「・・・一体何なんだ」
時計が夕方に差し掛かり、何となく自分の携帯でデレぽを確認してみると、たくさんのアイドルが色々な意見を出し合い知らない間に俺のことについて話が進められていた
''ったくだらしねーな、今度栄養ドリンク買ってやるよ''という拓海のような労いの言葉や、響子のように風邪の時に食べやすい料理のレシピ解説、鍋なんかいいらしい
柳さんなんかは対処法等を載せており、とても参考になった、ありがたい
がしかし、問題なのは
''でも、差し入れしたいけどレイさんの家ってどこなんだろー。私わかんなーい''
という未央の発言を発端とする俺の所在地、つまり俺の家に関するデレぽ内での話し合い、というよりこれはミーティングに近いコメントの連続だった
スクロールして確認しても、雅、渚、夕美、美穂、里奈、星花、詩織、愛梨といった学生組(?)から、あい、瞳子、高橋さん、柊さんといった''自由がきく''年齢層まで幅広くミーティングに参加していた
年少組はコメントの内容からどちらかといえば無邪気に楽しんでいる様子だったが、そこから上は目撃証言や普段の行動範囲からの考察、職場からの距離、通勤時間といったところから答えを導き出そうとしており、どんどんと範囲が狭められている
幸いなのは女子寮組がそこまで突っ込んで会話に参加していないことだった
こうしている間にもコメントの量が増え続けている、丁度夕方で仕事が終わる人が多いからか
「ったく、お人好しばっかりか」
風邪をうつしちゃ元も子もない
まずはこの話し合いを何とかしなければならなかった
・・・本人が直接言えばいいのではないだろうか
俺はとりあえず適当に名前が"R"というイニシャルだけの適当なアカウントを作り、会話が行われているルームへと入る
そこで''いい、大丈夫だ。そこまで心配するな''という短い一文だけを一言投稿した
本人が言うんだから間違いはないだろう
アカウントの写真も俺の車にしておいたからあいつらも誰だかすぐに気づく
これで騒動も収まる・・・かと思いきや、状況はまるで全く逆に傾き始めた
俺が呟いたことで、普段あまり呟かないメンバーからも労いの言葉が届き始め、やっぱり心配だという雰囲気が漂い始める
''だって朝、つらいつらいって言ってたじゃありませんか!''という有香の言葉に、俺は急いでコメントをさかのぼり確認すると、そこには俺の仕事用の携帯を使い何者かが呟きを残していた
・・・犯人には大体目星がついている
しかしその有香の言葉がさらに発端となり、今度は''零次さんは私たちを心配させないようにわざと大丈夫なふりをしている"という方向に話が進み始め、やっぱり心配だ、俺の家はどこかという話題がさらに加速していく事態となってしまった
ダメだ、もう世論が動こうとしている
そんなとき蘭子や飛鳥から個人的なトークが届く
''我が友零次さんよ、今其方の体は闇の呪文に蝕まれていると聞く!今!我が浄化魔法を発動する時・・・さぁ!其方の居場所は何処か我に教えるがよい!''
''蘭子が、心配だからお見舞い行くと言って聞かなくてね。大丈夫だとは伝えたんだが、この有様さ。蘭子一人では心配だ、行くならボクも一緒にお邪魔したいんだが、構わないかい?''
