「・・・」
「・・・」
お互いに無言の状態が続く、テーブルの上の一枚の写真を挟みながら、先程と変わらずお互いに椅子に座って向かい合い睨み合いが続いていた
私は時折り、からかうようにウィンクをしたりすると、未央は少し照れながら顔を逸らしたりするのが何だか面白い
「はやみん顔がいいから照れる。それは控えるように」
「あら、嬉しい事言ってくれるじゃない」
そう言ってまたウィンクをすると未央は必死に堪えるように口をへの字に曲げ、顔を真っ赤にして、んー・・・!むむむっ!と唸るような小さな悲鳴をあげるも、今度は私から目は逸らさなかった
「あの〜・・・失礼しまーす・・・」
控えめなノックが聞こえたかと思うと、部屋の外からそんな声が聞こえ、扉がゆっくりと少し開いた
「ぷはっ!はぁ〜・・・待ってたよ〜みほちー!」
「ご、ごめんね!ずっと探してて・・・」
扉の隙間からひょこっと姿を見せたのは、何かが入っているビニール袋を手からぶら下げた美穂だった
未央は解放されたように椅子から立ち上がり、美穂へと近づく
「・・・何でこんなに部屋が暗いの?」
「いや〜、なんていうか・・・雰囲気出したくてさ〜。あ、ありがとね。わざわざ」
「いいのいいの、丁度私もお昼ご飯買いに行くところだったし」
美穂はそう言うと、ニコッと笑いながらその袋を未央へと渡す
「あ、でも一つ謝らないといけないことがあって・・・カツ丼無かったんだよね。だから、牛丼になっちゃったんだけど・・・」
「なんと!」
未央は受け取った袋の中身を確認する
申し訳なさそうな表情をしている美穂をなだめると、再度お礼を言って美穂を帰した
去り際に美穂は私に頭を下げたので、手を挙げて応える
「というわけで、カツ丼が牛丼だ」
「あら、ありがとう。丁度お腹空いてたのよ私」
目の前に出された大手チェーン店の牛丼と、缶のお茶とお箸
美味しそうな匂いが部屋に漂い始める
未央はその後に窓のブラインドへと近づき、おもむろに指をブラインドへと乗せて外の様子をうかがい始めた
「そしてはやみん、私のなけなしのお小遣いをはたいて買ったその牛丼並盛りの対価として聞きたいことが一つある。むしろ、これが今回の本題と言ってもいいだろう」
「いただきます」
私は手を合わせて牛丼の前で一礼すると、パキッと箸を割り、二段に分かれているうちの上の段の部分を持ち上げて、そこに乗っている肉を下の段にあるご飯の上に乗せた
うん、中々に美味しそうだ
美穂も気を利かせて、丁度いい具合に温めてくれていた
「今回の一件・・・らんらんが撮った写真と、はやみんが目撃された場所、そして買い物の量、時期、あとその他の情報から推測すると・・・」
口に入れた瞬間にぶわっと広がるお肉の味、肉汁、それを包み込むようなご飯の味
高くもなければ安すぎることもないこの安定している完成された味は、さすが大手チェーン店といったところ
最近はあまり行く機会がなかったから、久しぶりに食べると中々に美味しかった
「はやみんは・・・レイさんの家にお邪魔したという結論に達したのだ!!」
お茶を飲んでいると、未央がこちらに向かってビシッと指を差していたので、私も人差し指で軽く未央を指差し、指をくるくると回す
「もうっ!はやみんったら!一人だけ美味しい思いをしてっ!」
ブラインドを開けると、未央は向かいの椅子へと座り、少し前のめりになって私へと詰め寄る
「ねー、いいじゃ〜ん。レイさんのお家に行ったんでしょ〜。場所教えてよっ、ね?しぶりん達も知りたがってるけど誰も教えてくれないんだってさ〜。ほら、牛丼も奢ったことだし〜」
「私、奢ってなんて一言も言ってないわよ?それに、本当に行ったかどうかなんてわからないじゃない?」
お茶を置き、再び牛丼に手をつける
未央はさっきまでの態度とは一変、いつもの調子で甘えるように迫ってきた
「絶対行ったよ絶対そうだもん〜、ね〜はやみんお願い〜。疑いのあるゆかりんに聞いても知らないの一点張りだし、うめちゃんも''私は行ったことがない''っていうしさ〜、お願いだよはやみん〜。もうはやみんしかいないんだよ〜」
私は牛丼を一口箸でつまむと、その甘々攻撃中の未央の口元へと運ぶ
「とりあえず食べる?」
「・・・食べる」
「はい、あ〜ん」
目をつむり、大人しく口を開けて待っている未央に一口食べさせると、未央はそれを美味しそうに味わうのだった
ーーーーーーーーーー
「えっ!?レイさんが風邪!?」
