とりあえずアーニャたちを連れて、私はスーパーから抜け出す
入る時は裏通りから入った駐車場を、今度は表の大通り側から出て町中へと向かっていった
数少ない田舎の、たとえ赤になってもほぼ一瞬で青になる信号を越えて、私たちは二台で目的地へと向かう
時折私はバックミラーで後ろを確認し、無事について来れているか確かめながら車を走らせていた
途中、コンビニに寄って何かお昼を買って帰ろうかとも考えたが、近くの役場から昼飯を買い求める職員の方々が押し寄せる為、アーニャの身バレが恐く断念
同じ理由でラーメン屋等の外食もダメだ
これは後々考えよう
そうこうしているうちに目的地へと辿り着く
駐車場に入ると、ぐるっと半円を描くように回り、元々停めてあった車の横へとバックで停めた
それを見ていたプロデューサー御一行も、私と同じようにバックで隣に停める
後ろの雪山に突っ込まないように誘導しながら無事に車が収まると、エンジンを切って二人が降りてきた
「ヒナコのお家、とても大きいですね。長ーいです」
「そうか?あんまし意識したことはないけど」
道路から約車三台分くらい縦長に長く、二階建ての長方形型
生まれた時からいるから、今更言われても困ってしまう
「いやー、広い駐車場ですね。ここも、蘭道さんの土地なんですか?」
「いや、ここは隣の神社さんの土地だから、レンタルしてるみたいなもん。年単位で利用料払ってるんだわ」
「大きな鳥居ですね、ヒナコ。私久しぶりに見ました」
二人はキョロキョロとあたりを見回して周囲を観察しながら、大通りに面している鳥居の前までテクテクと歩いていき、まじまじと見上げていた
「こんな神社らしい神社は中々ないですね。まるでドラマの中に出て来るような・・・」
「確かに、それなりに観光客はくる。''こんな神社はあまり見ない''って言って」
「アーニャ、後でお参りに来たいです」
物珍しそうに覗いていたが、ただでさえ人通りが少ないので余計に目立つ
二人に声を掛けて、家へと案内することにした
「出てくときは目の前のガソリンスタンドで燃料入れていけよ」
「何から何まですみません」
「アー、ヒナコのお家は・・・お店屋さんですか?」
アーニャが壁から迫り出すように設置してある大きな看板と、正面入り口の上に掛けてある''蘭道商店''の電光板を見てそう尋ねてきた
「まぁ小さいけど、それもやってる。今日は休みだけどな。こっちだ、この横から入ってくから」
正面はシャッターが閉められていて、そこには''定休日''の張り紙がしてある
入れないため横の脇道へと案内して、若干雪が積もっている雪道を抜けていく
「狭くて悪いな」
ただでさえ店の冷蔵庫のファンやらモーターやらが設置されてる狭い道なのに、雪で余計に道幅が狭まり、歩きづらくなっていた
「ここだ。お疲れ様」
「これは・・・温室ですか?」
「違いますプロデューサー。これは玄関フードといいます」
メインとなる玄関を囲むかのようにもう一つ、ガラス張りの四角い小さな温室のようなものが我が家には設置されている
プロデューサーがそう思うのも無理はない、本州では中々見掛けないものだ
「これで家の中に寒い空気が入ったり、中の暖かい空気を逃さないようにしてるんだ」
「なるほど・・・、確かに雪国ならではの工夫ですね」
「夏は本当に温室のようになります。植物を育てたりする人もいるんですよ?」
アーニャの解説を聴きながら、私は鍵を取り出して玄関を開けていく
玄関フードとメインの玄関の鍵が違うので二度手間になってしまうのは仕方ない
「ただいまー」
玄関の扉を開けて、まず手に持っている荷物を床に置く
それと同時にすぐそこの階段から慌ただしくドタドタと降りて来る軽い足音が一つ
「シルヴィアおかえりー!!!」
「た・だ・い・ま」
「手ひゃっこいひゃっこい!ひなこ!ごめんなひゃいごめんなひゃい!」
駆け足で近づいてきたその子に私はしゃがみ込んで同じ目線になると、その子のほっぺたに手のひらを当ててグリグリとこねくり回す
「ひなこ姉さん、お帰り。これどこ?」
「台所に。あれ?サヤだけか?他の奴らは?車もなかったし」
「周りに顔出してくるって。・・・そっちの人達は?」
「あれ?何だ、ママまだ言ってなかったのか」
サヤは私の背後に視線を向ける
私がほっぺたから手を離すと、ユイも私の陰にかくれながら、恐る恐る私の背後を覗き込んだ
「本州から来た私の仕事仲間だ。ちょっと上がっていくから」
「よろしくお願いしますね」
「すみません。少しの間、お邪魔させていただきます」
アーニャとプロデューサーが頭を下げると、サヤも少し困惑した様子でそれに合わせて頭を下げた
ユイに至ってはまだ警戒しているのか私にピッタリくっつき、覗き込んだり隠れたりを繰り返す
それを見ていたアーニャがユイに向かって軽く手を振るが、余計に私の陰に隠れてしまった
「・・・失礼ですが」
アーニャのことが珍しいのか、サヤはおや?っと首を傾げながら尋ねる
「どこかで見たことあるような気がするんですが、会ったことありましたっけ?」
「アー、申し遅れました。私、アナスタシアといいます。ズドラーストヴィチェ、こんにちはです」
「ほら、アレだ。美城プロ・・・って言ってもアレか。アイドルの」
「あ・・・あぁ!」
途端に口元に手を当てて驚いた表情を見せ始め、年相応に女子高生っぽく驚くサヤと、未だに状況が飲み込めていないユイ
サヤの驚く様子にますます私にしがみついてくる
「え?本物ですか?えっ、すごい。ユイ、ほら見て、アーニャちゃんだよ。昨日テレビで観たでしょ?」
