「フンフンフフーン」
「あ、紗枝はん?うん、こっち終わったんよー。予定通り事務所には戻れそう。うん、今日は帰れそうだって寮母さんに言っといてーん。え?自分で言えって?ええやーん、丁度電話してるんだから言っといてくれてもー」
部屋の中央にある大きなテーブルに備えられている椅子に私たち三人は集まり、二人はお互いに同じように携帯を片手に椅子に座り、フレデリカは画面を見ながら何だか楽しそうに鼻歌を歌い、周子は紗枝にとやかく言われながらも通話を続けていた
私はそんな二人を見ながら、このLiPPSの控え室でテーブルの上にこの後取材を受けるファッション誌を開き、コラムを一人読んでいた
「おっ疲れちゃ〜ん」
そんな抜けたような声を上げて扉を開けて入ってきた志希は、そのまま部屋の冷蔵庫へ直行し、中を漁り始める
「志希、あなたまず着替えたら?」
「すぐ着替える着替える〜。まずは飲み物っ」
私はそんな志希に目をやるのと同時に出入り口上に設置されていた時計の時刻を確認すると、そろそろ針は三時を回ろうとしていた
「あ、志希ちゃんおっつ〜」
「周子ちゃんおっつー、周子ちゃんも飲む?この乳酸菌飲料。冷蔵庫にたくさん入ってるの」
電話が終わった周子が志希に話しかけると、志希はいつもの調子でふにゃっとした笑顔を浮かべ両手に乳酸菌飲料を持って周子に話しかける
''私はいいわー''と周子が言うと今度は私に話を振ってきたため、首を横に振って再び雑誌に目を通す
「フレちゃ〜ん」
「シャイニング〜・・・ってあらシキちゃーんお疲れ〜。で何してるのそれ?」
「それこっちのセリフー、乳酸菌飲料のむ?」
鏡の前で手を前に伸ばしているフレデリカに近づいて一つ差し出す志希
「さっき撮影でいっぱい飲んだからー。いっこ貰うね」
「いや飲むんかーい」
周子がツッコむ中、二人はその手の平サイズの小さな容器の蓋を開けて、腰に手を当てながら一気に飲み干していく
「ぷは〜。で、美嘉ちゃんは?」
「個人パートもうちょい掛かるんだって〜、でもすぐ戻ってくると思うよーん。で、何やってたの?」
「必殺技の練習!今度ランコちゃんに見せてあげるの。この前、必殺技持ってないの?って言われて凄く悔しかったの」
「誰か倒すの?」
「シキちゃんも一緒にやる?こう腕を前に出してシャイニング〜・・・」
「シャイニング〜・・・」
二人して何やってるんだか
同じように鏡の前で手を前に伸ばし始める志希だった
「あ、それよりみんな聞いたーん?零次さんのこと」
周子が携帯を操作しながらそう切り出した
「知ってるよ!確かー、飲みすぎて倒れたんだよね!」
「違うわ、風邪よ風邪」
どこで誰からそう聞いたのか、間違った噂が広がらないようにフレデリカにそう言い直す
「何かデレぽで話題になっててーん。ホラホラ」
周子が携帯の画面を二人に見せる
私も自分の携帯の画面をトークから切り替えてデレぽを起動すると、そこには零次さんに対しての沢山のコメントがズラッと上から下までしばらく続いていた
かな子、凛、川島さん、美波、文香、唯、涼宮さん、清良さん、東郷さんに和久井さんと子ども大人問わずメッセージが届いている
特に清良さんは看護師だったこともあり、的確なアドバイスを並べていた
「そして一番驚いたのが〜・・・これ!」
おそらく、今周子たちと私が見ているのは同じ物だろう
今まで沈黙を貫いてきた零次さんが、一言デレぽに発言したのだ
''風邪で倒れた、あーつらいつらい''とまるで別人が書いたようなコメントに沢山の反応が寄せられていた
「これ絶対あのお姉さんだよねー」
「ワオ!フレちゃんてっきり風邪引きすぎて頭おバカになっちゃったんだと思ってた!」
「引きすぎてってなんなーん。志希ちゃん特効薬とかないの?」
「志希印のお薬は効き目が強すぎるのであまりオススメ致しませーん。色々なモノがとめどなくみなぎる可能性アリ」
「そしたら必殺技打てるかも!」
再びシャイニング〜・・・と手を前に伸ばす二人だった
「なになに?いったい何の騒ぎ?」
「あら、美嘉。お疲れ様」
「んー。お疲れ〜」
首にかけていたタオルで顔を拭きながら美嘉は扉を閉める
美嘉はそのままチラッと私の携帯のデレぽを覗くと、零次さん(仮)の投稿をマジマジと見ていた
「あの人も大変だね〜。ま、周りがお人好しな人が多いってのもあるけど・・・」
「あら、あなたは心配じゃないの?」
「人並みに心配だよ。さっきから莉嘉のトークがメッチャ届くしさー」
美嘉は冷蔵庫の前にしゃがみ中を覗き込むが、その顔は少し苦笑いだった
後ろを振り返り志希たちを確認した後に冷蔵庫を閉め、近くのテーブルの上に置いてある乳酸菌飲料の空きボトルを見ると、ははは・・・と今度は声に出して笑う
