「よいしょっと・・・これ本当に一人で持ち帰ろうとしてたんですか?」
「いつものことだから。冬は少し恐いけど」
いくらスーパーが近いからってこの量をいつも歩いて持って帰っているとは
車を女子寮の裏口へ止め、荷物を寮母さんと一緒に玄関先まで運ぶ
中に入るのは悪い気がしたので、扉を開けてすぐの小上がりに置いておこうとしたが、そのまま中に持っていってくれると嬉しいわと言われてしまったので、中に上がりキッチンへと繋がっているという短い廊下を歩く
「今扉あけるから待ってね。あの子たちもそろそろ終わってると思うから」
何だかとてもとても恐い気がする
何気なく入ってきてしまったが、本来なら男子禁制、入ることが不可能な領域に足を踏み入れてしまっている
本当なら誰にも会いたくない
いなくなっていることを願おう
「あらあら、終わったの?上手に出来たわねぇ」
「はい!響子ちゃんの教え方がとっても上手で、美味しくできました!」
ダメだ、美穂の嬉しそうな声と、それに応えるかのような複数人のアイドルの声が聞こえてきた
「あ、奥に運んでおいてくれる?残りは私が持ってくるから」
「え?あ、ちょっと・・・」
それだけ言い残すと、寮母さんは再び車に戻っていく
そこに突っ立っているわけにもいかなかったので、俺は言われた通りに、できるだけこっそり入っていくことにした
身をかがめて、見つからないように中へと侵入する
キッチンへと入った瞬間、甘いチョコレートの匂い
その出来栄えを確かめていたため、こちらに気づいていない
よし、いいぞ。このままこのまま
「あ・・・こんばんは・・・!」
ふと、ふわっとしたようなか細い声が、その集団から聞こえてきた
恐る恐るそちらを振り返ると、集団の足元からひょっこりと、小梅がこちらを覗き込み笑顔を浮かべている
「どうしたの?小梅ちゃ・・・」
そして、次、また次へと目が合っていくアイドルたち
美穂、響子、まゆちゃんとお互い何も喋らず沈黙が続く
「・・・どうも、お疲れっす」
それを破るように俺が一声かけた瞬間
『きゃあぁぁぁ!!』
と悲鳴が一つ轟いた
「な、な、なんでなんでなんで!!!?何でいるのこの変態変態へんたぁぁぁい!!!」
「わ、私こんなカッコ・・・!!ご、ごめんなさい!ごめんなさーい!!」
「あらあら、こんばんわぁ。零次さん」
俺に向かってお玉をブンブンと振りながら罵倒する響子と、突然その場から走り出し食堂から出て行ってしまったジャージ姿の美穂
そして丁寧に挨拶するまゆちゃんだった
「寮母さんの手伝いだ。ちょ、響子、お玉を振り上げるな」
「うるさい!この変態!来るなら来るって前もって言ってくださいよもう!」
響子は急いで作ったチョコを冷蔵庫にしまうと、美穂と同じように食堂を後にしていった
「零次さん、プロデューサーさんはまだ事務所にいましたか?まゆ、今日は早く帰りたいってわがままを言ってしまったから、怒ってるんじゃないかって心配で」
「いや、俺も出てきたのは随分前だから分からんな。そんな話は聞いてはいないけど」
「そうですか?ふふっ、よかった」
まゆちゃんは普段と変わらず、可愛らしい笑顔を見せていた
プロデューサーととても仲が良いと聞いていたので、何事もないならそれでいい
こういう真面目な子は貴重だ
「手伝うよ・・・?」
「いいって、その奥に置くだけだし」
そう言ったが、小梅は俺のところまで近づき、俺が持っているのとは反対の袋の取っ手を掴むと、二人で短い距離を移動してキッチン脇の床に食材を置いた
「いつも・・・お世話になってるから・・・」
えへへ・・・と俺に向かってはにかむ小梅
ちんまりして子供っぽく見えるが、普段は意外としっかりしていて、頼り甲斐があるところもあったりする
俺も美城の中で分からないことがあったら教えてもらったりと、助かることが多い
「ありがとうありがとう、これで全部よ。零次さん、噂に聞いてた通り良い人ね」
「いえいえ、そんな。当たり前のことをしただけです」