「は、はい。そうみたいなんです。私もついさっき聞いたばかりで、詳しいことはわからないんですが・・・」
レッスンルームで二人、鏡の前に座り、目の前で踊っているトラプリを眺めながら休んでいると、しまむーからとんでもない情報が飛び込む
「この後にPCSのみんなと写真撮影があって、その送迎をお願いしようとプロデューサーさんが連絡してみたら、今日は風邪でお休みですって言っていたらしくて・・・」
「そっか・・・そんなイメージ全然なかったんだけどな私」
いつも動き回っていた印象が強かったから、風邪で寝込んでいる様子が想像つかない
それに、今日はホワイトデーだったからみんなのリアクションも楽しみたかったのに
「でも心配です!風邪をひいたらみんな一緒ですから!零次さんも人間なわけですし!」
「そうは言ってもさぁ〜、なんかコロッと治ってきそうじゃない?男の人なんだし」
「で、でもぉ〜!」
「聞き捨てならないわね」
気がつくと、ダンスレッスンを終えたトラプリメンバーがこちらへと戻ってきていた
かれんが一歩前に出て、私たちの話にまざる
「たかが風邪だって言っても、どう悪化するかなんてわからないものだよ?寝込んでるっていうことは結構重症だったり・・・するかも」
「さ、さすが・・・説得力が違うな」
かみやんの言う通り、かれん自身の経験からかその言葉には重みを感じる
今でこそマシになったとは言っていたが、たまに体調を崩すこともある
ちょこちょこしぶりんとかみやんがお見舞いに行くところもみたことあるし
「それにだ、休養するにしてもキチンと水分を取り、栄養も取って何より安静にすることだ。ただ寝ているだけではダメだ、体にエネルギーを与えなければ闘う力も無くなってしまう」
「ベテトレさん・・・」
「ま、零次さんも人間だしね〜」
「そ、そうですよね!やっぱり心配です!」
かれんやベテトレさんの話を聞いて、ますます心配な様子のしまむー
かくいう私もそこまで言われたら気にせざるを得ないが・・・
「たしか・・・レイさんって一人暮らしなんだよね?」
「うん。普段はあのガレージにいるって言ってたけど・・・今はどうなんだろ?卯月、何か聞いてる?」
「えっと・・・今日は自分のアパートに戻ってるって言ってたような・・・」
ってことは・・・今レイさんは一人ってことか・・・
「さっき私が言ったことを一人でしっかりできるなら治りは早いだろう、しかし一人暮らしとなると、どうなっているかはわからん」
「私も休んでた時はお母さんがいたし・・・」
「なんかずさんそうだよねあの人、一人で大丈夫なのかな」
しぶりんがそう言った瞬間、かれんはふふふっと笑う
「一人になんてさせないよ」
そう言うとかれんは壁際に置いてあった自分のバッグから携帯を取り出し、どこかへと連絡を始めた
「あ、もしもし?うん、私。加蓮。今大丈夫?・・・大丈夫じゃないよねごめん。いや、用っていうか大丈夫かなーって思って、うん、それで思ったんだけど、零次さん色々大変そうだから私、手伝いに行こうかなって、色々私も経験あるしさ、だから・・・」
しばらく、かれんは何も言わなくなった
すると耳から携帯を離して画面をタップし、通話が終了する
「・・・ダメか」
「なんて?」
「一言だけ''いい、来るな''って言われた」
やはり、''あちら側''のガードは固かった
侵にゅ・・・お邪魔するにしてもお家がどこにあるかわからない、完全に情報不足だった
「・・・これは」
「これは?」
「作戦会議ですな!」
そう簡単にはいかないということか
普段のあの様子じゃ、あの手この手を尽くしても突破は厳しそうだ
普段の恩返し、そうこれは恩返しなのだ!
決して面白そうとか、そういうわけではない
私たちがもっとレイさんと仲良くなる為の重要なステップなのだ
ならばハードルは高い方が面白い
「えっと・・・まずは消化にいいものを、それからスポーツドリンクと・・・あとは、私の経験だと・・・」
ほらごらん!既に我が優秀なメンバー候補達が準備に取り掛かろうとしている!
だがやはり何より必要なのは情報だ
レイさんの家に直接行った者がいれば話は別だが
・・・いやまて、この前レイさんは女子寮に行ったと言っていたな、そのメンバーなら何か知っているかもしれない
「ふふっ・・・ふふふふ」
「なぁ、おい凛。未央のやつどうしたんだよ」
「さぁ、また何か変なことでも考えてるんじゃない?」