ヘイ!タクシー!   作:4m

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RE02

「じゃあな」

「はい、お疲れ様でした」

 

夕方、346の玄関先で私は、ごちそうしてもらったスポーツドリンクを両手で持ち、彼を見送っていた

相変わらず来たことや出て行ったことが一瞬でわかる特徴的な音がする車に乗り、門を出て行く直前で彼は片手を上げて私の見送りに応えた

それに対して私はペコッと頭を下げると、そのまま彼は行ってしまう

 

「あら千枝、お疲れ。なんだ、アイツ来てたのね、少しくらい顔出せばいいのに。ったく」

 

大きく体を伸ばしながら、同じようにジャージに身を包んだ梨沙ちゃんがタオルを首に掛けて私の隣へと並ぶ

 

「そういえば千枝、あんたどうするの?作るの?買うの?」

 

恐らく、梨沙ちゃんが言っているのは''あの事''で間違い無いだろう

私の周りはもちろん、中学生のみんなや高校生のみんなも、得意な人に教わりながら今回は作る人が多いみたいで、それぞれそれをプロデューサーに渡したり周りの人に渡したりと、これから事務所や寮などで様々な''準備''が行われようとしていた

 

「私は今回は・・・作ってみようかなって」

「あら、そうなの。事務所で作るの?今なら私たちのオフィスで仁奈とか他の子たちが作ってるから材料分けてもらえると思うけど」

 

なるほど、朝来た時にオフィスの冷蔵庫の中に沢山あった材料はそれだったんだ

ちひろさんあたりが気を利かせて買ってきてくれたのかもしれない

 

「そういえば、梨沙ちゃんはどうするの?」

「へ?アタシ?ア、アタシは・・・まぁ」

 

まだ何も具体的な事は言っていないのに、徐々に言葉がどもりだす梨沙ちゃん

 

「今回は、作ろうかなって思ってるけど・・・そう!パパが手作りのものが食べてみたいって言ってたのよ!だからみんなの分も含めて作るわ!まぁ、多分余るだろうから?あいつに少しは分けてあげようとは思ってるけど!」

 

ふふん!と、まだ私は何も言っていないのに具体的なプランを話し始める梨沙ちゃんだった

 

「まぁ、せっかく渡すんだから美味しく作れればいいんだけど、私たちのメンバーの中に上手な人って居たっけ?」

 

確かに、高校生組なんかには上手な人が沢山いる

その人たちに教わることが出来れば幸いだが、いかんせん今日はてんてこまいになっているだろう

結局自分たちで作ることにはなってしまうが

 

「大丈夫、武器はあるよ」

「武器?」

 

恐らく、今年は彼に渡す人が増えるだろう

その中でも印象に残るようなものを出来るだけ作りたい

私はスポーツドリンクと一緒に持っていた小さなメモ紙を握りしめ、そう思うのだった

 

「それに本当にわからなかったら、一番詳しい人に聞いてみよ?」

「一番詳しい人?」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

美城から帰っている最中にも、街中の至る所で女性がスーパーや専門店に入っていき、そしてチョコレートが入った袋をぶら下げて出てくるという光景が多く目に入ってくる

それは子供から大人まで幅広く、チョコレートといってもキチンと包装されたものから、本当にその辺で売っているものに加え、さまざまな材料も同時に購入する人などスタイルは様々だった

 

『さぁさぁ!本日限定販売のエアインチョコでございます!ご家族ご友人そして恋人同士などどんな形でもどうぞ、お楽しみください!』

 

お店も積極的にチョコレートをアピールし、外で特設ブースを設けての販売も行うなど、お互いに切磋琢磨し合っていた

そこでも多くの女性たちが列を作っている

 

「・・・チョコレートってどうやって作るんだ?」

 

車のラジオからもバレンタイン特集、時間も丁度学生や会社員が帰ってくる時間帯だからか、主に作り方の内容が多い気がする

やれ、クリームだの牛乳だの水だの重曹だのの分量とそれを配合する手順が説明されているが、いい感じにチンプンカンプンだ

ひな先輩ならわかるかもしれない

 

「・・・アレ?」

 

会社の駐車場に着くと、すでにひな先輩の車がなくなっていた

時間帯は丁度定時を回った頃で問題はないんだけど珍しい

いつもは何かしら片付けをしてからみんなで事務所を出るという感じなのに

 

「ただいま戻りましたー」

「んー」

 

事務所に入ると、やはりそこには姉さん一人だけで、奥のソファーに座りテレビを見ながら手を上げて応える

 

「ひな先輩はどうしたんですか?」

「帰ったー」

「ああ、やっぱりですか」

 

会社の用事なら社用車なりハチロクなり使うはずだし、やっぱり帰ったことに間違いないようだ

ひな先輩の机の上もきれいに片付けられているし、出勤簿もすでに帰った時間が記入されていてハンコが押してある

 

「珍しいですよね。ひな先輩が定時キッチリに帰るなんて」

 

俺が荷物を机に置き、帰る準備のため若干机を掃除していると、俺の言葉を聞いた姉さんがギギギッと細いスティック状のお菓子を咥えながら首をこちらに向けた

 