「車の運転も上手なんだよ・・・!あと、たまにお菓子をくれるの・・・」
小梅が俺のことを追加で一生懸命に説明してくれていた
何はともあれ、これで一件落着だ
俺は車に戻ろうとすると、食堂の扉が開いた
「お水〜、ふぁ〜あ・・・お水はんはどこでしょ〜な・・・」
その人物が食堂に入った瞬間目が合ったが、一瞬誰だかわからなかった
身の丈に合わないダボっとしたTシャツと、それにミスマッチなトレーニング用?のジャージ
髪はボサボサで、大きくあくびをしてTシャツの下から手を入れてお腹あたりをポリポリと掻いていた
目が合うと同時にその人物は一瞬で動きを止め、二人の間に沈黙が訪れる
「あ・・・紗枝ちゃん・・・」
沈黙を破ったのは小梅だった
続いて寮母さんが食材を冷蔵庫に入れる音が響き始める
「あ・・・あ、あ、あ、」
無意識なのだろうか、徐々に右手を持ち上げて俺を指差す紗枝
というより珍しい、いつも着物のイメージがあった紗枝だったが家に帰るとこういう格好もするのか
新田ちゃんといい、やっぱりプライベートではそういう格好もしたくなるだろう、普段が普段キチンとしていなくちゃいけないし
「おう、お疲れ。悪いな、お邪魔してる」
・・・返事がない
俺を指差して固まったままだ
「あ、あ、あ、あぁぁぁぁー!!あ・・・あ、あぁぁぁぁぁぁー!!!」
さっき飛び出していった美穂と同じく俺を見て叫ぶ紗枝だったが、続けて自分の服装を確かめるようにTシャツの下を引っ張りながら叫んだ
「なぁ、紗枝・・・」
「いやぁぁぁぁー!!!」
そしてまた叫びながら振り返り、美穂たちと同じように食堂から走って出て行ってしまった
「・・・やっぱり嫌われてるんかな俺。なぁ?」
「零次さん・・・もうちょっと女心について勉強したほうがいいよ・・・」
ーーーーーーーーーー
「あっはっは、おもしろーい。次くるわこれ」
紗枝はんがいなくなった部屋で、私は先程と変わらずコタツでぬくぬくとしながらお菓子を摘み、テレビを見る
みかんを剥いてくれる人がいなくなったので、今度は自分で起き上がりテーブルの上からお菓子を取って再び寝転がった
すごくなーい?自分で起き上がって取ったんだよ?
褒めてくれてもいいと思うんだけどなー
お笑い芸人がネタを披露し、テレビから聴こえてくる笑い声に合わせて自分も笑っていると、下からドタドタと慌ただしく上に駆け上がってくる音が聞こえてくる
さっきから何回か聞こえてくるけど、なんかあったんかねー?まぁいいか
そしてまたテーブルの上からお菓子を取ろうと起き上がると、そのドタドタがこの部屋の前で止まり、何者かが玄関を勢いよく開ける音が聞こえてきた
「んー?」
このリビングに繋がる扉を挟んだ奥の廊下から、その人物がドシドシとこの部屋に近づいてくる音が聞こえる
ガチャッとリビングの扉が開く音が聞こえると
「い!!!け!!!ずっ!!!」
という叫び声と同時に私の視界を遮るかのように何かが勢いよく飛んできた
「な、なんなん・・・紗枝はんどうしたn」
「やかましゅーこはんやわ!!!アホ!!!」
と、視界を覆っている先程貸した私のTシャツを顔面から除けると、今度はさっきすぐそこの洗濯カゴから取り出した下着がポンポン飛んでくる
パンツは狙っていたのかそうでないのか洗濯カゴに見事ゴールしたが、ブラの紐が私の頭に引っ掛かり、小ぶりのパッドが視界を覆った
「ああもうまったく・・・これやあらへんし、あった・・・!あとは下着を・・・」
手でのれんをかき分けるようにパッドを上に持ち上げると、そこには生まれたままの姿プラス靴下一丁というなんともマニアックな姿で私に背中を向けてクローゼットを漁る紗枝はんがいた
あれよこれよと取り出し、あっという間に床が散らかりだす
「あの・・・紗枝はん?」
「あぁん!?」
「その・・・カワイイ''桃さん''が私に丸見えなんですが・・・」
「誰に見せるわけでもあらへん!!」
聞く耳を持ってくれなかった