ヘイ!タクシー!   作:4m

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W-Day06

「んっ・・・んんん〜、はぁ・・・」

 

喫茶店から出ると、私は持っている小さなバッグも一緒に上に腕を掲げ、大きく体を伸ばす

凝り固まった首を左右に揺らし、首に手を当てて少しマッサージ

こんな格好、ファンには見せられないわね

そんな私の横を、私と入れ替わるように喫茶店の扉を開けて一般の人たちが入っていく

 

地下鉄の駅に向かいながら、喫茶店での出来事を思い出す

長引くかと思っていたファッション誌の取材は意外と早く終わり、私はそのまま少し残ってさっきの撮影スタジオで読んだコラムで紹介されていたコーヒーを一杯注文し、携帯のトークを開いていたのだった

コーヒーの味も、コラムで紹介されていた内容に間違いはなく、芳ばしくて美味しそうな匂いもさることながら、変な酸っぱさもなく飲みやすいその味も評価が高かった

今度、誰かさんとまた来ようかしら

 

その時ふと外を覗くと、遠くのビルに設置されていた大きなモニターには私たちの春ライブのPVが流れており、ひしひしと春の訪れを感じさせていた

それにしても、そのモニターに映っているアイドルがまさか今自分のすぐ側にいるなんて、周りのお客さんは誰も気づかないでしょうね

 

そしてトークに返事が返ってくると、私はコーヒー一杯分の代金を支払って、喫茶店を後にし、喫茶店の前で大きく伸びていたのだった

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

地下鉄の駅から地上に出ると、辺りはすっかり夕暮れの光に包まれて、周りの人達が家路を急ぐ様子で道は溢れていた

ひたすらに歩く人、駅近くの大型スーパーに駆け込む人、タクシーやバスに乗り込む人、そんな人たちの間を私は制服姿ですり抜けていく

女性記者の人が''とても大人っぽい雰囲気が魅力的ですが、是非普通の女子高生の奏ちゃんを撮りたい''とオファーがあったため、制服に着替えて取材に臨んだのだった

 

私って、そんなに大人っぽいかしら?

 

とにかく、私は目的地へと歩く

このまま直帰してもいい、プロデューサーにもそう言われたが、私は家とは違う方向へと足を運んでいた

しばらく歩くと、居酒屋へと入っていくサラリーマンたちを横目に、その隣にある大きなゲームセンターへと私は入っていく

 

中に入ると、途端に様々な音が耳に飛び込んできた

チカチカと筐体からはLEDが光り、色々な映像が流れ込んでくる

それは綺麗なお姉さんが武器を持って戦っている映像だったり、なんだか古い昔のゲームの映像だったりと様々だ

クレーンゲームといったような物の透明なガラスの中には色々な商品が並んでいる、それがお菓子だったりアニメグッズだったりアイドルグッズだったり

 

あら嬉しい、私が前に紹介したスマホカバーがあるじゃない。デカデカと''某有名アイドルも絶賛''とポップが飾ってある

今は沢山の種類の景品が置いてあるのね

 

お客さんも学生からサラリーマン、OLにカップルと、比較的若い人たちが集まりそれぞれが思い思いに楽しんでいる。学生が多い印象だ、時間帯的にそうかもしれない

そうね、デートの時なら結構楽しそうかもしれないわね、いろんなものがあるし

今度誰かさんと一緒にまた来ようかしら

 

「あぁ・・・!飛鳥ちゃん、ごめんね・・・」

「大丈夫だ蘭子!次はきっと勝てるさ!」

 

人を探して店内を歩いていると、一角にあったレースゲームの筐体から聞き覚えのある声がした

 

「おや・・・?奏さん。奏さんじゃないか」

「あら、奇遇ね。こんなところで会うなんて」

 

近づいていくと、筐体の後ろでゲーム画面を眺めていた飛鳥に声を掛けられたので、私は手を上げて応えた

 

「それはこっちのセリフさ、君がゲームセンターに来るなんて珍しい」

「たまには女子高生らしいことしてみたくなったのよ。で、何やってたの?」

「ああ、それが実は・・・」

 

そう言って飛鳥は再び筐体へと視線を戻す

そこには、蘭子ちゃんが筐体のハンドルへと体をピッタリとくっつけるほどに前屈みになり、難しい表情をしながら画面とにらめっこしている姿があった

 

「蘭子とボクは零次さんからある課題(ミッション)を承っていてね。ふふふ・・・すまないが、君たちより一足先にその禁断の領域(エリア)への鍵を手に入れているというわけさ」

 

自慢げな表情のまま、飛鳥はおもむろに携帯を取り出しそのトーク画面を私に見せてきた

そこには''ゲームセンターへ行き、レースゲームでHinaという四天王の一人を打ち破れ。そうすれば道は開かれる''という誰がどうみてもからかっているとしか思えない文章があの男から届いていた

