「えぐっ・・・ぐすっ・・・うぇぇぇ・・・」
さて、どうしたものか
そろそろ通りすがりの人たちの視線が痛くなってくる
両手で目を擦りながらスンスン泣いているその制服を着たお団子ヘアーの女子高生と、チョコレートを持って佇んでいる俺
側から見ればどう考えても俺が何かしたと思われるような光景だった
「むふ〜、おにーさんひどーい」
しまいには、近くの街灯に寄り掛かっていた紫色の髪の黒っぽい服装も含めいかにも小悪魔ギャルっぽい女の子に茶々を入れられる始末
というかアンタ、最初からこの展開見てただろうが
「い、いいんでず・・・ぐすっ、私が・・・わだじが遅く並んだからいけないんでず・・・でも、ぢょごぉ〜・・・」
「えーん、えーん」
紫髪の女の子もからかうように泣き真似を始めた
時折チラチラこちらを伺いながらニヤニヤ笑っているあたり、中々に意地が悪そうだ
「わ、わかった。わかったって」
痺れを切らした俺は、泣いている女の子の腕を掴んでとりあえず立ち上がらせて、邪魔にならないように歩道脇へと移動する
「ホラ」
そう言ってチョコレートを女の子に向かって差し出すと、泣くのをやめてチョコレートを受け取る
「でも・・・これ」
「別に、そこまでして食いたかったわけじゃない。たまたま目に入ったから列に並んだだけだ。気まぐれだよ気まぐれ、運が良かっただけだからさ」
じゃあなとその場を去ろうとすると、待ってください!と俺を呼び止める
「チョコを愛する気持ちは全人類が一緒のはず!だから、お兄さんにも楽しむ権利があるはずです!」
・・・なんだ、やっぱり最近の女子高生は世界レベルなのか?
俺を呼び止めたあと、女の子はチョコレートの包装紙を丁寧に剥がすと、蓋を開けて中を確認する
その中は小さく小分けにされたプラスチックの容器が綺麗に並び、その一つ一つの中の紙製の容器にチョコレートが入っているという何とも手間のかかりそうな高級仕様だった
「だから・・・おひとつどうぞ!」
女の子は俺に向かって、その入れ物を差し出す
中はどれも一緒だったので、とりあえず言われた通りに端っこの一つを摘んで口に入れた
どれも食べやすいように一口サイズになっていたため、これなら老若男女問わず軽く摘むことができる
「うん・・・美味いわ」
さすが高級チョコレート、これだったら1500円の価値はある
甘さも丁度よく、極端に偏った味がしないオールラウンドなバランスだ
エアインチョコの名に恥じることなく、口に入れて味わった瞬間のこの独特の感触もクセになりそう
ふむ、いい買い物をした
「後で私にもちょーだーい」
「うん!いいよ!」
相当お人好しなのか、相変わらず街灯に寄り掛かりながら見ていた紫髪のギャルにまで分けてあげようとしていた
そうして、チラチラ雪が降っている中で俺たち三人の奇妙な出来事は終わる
別れ際に俺にお金を渡そうとしてきたが、流石にそこまでケチケチしていないので、そのまま奢ってあげることにした
何万円っていうならまだしも、まぁアレで喜んでたし、よしとしよう
そして俺は夕食を買うために、スーパーへと車を走らせる
何かチョコレートのお菓子でも買って帰るとするか
ーーーーーーーーーー
スーパーへ着くと、流石にもう夕食に程近い時間帯なので、奥様方の姿はまばらだった
惣菜コーナーを見てもすでに空っぽに近い存在で、売れ残った商品に半額のシールが貼ってある
気に入った商品がなかったので、まず先にチョコレートがあるかどうかお菓子売り場までやってきたが・・・
「マジか」
綺麗さっぱり何も無くなっていた
それはもう文字通り、チョコを使ったお菓子は存在していたが、チョコレートそのものはなんにも無くなっていた
流石バレンタインデーだ
「それならどうすっか・・・」
色々考えながら、店内を歩いて色々吟味する
焼きそばでも買って焼いて食べるか、肉でも焼いて食べるか、それなら米も必要だな
こんなに献立を考えるのって大変だったっけか・・・