「ま、零次さんなら大丈夫でしょ。風邪なら寝てれば治るし。莉嘉の時もそうだったし」
「・・・そうね」
「そうだよ〜。あの時焦ってたのは結局本人じゃなくてアタシだったし」
美嘉は自分の鞄からペットボトルを取り出して飲み出す
飲み終わってキャップを締めると、あっでも・・・と美嘉は付け加えた
「流石に熱上がって苦しそうにしてたら、アタシが変わってあげられればなぁ・・・なんて思ったりして、姉馬鹿ねアタシ。まぁ、次の日になったらケロっと直ってたんだけどさ」
飲み終えたペットボトルをゴミ箱へ捨てると、美嘉は衣装を脱いで着替え始める
「莉嘉なんて、看病してあげようとしたら''うつっちゃヤだから絶対部屋に入んないで!''なんて言って部屋に入れてくれなかったの。いつもアタシにべったりなあの莉嘉が・・・なんて、こうやって姉離れしてくのかなぁーって、ちょっと寂しかったり」
「姉馬鹿ね」
「言わないでよー。自覚はしてるんだから・・・って志希!アンタいつまでそのカッコしてるの!」
美嘉が着替えながら志希にそう言うと、志希は、は〜いなんて抜けた返事をしてやっと着替え始めた
私は携帯をデレぽからトークの画面に戻し、テーブルに肘をついて考える
一番近いゲーセンってどこだったかしら
ーーーーーーーーーー
「ふひひ・・・」
「・・・」
「み、未央ちゃん。さすがに小梅ちゃんは知らないんじゃ・・・」
甘いなしまむー、こう見えてうめちゃんは中々のやり手だと聞いている
プロデューサーからの信頼も厚く、仕事も完璧にこなす
そして色々なところに気が回り、いち早く気づいてアドバイスする様子も普段、仕事中問わずたびたび目撃していた
時にはプロデューサー直々に頼られることもあるそうだ
まさに縁の下の力持ち、ゆかりん以上の強敵かもしれない
「うめちゃん、今日来てもらったのは・・・」
「知ってるよ、あの事・・・でしょ。さっき・・・"聞いた"んだ」
ちょこんとソファーに一人座っているうめちゃんはまた不敵に笑うと、とたんに体に寒気が走った気がした
さっきゆかりんが教えたん・・・だよね?
「み、未央。あんたもしかしてクーラーか何か入れた?なんか肌寒いんだけど」
いや、こんなまだ寒い時期にクーラーなんて入れるもんか
しぶりんだけでなく、しまむーも両手で腕をさすっていた
「ごめんね。私も・・・知らないんだ。あの日は一緒に遊んだんだけど、零次さん・・・教えてくれなかったの」
「そ、そうですよね!ほら未央ちゃん、小梅ちゃんも知らないって言ってますし!」
「いや、待って」
私は意を決してうめちゃんに近づく
「その顔はきっと何かを知っている。さぁうめちゃん!白状するんだ!ネタは上がっている!」
半分本当で半分嘘、さっきのゆかりんの反応も含めたカマ掛けだった
「・・・ふひひ」
しかし、うめちゃんの反応は私が予想していたものとは全く違っていた
臆する事なく、先程よりも一層不気味な笑みを浮かべ、その左半分だけ出ている目を私にギョロっと向ける
「ごめんね・・・期待に・・・応えられなくて」
うめちゃんがそう言うのと同時に、部屋の蛍光灯がチラチラと点滅しだした
「み、未央。そろそろ、やめてあげたほうが。小梅もこの後仕事だっていうし・・・さ」
珍しくしぶりんも不安そうな表情を浮かべる
「ごめんね・・・あのね、私・・・」
うめちゃんがそう呟くと、部屋の照明が一斉に消えた
「''私は''何も知らないの」
窓から夕陽の光だけが部屋に差し込み、うめちゃんのその目を不気味に照らし出す
「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁ!・・・あれ?」
しまむーの絶叫の後に、消えたはずの照明が一斉につき始めた
「すみません!今幸子さんがレンジと電子ケトルとドライヤーを一斉に使ってしまったせいでブレーカーが落ちてしまい・・・って何やってるんですか?」
「あ、清美・・・さん」
事務所の扉が開き、きよみんがひょこっと顔を出す
が、その表情はしだいに曇っていき、私たちに疑いの目を向け始めた
「・・・なにやら風紀の乱れを感じます。三人寄ってたかって小梅さんに一体何を?」
「な、何でもないんですよ!すいません小梅ちゃん!この後お仕事だったのに・・・」
「ううん、私も楽しかった・・・。また・・・''みんな''で遊ぼ」
そう言い残すと、うめちゃんはきよみんに連れられて出て行ってしまった
しかし、こうなるともう選択肢はない
ダメ元でまた本人に直接聞いてみるか
それか・・・三人寄ればなんとやらか