ヘイ!タクシー!   作:4m

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W-Day
W-Day01


扉が開き、そして閉まる

重々しい表情を浮かべながら部屋に入ってきたその子は、椅子に座っている私を見るとより一層その眼光を鋭くした

テーブルが一つと椅子が二人分、テーブルを挟んで向かい合うように置かれてそのテーブルの上には電気スタンドが

それ以外はほぼ一切物がない小さな一室

私は窓側、すなわち奥の椅子に座り、その子の動向を窺う

制服姿の私とは対照的に、練習着のジャージに身を包んだその子は、しばらく部屋を歩いた後に私の後ろの窓のブラインドを閉め、スタンドの電気を点けて反対側の椅子に座った

 

「では、取り調べを始める」

 

その言葉に私は両手を左右に広げて、からかうように小さく鼻で笑う

 

「容疑者、はやみん。17歳。誕生日、7月1日。出身地は東京、趣味は映画鑑賞。ほほう・・・中々に面白い経歴だ」

「普通のことしか書いてないと思うのだけれど」

「とぼけても無駄だっ!」

「まだ何も言ってないじゃない」

 

そう言い返すと、未央はぐぬぬ・・・と固唾を飲みながら私と睨み合う

 

「聞きたい事は山ほどではないけどある」

「病み上がりなの。お手柔らかにね」

「まずはこれだ」

 

すると未央は上着の右ポケット、にはなかったようだ

 

「あれ?どこいったっけ・・・あ、あった!・・・これに関してなのだが」

 

いつもの声色に戻ったと思ったら、また刑事ドラマの刑事のような低い声でそう言い直すと、上着の左ポケットから一枚の写真を取り出し、静かにテーブルの上へと置く

 

「これはらんら・・・確かな情報筋から頂いた物だ」

 

そこには、買い物袋を両手にぶら下げて道路脇を歩いている私の姿が遠くから写っていた

 

「どこもおかしなところなんてないわ。買い物帰りだったのよ。別に変な格好もしてないし」

「問題はそこじゃない!この、買い物の量と場所だっ!」

 

バンッとテーブルを手のひらで叩く未央

 

「はやみんのマンションは女子寮とは反対方向のはず・・・なのに!なぜわざわざこの量を、この場所で買っているのだ!自宅の近場で買った方が絶対楽なのに!」

「いいじゃない。たまには気分転換に散歩でもしながら買い物しようと思っただけよ。本当におかしなところなんてないわ」

「ぐぬぬ・・・」

 

ついに口に出して言い始めたわこの子

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「・・・やっちまった」

 

久しぶりに自宅のベッドに寝転がり、何もない部屋を背景に体温計のデジタル画面を確認する

窓から差し込む日差しが眩しく、外は憎たらしいほどに晴れ渡っているのに、朝からその表示されている数字に憂鬱になっていた

大体の原因はわかっている

昨日の夜、風呂上がりに寒空の下家まで帰ったのがマズかったのだ

特にすることもなかったから久しぶりに部屋でも掃除しようかと意気込んだのがダメだった

仕方ないじゃないか、ゆかりの時みたいに人が来ることが万が一にでもこれから起こりうるかもしれない

あまり想像したくないけど

とにかくそれが原因だおそらく

 

「ひな先輩に連絡しないとな・・・」

 

もう会社にいるだろうか?

頭が重い、今日はずっとベッドに体を預けていたい気分だ

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ゆかりさん、よろしいではないですか。情報の共有は大切ですわ!」

「ダメです。あの時私にはどうしても外せない用事があって、それに関係しての不可抗力でした。他に方法がなかったんです。本人の許可も取っていませんし、何故か今日は連絡がつかないんです」

 

別館の休憩スペースで新聞を読みながらお茶を飲んでいると、向かいのテーブルでゆかりと琴歌が何やら論争を繰り広げていた

 

「だって・・・ずるいですわ!ずるいですわ!私だってもっと仲良くなって、もっと色々な事を教えていただきたいですのに!ゆかりさんだけずるいですわ!」

 

内容はわからないが、琴歌が腕を上下にぶんぶん振りながらゆかりをまくしたて、ゆかりはゆかりでそれを適度にあしらいつつ、待ち時間を利用して学校の教科書に目を通していた

 

「奏!待たせてすまない!」

「あら、プロデューサー。全然待ってないわよ、大丈夫」

 

顔を上げると、プロデューサーがその手に書類を抱えながら慌ただしく私の前へと立つ

 

「さっき他のメンバーがスタジオ入りしたと連絡が入った。すぐにお前も連れて現場に向かいたい」

「ええ、わかってるわ。久しぶりにLiPPSのみんなとCM撮影だから、私も少し楽しみにしてたの」

 

