ヘイ!タクシー!   作:4m

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雪かぶり05

「あ!あなたたち!」

 

新田ちゃんと一緒に青葉自動車の事務所に戻ると、事務所の扉を開けた瞬間、文字通り開口一番新田ちゃんの声が事務所へと響く

そこには、受付の椅子や、俺の机の椅子に座りながら姉さんと話をしている数人のアイドルたちがいた

 

「あ、美波ちゃん!お帰り!」

「レイ君!やっほー!☆」

 

俺の椅子でクルクルと回りながら姉さんと話しているみりあと、受付の椅子に座りながら手を上げて笑顔を浮かべている莉嘉

そしてお客様用の待合室の一角で、朝の新田ちゃんと同じように座り雑誌に目を通していた梨沙がいた

梨沙は一瞬俺に視線を向けると、何も言わずに手だけを上げて応え、再び雑誌に目を通し始める

 

「お仕事の邪魔しちゃダメじゃない」

「違う違う、違うのよ美波ちゃん。私がいいって言ったの。レイジ君尋ねてきたけどいなかったし、お客さんも全然来ないから丁度話し相手が欲しいところだったのよ」

 

姉さんがそう言うと、えへへ〜・・・と少し悪びれた感情が入り混じった笑顔を、みりあと莉嘉は新田ちゃんに向けていた

 

「・・・もうっ」

 

新田ちゃんも渋々観念したのか、それ以上は何も言わず、梨沙が座っている反対側の椅子に腰を掛ける

 

「あ!俺のみかんゼリー!」

「えへへ〜、美味しかったです!」

 

みりあの目の前の机には、俺が朝買ってきた間食用のみかんゼリーの残骸が転がっていた

 

「まぁまぁいいじゃないのまた買って来れば!丁度出せるおやつがそれしか無かったのよ」

「ねぇねぇ!レイ君の机の引き出しに入ってたチョコレートも食べていい?ね、食べていい?」

「もう好きにしてくれ・・・。数が少ないから文句言うなよ」

 

それを聞いた二人は、わーい!と意気揚々に机から一口チョコレートが入った袋を取り出してガサガサと漁り始めた

俺もそこから二つみりあに譲ってもらい、新田ちゃんと梨沙に渡す

 

「ありがとうございます」

 

新田ちゃんは素直に受け取るが、梨沙は差し出されたチョコレートを見ると、すぐに雑誌に目を戻して無言で口を開ける

 

「・・・まったく」

 

どこかで見た光景に、俺も同じく何も言わずそのテーブルの空いている席に座りチョコレートの包装紙を開いて、梨沙の口元へと運ぶ

梨沙はほぼ指こと口に含むと、チョコレートだけ器用に受け取り、指から口を離す

 

「お前・・・」

 

俺が呆れながらテーブルの上のティッシュを取り、湿った指を拭き取っていると、梨沙はその光景を見て一瞬鼻で笑い、口元を舌でペロッと舐めとった

 

「そーいえば杏ちゃんは?」

「はっ・・・!杏ちゃんがいるの!?」

 

莉嘉がポツリと呟くと、みりあと姉さんが周りをキョロキョロし始める

 

「杏ちゃんはお昼からとときら学園の撮影があるからって事務所に戻ったわよ。その後にキャンディアイランドのみんなで打ち合わせもあるみたいだから結構今日は忙しい〜って」

「な〜んだ、杏ちゃんいたらアメちゃん貰えたかもだったのにー」

「どっちかっていうとあいつも貰う側じゃないか?」

 

車の中に置いてあった飴の袋の中身がいつの間にか無くなってたしな

 

「あとそーいえばさー」

 

莉嘉は今度はひな先輩の机を見る

 

「今日はヒナさんもいないしどうしたの?」

「ひな先輩は北海道の実家に帰ってる。今日明日明後日といない」

「北海道!?いいなー、美味しいものいっぱいありそう!☆」

「そうね、家族のみんなと美味しいもの食べてるかもねひなちゃん」

「ひなさんのお料理美味しいんだよっ!あとお菓子も作れるって言ってたから今度作ってあげるって言ってくれたのっ!楽しみ!」

 

