「私、こういうところ初めて来た」
「そうだよね、中々女の子はこういうとこ来ないよね〜」
「何やら沢山機械が置いてありますなぁ。ちんぷんかんぷんどす〜」
「ボクにも何に使うものなのかさっぱりわか(ビー!)わぁー!ごめんなさいごめんなさい!」
横方向に動く床に足をとられ、工場内にブザーが鳴り響いた
「あはは、大丈夫大丈夫」
「この、動く床?みたいなのはなんなんやろなぁ」
「ああ、これはサイドスリップテスターっていって・・・」
海道さんに連れられて、ボク達はロケーションになりそうな場所を探して青葉自動車工業の工場の中を歩いている
辺り一面には、普段暮らしていては滅多に見られない物や風景で溢れていた
移動する机の上や壁にはおそらく車を直すために使う工具が置かれていたり掛けられていたり、後はよくわからない数字や記号や文字が書かれたプレートが壁に貼り付けられている
鉄骨剥き出しのその壁は、まるで会社の地下駐車場のようだった
「それにしても、どうしてウチの仕事を引き受けてくれたの?お世辞にもウチはそんなに大きな会社じゃないし・・・あなた達ならもっと大きな仕事がありそうな気もするけど」
海道さんが天井近くの箱から伸びるホースの横の紐を引っ張り、カラカラという音と共にホースを上に巻き取りながらボク達に尋ねる
「あー、ちょうど仕事が全く無かったときに青葉自動車さんのキャンペーンガールの仕事を見つけまして、美城専・・・上司に相談してみたら、是非受けてほしいと」
「幸子はんが猛プッシュしてくれはったんどす〜。興味深々みたいやったし〜」
「え?は、はい!自動車を直すお仕事って凄くカッコいいなぁ〜って思って!」
「あら〜、嬉しい事言ってくれるじゃない!」
そう言うと海道さんは、自分の移動する机(キャディっていうみたいです)から一枚の色紙を取り出した
「あのー・・・よかったら、サインとか・・・頂いちゃったりしても?」
海道さんが両手で色紙を差し出し、恐る恐るこちらの表情を伺いながら尋ねてくる
ボク達はお互い顔を見合わせて、快く了承した
嬉しそうにキャーっと可愛い反応をする海道さん
ま!ボクもカワイイですが!
「じゃあ私から!ふむふむ、海道さんへ・・・と!」
「そういえば昨日キャッツ勝ったわね」
「あれ!?お姉さんもしかして結構いけるクチ!?」
色紙が紗枝さんに渡る
「きゅきゅきゅ〜っと、是非今度京都にもいらしてくださいね〜。美味しいところたくさんございますえ〜」
「紗枝ちゃんありがとう。一回行ってみたいんだけど、中々時間が取れなくてね〜」
最後にボクに色紙が渡された
「よいしょっと、はい!カワイイお姉さんへ!ま、ボクもカワイイですが!」
「いや〜ん!生カワイイ頂きました!ホントにホントにみんなありがとう!」
ぎゅっと抱きしめられている色紙には、ボク達三人のサインと、海道さんへと書かれたメッセージが書き込まれていた
そのメッセージの最後には、三人がそれぞれ書いたハートマークが可愛く添えられている
「それにしても、お姉さんも美人なんですから、モデルとかになれそうなのに」
「あら、友紀ちゃんありがとう。昔レースクイーンみたいなのはしたことあるけど・・・ああ!ダメよダメ!ケータイで調べるみたいなことしたら!もう、恥ずかしいんだから!」
きゃーっと両手で顔を覆う海道さん
ケータイという単語でその時、ボクは自分の携帯を車に忘れたことに気づいた
「あ、ごめんなさい!ボク・・・携帯を車に忘れてきちゃったみたいで・・・」
「あら全然取ってきていいわよ!私達、多分裏にいると思うから」
「すいません!すぐ戻ります!」
そう海道さんに伝えると、ボクは急いで車へと向かった
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「ん、こんなもんかなぁ」
一通りスポンジで車を洗い流し、水をかけたところで、せめてものお礼としてボディコート剤を使い、丁寧に拭き取り始める
車の外装がみるみるうちに綺麗になり、まるで新車のような艶が出ていた
そんな最中工場をチラッと覗いてみると、あの三人が姉さんと仲良さそうに話している様子が見えた
姉さんも話好きだから、あの三人と仲良くなれるのもうなずける
昨日キャッツの試合をテレビで観ていたのもあり、野球が好きと言っていたアイドルとも話が弾んでいるようだ
「あのー・・・すいません」
「ん?はい?」
工場から目を離し、車の拭き取りに戻り少しすると、背後から話しかけられる
振り返ると、右手を胸に当て、恐る恐る俺に向かって話しかける輿水幸子ちゃんの姿があった
相当緊張しているのか、左手もきゅっと握られている
「携帯を車の中に忘れてしまって・・・取ってもいいですか?」
「ああ、いいよいいよごめんね。どうぞ」
俺はスライドドアの前から避けると、幸子ちゃんがドアを開け中に入りドアが閉められた
携帯を探して、幸子ちゃんが中で右往左往している横で拭き取りを再開する
・・・それにしても、あらためて考えるとやっぱり凄いことだよなぁ
あの超人気アイドルグループが、こんな小さい整備工場のキャンペーンガールの仕事を引き受けてくれるなんて
もっと大きな仕事なんて沢山あるはずなのに、その方が会社の利益にも貢献できるのになぜ?