「ムフッ、ムフムフフフフフ・・・」

 

俺と目が合うや否や、気持ち悪いほどニヤニヤした笑いを浮かべてこちらの様子を伺いながらお菓子をポリポリ食べる姉さん

 

「レイジ君」

「・・・何ですか」

 

その様子に若干引いていると、姉さんはピョンっとソファーから立ち上がり、俺に近づいてくる

 

「モテモテねぇ〜」

「はいー?」

「あっはっはっは。これあげる」

 

そう言って姉さんは俺に残りのお菓子を渡すと、自分の机に戻り帰り支度を始めた

 

「ちょっと、どういう意味ですか」

「さぁ〜?わたくしめには何も〜?明日になったらわかるんじゃなーい?」

 

フフーンと言葉の端々に浮き足立つような鼻歌を交えながら、意気揚々と準備を進める姉さんだった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「じゃあ私そのままガレージ帰るんだけど、レイジ君どうする?」

「俺はちょっと用事済ませてから帰ります」

「あぁ、彼女か」

「いや全然違います。ゲーム買いに行くだけです」

 

そうよね〜!と背中をバシッと叩かれながら俺と姉さん二人駐車場に停まっている車へと歩いていた

あの後帰ってきた社長も今日はもう仕事がないということなので、事務所を閉めることになり、社長は先に帰っていった

なんでも家族とバレンタインのチョコレートを作るのだそうだ

 

「ゲームってアレ?奈緒ちゃんが言ってた、女の子を銃で撃ってメロメロにさせるっていうやつ」

「いや違いますそっちじゃないです。小梅が教えてくれた方です」

 

先日青葉自動車の事務所で雑誌を読んでいた時に、遊びに来ていた小梅が目をキラキラさせて見ていたゲーム特集の欄にあったサバイバルホラーゲーム

アイドル達は基本ゲームはおろか''ゲーム機''に触れたことがない人たちばかりだったので、中々に手を出しずらかったらしい

だからみんなあんなに夢中になってプレイするわけだ、新田ちゃんはそれだけではない気もするが

とにかく、俺がゲーム機なら持っていることを伝えると、ほんと・・・!?と目を一層キラキラさせるもんだから、じゃあ買ってみるかと予約しておいた

 

昔遊んだもののリメイクだったこともあってとっつきやすかったのと、何かと普段逆にお世話になることが多い小梅だったので、今度事務所に遊びに来る時にでも見せてあげようというわけである

意外と色々なことに気づくんだよな、あの子は

とりあえずそのゲーム機は俺のアパートにあるからどっちみち持ってこないと

 

「じゃあ私は一足先にガレージに戻るね」

「あ、はい。お疲れ様です」

「ニッシッシッシ」

「なんですか」

「べっつに〜」

 

と言って車に乗り込んでいく姉さん

発進間際に俺に向かってバイビー!と手を降り意気揚々と去っていった

 

「さて、向かいますか・・・」

 

誰もいなくなった駐車場で一人エンジンをかけ、俺は会社を後にした

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「・・・なんだよこれ」

 

客足がスーパーなどに向いているからか、特に混雑することなく無事にゲームソフトを確保できた俺は、すっかり暗くなった辺りに紛れてガレージのシャッター前に車を停め、横のドアに近づいてみると、妙な張り紙がガラスに貼ってあることに気がついた

 

よく見てみるとそこには、

 

零次侵入禁止、今日は家に帰れ

とっととお家に帰りなさい!

とっとこ帰太郎

 

と、三行筆跡の違う文章が白い紙に変な似顔絵を添えて書かれていた

携帯のライトで照らしてみると、一人は・・・このツインテールに怒り顔は梨沙か?

短髪にうさぎの髪留めは千枝っぽい・・・

 

とにかく考えても仕方ない

入るなと言われているなら無理矢理突入するわけにもいかないし・・・

参ったな、まともな着替えが家にあったかな・・・

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「・・・行った?」

「行ったわね」

 

零次さんの車のエンジンが切れてから、私と梨沙ちゃんはシャッターの端に隠れて、外の様子を伺っていた

彼は扉に近づいてくると、用意した張り紙をライトで確認し、何事もなかったかのようにその場を去っていく

 

「どうどう?私の書いた似顔絵は!無事に効力を発揮したようね!」

「どっちかっていうと呆れて帰ってったほうが可能性が高い」

 

下にいた美空さんが、上から下を覗き込んでいたひなさんにそう言うと、ひなさんは家庭科の授業みたいにハンカチを頭に巻きつける

 

「さて、千枝行くわよ。あー、パパに喜んでもらうために頑張らないとっ」

 

零次さんが出ていくのを見送ると、大きく腕を伸ばしながら、梨沙ちゃんは階段を登っていく

その様子を見て私も、両手をぎゅっと握りしめて気合いを入れた

 

「ひなちゃーん、そういえば牛乳足りるのー?」

「今日は牛乳使わない」

「えっ!?ミルクチョコレートは!?」

「今日は砂糖二つ分だから」

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