改めてひな先輩の偉大さがわかる、俺にはあれほどレパートリーもないし
そうこうしているうちに、レジまで戻ってきた俺は、結局手っ取り早いのはコンビニかと思い出口に向かおうとした途中、レジ脇の買ったものを整理する台から、沢山の食材を抱えながらその場を後にしようとするお姉さんを見つけた
お姉さん・・・というよりはおばさんに近い年齢か、髪が長くて綺麗な人だった
家族が多いのか沢山の買い物袋をぶら下げて、見るからに歩きづらそうにしている
大丈夫か?と思った矢先にそのお姉さんは体勢を崩し、床に座り込んでしまった
買い物袋からいくつかの商品が床に散らばる
「おっと、大丈夫ですか?」
「あ、ごめんねぇお兄さん」
謝るそのお姉さんと一緒に俺もしゃがみ込んで散らばった商品を集める
「ケガしてないですか?」
「ええ、全然平気。大丈夫大丈夫」
「大丈夫ばい!?」
偶然通りかかった、リボンが特徴的な少し訛っている綺麗な女の子も、一緒になって商品を拾ってくれた
「うちも沢山作る時、食材いっぱい買ってよろよろになるたい。気持ちは痛いほどわかるとよ」
そうして三人で散らばった食材を集めて、なんとか袋へと詰め直す
「ありがとう二人とも。もう大丈夫よ」
そう言って立ち上がり、裾をほろってから袋を持ち直すお姉さん
何だか帰り道が心配である
「あら・・・あなたがもしかして、''れいじさん''?」
「え?あ、はい北崎零次と言いますが・・・」
「なんやね、お兄さんの知り合いやったと?」
いきなり名前を呼ばれて驚いたが、その理由はすぐにわかった
お姉さんが着ている上着の肩の部分、そこには美城プロダクションの刺繍が入っている
何という偶然だろうか
「私、女子寮の寮母をしているの。あなたの色々なお話はよくあの子たちから聞いているわ」
「それは・・・恐縮です」
「ええ、面白い人がいるって」
どんな風に伝わっているのか若干恐くなってきた
とにかく、今はそれは置いておいて、そうなったら話は早い
「車で来てないなら送っていきますよ。外はチラチラ雪降ってますし、その様子見たら心配です。お姉ちゃんもありがとな」
「わかったばい。気をつけて帰るとよ!」
そう言うと、そのリボンの女の子は出口へと向かい、最後に俺たちに向かって笑顔いっぱいで手を振ると玄関から出ていった
「送ってってくれると助かるわ。ごめんなさいね、もう夕食時なのに」
「いえいえ、これが''仕事''ですから」
そして二人で出口へ向かうと、俺は正面玄関まで車を持ってくるため、駐車場へ向かう
まったく今日は不思議なことばかりだ、チョコレートも結局買えなかったし・・・あ、晩飯どうしよ
ーーーーーーーーーー
「紗枝は〜ん」
「・・・なんでしょか?」
「おみかんさま〜」
「少しは自分で取ったらええんとちゃいます?」
「違うんよ紗枝はん、私が起き上がれないんじゃないの、おこたが私を離してくれないんよ」
起き上がることもせずそう言う周子はんに、私は少し呆れ顔だった
少し圧迫された声を出しているあたり、うつ伏せになりながらゴロゴロしているのが容易に想像できた
そう言う私も、寝転がりこそしてないものの同じようにコタツに入り、テレビをつけて二人リラックスしている
今は他の子たちが食堂のキッチンを占領しているため、今日の夕食は少し遅れ気味だ
先程寮母さんが足りない食材を買いに行ったためもう少しだとは思うが、それまでは自分の部屋でくつろぐことにした
みんなよう頑張りますなぁ
「紗枝は〜ん」
「なんどす」
「おみかんさま〜」
「・・・まったく、しょうがないなぁ。少しは自分で動かないけまへんえ?」
「今回だけや〜ん」
そう言ってさっきから私にばかりみかんを剥かせている
コタツの上に用意したみかんがどんどん減っていくが、殆どが自分で剥いていったやつだった
実家から送ってきたみかんが順調に無くなっていくのは腐らせないよりマシだが、何だか納得がいかない
「・・・できましたえ」