蘭子はストレートに家に行きたいと言っているが、飛鳥はその蘭子の言い分を否定しようとしているのを理由に逆にそれを隠れ蓑にしてついて行こうとするという実に巧妙な作戦に出てきた
「・・・ふむ」
この二人に関しては、いなすのは簡単だ
しばらくの間おとなしくしているような、それでいて何か焚き付けるような条件を出しさえすれば・・・
「これで・・・おとなしくしていればいいが」
俺は二人に素早く返信すると、携帯を再びベッドに放り投げて天井を向く
熱は大分下がった、でもまだ少し頭が重い
・・・腹減ったな
ーーーーーーーーーー
「どうだった?」
「ダメ〜、手がかりなし。ゆかりんもうめちゃんも、なーんも教えてくれない」
ソファーにだらんと座って背もたれに頭を預け天上を見上げながら、事務所に入ってきたかれんにそう伝える私だった
「おいーっす。なんだなんだお疲れだな・・・」
続けてかみやんも事務所に入り、私の姿を見るや否や目の前で腰に手を当ててそう呟く
「こっちもダメ、デレぽにも知ってる人はいないって」
「私もです・・・さっき仕事の時に美穂ちゃんや響子ちゃんにも聞いてみたんですが、全然わからないそうで・・・」
しぶりんもしまむーも少し顔を下に向けてそう言う
手がかりはなし、デレぽを覗いていても一向に答えは出なさそうだ
「打つ手なしか・・・」
「ちびっ子たちは?ほら、梨沙とか桃華とか」
「たしかにももちゃまもリサリサも普段仲良さそうにはしてるみたいだけど・・・望み薄ってカンジじゃない?これだけ周りが知らないって言ってるわけだしさ」
それにあの二人もそこまで踏み込んだことをするとは思えない
いかんせん私達よりも、行動範囲も時間も限られてくるわけだし・・・中々厳しいものがある
「ただいまー!・・・あれ?みんなどうしたのー?」
みりあちゃん・・・事務所に入るなり首を傾げている
今まで仕事だったのか、これも望み薄だ
少し持ち上げた頭を再びだらんと背もたれに垂らす私だった
「みりあちゃんお疲れ様です!今零次さんの話をしてたんですよ、大変ですねって」
しまむーがみりあちゃんにそう説明する
ふむ・・・何かいい情報はないだろうか
「へっ・・・?あ、う、うん!大変だよねー・・・零次さん」
・・・おや?今のイントネーションに違和感を感じる。特に最後の語尾の下がり方
いつもなら、うん!そうだよねっ、風邪治るのかなぁ、大丈夫かなぁ・・・みたいな感じで、状況がわからない相手を労るような言い方をすると思うんだけど、みりあちゃんの言葉にはそれが感じられない
まるで、レイさんの現状を知っているかのように
「早く良くなって、また来てくれるといいんですが・・・」
「そ、そうだねっ、みりあは大丈夫だと思うよ!ひなさんたちもいるしっ!うん・・・」
おやおや?話しているのはしまむーのはずなのに、みりあちゃんは私のほうをチラチラと気にしてくる
それにしまむーと話しながらも、その足はジリジリと自分の荷物が置いてある事務所の片隅へと向かっており、会話が終わるとすぐさま荷物を拾い上げてそのまま出口へと向かおうとしていた
「それじゃあ、みりあ今日は帰るねっ!お疲れ様でしたー!」
「う、うん。お疲れ〜・・・」
いつもは今日はあんな仕事があった、こんな事があったとよく話してから帰るみりあちゃんが、今日に限って何だかソワソワと忙しない
早くこの場を離れようとしているような
「・・・?加蓮ちゃん?」
気がつくと、かれんが出口の前に立ち、みりあちゃんと向き合っていた
「どうしたの?みりあ、早く帰らないと・・・」
狼狽するみりあちゃんに笑顔で向き合っているかれんはそのまま手を後ろにまわし、後ろ手で出口の鍵を閉めた
「みりあちゃん、もうお仕事終わったんだよね?少し、私たちとお話ししていかない?」
「み、みりあは何も・・・」
そんなかれんを見たみりあちゃんは、私が座っているソファーまで後ずさる
「すぐ済むから。私もみりあちゃんともっと仲良くなりたかったし、ちょっと教えて欲しいことがあるんだ」
『あれ?また鍵閉まってる・・・ちょっとー、中に誰かいるにゃー?みくの荷物がまだ事務所の中に・・・』
扉の外からそんな声が聞こえてくるが、かれんはそれを黙らせるかのように、足を少し前に振りかぶり、バンッ!っと背後の扉へとかかとをぶつける