莉嘉とみりあが盛り上がってる傍で、俺と姉さんの目が合った

 

今は言う必要はないだろう

 

言ったからといって何が変わるわけでもないがデリケートな話題だ、時と場合を見る必要がある

普段は厳しいところもある先輩だがそれ以上に家族思いで優しい人間なんだ

姉さんもそれはわかっているのか、机の上の書類仕事に戻った

 

「・・・次さーん、もしもーし?」

 

気がつくと、新田ちゃんが先程の俺と同じように、語りかけながら俺に手を振っていた

 

「どうかしました?」

「いや、何でもない」

 

俺がそう返事を返すが、新田ちゃんは少し首を傾げる

 

「ねぇ、アンタ」

 

今度は梨沙から声が掛かった

 

「・・・チョコレート好きなの?」

 

一瞬間を空けて言われたのはその一言だった

俺の机にチョコレートが入ってたからただ聞いただけなのか、雑誌で顔を隠しながらぶっきらぼうに言い放つ

そのセリフと雰囲気が表紙に描かれている黒いフェアレディZとなんだか妙にマッチングしていた

 

「なんで」

「別に、聞いただけ」

「・・・まぁ、嫌いじゃないけど。あったら食うって感じ」

 

そう言ったあとに横見たら新田ちゃんが口元を押さえてニヨニヨ笑っていた

 

「苦いやつ?甘いやつ?」

「あー・・・気にしたことないなあんまり。あまり甘いのは・・・食えるけどちょっとな、どっちかというとビターな感じがいい」

「・・・ん」

 

そして何事もなかったように、先程と同じく雑誌のページをめくり始める

再び新田ちゃんを見ると、さっきとは少し変わり俺たちのやり取りを微笑ましい表情を浮かべて眺めていた

 

俺と目が合うと、''いえいえ、何でもありませんよ''と言わんばかりのわざとらしい態度を取り、莉嘉とみりあの会話に混ざりにいく

 

一体何なんだ、俺もお前たちのことがやっぱりよくわからない

 

「ん〜、終わったぁ〜。どうしよっかな・・・フレックスタイム使う〜?レイジくん。この後なーんも予定無いんだよね〜。社長帰ってくるだけだし〜」

 

腕を後ろに組んで大きく伸びると、壁に掛けられているホワイトボードを見ながら姉さんがそう呟いた

 

「フレックスタイムってなーにー?」

 

聞き慣れない言葉なのか、みりあが姉さんに問い掛ける

莉嘉も聞いたことがない様子だった

 

「フレックスタイムっていうのはねー、簡単に言ったら、今日はもう仕事がなかったりしたら早く帰ろうっていうやつかな。帰る時間を自分で決めるの」

「じゃあじゃあ!もう今日はお仕事終わりってことっ?」

「そうね、レイジ君どうする?」

「・・・いいんじゃないですか?たまには」

 

俺がそう返事をすると、姉さんは机の上を片付け始めた

というわけで、久しぶりの早上がりだ

俺は出勤簿を取りにひな先輩の机に向かう

 

「そしたら、この後遊べるってことだよね☆ねーねー?どこいくのどこいくの!?」

「ちょっちょっ、ちょっとちょっと」

 

俺が出勤簿に時間を書いている間に盛り上がっている莉嘉とみりあに向けて、梨沙が雑誌を閉じてツッコミを入れる

 

「この後アタシたちはレッスンでしょ。一緒になって遊びに行ってどうすんのよっ」

「そーだったー・・・あはは」

 

さすがは姉貴分だ

みりあも''しょーがないねー''としぶしぶ莉嘉と一緒に帰り支度を始める

姉さんもロッカー室へと消えていった

 