 

私はそれを一読すると再び飛鳥の表情を確認するが、私の視線に気づいた飛鳥はしてやったりと言わんばかりの満足げな表情を浮かべて、フフンッと笑みを漏らす

 

「奏さん、キミも幸運だったね。この情報はまだ誰にも教えていない、ボク達だけしか知らない物なのさ。ボク達はそう・・・''選ばれし者''だったということだ。喜びたまえ」

「そうね、嬉しいわ」

 

私は自分の携帯を開き、トークを確認した

 

「さぁ、奏さんもその挑戦者の一人になろうではないか。遠慮せずにほら」

 

そう言って蘭子ちゃんの隣の筐体へと促されるが、私は手のひらを前に出して断ることにした

 

「ごめんなさいね、人を待たせてるのよ。また今度一緒に遊びましょ」

「そうか、残念だ。では零次さんにはボク達からよろしく言っておこう」

「飛鳥ちゃん!これなら勝てそう!カッコいい名前にしたよ!」

「おお、''ドラグーン''か。これなら世界をも獲ることができそうだ。ふっ・・・ボク達の才能に''セカイ''が震える時が来たね」

 

飛鳥は再び筐体のシートの後ろから覗き込み、蘭子ちゃんと楽しそうに遊び始めたので、私は再び店内の探索に戻る

 

すると、マスコットキャラのような猫の大きなぬいぐるみが沢山入っているクレーンゲームの前にその制服姿を見つけた

肩までかかるロングヘアー、前髪を左目辺りの位置から分け、その整った顔立ちにアクセントを加えるように細縁のメガネをかけて、その筐体の透明なガラスの外から中を熱心に眺めていた

 

「マキノ」

 

そう呼びかけるが、彼女は視線を外さずに何やらぶつぶつ呟きながら顎に手を当てる

どうやらこちらに気づいてないようだ

 

しばらく眺めていたが一向に反応が変わらないので、財布から100円玉を取り出そうとしているタイミングで肩を軽くポンポンと叩く

すると一瞬ビクッと体を震わせて、こちらを驚いた様な表情で見つめるが、途端にコホンッと咳払いを一つすると、いつものキリッとした表情に戻り、メガネを人差し指でクイっとあげた

 

「あら、奏。居たなら言って頂戴。私としたことが気づかなかったわ」

「さっきから声を掛けていたのだけれど。でもアナタ、随分とこの猫ちゃんにお熱だったみたいだから、ふふふ・・・何だか邪魔するのが申し訳なくって」

「・・・違うわ、私はただこの顔と体の比率がアンバランスな猫を観察して情報を収集していただけ。前にこずえさん達に連れられてきた時に偶然、そう、偶然目に入ったこの猫が何となく気になっていただけよ。こんな顔だけやたら大きくて、日常生活に支障が出そうなこんな・・・非合理的な・・・」

 

そう言いながらまた視線が筐体の中の猫へと戻っていく

白、黒、茶色と様々な色の猫がそのパッチリした大きな目で可愛らしくこちらを見つめ、マキノと再び目が合う

普段のキリッとした、大人のデキる女性のような目から一転、その白猫と見つめ合うとその目元がフニャッと緩み、口元がそれに合わせて少し持ち上がって、年相応の女子高生の雰囲気を醸し出す

 

「まったく・・・何でこの中に閉じ込めるのかしら、値段をつけて販売すれば確実に利益も上がるというのに・・・度し難いな」

「それじゃあゲームセンターの意味がないじゃない」

 

私は自分の財布から100円玉を取り出すと、そのままその筐体の投入口へと入れる

 

「あら、やってみるの?」

「いいかしら?もしかしてやりたかった?」

「いえ、別に。私は全然興味ないわ。こんな大きな猫のぬいぐるみなんて、両手で抱えなければ持って帰れないもの。私は情報さえ得られればそれでいいの。ええ別に、どうぞ?私はいいから」

 

そう言うとマキノは片手に握っていた100円玉をそっと財布に戻すのを、私は見逃さなかった

そんな光景に私は少し微笑みつつも、軽快なBGMが流れゲームモードに入った筐体に向かい合う

操作は簡単で、意外と自由がきく設定だった

手元にあるレバーで左右奥手前と制限時間内なら自由に動かすことができ、狙った位置でボタンを押せば自動でクレーンが降り、景品を持ち上げるスタイルだった

 

「この辺かしら・・・」

 

私は白猫の上までクレーンを移動させ、狙いを定めてボタンを押す

あら、結構良い位置取りじゃない

隣で見ているマキノも、ハラハラしたような表情をしながら見守っていた

 

「いいじゃない、そのまま・・・あら」

 

