RE01
「もー、お姉ちゃん。だからシートベルト締めたほうがいいって言ったのに」
「待って莉嘉、そんな揺すらないで・・・、色々と出てきそう・・・」
もうそろそろ夕方に差し掛かる頃、美城プロに着いて早々、ふらふらな足取りを莉嘉に支えられながら、本館入ってすぐの壁際にある休憩スペースの椅子にドサっと座り、グッタリと項垂れる美嘉姉ちゃん
乗り込んだ最初の方はわりかし元気が有り余っていたんだけど
仕事中はスマートに、サッと女の子を送り届けるのがカッコいいんだぞ★
とか言うもんだから、てっきり急いでいるのかと思い車をここまで走らせてきた
結果それでよかったのかよくなかったのか、慌ててないあたり正解だったと思いたい
「お姉ちゃん、誰かに迎えに来てもらう?志希ちゃんとか?」
「やめて。それだけはやめて。自分で行く」
そして、しばらく経った後そのままオフィスビルへと続く渡り廊下へと歩いていこうとするその姉妹に、俺も少しだけ肩を貸してやることにした
「あ、レイ君ありがとう!もー、お姉ちゃん。しっかりしてよー」
「なんでアンタは平気なのよ・・・」
「そりゃあレイ君にいっつも乗せてもらってるもん」
春のイベントだかライブに向けて、シンデレラプロジェクトのメンバーを最近は送迎することが多くなった
ラブライカの単独ライブも成功を収めたということで他の面々も気合が入り、それは莉嘉も例外ではなく、レッスンの他に仕事も結構な数こなしているという
「仕事詰め込みすぎなんじゃないのか?ちょっとはゆっくり休め」
「全然そんな事ないよ☆。今日もお姉ちゃんと仕事で楽しかったし、この前なんてね、KBYDのみんなとクイズしたの!幸子ちゃんがね、罰ゲームで熱湯風呂に入って、すっごく楽しそうにしてた!」
・・・体張ってんなぁ、あいつ
本格的にバラエティアイドル路線にシフトしたほうがいいんじゃないのか?
まぁ、俺が決めることでもないんだけど
「レイ君ありがとう。もう大丈夫だよ!」
エレベーターの前に着くと、莉嘉は上へ行くボタンを押し、扉の前で待機する
ここに降りてくるまでに少し時間があるようだ
「あ、そういえばレイ君」
ふと、莉嘉が俺に話しかける
「レイ君って、チョコレート好き?」
「まぁ、別に嫌いじゃない。あったら食べる」
最近、この返しを何度繰り返しただろう
いつもの小さい子集団のチヴィーズたち、JC組、JK組、JD組、大人たち問わず、結構な回数その質問をされている気がする
明日バレンタインだからなのだろうか、みんなにチョコでも配って歩くのだろうか、詳しい理由がわからないが貰えたら義理でも嬉しいもんだけど、どうだろうな
またクリスマスの時みたいに皆で集まってチョコレートパーティーでもやるのかもしれない
「苦いの?甘いの?」
「あまり甘いのはなぁ・・・どっちかっていうとビターな方がいい」
「えぇ〜?ミルクチョコレートとか美味しくな〜い?」
前にも梨沙に同じような質問をされたような気がする
よくあんなに甘いのが食べられるな、さすが女の子だ
夕美たちに連れられてファミレスに行ったときも、よくもまぁあんなクリームたっぷりなストロベリーサンデーをまるまるたいらげられるもんだと感心していた
「わかったレイ君!じゃあ、楽しみにしててね☆」
莉嘉がそう言ったタイミングで丁度良くチャイムと同時にエレベーターが到着し、扉が開いた
そしてまた美嘉姉ちゃんを引きずるように乗り込もうとしていたので手伝おうと俺も再び肩を貸そうとしたが、莉嘉に止められて姉妹二人だけでエレベーターに乗り込んでいった
「おい、本当に大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫!上に行ったらLiPPSのみんなもいるって言ってたから!」
「えっ、ちょっと待って私聞いてな」
バタンとやり取りの最中に扉が閉まり、モーター音と共にそのままエレベーターは上へと行ってしまった
それだけ人が居ればきっと大丈夫だろう
少し見送ると俺は、すぐそばの自動販売機や有料のコーヒーメーカーなどが設置されているスペースへと足を運ぶ
コーヒーメーカーにお金を入れ、時間帯的に仕事がひと段落するかしないかのこの若干静まり返った空間で一人、紙コップにコーヒーを入れる
するとそんな休憩スペースに、トコトコと小さな足音が近づいてきた
「あ・・・零次さん」
「お、千枝。お疲れ」
レッスン終わりなのだろうか、上下美城のロゴが入った青っぽいジャージを身に纏った千枝が若干汗を額に滲ませて笑顔で応える