いくら社長の友人や孫が働いていると言っても、損益で動くはずの大企業が簡単に許可を出すはずがない
何か本当に裏があるのでは?
そんなことを考えていると、スライドドアが再び開き幸子ちゃんが降りてきた
「あの、ありがとうございました!」
「あー、うん。見つかった?ああ、よかったよかった」
そう言って作業に戻る
・・・戻るんだけど、背後から何やら視線を感じる
じっ・・・と俺がやってる作業を見つめ、話し掛けようとしているのかそうでないのか、若干気まずい雰囲気が流れていた
「あ、あはは・・・どうしたん?まだなんか忘れ物?見ててあまり楽しい作業じゃないと思うけど。ああ、みんななら裏に行ったの見たから、そこの右からぐるっと周れば裏に」
「やっぱり、あの時のドライバーさんですよね」
携帯を持った手を後ろに組み、まっすぐ俺の目を見つめてそう言った
「その声にその後ろ姿、間違いないと思うのですが」
「あー・・・姉ちゃんの言ってる人、もしかしたら別に居たりして・・・」
「ほら、その"姉ちゃん''って台詞。あの時言われたのとおんなじです」
すると、ゆっくりとこちらに向かって近づいてくる
「最初は今西部長が車を呼んだと聞いていましたからタクシーの運転手さんかと思いました、しかしまさか整備工場の方だったとは」
「・・・あの時は悪かったね。恐い思いさせて」
「ホントですよ。本当に恐かったんですから」
いつの間にか俺の顔を覗きこめる位置まで接近していた幸子ちゃん
んー?と顔を左右に揺らしながら俺の顔色を伺っていた
てっきり怒っているかと思っていたが、その表情はイタズラを仕掛けるような、ニヤニヤした笑みを浮かべ、しばらくそのまま俺の顔をじーっと見ていた
俺は少し身構える
「まぁ、何はともあれ」
そう言うと、顔を離し先程と同じように手を後ろに組み笑顔で続ける
「あなたのおかげで私達は、今こうしています。今日はその言葉をどうしても伝えたかったんです。あなたのしたことは許しましょう!ボクはカワイイので!」
満面の笑みを浮かべ、身を翻し、少し駆け足で工場へと戻っていく
ちょうどメンバーも、裏から戻ってきたみたいだ、手を挙げて幸子ちゃんを迎えていた
「ボクはカワイイのでって。ふふっ、なんだそりゃ」
幸子ちゃんが合流する直前、チラッとこちらを向き軽く手を挙げる
俺もそれに合わせて、手を挙げて答えた
世間を魅了する346のトップアイドルグループ
それに夢中になる人の気持ちが少しわかった気がする
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「では、後ほど書類を上に送ったあとで今回のロケーションを見たアイドルの意見も絡めて詳しい撮影のスケジュールをご連絡致します。本日は本当にお忙しい中ありがとうございます」
『ありがとうございます!』
プロデューサーの後に続き、KBYDも頭を下げ挨拶を交わす
さすがトップアイドル、来た時もそうだが場数を踏んでいるだけはあり、こういう場のマナーはしっかり心得ているようだ
「いやいや、こちらもKBYDさんのような有名な芸能人と一緒に仕事ができるなんて本当に光栄です。何卒、今後ともよろしくお願いします」
社長がプロデューサーと握手を交わし、頭を下げたタイミングでこちらも一同揃って頭を下げる
会社としての顔は社長で、いつも他の企業の重役とは社長がやり取りをしているので、こういう場は慣れないが朝礼の時の挨拶訓練が役に立っているようだ
「これで私たちは失礼させていただくのですが、青葉社長。一つ、勝手なお願いをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい、我々に出来ることなら」
社長がそう言うと、プロデューサーは俺に目を向けた
「この後予定がなければ、彼を連れて美城プロへ戻りたいのですが、青葉社長の許可を頂きたいのです」