クレーンは順調にその白猫の上どストライクの位置で掴み持ち上げるが、景品の取り出し口一歩手前でアームが保たずポロッと落としてしまう

''やっぱり・・・''とその瞬間隣から落胆の声が聞こえた

 

「あの位置でいつも落とすのよ、だからそこの攻略法を考えないといけないのだけれど、情報が足りないわ」

 

興味ないって言ってた割には随分と詳しいのね

まるでいつもやっているような口ぶりだわ

 

「またやるの?同じ結果になるのは目に見えてるのだけれど」

「いいのよ、私も運を天に任せたくなったわ。それに、私の周りにも情報通は結構いるの。中でも''経験者''の意見はとても参考になるわ」

 

私は再び100円玉を投入口に入れ、クレーンを動かし始める

 

「紗南が言うには、これは''確率機''っていうらしいの。ある一定のプレイ回数に到達するとクレーンの力が強くなって、景品を掴む力が上がるんですって。だからこの前にプレイしてる回数が多ければもしかしたら・・・」

 

クレーンは先程と同じように、白猫を掴んで取り出し口まで運んでいくが、さっきの様に白猫が中々落ちない

 

「あ、あ・・・あぁ」

「あら、いい感じ」

 

隣でマキノは口をポカンと開けながら目でそのクレーンを追い、行く末を見守っていた

そして取り出し口の上までクレーンが移動したタイミングで、アームから白猫が滑り落ち、下からボトッという音が聞こえる

 

「ふふっ、私今日はツイてるみたいね」

 

取り出し口から白猫を取り出すと、両手で抱えて胸の前で抱きしめてみた

 

「んん〜いいわねこれ。サラサラしてて触り心地がいいわ、まるでふかふかの枕みたい。あら、近くで見たらやっぱり可愛い顔してるじゃない」

「あ、あ・・・。あの、奏・・・、私にも・・・」

「次に取れるのはいつになるのかしらね。また結構な回数やらないといけないんじゃないかしら」

 

私はマキノに背を向けてそんな風に呟くと、隣の筐体のガラスにおどおどしたマキノの姿が映って見えた

私に手を伸ばそうとして出したり引っ込めたり、一歩近づこうとするがその足が中々動かない、そんな中で羨ましそうな、でも躊躇しているような何とも言えない表情でこちらを見ていた

 

これ以上イジワルするのも性格悪いわね

 

「さて、マキノ」

 

私はマキノに向き直ると、その瞬間マキノの目線が白猫に向き一瞬フニャっとした表情になるのを見逃さなかった

慌てて体裁を取り繕い普段の表情と態度に戻ると、何かしら?とメガネを人差し指でクイッと上げて返事を返してくる

 

「はい、コレ」

 

と、私はマキノに向かって白猫を差し出す

するとマキノは''・・・え?''というようなまるで言葉通りの表情になり、白猫に一瞬視線が行くとまた私と目を合わせる

 

「だ、駄目よ。それはあなたの猫ちゃんよ。あなたが・・・」

「私がここに来たのはアナタに頼んでいた''アレ''と、たまには女子高生らしいことをしてみたかっただけ。''帰りがけに友達とゲームセンターで遊ぶ''っていうね。これは、それも含めたアナタへのお礼。短時間で随分と調べてもらったみたいだから」

 

そう言って私は、''はい''とマキノの胸に白猫を押し付ける

マキノは戸惑いつつも両手で白猫を抱きしめると、年相応の女の子のようにニコッと笑ったが、すぐにコホンと咳払いをして元のキリッとした表情に戻る

 

「そうね、そこまで言うならこれは報酬として受け取っておくわ。約束の物は既に送っておいた」

「・・・あら本当ね。ありがとう」

 

私は携帯を開くと、トークに''それ''を確認した

 

「じゃあ、私はもう行くわ。これから予定があるの。猫ちゃん大事にしてね」

「ええ、また一緒に遊びましょう。ありがとう、奏」

 

それを聞くと私は後ろ手で手を振ると、そのまま出口へと向かう

その際にさっきと同じようにガラスでマキノの姿を確認すると、顔を白猫にうずめて少しピョンっと飛び跳ねているのが映っていた

よっぽど欲しかったのね

 

「わぷっ、あ!奏さん!」

「あら、ごめんなさい。みりあちゃん」

「かなでー」

 

出口から出るのと同時に、お腹辺りにみりあちゃんがぶつかってきた

その後ろにはこずえちゃんもいる

 

「あらあら、二人でデート?いいわね」

「ううん、マキノさんと一緒にっ!この前も一緒に来たんだよ!」

「かなでー。まきの・・・いた?」

「ええ、あそこよ」

 

私はクレーンゲームを指差すと、いまだに喜んでいるマキノがいた

 

「ほんとだ!じゃあね!ありがとう奏さんっ!」

「ええ、楽しんできてね」

「まきのー」

 

そう言って二人は走り出していく

さて、私も行かないと

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