「今日もお仕事ですか?」
「まぁ、そんなところ。美嘉姉ちゃんと莉嘉を送り届けに来たわけだ」
「あ、そういえば今日収録でしたもんね」
やり取りの間にコーヒーメーカーから作業完了のアラームが聞こえ、俺は紙コップを取り出し、側にあったスティック型の砂糖とマドラーも同時に持ち出した
そしてそのまま近くのテーブルへと赴き、コーヒーを口にし始める
「ん?なした?」
ふと気がつくと、先程からそんな俺の様子をジッと観察するように見続ける千枝だった
むっ・・・と何か覚悟を決めたようにコーヒーメーカーへと近づき、俺と同じように紙コップを用意し、俺と同じようにコーヒーを入れ始めた
「なんだ、千枝もコーヒー飲むのか」
「え、ええ・・・!千枝はもう、大人ですから!それはもう、ゴックゴクですよ!」
正直に言って、隣の自販機のスポーツドリンクの方が良さそうな気がするんだけど
心なしか、コーヒーが出来上がるまでの間の待っている姿まで俺と同じようなスタイルを取っているような・・・気がする
とりあえずそんな千枝を気にしつつもコーヒーを飲みながらほっこりしていると、千枝のコーヒーが出来上がった
それを手に取ると、またまた俺と同じように砂糖を二つ持ち出し、俺と向かい合うように座る
「たぶんだけどさ、もうちょっと砂糖多いほうがいいと思うぞ」
「いえ、私はこれくらいがベストですので!」
まぁ本人がそう言うなら・・・
千枝は意を決したように砂糖の袋を破り、コーヒーへと入れていく
そしてマドラーでよくかき混ぜると、いよいよ紙コップを手に持った
「じ、じゃあ・・・いただきます!」
普段飲んでいるって言ってるわりには、随分と気を入れるんだな
千枝は恐る恐るコップを口へと近づけ、コーヒーを飲み始める
最初こそ何食わぬ顔で飲み続けるが、ものの数秒で顔を歪ませてコップを口から離し、少し舌を出しながら俯いて苦しそうな声を出していた
「う・・・うぇぇ〜・・・」
「はっはっは」
そんな様子が少し面白かったので笑うと、千枝は、むっ・・・と今度は不機嫌そうな表情を俺に向け再びコップに口をつけるが、やはりすぐに口を離してしまう
「・・・はぁ」
見かねた俺は、飲み終えた紙コップを自販機横のゴミ箱へ捨てにいくのと同時に、自販機でスポーツドリンクを購入してまたテーブルへと戻った
「俺、まだコーヒー飲み足りないから、このスポーツドリンクと交換してやってもいい」
「えっ・・・!あ、いや、ち、千枝は大人ですから、これくらい・・・大丈夫、です」
一瞬、嬉しそうな表情を浮かべた千枝だったが、またすぐ強張った顔をしてコーヒーに口をつけ始める
「じゃあ、俺と勝負だ」
「勝負・・・ですか?」
「そうだ。俺の質問に答えられなかったらこのスポーツドリンクとコーヒーを交換してもらう」
「わ、わかりました。いいですよっ!」
よしよし、ノッてくれた
「車は燃料をエンジンに送るだけじゃ動かない、''あるもの''と一緒に混ぜて爆発させる。その''あるもの''とは一体なんだ?」
「・・・は?」
俺の言葉を聞いて素っ頓狂な声を上げた千枝だったが、すぐに頭を抱えて考え始めた
普通の人だったらすぐに匙を投げそうな問題だが、考え込むあたり真面目なんだなぁやっぱり
「どっちかというと理科の話かもしれないなこれは」
「えぇ・・・何と混ぜる・・・、爆発・・・?」
「10、9、8、7、」
「ちょ、ちょっと・・・!え、えっと・・・金属、じゃないし・・・車といえば、ガソリン・・・?」
考えに考え込む千枝だったが、無情にもタイムアップを告げる
「はい、残念でした。千枝の負けだ、ほら」
そう言ってスポーツドリンクを差し出すと、千枝は一瞬嬉しそうな顔をするが、すぐに不機嫌そうな表情を浮かべて大人しく受け取った
「何だか納得いきません。答えは何なんですか?」
「ん?そうだな・・・自分で考えてみ?答えはいつでも受け付ける」
「・・・イジワル」
千枝はしぶしぶコーヒーを俺に差し出すが、その表情は少し和らいでいた
「・・・このまま飲んでもいいのか?」
「え?あ、そうですね・・・あの、・・・どうぞ」
あら、女の子だから''そういうの''は気にすると思っていたんだけど、案外そうでもないのか?
千枝は少し照れながらも、手を俺に差し向けてそのまま飲むように促す
俺は言われた通りにそのまま飲むが、かわりにスポーツドリンクに口をつけ始めた千枝の顔は少し赤く染まっていた