私は新聞を元の場所へと戻し、飲んでいたお茶の紙コップをゴミ箱へと捨てると、床に置いていた自分の荷物を持って席を立った

しかし、プロデューサーはどこかに連絡しているのか、携帯の画面と時折りにらめっこしながら、私に申し訳なさそうな表情を浮かべる

 

「あ、ああ。実は、その後の仕事のことで少し打ち合わせをしていて遅れたんだが・・・」

「・・・何かあったの?」

「まぁ・・・!零次様が!?それは一大事ですわ!」

 

聞こえてくる琴歌の言葉が若干気になったが、プロデューサーへと視線を戻す

 

「その後の現場への送迎をいつものお兄さんに朝頼んでみたんだが、なんでも今日は会社を休んでいるらしくて無理だと断られてしまったんだ。だから現場までは自分で移動になってしまうんだが、俺もどうしても手が離せなくってな。そんなに遠くないところなんだが・・・そうここのスタジオなんだ。大丈夫か?」

「・・・ええ、別に。直接行けばいいのよね?それくらいだったら何でもないわ」

 

一緒に仕事の書類を確認してみると、確かにそこまで離れてはいなかった

何駅か地下鉄を乗り継いでいけば到着する。そこからは少し歩くがそこまでの距離ではない

 

「すまない、助かる!今車を正面にまわしてくるから待っていてくれ!」

「わかったわ。それと・・・この埋め合わせは今度、ね?」

「ははは、厳しいな。お手柔らかに頼むよ」

 

そう言うとプロデューサーは颯爽とエレベーターに乗って行ってしまった

さて、いつも通りプロデューサーの事もからかった事だし、今度は''いつも通りじゃない''こっちの案件ね

 

「琴歌」

「奏さん!」

 

その言葉に合わせて、向かいに座っていたゆかりも頭を下げる

 

「何かあったのかしら?随分と騒がしい様子みたいだけれど」

「そうなんです奏さん!実は零次様が・・・!」

「あの男が?」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「・・・そうか、ゆっくり休め。こっちは心配するな、今日はあまり仕事も入ってないし・・・ああ、そうだな・・・」

 

零次の机の上にある携帯を手に取り、言われた通りに暗証番号を打ち込んで確認すると、結構な数の通知が溜まっていた

 

「そうだ、全部あの子たちからだ。とにかく、連絡があったらこっちから事情を伝えておく。とりあえず大人しく寝てろ、じゃあな」

 

そう言って自分の携帯の通話を切って机に置くと、肘をついて一つため息をついた

その間にも、何回か携帯が机の上で震えている

 

「ひなちゃーん、ドラム缶いつ届きそ〜?」

「昨日頼んだから今日の午後か明日」

「んー・・・一応ペール缶一つ頼んでおいてもいいー?」

「まぁ・・・うん、そんなに仕事は入ってないけど」

「そっかぁ、あのオイルそんな一気に使うってこともないから一つ頼んどけば十分・・・おやおや?」

 

工場から事務所に入ってきた姉さんは、零次の机の上で震えている携帯が気になるのか、手に取って画面を確認していた

 

「むっふっふ、レイジ君相変わらずモテモテねぇ〜。今日はやっぱり休みなの?」

「風邪ひいたんだって」

「ふーん・・・」

「ちょっと、あんまり変にイジんないでよ」

「大丈夫大丈夫〜」

 

私の忠告をちゃんと聞いているのか、画面をタッチして何やら操作をし始めている姉さん

余計な事はするなとは念を押しておいたが、何をしでかしているんだろう

 

「これでよし・・・っと。で、ひなちゃんはどうするの?」

「どうするって何が」

「言わなくてもわかってるくせに〜」

 

にしし〜と憎たらしい笑顔を浮かべて姉さんは自分の机に座り、施設の管理表にチェックを入れ始める

 

「心配なんでしょ〜?様子見にいかなくていいの?」

「別に。放っておけば治る、風邪くらい。それに私がここ離れたら誰が受付するのさ。社長もいないのに」

「ふむ・・・ま、それもそっか」

 

チェックが終わったのか、管理表を私の机へと持ってきた

 

「案外大丈夫そうかもね〜」

「だからさっきからそう言ってるじゃん」

「いやいやそうじゃなくてね?」

 

未だに震えている携帯を見ながら、姉さんは何かを企んでいるかのような笑顔を浮かべていた

 

「レイジ君、意外と''人気者''だから・・・てハ・ナ・シ」

「・・・まったく、世話を焼かせるガキだ」

「まぁまぁ、''保護者''が増えるのはいい事じゃない。孤独死とかしなさそうだし将来」

 

ね?と私にそう言う姉さんに鼻で笑って返し、私は業務に戻る

零次の出勤簿に欠勤の印をつけて、いつものところに戻す

まったく・・・後でアイスでも買ってやるか

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