にゃー!?と外から驚くような声が聞こえてくるが、それもお構いなしに腕を胸の前で組みながら、かれんはみりあちゃんの方へと歩み始めた
「ごめんごめん、そんなつもりは無かったんだけどさ。ちょっと足ぶつかっちゃって」
「みりあ・・・知らないよ」
「私、まだ何も聞いてないよ?」
そしてかれんはみりあちゃんの前に立ち塞がると、ゆっくり腰を下ろして同じくらいの目線の高さになり、みりあちゃんと向かい合う
「今日、もしかして零次さんに会ったりした?」
「・・・知らないよ」
「答えになってないかな〜」
ストンッとソファーに座り込むみりあちゃんだったが、かれんは変わらず話を続ける
「違う質問するね、零次さんのお家知ってる?」
「・・・たもん」
「ん〜?」
「お、おい加蓮。それくらいにしておいてやれよ。知らないって言ってるしさ」
少し顔を伏せぶつぶつ呟き始めたみりあちゃんを見て、かみやんが心配そうに声を掛けるが、みりあちゃんは顔をバッと上げるとかれんに言う
「約束したんだもんっ!だからみりあ、何も言わないよっ!」
それだけ叫ぶと、みりあちゃんはツーンとした態度を取り、かれんから顔を逸らす
「みりあちゃん、どうしてもダメ?」
「ダメっ!」
ツーンと顔を今度はしぶりんがいる方向に逸らす
「みりあ、私だったらどう?」
「凛ちゃんもダメ!」
ツーンとしぶりんからも顔を逸らすと、今度は私と目があった
「みりあちゃん、私だったらいいっしょ?お互いにユニット組んだ仲だしさ〜」
「未央ちゃんは特にダメっ!」
ガーンっと私の中で衝撃が走った
なぜだ、どうして私は特にダメなんだ
何も悪いことしてないのに、レイさんの家を特定しようとしていただけなのに
「そっかそっか〜、そんなにダメかー・・・」
ツーンとした態度を崩さないみりあちゃんに、かれんは顎に手を当てて考え込む
すると次の瞬間しぶりんに目配せすると、しぶりんはみりあちゃんの背後にまわった
「凛ちゃん?」
「ごめんね、みりあ」
不思議そうにしているみりあちゃんを他所に、背後からソファーにみりあちゃんの腕を固定するしぶりん
「な、なに?どうしたの?加蓮ちゃん何で近づいてくるの?」
「ふっふっふっ、そこまで強情なら・・・洗礼を受けてもらおうかなぁ」
そう言いながら手をワキワキさせてかれんはみりあちゃんへと近づいていく
「せんれーって何?凛ちゃんこれ何?」
「大丈夫、私もされたから。痛くはないよ、私は足だったけど」
そして、かれんのその手がみりあちゃんの両脇にセットされた
「それ、こちょこちょこちょこちょっ」
「あっはっはっはっは!!ちょっ、加蓮ちゃっ!あっひゃっひゃっひゃっ!!!」
かれんがみりあちゃんの脇の下をまさぐり始めると、みりあちゃんはけたたましい笑い声を上げて身をよじり出すが、しぶりんが押さえつけて逃がさない
「それ〜、白状しろ〜、じゃないともっとひどいぞ〜」
「わかった!わかった!あっはっは!はぁ、はぁ・・・はぁ・・・」
ソファーの上で呼吸を整えるみりあちゃん
「うう・・・零次さん、ごめんなさい」
そしていよいよ白状しようとしたその時、出口の鍵が開く音と共に、扉が開いた
「みりあ、今だ!早く逃げろ!」
「奈緒ちゃん!うんっ!よいしょっと!」
「わっ!ってちょっと、卯月離して!」
「ご、ごめんなさい!」
しぶりんの拘束を振り解き、みりあちゃんはソファーからぴょんと飛び降りると、かれんは少し驚いて後ろに仰け反る
しまむーがそのままの状態のかれんを後ろからはがいじめにすると、その瞬間に床に置いてあった自分の荷物を素早く拾い上げ、みりあちゃんはバイバーイ!と事務所を後にしていってしまった
「くっ!もう少しだったのに・・・!」
「まぁまぁ加蓮。私もなんか楽しかったよ」
「な、なんにゃ?何やってたにゃ?」
部屋に入ってきたみくにゃんが首を傾げていた
ーーーーーーーーーー
「・・・」
地下鉄に揺られながら、私は携帯の画面とにらめっこを繰り返す
トークに返信が無くなった、おそらくは既にあの場所に到着しているのだろう
携帯の画面を消し、私は座席の背もたれに寄り掛かって一息ついた
とりあえずは雑誌の取材が先だ、約束されていた喫茶店に向かう
それにしても、そのあと仕事終わりにゲームセンターに行くなんて久しぶりね
たまには女子高生らしくていいんじゃないかしら