サヤに催促され、肩に手を置かれながら恐る恐る再度アーニャを陰から見始めるユイだったがその表情は険しく、相手を探るかのように鋭い視線を送る
アーニャも私と同じようにしゃがみ込んで再び手を振るが、それでも状況は変わらなかった
「・・・ちがうよ」
「シトー?」
突然のユイの発言に今度はアーニャが首を傾げる
「ちがうもん。アーニャちゃんじゃないもん」
「本物だよユイ。握手してもらいな」
私はそう言うが、ユイは首を左右に振る
「ちがうもん。だって、お姫様の服着てないもん」
ユイがアーニャに向かって指を指しながらそう言った
一瞬わからなかったが、きっとユイが言っているのは、ステージ衣装のことだろう
これには私含め他の面々も軽く頷いていた
子どもというのは、純粋に見たままをその人本人だと思うことが多い
テレビのヒーロー然り、映画のキャラクター然り、当然といえば当然かもしれない
「イズヴィニーチェ・・・すみません。今日はアーニャ、衣装持ってきていません。でも、アーニャはホンモノです。信じてください」
「ちがうもん」
それでもユイは頑なに認めようとせず、私から離れてリビングへと行ってしまう
アーニャがその様子を寂しそうな表情で見つめていた
「何だかすいません」
サヤが再び頭を下げて荷物を持ち、ユイを追いかけるようにリビングへと入っていく
「まぁ、ここで話すのも寒いしナンだ。上がってくれ。散らかってると思うけど、悪いな」
「いえいえ、すみません。お邪魔させていただきます」
「お邪魔します。アーニャは、何とかアーニャをホンモノだと、信じてもらいます」
アーニャは相当ショックだったのか、決意を固めながら室内へと入っていった
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「私は和風スパゲティを一つと・・・食後にバニラアイスを一つでお願いします」
「杏は、このミニハンバーグとサラダバーと、ドリンクバーでお願いします」
「ハンバーグと、フライドポテト一つ。以上でお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
店員さんに注文を伝えると開かれたメニューが片付けられ、それを脇に抱えると店員さんがテーブルから離れていった
厨房でメニューを伝える様子を目で何となく追いながら、俺は向かい合って座っている新田ちゃんと杏を見ながら水を一杯飲む
「それにしても良かったのか?こんな普通のファミレスで」
「私は全然。よくプロデューサーさんも連れてきてくれるので、アーニャちゃんともお出掛けしたときに来ることもよくありますし」
「珍しく気を使うじゃん、いつもはあんなんなのにさー」
「失礼な」
コップを持ちカランカランと音を立てて軽く揺らしながら、こちらをからかうように見つめてそう言う杏だった
こっちだって一応気を使って店選ぶんだぞ
この店だって至る所にレトロな物が置いてあってオシャレだと思ったから入ったんだ
丁度スイーツバイキングも期間限定でやっているみたいだったから頼むかと思ったが、そこは見当違いみたいだけど
「・・・女心ってよくわからん」
「おお、梨沙の言う通りかも」
「なんだと?」
「あと、キャンディアイランドで集まったときも、零次さんは掴みどころがないって」
「あいつら・・・」
そこまで仲良くしようとは思ってはいないつもりだが、いかんせんそれでも少し動いたらすぐ話題にされる今日この頃だった
話題にしたいだけなのか、からかっているのか、メンツが個性的すぎてこっちこそ掴みどころが見当たらない
この前に卯月と飯食いに行った時に、久しぶりに''普通''とはこんなにもいいものなのかと思ったほどだ
「今日だってほら、零次さんにお昼ご飯連れていってもらってるなうって呟いたらさ」
そう言って杏が携帯の画面を見せると、デレポの画面に早くも返信が届く
『ということらしいですが、レイさんの元カノだと噂のあーちゃんはどう思いますか?』
『どうも思いません!』
と、藍子も巻き込んでの討論が未央を発端に巻き起こっており、結果的に話が俺のことでしっちゃかめっちゃかになって終着点が見えなくなってしまっていた
「ってことでさ、零次さんの話になるといつも話題があっちこっちに行ってまとまんなくなるんだよ。零次さんって何者?」
「何者もなにも、普通の人間だ。超能力者でもなんでもないし、俺の周りの人達のほうがもっと凄い」
「それよく言ってるけどさ、私も美空さんとか雛子さんとかのことよく知らないんだけど、何者なの?」
「あんまり話題にすると嫌がるんだよあの先輩方は。いずれ機会があったらな。そうだな・・・俺含めてみんな一人っ子だ」
「へー・・・見えない。特に雛子さんとか、なんだかお姉さんっぽかったけど」
「あぁ、それは・・・新田ちゃん?」
さっきから杏との会話が続く中で、新田ちゃんはずっとだんまりを決め込んだまま、ボーッとした表情で窓枠に肘を置いて外を眺めていた
別に何か目的があるわけでもなく、考え込んでいるのか時々顔に不安げな表情が浮かぶ
「おーい、新田美波さーん。なしたのさ。・・・まーた、またまたまた深刻そうな顔して。そんなにアナスタシアが心配か?」
俺が新田ちゃんの前で手を振ると、やっとそれに気づいたのかハッとした表情を浮かべ正面へと体を戻す
「す、すいません。別にアーニャちゃんのことではないというか・・・まぁ、うーん・・・見かたによってはアーニャちゃんのことと言うか・・・」
「なんじゃそりゃ」
「お待たせしました。こちらフライドポテトになります」
一足先にフライドポテトがテーブルの上に置かれる
「何だかアーニャちゃん、最近悩んでるみたいで・・・」