「さて、お前たちも新田ちゃんのついでに346に送っていけばいいのか?」

「あれ?美波ちゃん会社に戻らないの?」

「ええ、私はこの後何もないから直帰しようと思って」

 

新田ちゃんも上着を羽織り、帰り支度をする

 

「えー?じゃあ美波ちゃん、レイ君と遊びに行くの?ズルーい!」

「何でそうなるんだよ。直帰するって新田ちゃん今言ったばっかだろうがっ」

 

呆れながら出勤簿をひな先輩の机に戻してアイツらを見ると、新田ちゃんが何やら自分の髪の毛をいじりながらソワソワしていた

おいおい、真に受けないでくれよ

いちいち相手してたらキリがないんだから

一方、梨沙の方を見ると、ジトーっとした視線をこちらに向けていた

 

「・・・何?」

「アンタ、変なことすんじゃないわよ」

「だから送ってくだけだって。ふざけたこと言ってるといつかそのツインテール引きちぎるぞ」

「そんなことしたら一生掛けて償わせてあげる」

 

俺と梨沙の間で火花が散り始めた

 

「もうっ!二人ともケンカしないの!」

 

新田ちゃんに止められながらも、梨沙との睨み合いが続いていた

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「よし、必要なものは持ったか?」

「うん!」

「大丈夫」

 

ヒナコが子どもたちに上着を着せている最中に、自分の小さなリュックをヒナコに見せて嬉しそうにそう答えるイオとルリ

 

「ほらほら、手袋はいて」

「いや、いらないよ」

「外寒いからほら」

 

そしてコウがサヤに手伝ってもらって身支度を整えていました

これからみんなである場所に向かうとのことでした

それはどこかユイに聞いてみましたが、教えてくれませんでした

楽しみにしててとのことです

 

「ごめんなさいねアーニャちゃん。付き合わせてしまって」

「いえ、アーニャは大丈夫です。いつもみんなのステージ、楽しみに見ています。なので今日もどんなステージなのか、今からとても楽しみです」

 

ヒナコママが大きなダンボールにお菓子を詰めながら、アーニャにそう言いました

アーニャもお手伝いしますと言いましたが、そんなことはさせられないと断られてしまい、ヒナコパパが車を準備している最中に、すでに外に出る準備を済ませているスミレと遊んでいました

 

「よし、私も車まわしてくるから、お前たち表のシャッターの前で出ろ。パパももう車持ってきてると思うから、次々乗り込んでけ」

「あ、蘭道さん。私も車を出しましょうか?」

「そうだな・・・お前たちも来るなら席足りないから、出してくれると助かる。気をつけてな」

 

ヒナコの号令で子どもたちが元気に返事をし、玄関から飛び出して行きました

プロデューサーも車の鍵を持って、ヒナコと一緒に外へと出て行きます

私も、床に寝転んで楽しそうに腕を動かしているスミレを抱き抱えると玄関まで出て、そこでサヤに鉢合わせしました

 

「あ、アーニャちゃん。いいよ、私が」

 

サヤは腕を伸ばしてスミレを受け取ろうとしますが、私はそのまま抱き抱えていました

 

「いえ、スミレは私が責任を持って連れて行きます。どの車に乗せてあげればいいですか?」

 

そう言うとサヤは一瞬驚いた表情をすると、その後に柔らかい笑顔を浮かべて、それじゃあお願いねとアーニャに任せてくれました

そして、サヤが家の鍵を閉めている間に、私がヒナコパパの車に乗せてあげました

 

「おお、ありがとうねアナスタシアさん。プロデューサーさんと気をつけて来るんだよ」

 

後ろの席のチャイルドシートにスミレをしっかり座らせてシートベルトを締めてあげます

それをヒナコパパが確認すると、車を出して走っていきました

 

「これから、どこに行くんですか?」

 

次にヒナコの車が出ようとしたところで、プロデューサーが運転席にいるヒナコに話しかけます

窓が開いてヒナコが答えました

 

「老人福祉施設だよ」

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