君を選んで正解だったようだね。仲良くやっているらしいじゃないか」

「もううるさくって」

「はっはっは。だが、彼女たちもアイドルである前に女の子だ。そんな可愛い彼女を一人放っておくのは、少し可哀想ではないかね?」

 

社長はそう言うと、今社長がいるのとは反対側の方を指差す

そこには、壁際に設置されたベンチで一人白い息を吐きながら空を眺めている加蓮がいた

 

「それでは、私は失礼するよ。友人が戻ってきたのでね」

 

すると社長は、ドアを開けて出てきた今西部長の元へと歩いて行った

俺は壁から離れ、加蓮の元へと近づいていく

 

「あ、零次さん」

 

それに気付いた加蓮は、そのまま俺を見上げた

 

「お前、どうしてここに」

「ちょっと熱気に当てられちゃってさ」

 

俺は加蓮の隣に座ることなく、その近くの壁に寄りかかる

 

「借りが・・・出来たかもな」

「え?じゃあ、買い物付き合ってもらうからね。あ、でも零次さんにこのまま借りを作っておくのも悪くないかも」

「はぁ・・・それだけは人生で一番嫌いだっていうのに。レンタルを借りるのですら戸惑うからな俺は」

「それは行き過ぎなんじゃ・・・くしゅんっ」

 

加蓮は横で可愛くくしゃみをすると、手を顔の前で合わせて擦りながら寒そうに息を吐く

よく見ると、この会場に入った時よりも薄着で、若干体も震えている

いくら中が暑かったとはいえ、これはいくらなんでも風邪を引いてしまうだろう

 

「零次さん?どうし・・・あっ」

 

そんな加蓮に俺は、羽織っていたブルゾンを上に被せてあげた

 

「体冷やしちゃダメだって言っただろ。ただでさえお前、体弱いって聞いたからさ」

「昔よりは大丈夫だよ。でも、ありがと」

 

加蓮はそう言うと、両手で襟の部分を掴み、さらに前が寒くないようにそっと閉める

 

「こういうこと男の人にしてもらうの初めて。ちょっとドキッとしちゃった」

「なんだ、いつもの生意気口調はどうした。らしくないな」

「もぉ〜、人がせっかく素直に褒めてるのにさ。ねぇ・・・隣に座らない?」

「何で」

「私が今そうして欲しいから」

 

加蓮は自分の隣のスペースに積もっていた雪を手で払い、座るように促してきた

断る理由がなかった為、俺は言われるがままに隣に腰を下ろす

 

「これでいいのか」

「うん。何だか・・・いいねこういうの。私好きだよ、こういう感じ」

「・・・わからない」

「やっと、隣に座れたよ」

 

すると加蓮は軽く俺の肩に頭を預けてきた

 

「お前」

「そういう雰囲気かなって思ってさ。クリスマスだし」

 

しばらくそうしていると、加蓮がふと尋ねてきた

 

「零次さんってさ、好きな人いないの?」

「今はいない」

「・・・そっか」

 

加蓮は頭を起こして、一つ大きなため息をつきながら白い息を吐き出す

 

「じゃあやっぱり連れ回してもいいってわけだ。というわけでよろしくね」

「・・・ああ、仕方ないな」

「やった。ねぇ見て見て、青葉自動車社員、北条加蓮であります。よろしくお願いしまーす」

 

ブルゾンに付いている''青葉自動車''のネームプレートを強調しながら敬礼して笑う加蓮を、俺は鼻で笑う

 

「ちょっと〜・・・」

「その着られてる感がウケる」

「そういうこと言う〜?普通」

 

加蓮どやされながら、少し寒くなってきたので、俺たちは中へと再び戻っていった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「こ、これも全部・・・たくみって奴の、仕業なんです〜!」

「あぁぁぁん?んだと卯月、アタシにケンカ売るとはいい度胸だ!」

「ち、違うんです〜!こういうセリフを言うキャラらしいんです〜!」

「光!そいつをアタシにも貸せ!5を3回押せばいいんだろ!」

 

中に戻ると、またステージ上で何かしらのイベントが行われていた

卯月と拓海がさっき琴歌達が着けていたベルトを片手に向かい合っている

 

「あ!零次さま、見てくださいましたか?私の華麗なる変身を!後はキックをすればいいんですわよね!」

「今やるとただのカッコいいパンチラだからやめとけ」

「お、いたいた。探したぞ、北崎零次」

 

琴歌と話している最中、凛々しい声と共に現れたのは、美城専務だった

 

「お久しぶりです。本日はお招きいただき、ありがとうございます」

「無事に来れたようでよかった。それに、楽しんでくれているみたいで何よりだ」

 

専務が言っているのはおそらく、さっきの俺を巻き込んでのステージイベントの様子を見てのことだろう

俺は何だか小っ恥ずかしくなって顔を少し背ける

そんな様子を見て、琴歌はクスクス笑っていた

 

「それはそうと、こんな時に言うのも何なんだが・・・少し、頼まれてはくれないだろうか?」

「?」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「で、専務さんが言うにはその古い車を引き取ってほしいと」

「はい。誰ももう乗らないから廃車にするなり何なり好きにしていいと。無駄に維持費も掛かるし、経費削減なんですって。必要な書類があれば持っていくと」

「何なんだろうね?営業車か何か?」

 

専務に頼まれた車を一目見るために、俺とひな先輩と姉さんは一度パーティーを抜け出し、地下駐車場を歩いていた

肌寒い空気が漂う中、その目的の車が見えてくる

駐車場の隅でブルーシートがかけられている比較的小さな車

 

「あ、もしかしてこれじゃない?桃華ちゃん達が言ってたの!」

「たるぇ〜んだか何だかってやつか」

 

確かに、そんなに大きな車でもない

乗用車、セダンか何か・・・いや、ハッチバックの様な形をしている

 

「どれどれ・・・」

 

ひな先輩がその問題のエンブレムを確認するために、車の後ろにまわりチラッとブルーシートをめくって確認する

するとその瞬間、ひな先輩はめくったブルーシートをバッと元に戻し、驚いた表情をしながら前に戻ってきた

 

「どうしたんですか?」

「マジか、マジかマジかマジかマジか」

 

するとひな先輩は車の前側からブルーシートを掴む

 

「零次、手伝え。こいつを剥がす」

「え?あ、はい。わかりました」

「コイツはとんでもないクリスマスプレゼントだぞ」

「なになにひなちゃん、何だったの?」

 

ひな先輩は興奮した様子でブルーシートを引っ張る、その様子はさながらプレゼントを開ける子供の様で、目がキラキラ輝いていた

そして俺も合わせて引っ張ると、いよいよそのシルエットが姿を見せた

 

「ちょっ!ひなちゃんこれ!すっご!嘘でしょめちゃくちゃ綺麗!」

「さすが、ブルーシート被せて保管してたことはあるな。状態が良すぎる」

「おお・・・俺生で初めて見ました」

 

予想通り、ドアが3つ付いたハッチバック

その輝く様な赤い塗装のボディーは綺麗に整っており、長らく誰も乗っていないためかキズも比較的少ない

今はもう中々見ることがない、ライトを点けるとそのライト自体が起き上がりレンズが外に出てくるリトラクタブルヘッドライトは時代の流れを感じさせる

古くてもなお輝きを放つそのオーラはさながら、魔法の馬車のようだった

 

「どうするひなちゃん、お豆腐屋さんでもやる?」

 

そう言う姉さんの言葉がまったく耳に入っていないほど、ひな先輩は目を輝かせて車を見つめ続けていたのだった

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