「紗枝はんありがとー」
そう言って上機嫌に体を起こしてコタツを挟んで向かい合うのは、ダボダボなTシャツにブラすらつけていない、だらしない格好をした周子はんだった
ボサボサの髪の毛のまま、すいませんすいませんなんて言いながら私からみかんを受け取ろうとするが、私はそれから三分の一くらいを千切って手元に残す
「これくらいは''手間賃''として頂いておきます」
「手厳しいね〜」
「嫌だったら少しは自分でやってください」
そう言いながらもついつい言われた通りにやってしまう自分も、中々にお人好しなところがあるのだろう、こののんびりした空気は嫌いじゃない
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、周子はんはよく私の部屋を訪ね、こうして二人のんびりすることが多い
そして私もみかんを口にするのだった
「紗枝はんさぁ〜、その格好なんか窮屈じゃなーい?」
「ええんどす、だらしない周子はんが目の前にいるんやから、私がしっかりしてバランス取らないかんのどす」
私が着ている着物を見ながら、周子はんはそう言う
私までそんな格好したらいよいよダメになってしまうと伝えると、周子はんはより一層目を輝かせた
「ええ〜、何だか面白そうやん。いつもしっかりしている紗枝はんが、だらしない格好したらどうなるかって〜」
「自分で''だらしない格好''って自覚あるなら、周子はんの方こそ私みたいにしっかりしたらええんとちゃいますか」
「まぁまぁ、それは、置いといて」
手で荷物をよけるような仕草をした周子はんは、みかんを食べ終えると近くにあった私のジャージの上着を取る
「ちょっとこれ借りるね、うんしょっと・・・」
「・・・周子はん、そのお胸の大きな''おみかんさま''二つ、丸見えどすえ」
「ええんよ、どうせ誰に見せるわけでもないし〜」
そう言いながら着ていたTシャツを脱いで、ぷくっとしたお胸を見せながら、私にそのTシャツを渡してくる
「何の真似どす?」
「ほらほら、ダメになっちゃいなよ〜。貸してあげるからさ〜」
「・・・イヤです」
「誰に見せるわけでもないんだからさ〜」
ニヤニヤしながらなおもTシャツを差し出し続ける周子はんに、私は半分諦めてそれを受け取った
「お、意外とノリノリじゃ〜ん」
「たまには周子はんのおふざけに付き合うのもいいかなと思っただけどす」
そして私は着物を脱ぎ、丁寧に畳んでクローゼットにしまい、和装用の下着も脱いで洗濯カゴへと入れる
「そうそう。そして、この洗濯予定の普通の下着をつけると」
「そんなだらしないことできません」
「いいんだって〜、どうせ洗濯するんやし。あ、下のジャージもあったよ。はい」
「・・・もう」
もはやなすがまま、着せ替え人形のように洗濯カゴの中から下着も一式取り出し言われた通りに着替えると、それはもう絵に描いたようなだらしない自分が生まれ、姿見でその服装を確認しため息をつく
「・・・よくいつもこないな格好できますなぁ」
「楽だよ〜、ラクラク。さぁさぁ座ってみて座ってみて」
そして私のジャージの上着を着た周子はんと二人、コタツに戻っていく
確かに、さっきよりは随分楽だが、認めたくはなかった
「どうどう?」
「確かに・・・楽ではありますが」
「でしょ〜?お仲間だね〜、紗枝はん」
「はぁ・・・」
そう言ってまた二人でテレビを見ていると、何だか外のから階段を騒がしく駆け上がってくる音が聞こえてきた
「なんやえらい騒がしいなぁ」
廊下もドタバタと駆け抜けて、その人物は自分の部屋へと駆け込んだのだろう
隣から扉を勢いよく開け閉めする音が聞こえ、その後何かを必死に漁っているような音が聞こえ始めた
「下で何かあったんかなぁ・・・」
「自分の服にチョコレートでも引っ掛けたんじゃな〜い?」
それにしては慌てすぎな気もしなくはないが
「あれ?見に行く〜ん?」
「飲み物が無くなっただけどす、下に取りに行ったらすぐ戻りますえ」